宝探し1回目
キャンペーンも後3日、今日から宝探しのフィールドがオープンした。朝の畑とビニールハウスの世話を終えた俺は早速始まりの街に飛んでそこから街の外にでた。
街から出たところのすぐ左側にポールが2本立っている。その間を走ると宝探しのフィールドに飛ぶみたいだ。 初日という事もあるのか人が多い。まるでマラソンのスタートみたいだよ。皆次々とポールを潜っては消えていく。
「行くぞ」
「ガウ」
「はいなのです」
俺たちも列に並んでそのままポールの間を走り抜けた。
目の前の画面が揺れたと思ったら、次の瞬間、俺たちは見たこともない景色の中にいた。
足元は草原だがすぐ目の前が丘というか小さな山だ。左右もその山が連なっている。山には木が生えている。後ろを振り返ると草原が広がっていた。景色以外に結構な数のプレイヤーの姿も見える。
端末を手に持って地図を見ようとしたが、『マップが使えないエリアです』という表示が端末に現れた。つまり闇雲に歩き回るしかないという事だ。
端末をポケットに直すと隣で大人しく待っていたタロウの頭を撫でてやる。タロウの背中に乗っていたリンネが俺の頭の上に飛び乗ってきた。
「行こうか。とりあえず正面の山の中に入ろう」
「行くぞ、なのです」
歩き出してすぐに目の前に蓋の部分が湾曲している濃い茶色と黒のデザインの箱が地面に置かれているのが目に入った。いつもNM戦で勝利してみる宝箱よりはずっと小さいが、宝箱であるのは間違いない。
「宝箱なのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウが声を出し、クルミは背中でジャンプする。近づいて端末を突き出すと箱が消えた。端末をみると中身はサーバントポーションだ。ついでに『帰還石』があるのも確認した。また端末にはこのエリアに入ってから経過した時間が表示されている。
「主、何が入っていたのです?」
「サーバントポーションだ。入ってすぐに見つけたぞ。幸先が良いな」
「やったーなのです。この調子で探しまくるのです」
入ってものの1分もしない間に1個見つかった。俺たちはそのまま真っ直ぐに進んで山の木々の中にはいった。なんとなくこっちの方がありそうな気がするじゃない。
それが甘いと気がついたのは山に入ってからだった。2個目の宝箱が全く見つからない。山なので当然木が生えている。その周りや根元、時には枝まで見るが宝箱はない。
ウロウロと歩いていると左前方から女性の二人組がやってきた。
「タロウちゃんだ」
「本当だ。リンネちゃんも、クルミちゃんもいるよ」
タロウを見つけて声を上げている二人が近づいてきた。
「こんにちは」
俺を見て挨拶をしてくる。見る限り二人とも第1陣だな。神官と魔法使いの二人組だ。
「こんにちは」
「ガウ」
「こんにちはなのです」
スクショを撮ってもいいかというので従魔に聞くと問題ないという。彼女達がスクショを撮り終えた後で聞いてみた。
「宝箱ってあまり見つからないのかな?」
「そうみたいですよ。私たちも2時間ほど探しているんですけど見つけたのは3つ」
「途中で会った友達に聞いても1時間で1個か2個くらいかなって言ってます」
なるほど。最初にすぐ見つかったから宝箱があちこちに多数あるものだと思ってたけどそうじゃないんだな。でも宝探しというイベントだからあまりに簡単に見つかっても面白くないのか。
彼女達はリアルの友達が集まっているパーティのメンバーらしい。今日は活動がオフなので二人で宝探しにやってきたと言っている。
「ありがとう」
「いえいえ、タロウちゃん、クルミちゃん、またね」
「リンネちゃんもまたね」
「またね。なのです」
愛想の良いリンネが尻尾を振って挨拶をしてくれた。
彼女達と別れると俺たちはまた山の中を進んでいく。1時間に1、2個か、焦っても仕方がないな。運任せだ。聞いてよかったよ。気持ちを切り替えよう。
二人組の彼女達と別れてから、しばらく歩いていると木の根元に宝箱が見えた。タロウとリンネ、クルミも大喜びだ。近づいて端末を差し出すと宝箱が消えた。端末をみると印章x5が入っていた。
「NM戦をやる時に必要な印章が5個入っていたよ」
「やったのです。この調子なのです」
リンネはそう言ってくれたがそれから30分近く森の中を歩きまわったが3つ目の宝箱は見つからなかった。
「一旦帰ろう。また出直しするぞ」
「分かったのです。次はたくさん見つけるのです」
「ガウ」
端末にある帰還石を使うと、その場から始まりの街の入り口に戻ってきた。そのまま自宅に戻った俺たち。宝探しの初日は1時間ちょっとでサーバントポーションx1、印章x5だった。印章5個は結構嬉しい。サーバントポーションもいくつあっても困らないしね。
情報クランに連絡を入れるとトミーもクラリアも開拓者の街のオフィスにいるという。行こうかというと彼らからこっちに来るといい、その数分後に二人が自宅にやってきた。
「ちょうど経験値稼ぎから戻ってきて、休憩してたのよ」
「宝探しに行ってきたよ」
そう言って1時間に1、2個くらいしか見つからないという話を聞いた事。自分が開けた中身について彼らに話をした。
「今日は宝探しの初日ということで結構あのエリアに人がいるわよ。1万はいると思う。その中で1時間に1個か2個程度なのね」
情報クランの連中ももちろん宝探しエリアにいるそうだ。ただ彼らはまだ戻ってきていないので報告を聞いていないのだと言った。
「サーバントポーションと印章5個か。印章5個は悪くないんじゃないか」
「そうなんだよな。普段の時なら1時間ちょっとの戦闘で印章5個はまず集まらない。サーバントポーションも従魔がいるプレイヤーに取ったら必須の薬品だし。どちらも無駄にはならないよ」
低レベルの武器や防具が出たとしたら店売りするしかない。そう考えたら自分が使えるアイテムが出てよかったと思っている。クラリアとトミーも今日のNM戦が終わったら宝探しに行く予定だという。パーティとしてじゃなくて個人で行くそうだ。
「まとまって移動する意味がないしね。バラバラの方が情報が取りやすいでしょ?」
また後で、と彼らと別れると自宅の庭で従魔達と遊んでから一旦ログアウトした。
ログインするとすぐに従魔達が集まってくる。彼らと遊んだあとランとリーファにお留守番を頼んだ俺たちは港の街に飛んでそこから外に出る。NM戦の前までに経験値稼ぎだ。
2時間ほど敵を倒してそれなりに経験値を稼いだけどレベルは上がらなかった。そろそろ時間になるので港の街の入り口に戻るとすでに両クランのメンバー数名が集まっていた。彼らと挨拶を交わしたあとで俺が宝探しに行ったかと聞くと数名が行ったよと言う。
「なかなか見つからないよな」
「そうそう、もっとそこら中に宝箱があるかなと思ってたけどね」
やっぱりそうなんだ。彼らも2時間で3つ程の宝箱を見つけららしい。中身は印章とか、ポーションだが、情報クランの一人が開けた宝箱には神魂石が入っていたそうだ。
「赤と白の石が1つずつ、2個入ってたの」
「それって当たりの箱だったんじゃないのか」
周りが言っているが俺もそう思う。やっぱり神魂石が宝箱から出るんだな。これはおそらく情報クランも公開するだろう。皆のモチベーションが上がると思うよ。
そうこうしているとメンバーが皆揃った。もう作戦は決まっているのでそのままNM戦の場所に飛んで転送盤に乗る。転送盤があるエリアは今日も沢山のプレイヤーが集まっている。彼らを横目に見ながら俺たちは戦闘のフィールドに飛んだ。
NMとの戦闘自体は慣れたもので、危ない場面もなく無事にカニとトカゲを倒して勝利した。今回はウォリアーのSTR系の防具と魔法使いの魔力量アップのローブが出た。上忍の装備は出なかった。
仲間の好意でAGI系のHQ装備をもらっているので十分と言えば十分なんだろうけど、あと2回挑戦するチャンスがあるので、その間にSTR系の装備が出てくれないかな。
情報クランも攻略クランもほとんどのメンバーがHQの装備の中の1種類は手に入れたそうだ。彼らはあと4戦やるからとりあえず全員に1種類のHQは行き渡るのかな。そう考えると自分もすでに1種類持っているから満足すべきなのかもしれない。