島のダンジョン攻略 その2
自宅に戻って端末からグループメッセージを送ると、活動が終わってから俺の自宅にやってくるという。そのクラリアからの返信には彼らも第1ワープ、第4ワープは見つけていると書かれていた。
1と4、なんだか中途半端だな。そんなことを思っていると庭にいつもの4人がやってきた。タロウは入り口で待ち構えていたのでマリアが早速タロウを撫で回し、リンネは俺の頭の上からいらっしゃいませなのです。と挨拶をしている。
クルミは今はなんとランとリーファと一緒に庭の川に浮かべている俺が作った小さな船に乗っていた。リンネによるとランとリーファがクルミを船に勧めたそうだ。
「クルミはお船が大好きなのです。ランとリーファのお船にも乗れるのです」
確かにそうだ。大きさ的にはクルミはランとリーファよりも少し大きい。十分乗れるよ。もちろんしっかりとスクショを撮ったよ。
彼らはレベル80になっていた。相変わらず俺との3つの差が縮まらない。もっともこっちは経験値稼ぎ以外に他の事もやっているので縮まるはずがないんだろうけど。
「タク達はダンジョンに入ってからずっと左、左と進んで行ったんだろ?」
畑で摘んだお茶を一口飲んだスタンリーが言った。
「そうそう。そうしたら先の分岐の場所に転送盤があってそこが第1ワープだったんだよ」
「俺たちもそれは見つけた。そして今後は入り口から右、右と進んで行ったら同じ場所に転送盤があったんだよ。それが第4ワープだ」
ということは。そう思っていると4人が俺の表情を見たのだろう。口を揃えてその通りと言ってからトミーが続ける。
「入り口から2つに分岐、その先でまた2つ、常に2つの分岐があってあの転送盤のある場所にいくと合計で32のルートがあることになる。でも左端と右端の転送盤の番号は1と4だ。つまり32のルートの内、あの地点までで正解のルート、奥に進めるルートが4つあるんじゃないかと思っているんだ」
その確認のために彼らはいくつかの洞窟をランダムに進んでみたら先で行き止まりになっていたそうだ。転送ワープの先、レベル79の魔獣が2対リンクした先で行き止まりになる。
「なのでまずは第2、第3の転送盤を見つけるのがいいんじゃないかなと、情報クランと話をしていたのよ」
「それで見つかったの?」
「まだだ。知っている限りの情報ではそこまでのルートは32通り。転送盤が見つかったのは2つ。残り30ルートの内、両クランで6つ行き止まりのルートを見つけている」
2つのクランは探索するルートを分けてそれぞれの担当するルートでチェックしているそうだ。敵がレベル79ならこのメンバーなら問題なく討伐できる。
「島のヌシが正解は1つしかないと言っているでしょ?まずは4つの転送盤を見つけて、そこからその先を探索する予定。もちろん全部の通路を確認するつもりよ。行き止まりの通路にも宝箱があるかもしれないしね」
確かにそうだ。しらみつぶしに探していると何か見つかるかもしれない。
この2つのクラン以外でもレベル79のパーティがいくつかあるそうで、彼らにも協力を依頼するつもりだという。
「ここ2日ほどでレベル79に上がったパーティがいくつかいるのよ。彼らが協力してくれれば調査が捗るわね」
転送盤がある場所の敵のレベルが79だ。こちらが79ならそこに行くことは難しくはない。時に周囲のプレイヤーの協力も仰ぎながら調査を進めるのが情報クランのやり方で、それが多くのプレイヤーから支持されているのは俺も知っている。
「主もお手伝いをするのです」
頭の上からリンネが言った。いつの間にかタロウも縁側の近くに来ていて、その背中にはランとリーファとクルミが乗っている。皆尻尾を振っていた。
「もちろんだよ。俺も手伝うからルートを決めたら教えてくれるかい?」
情報クランが中心となって島のダンジョンのルート探索を手分けして行うことになった。詳しいルートは今日明日にでも連絡してくれると言う。彼らもあのダンジョンが上や下に降りるダンジョンなのか、それとも奥にずっと伸びているダンジョンなのか、まだ判断ができていないそうだ。
「ダンジョンが最大5名という制限がある以上、エリアボスよりもレベルが高いということは考えられない。でもこのエリアのレベル上限が三桁の可能性もある中、ダンジョンの先に進んだところで会う敵のレベルはかなり上がる可能性があるな」
恐らく4つに絞られるであろうワープを確定すること。そこからさらに奥を探索する手順になるが、奥のレベルが分からない中、そこは慎重にやりたいと言っている。俺も今のレベルだと奥に行ける限界があるからな。
次の日の夕方、クラリアから連絡が来た。協力してくれる他のパーティが4パーティ見つかったそうだ。彼らもレベル79、80らしい。それなら奥の転送盤までは問題なく移動できる。端末にはダンジョンの攻略ルートが2つ書いてあった。ダンジョンの入り口から右→右→左→右などとルートの分岐で進むべき方向が書いてある。ルートにはナンバリングがされている。これは管理しやすいね。
32ルートの内、探索済みのルートは8ルート。そのうち2つは転送盤があった。残りのルートを俺たちを入れた7パーティで手分けして探していく。この日も両クランはダンジョンを探索し2つ行き止まりのルートを見つけていた。なので残りは22ルートだ。
翌日、畑の見回りを終えた俺たちは島からダンジョンに足を向けた。今日は釣りをする時間がない。ダンジョンの中に入ると俺はタロウとリンネに言った。
「今日は俺が言う通りに進むんだぞ」
「ガウ」
「分かったのです。主は後ろから指示を出すお仕事なのです。敵を倒すのはタロウとリンネにお任せなのです」
「いやいや、俺もやるって」
蝉を張るとクルミが反射壁を作ってくれる。俺たちは洞窟を進み出した。端末を片手に持ちながらの探索なのだが、タロウとリンネがガンガン敵を倒していくので俺は、次を右、次は左。と指示を出すだけだ。敵のレベルが78になって2体固まっているところから漸く俺も戦闘に参加させてもらえる様になったよ。それまでずっと従魔の後ろを歩いているだけだったし。クルミは俺の肩に乗ってタロウとリンネの応援をしてたけどね。
「えっと、次は右だ」
「はいなのです」
固まっていた2体の78のカニを倒して分岐を進むと79が単体でいる。進んでいくと第一ワープがあった分岐に着いた。ここには何もない。聞いている話だとこの先は2つとも行き止まりになっているはずだ。俺たちはまず左に進んでみた。敵のレベルは79になっている。2体固まっている79の敵を2度倒して進んでいくと行き止まりの壁が見えた。そこで引き返して今度は右のルートを進むがそこも結局行き止まりだった。2つの行き止まりの壁の前には宝箱もなかった。
「このルートじゃないな。引き返すぞ」
来た道を逆に進んで入り口まで戻ってくると、今度はもう1つのルートを進む。これもさっきと同じで前を行くタロウとリンネの後ろから右だ左だと指示を出す。先に進んだが、結局このルートも外れルートだった。行き止まりの壁を2箇所確認すると、来た道を戻ってダンジョンの入り口に戻ってきた。
「何もなかったな」
「敵をぶっ倒したから良いのです」
「ガウ」
「そうだな。経験値も稼げたし、よしとしよう」
ダンジョンから出ると島のヌシが座っている。ヌシは何も言わずに顔を俺たちに向けてきた。
「なかなか前に進めません」
「焦らずにやるんだな。簡単ではないが、攻略ができれば得るものが多いだろう」
「わかりました」
俺たちのルートはハズレだったと端末でグループの4人に連絡を入れた。俺はログインして畑の見回りをしてからここに来ているが、彼らは早くからこのダンジョンに挑戦しているかもしれない。ダンジョンから外に出てその場で待っていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
「ありがと」
クラリアからだった。今日の探索で第2ワープが見つかったそうだ。助っ人を頼んだパパーティの1つが見つけたらしい。
「タクは今ダンジョンの近くなの?」
「そうなんだよ。2つ探索して今出てきたところ」
「じゃあ残りの12のルートの中に第3ワープがある可能性が高いわね。明日は助っ人さんはいないのよ。手伝ってもらえるかしら?」
「いいよ。明日も引き続きルートを探してみるよ」
「ありがとう。助かるわ。調査してもらうルートはまた端末で送るわね」
通話を終えるとそばでおとなしく待っていた3体の従魔に顔を向ける。
「明日もこのダンジョンを探索するが、今日はここまでだ。ランとリーファが待っている。家に帰ろう」
「はいなのです。お家に帰るのです」




