宝探し3回目
キャンペーンの最終日だからだろう、始まりの街の外にある宝探しのエリアへの入り口のポール付近は今まで以上にプレイヤーの姿があった。俺たちも列の最後尾に並んで2本のポールの間を走り抜けた。
「主、また新しい場所に来たのです」
頭の上から声がする。タロウも俺も飛ばされた先でその場でぐるっと一回りしてみた。肩に乗っているクルミは俺の動きに合わせて周囲を見ている。
「リンネの言う通りだ。この場所は初めてだな」
人数を分散させるためにいくつかエリアを作っているかもしれないが、3度とも違う場所に飛ばされた。飛んだ場所がいやなら帰還石で戻ることもできるが、どの場所でも同じだろう。それなら飛ばされたこのエリアで探索してみよう。
そこは三方が山に囲まれている場所だった。唯一、1つの方向だけが開けていて、そこは森になっている。森の先がどうなっているのかはこの場所からは分からない。今までと違って多くのプレイヤーがいた。山に登っている者もいる。
その場でぐるっと周りを見た俺たちはとりあえず比較的人が少ない山に足を向けた。山裾はこの前と同じで木が生えておらず大きな石があり、上に登っていくと途中から頂上まで木が生えている。
「山の上に登らせようとしているのかな」
登れないことはないだろうけど、結構急斜面だよ。でも男性プレイヤーを中心に山を登っている人たちの姿が山に生えている木々の間から見えている。
「主は山登りをするのです?」
俺が上を見ているので頭の上に乗っているリンネも同じ様に上を見ている。しばらく上を見ていた俺は顔を目の前の岩場に戻した。
「いや、俺たちはやめておこう。少し登ってそこから遠くを見たらそのあたりを歩いてみるか」
宝箱はランダムで現れる。誰かがどこかで箱を開けると箱が消え、同時に別の場所に宝箱が現れるという説明だった。行き難い場所に良いものがあるという訳でもないだろう。いや、そこに宝箱があるかどうかも分からない。この宝箱探しは完全に運任せだ。
宝箱の場所も中身も完全にランダムになっているはずだよ。
俺たちは山裾の岩の間を登っていった。俺の後からタロウとその背中に乗っているクルミが続いている。従魔たちは完全にお散歩モードだな。少し登って振り返ると高い場所から森の姿を上から見ることができた。ものすごく広い森だ。ずっと向こうまで続いているよ。
「ガウ」
同じ様に森を見ているタロウが吠えた。
「向こうが見えないとタロウが言っているのです。広い森なのです」
「全くだ」
三方が山に囲まれていてあとは遠くまで続いている大森林。魔獣がいないので森でもいいんだろうけど宝箱は近くまで行かないと見えないだろうな。せっかく山にいるんだからと俺たちは横に歩きながら宝箱を探すことにして、岩場の裏を探しながら進むが宝箱は見つからない。立ち止まって周囲を見ると多くのプレイヤーが同じ様に岩場の裏なんかを探している。運任せとは言え、ちょっと人が多すぎるな。
「山歩きは諦めて、俺たちはあの森の中を歩こう」
「分かったのです。森の中を歩いてウハウハになるのです」
「ガウガウ」
ウハウハになるかどうかは別にして、人が多いよりも少ない方が良いだろう。山の岩場を森に向かって歩いていると、突然目の前の岩場に宝箱が現れた。誰かが開けたおかげで何もなかった場所に忽然と現れたんだろう。それにしても本当に突然現れるんだな。びっくりしたよ。
「宝箱が出てきたのです」
リンネはもちろん、タロウとクルミも大喜びだよ。端末を近づけると宝箱が消えた。中には高品質のポーションが5個入っていた。従魔達が喜んでくれる。宝箱の中身はもちろん嬉しいけど、宝箱を見つけた時の従魔達の喜んだ仕草をみるのが楽しいんだよな。
森の近く、ギリギリまで山を歩いた俺たちは下に降りてそのまま森に入った。森に入るとプレイヤーの数がぐっと減った。今までの森よりも木々が多い。試練の街にある原生林、梨を作っていたモンゴメリーさんの家に行くまでに歩いた原生林と似ている。地面は背の低い草なので宝箱が隠れることはないが、外に比べると薄暗いので視界もよくない。
木の反対側や大きな枝を見ながら森の中を歩いている俺達。時々プレイヤーの姿を見るが、山に比べたらずっと少ないよ。歩きにくい、薄暗いと条件はよくないけど、プレイヤーの数が少ない方が自分にとってはずっと良い。
端末を見ると宝探しのエリアに入ってから1時間半が過ぎていた。今のところ見つけた宝箱は1個、ポーション5個だけだ。
歩いていると木々の先に地面に置かれている宝箱が見えた。取りに行こうとすると前方の左側から男性プレイヤーが走ってきてその宝箱に端末をかざした。俺たちが見ている前で宝箱が消え、プレイヤーはそのまま右の方に小走りで駆けていった。
「宝箱が取られてしまったのです」
目の前から宝箱が消えると、俺の頭の上からリンネの落ち込んだ声がした。隣を見るとタロウも尻尾を下げている。クルミは見えないけどおそらく同じだろう。
「取られたんじゃない。宝箱は俺たちのじゃなくて皆のものだろう?早く宝箱に近づいた人が宝箱を開けるのは当然だよ。俺だってそうする」
俺はそう言ったがタロウもリンネもクルミもちょっと落ち込んでいる様だ。俺はその場にしゃがみこむ。近寄ってきたタロウの頬を両手でガシガシと撫で回しながら言った。
「宝箱は1つだけじゃない。また見つけたらいいんだ。まだまだ沢山あるはずだよ。次を探せばいいんだ。分かったかな?」
撫でられて尻尾を振っていたタロウが俺の言葉を聞いてガウガウと言いながら今までよりも激しく尻尾を振る。
「主、リンネとクルミも撫でるのです」
頭の上からタロウの背中に移動したリンネが言った。クルミもちゃっかりとタロウの背中に乗っているよ。
「もちろんだよ」
タロウを撫でてからリンネとクルミもそれぞれ抱き上げてしっかりと撫でてやる。落ち込んでいた彼らがまた元気になった様だ。
「主、取られたものは仕方がないのです。とっとと次の宝箱を探すのです」
撫でられて機嫌が良くなったリンネが俺の頭の上に移動する。気持ちの切り替えが早いな。
「ガウガウ」
「その通りだ。宝箱を探すぞ!」
それからも森の中をあちこち動き回るが宝箱は見つからない。2時間以上が経過して見つかったのは1つだけだ。最終日はツキが無かったかなと思い、あと少しこの森の中で探して、それで見つからなかったら諦めよう。そう思っていると頭の上から声がした。
「どこかにウハウハの宝箱があるのです。主に見つけられるのを待っているのです。頑張るのです」
「ガウガウ」
戻ることを考えていたけど、リンネの言葉を聞いてもうちょっと頑張ろうと気合いを入れた。
「リンネの言う通りだな。諦めずに探すぞ」
「探すぞ、なのです」
「ガウ」
今度は逆に俺が従魔達に元気付けられたよ。
森は本当に広くて周囲に木が生えている。さらに30分以上、顔を上下左右に動かしながら鬱蒼とした森を歩いていると、その先にある大きな木の根元に宝箱が置かれているのを見つけた。
「宝箱だ!」
それを見て俺たちは宝箱に向かって駆け出した。タロウの背中に乗っているクルミは落ちない様に前足でタロウのスカーフを掴んでいる。リンネは俺の頭の上だ。
端末をかざすと宝箱が消えた。
「主、でかしたのです。何が入っていたのです?」
待ちきれないと言ったリンネ。タロウとクルミも俺の方に顔を向けている。
「ちょっと待って、今見る」
そう言って端末を見た俺は思わず「嘘だろう!」と大きな声を出してしまった。
宝箱の中身は黒の神魂石だった。




