大森林の小屋
今日はキャンペーンの最終日だ。普段よりの少し早めにログインして畑の仕事をしていると端末にメッセージが来ていつもの4人が活動前にここにやって来るという。ちょうどビニールハウスで従魔達が遊んでいるタイミングだったのでいつでもいいよと返事をしてしばらくすると庭に4人がやってきた。マリアは例によってタロウを撫で回してから縁側にやってきた。
彼らはレベル87になっていた。
「タクは今日レベルが上がりそうかい?」
「84にはなれると思う。午前中は経験値を稼いで、昼か夕方に宝箱を探すつもりだよ」
「その宝箱だけど、神魂石が出たでしょ?中あたりの箱みたいね」
クラリアが教えてくれた。情報クランではプレイヤー側の好意で宝箱の中身を教えて暮れた人の情報をまとめているそうだ。それによるとあたりの中身は印章や神魂石だそうだ。石の個数は1個から3個の間。
「大当たりもあるんだよ」
「大当たり?」
そう言ってトミーを見る。
「NQの腕輪と精霊のバンダナが出てる。腕輪はNQだが力、遠隔命中の2つは確認した。そして木のダンジョンのダンジョンボスがドロップするバンダナが1つ出ている。これらが大当たりだろう」
「バンダナが出たのか。そりゃすごい」
ダンジョンボスがドロップするバンダナが大当たりアイテムなのは間違いない。腕輪もキャンペーンの25制限のNM戦でドロップするアイテムだ。それが宝箱から手に入るのであれば大当たりだよ。ただこれらは本当にレアで、大抵はポーション系と印章だそうだ。うん、俺もそうだよ。
アイテム以外だとベニーも出ているのだという。
「ベニーが出るんだ」
「3万とか5万。お小遣いになるわよね」
なるほど。
情報クランが調べたところ、宝探しのエリアのピークタイムは夜らしい。昼間パーティ単位で活動をしていたプレイヤーがそれが終わってから乗り込んでいくそうだ。俺みたいに昼過ぎから夕方の中途半端な時間帯に宝探しに行くプレイヤーは多くないらしい。あまり人がいないなと思っていたけどそれは時間帯のせいだった。
夜は本当に目に見える範囲での大勢のプレイヤーがあのエリアにいるらしい。ここにいる4人も活動が終わった夜に宝探しをしていると言っている。
「それでいいのは出ているの?」
「タクがゲットしたもの、神魂石と印章。これが出たらラッキーって感じだよ」
スタンリーが言うとマリアもそんなものよねと言っている。
「でもまだお宝があるかもしれないでしょ?皆そう思っているみたいよ」
宝探しというくらいだから一攫千金を狙うのは当然だよな。彼らはこれから無制限NM戦にに行く、今日もしっかりと2戦するそうだ。
「装備関係は1種類は全員が手に入れた。2種類目も半分程のメンバーには行き渡ってるんだ。あとはそれをできるだけ増やせる様にやるんだよ」
目的がないとモチベも保てないと言っている4人。ここにいる4人についてはクラリアとスタンリーは2種類をゲットしていて、マリアとトミーがまだ1種類だけだそうだ。
「俺は大剣持ちだからDEXを手に入れたことで目的は達せられているんだ」
「私も魔力量がアップするのはゲットしてる」
情報クランも、攻略クランもアイテム厨はメンバーにいない。普段からクランとして、パーティとして必要な装備を必要とするメンバーに分配しているので揉め事が起きない。こんな話を聞くと、以前俺がやっていたゲームがいかに酷かったかがよくわかる。
「キャンペーンが終わったら島のダンジョンを本格的に攻略する予定だ。タクにもお願いするかもしれない」
「主にお任せると安心なのです」
それまで俺の膝の上で大人しく座っていたリンネが言った。最終日を楽しもうと言って彼らが自宅から帰っていくと俺たちも港の街に飛んだ。経験値稼ぎだ。
タロウに乗って北に進み、そこから西の森の中で敵を1時間程倒しているとレベルが84になった。俺はもちろんだけど3体の従魔達も大喜びだよ。クルミには変化はないがそのうち何か起きるだろう。焦らずにやるよ。
84になるとさらに森の奥に進むことができる。87とか88の獣人、クマを相手にするんだけど従魔達が大活躍だ。タロウとリンネは当たり前に強いけど、クルミの反射壁が本当に有効でリンクしても脅威を感じないんだよ。
「クルミはできる子なのです」
「そうだな。タロウとリンネもできる子だぞ」
森の中での戦闘の合間そばにやってきたタロウやリンネを撫でてやる。タロウもリンネもレベルがあがって強くなっているんだけど相変わらず甘えん坊なんだよな。
俺たちが今いる森は結構広い。森の中を西に進んでいたが途中から北に方向を変えた。タロウレーダーがあるので方向は間違えないので安心できる。
敵のレベルは88が中心になって、2体のリンクが多くなった。それらを倒して進んでいると89の敵が現れた。大きな姿をしているオークの獣人だ。手に持っている片手剣をブンブンと振り回してくる。それまでも片手剣を持っているオークはいたが、敵のレベルが上がると当然だけどパワーとスピードが上がる。蝉が剥がされる回数が増えてきた。こっちが84で、89の敵を倒すのは簡単じゃないけどクルミの反射壁の効果もあるんだろう。何とかなるもんだな。その後も蝉と装備でレベル89の敵攻撃を倒して北に進んでいると木々の間に小屋が見えた。
「主、あそこにお家があるのです」
「ガウ」
「あそこまで行くぞ」
「行くぞ、なのです」
近づくと小屋の周りには柵がある。セーフゾーンなのか?柵の中に入り、小屋のドアを開けて中に入ると先客がいた。男性5名のプレイヤーだ。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
クルミはジャンプが挨拶だ。
「こんにちは。上忍のタクだね」
「こんにちは。そうだよ。こっちは俺の従魔達」
「タクの従魔は有名だよ」
「当然なのです」
頭の上からリンネが言った。
「俺はこのパーティの一応リーダーをしているスマイル。そこにある転送盤に乗ると登録できるよ」
彼らはPWLの初期の頃からこのメンバーで活動をしているそうだ。ゲームで知り合った仲間達らしい。
彼らが指差した先、小屋の片隅には転送盤があった。乗ってみると脳内でミントの声がした。小屋自体も結構広くて20名程は余裕で入れそうだ。
(港の街の冒険者ギルドへの転送盤を記録しました)
港のギルドから来られるのか。
(この小屋の名前はあるの?)
(はい。ここの名前は大森林の小屋です)
なるほど。港の街から真っ直ぐ西に進んだところはセーフゾーンでそこには転送盤はなかった。ここは小屋で転送盤がある。どう言う事だろう。
「ありがとう。登録できたよ」
登録が終わると俺たちも床に腰を下ろした。彼らはレベル87に上がったばかりだそうだ。俺が84だと言ったら驚かれたよ。俺の場合は従魔達が優秀だからね。
「港の街を出てまっすぐ西に行くとセーフゾーンがあるだろう。俺たちはそこから北上して経験値を稼いでいたんだ。そのまま森の中に入って進んできたらこの小屋を見つけたんだよ」
北上している途中でレベルが上がったらしい。
「なるほど。こっちは港の街から海岸線を北上して、左手に森が見えたから入って西に進んでいたらここを見つけた。でも聞いているとそっちのルートが正解っぽいな」
彼らは知り合いのパーティと一緒にNM戦をし、その間に経験値稼ぎをしているそうだ。聞いたら大抵のプレイヤーがこのパターンだという。そしてログアウト前に宝探しをする。
彼らはここで休んでから、小屋の周辺で経験値稼ぎをするそうだ。タクはどうするんだと聞かれた。
「一旦港の街に戻って釣りかな。それから宝探し、こんな感じだよ」
お互いに頑張ろうと言い合って俺と従魔達は転送盤に乗った。
 




