上忍の装備が出た
キャンペーンの期間中、俺はログインするとまずは畑の見回り、それが終わると合成か釣り。その後はNM戦まで外で経験値を稼いている俺たち。普段のPWLでの活動とあまり変わらないな。NM戦があるか無いかくらいか。でもレベルは82に上がった。
レベル無制限のNM戦は毎日夕刻情報クランと攻略クランの中に入れてもらってやっているがいまだに上忍の防具は出ていない。ゲームあるあるだよ。
明日からは宝探しが始めるという前日、この日は工房にこもってバザールで出品する従魔達の置物、焼き物を作っていた。5体の従魔は相変わらず俺が工房に入ると一緒に来て近くに座って仕事を見るんだよな。
「どうだ!」
焼き上がった焼き物を見せるとランとリーファはサムズアップをし、クルミはその場でジャンプ。タロウは尻尾を振ってガウと吠えてくれる。そしてリンネは、
「主、ばっちりなのです。完璧で文句のつけようがないのです」
「そうか」
と言うかリンネは焼き物の出来が悪かったら文句言うつもりだったのかな? できた焼き物を工房のテーブルに置いて、次を作ろうかと思っていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
「うん、ありがと」
クラリアからだ。
「午前中のNM戦が今終わったんだけど、上忍の装備が出たわよ」
「えっ!本当?」
「AGI系のHQの装備。情報クランも攻略クランも上忍の装備はいらない、タクに使って貰おうって言ってるの」
それは嬉しい。俺は買い取ると言ったんだが、クラリアはお金はいらない、これは皆がそう言ってると言う。
「普段からNM戦に勝利して装備をゲットした人は誰もお金を払ってない。タクのこの装備も同じよ。使えるのはタクだけだから遠慮なく貰って」
これから情報クランのメンバーで自宅にくると言って通話が終わった。大人しく通話が終わるまで待っていた従魔達を目の前にして言った。
「クラリアからだ。NM戦で上忍の装備が出て俺にくれるそうだ。今から情報クランのメンバーがここにやってくる」
「これで主がまた強くなるのです」
「どうだろうな。強くなるといいな」
俺たちは工房から出ると来客用に梨とお茶を用意する。情報クランのメンバーというから5名来るだろうと人数分を用意したら、しばらくして予想通り5名のメンバーが庭にやってきた。今日はマリアはいないのでタロウは尻尾を振って近づいてくるメンバーに挨拶している。その背中にはランとリーファが乗っている。クルミは俺の肩の上で尻尾を振っている。そしてリンネは俺の頭の上から挨拶をする。
「いらっしゃいませなのです。主にお土産を持ってくる人は大歓迎なのです」
その言葉に全員が笑った。
「リンネちゃんの主にちゃんとお土産を持ってきたわよ」
そう言ってクラリアが端末を操作すると俺の端末に装備が入ってきた。
(ミント、これはHQなのかな?)
(はい。AGI系の上忍のHQの装備です)
「受けとったよ。ここで着替えてみよう」
ゲームなので着替えも端末をいじると一瞬だ。クルミとリンネを下ろして端末を操作する。今の装備と同じくAGI系の装束は濃い紫色だ。着替えたが、外見は今までのと変わらない。でも間違いなくHQなんだよな。感謝感激だよ。
「ありがとう。これは嬉しい。欲しかったからね。クラリアのもそうだったけど、HQの装備も外見はNQと変わらないのかな?」
「そうみたいだ。どの装備も外見に変化はない。俺の装備もHQだが変わらないだろう?」
トミーが言った。確かに言われないと分からないよ。ただ従魔達にはわかるのか、俺が着替えると皆喜んでくれた。
午前中のNM戦ではこの上忍の装備と魔法使いの装備が出たらしい。ワビスケが魔法命中アップのHQのローブをゲットしたそうだ。ちなみにトミーの装備はDEX系のHQだと教えてくれた。
「順調にメンバーにHQ装備が渡っているの。これは攻略クランも同じね」
彼らはレベル86になっていた。NM戦が随分楽になったと言っている。攻略クランのメンバーはNM戦が終わったあとは自分たちのオフィスに戻ったそうだ。
「キャンペーンも残り4日。今日はあと1回NM戦をやってあとは3日で6回、まだ7回チャンスがあるわね」
「宝探しはしないの?」
俺が聞くと皆やると言う。午前と午後のNM戦の合間か午後のNM戦が終わってから宝箱探しに行く予定だそうだ。ただし、これはクランとしてじゃなくて個人の自由にしている。情報クランとしてそこまで活動を縛るつもりはないそうだ。
「もちろん、私も行くわよ。宝箱ってワクワクするじゃない」
そうそう、宝探しってワクワク感があるんだよな。
「タクはタロウに乗って移動しながら宝箱を探せないな」
パラディンのリックが言った。
「それは仕方ないだろう。条件は皆同じにしないとさ」
掲示板では宝探しも話題になっているらしく、皆宝箱の中身を予想して書き込んでいるそうだ。色々出ているが中にはHQ防具なんて書き込みもあるらしい。
「レベル1から入れるってことはレベル1というか低レベル用のアイテムから高レベル用のまで色々あるってことだと思う。なのでポーションもあれば神魂石もあるって感じじゃないか」
そう言ったトミー。彼は中身がなんであれ宝箱を探すという行為そのものが楽しそうだと言っている。いや、自分も同じであちこち歩いて宝箱を見つけるということが楽しそうなんだよな。
「宝箱の総数は変わらないって話だから誰かが開けたら、その瞬間に別の場所に新しい宝箱が現れるってことだよな」
「そうそう、でも中身は同じとは限らないぞ」
「だから楽しいんだろう」
みんなでワイワイ言っている。やっぱり皆宝探しは好きなんだよ。ゲーム好きなら当然だよな。
「午後からよろしくね」
「こちらこそ」
「また後で」
そう言って情報クランの連中が家から出て行った。それを待っていたかの様に膝の上に乗っているリンネが顔を上げた。
「主、強くなった装備で敵をぶっ倒しに行くのです」
「ガウガウ」
タロウをみると十分にやる気になっている。その背中に乗っているクルミもその場でジャンプをした。
「よし!行こう」
「やったー、なのです」
ランとリーファのサムズアップを受けながら俺たちは自宅から港の街に飛ぶと、そこから北に向かった。最近はこっちのレベルも上がっているので海沿いをさらに北上した草原や森が狩場だ。敵のレベルは85。魔獣はクマ以外にレベル85の獣人達がいる。彼らの魔法や弓矢の攻撃を蝉で交わしている間にタロウが近づき、リンネが精霊魔法を撃つ。クルミの反射壁も有効で、危ない場面もなく順調に敵を倒して経験値を稼ぐことができた。というか新しいHQの装備がすごいんだよ。クラリアが神魂石2個分程度のステータスアップと言っているが本当にそんな感じだ。身体が動くんだよな。おかげで討伐が随分楽になった。今度からは86くらいの敵でもいいかもしれない。
午後のNM戦の1時間前に自宅に戻って少し休んだあと、再び港の街に飛んだ。街の外に出たところには攻略クランのメンバーがいて、すぐに情報クランのメンバーもやってきた。俺は皆に装備の俺を言った。
「早速HQの装備に着替えたんだろう?」
「そう。港の外で敵を倒したけどHQはすごいね。体感できたよ」
スタンリーが聞いてきたのでそう答えると、そこにいた全員がそうなんだよなと言っている。皆体感できるほどの優秀さなんだよな。
全員が揃ったので無制限NM戦の転送盤がある場所に移動した。相変わらず人気があるのでプレイヤーが多く集まっている。情報クランや攻略クランの連中は顔が売れている。それとタロウとリンネも顔が売れている。当然注目を浴びる俺たちだがスタンリーが早々に転送盤に乗ってくれた。助かったよ。普段から見られる事は多いんだけどいまだに慣れないな。
NM戦は勝利したが上忍の装備は出なかった。命中が上がるハンターの装備と同じく命中があがるマスターモンクの装備が出た。順調にメンバーに渡っている様でなによりだよ。
「主の装備はそのうち出るのです。出るまで頑張るのです。タロウとクルミとリンネがお手伝いするのです」
「ガウガウ」
「うん、頼むぞ」
従魔達はいつもポジティブ思考なんだよ。