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装備を買った


 NM戦が終わって自宅に戻ってどうしようか、もう一度宝探しに行くか、それとも合成でもするかと考えていると端末にメッセージが入ってきた。見ると知らない名前のプレイヤーだ。送信者がカークとなっている。誰だろうと思ってメッセージを読んだ。


ー こんにちは。俺たちが挑戦した無制限NM戦で上忍のSTR系のHQの装備がドロップしたんです。身内で上忍がいないのでよかったら買い取ってくれませんか? ー


 数日前にクラリアが言っていたな。STR系の上忍の装備が出たって。彼かな?でもそれにしてはなぜ今のタイミングなんだろう。


 とにかくメッセージに返信をして一度話を聞きたい。そう送ると今港の街にいるのでそこの冒険者ギルドではどうでしょうか?とすぐに返事が来た。

 

「タロウ、リンネ、クルミ」


 精霊の木の根元や枝で休んでいた3体の従魔に声をかけるとすぐにすっ飛んできた。


「主、突撃なのです?」


 目をルンルンとさせているリンネ。


「いや、港の街まで出かけるんだ。疲れているのなら留守番しててもいいぞ」


 俺がそう言うと3体がに同時に首を左右に振った。見事にシンクロしているぞ。


「主が行くところにリンネあり。なのです。タロウもクルミもあり。なのです」


「そうか。じゃあ一緒に行こう」


 港の街の冒険者ギルドの転送盤に飛んだ俺たちは中に入った。ギルドのロビーの中にある複数のテーブルにプレイヤーが座っている。俺はカークという人を知らないがこっちはタロウとリンネがいるから向こうから見つけるだろうと思っていると1つのテーブルに座っていたウォリアーが席を立って近づいてきた。人族のプレイヤーだ。


「わざわざすみません、カークです」


「タクです。こっちはタロウとリンネとクルミ」


「タクの従魔は皆有名だよ」


 彼が座っていたテーブルに行くとそこには3名のプレイヤーがいた。パラディンとウォリアーが二人。皆人族だ。


 彼らは無制限NM戦を一緒にやっている仲間で、それぞれのパーティのリーダーらしい。それで4名なんだな。


 自己紹介が終わると、勧められるままにそこに座る。タロウは俺の横の床の上に腰を下ろした。リンネは頭から膝に降りてきて、クルミは左肩の上に乗っている。


「メッセージでは簡単に書いたんだけど、俺たち無制限NM戦をやった時に上忍の装備が出たんだよ。普通ならその装備が欲しいプレイヤー同士でロット合戦をやるんだけど上忍の装備は誰も持てない。というか第1陣で上忍をやっているのはタクだけだろう?皆で話し合ってタクに買い取ってもらえないかということになったんだよ」


 カークがそう言うと隣に座っているパラディンのマサシゲが続ける。


「店売りしようかという話もあったんだけど、それはいつでもできるので、まずはタクに話をし、もし断られたらそうしようということになってるんだ」


 なるほど。俺が店売り価格よりも高く買えば彼らも実入りが多くなるよな。


「分かった。えっと聞いてもいいかな?1つは店売り価格はいくらだったのか?もう1つは上忍のSTR系の装備が出たって話は数日前に情報クランから聞いていたんだよ。でもなぜこのタイミング、間隔が空いたのか。教えてくれるかな」


「まず店売り価格は1,600万」


「定価2,000万ってことでいいのかな」


 俺が聞き返すとその通りと4人が頷く。店の買取価格は80%だからな。


「それでタクの2つ目の質問だけど、その時はここにいる4パーティ合同で挑戦したんだ。装備が出たのにこのタイミングになった、遅くなったのはリアルの用事で2人がNM戦の後、ログインできなかったんだ。今日全員が揃ってやっと話ができたんだよ」


 カーク以外のウォリアーの二人がインできなかったらしい。そう言うことなら納得だよ。


「ありがとう。事情は分かった。それで装備だけどSTR系で間違いないよね。と言うのは俺はAGI系のHQの装備は手に入れたんだよ。STR系は欲しいと思っていたから売ってくれるのなら是非お願いしたい」


 カークが端末の画面を俺に差し出してきた。そこには間違いなく上忍HQ装束(STR)と記載されている。


 俺は彼にお礼を言ってから4人を見て言った。


「2,000万で買うよ」


「えっ!?」「いいのか?」


 同時に声がした。


「構わない。STRのHQは欲しいと思っていたし、HQ装備は今のところ店では売っていなくて出るのはこのNM戦だけだ。このチャンスを逃したら次いつ手に入れられるのか分からない。それに店で販売するとしたら定価が2,000万の品物だろう?だからその価格で買うよ。別に値切る必要もないと思ってる」


 幸いにお金には困っていない。それに同じPWLのプレイヤー同士でお金でギクシャクしたくはないしな。高く買った方が彼らも一人当たりの分配金が増えるだろうし。


「商売成立ってことでいいかな」


 俺が言って彼らが頷くと俺の端末に装備を転送してきた。それを確認して彼に2,000万送金する。


「ありがとう」


 入金を確認したカークが言った。


「お礼を言うのはこっちだよ。NM戦に何度か挑戦してるけど上忍の装備がなかなか出なかったからね。助かったよ」


 彼らは店売りの値段より少しでも高く買い取って欲しいと考えていたそうだ。2,000万で買うと聞いてびっくりしたと言っている。


「主はお金持ちだから問題ないのです。良い装備を持つと主が強くなって敵を倒してがっぽりと稼げるのです」

 

 リンネが言うと4人が笑いながらなるほどと言っている。金と商品のやり取りが終わると雑談タイムだ。彼らは今レベル83で、知り合いの伝手で仲間を集めてはNM戦をやったり、ダンジョンの探索等をやっているそうだ。


「ダンジョンと言えばタクの背中に乗っているカーバンクルは島のヌシからもらった卵から出てきたって聞いているけど?」


「そうだよ。60代のレベル上げの時にほとんどのプレイヤーは陸側の草原でレベル上げをしただろう?俺は人が多いのを避けて島の北側の森の中でやっていたんだよ。敵を倒しながら北の端に行ったらあの洞窟を見つけてさ、島のヌシが初めてここにやってきたプレイヤーにやろうって卵をくれたんだ。それがクルミだよ」


 クルミは自分のことを言われているので何度も肩の上でジャンプをしている。


「そう言う事か。掲示板にもそんな事が書いてあったけど事実だったんだ」


「俺は基本ソロで動いているから普段は従魔頼りなんだよ。クルミが増えて助かっている」


「主をお守りしているのです」


 リンネが言ってくれた。ありがとうなと背中を撫でると8本の尻尾をブンブンと振り回してくる。


「ところでさ、タクは25制限をソロというかタクと従魔だけで挑戦して勝ったんだろう?」


「よく知ってるな」


 マサシゲが言ったので驚いてそう言うとカークが言った。


「昨日かな?公式の映像にタクと従魔でソロで25制限に挑戦している映像がアップされたよ」


「そうそう、格好いいよな」


「えっ!マジか」


 それは知らなかったぞ。彼らに聞いたら2体の羊と俺と3体の従魔達との戦闘シーンが編集されて流れているそうだ。

 

「フェンリルが1体受け持って、タクらがもう1体と対峙して戦闘しているところや九尾狐が魔法を撃っているシーンなんかを編集して配信されている。最後に残った1体を倒したところもアップされているよ」


 60制限、25制限、そして無制限それぞれのNM戦の戦闘シーンがいくつか流れていて、25制限の映像の中に俺たちのもあるらしい。まさかソロのプレイがアップされるとはな。参考にもならないと思うんだけどなぜだろうな。


「3つのNM戦の中では、比較的簡単な25制限とは言っても15名でやるNM戦をタクと4体の従魔達で挑戦して大羊を倒したってことで昨日から掲示板などで話題になっているし、ゲーム内でもその話題が出る事が多いよ」


 勘弁して欲しい。


「主は有名なのです。有名人だから当然なのです」


「いや、リンネ。俺は有名人じゃないぞ」


 そう言っても主は有名なのですと言うリンネ。タロウもガウと吠えている。こうなるとこっちが折れない限り自説を曲げないリンネとタロウだというのはオレも知っている。仕方がないので2体の背中を撫でてやるとようやく落ち着いたよ。それからもう少し雑談をした俺たち。話をすると皆いい人だよ。もっとも悪い人をこのゲームでは見た事がないんだけどね。


「連絡してくれてありがとう。おかげで欲しかった装備を手に入れる事ができたよ」


「こちらこそ。高値で買い取ってくれてありがとう」


 最後に4人とフレンド交換をして椅子から立ち上がると挨拶をしてギルドを後にした。

 思いがけず上忍のHQ装備を2種類コンプしちゃったよ。


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― 新着の感想 ―
こんにちは。 まさにwin-winの取引でしたな。いつか彼らと一緒に冒険する機会もあるのかな?
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