主はセンスも一番なのです
この日ログインすると端末にメッセージが来ていた。見るとPWLの運営からだ。
ー 平素はPARALLEL WORLD LIFE (PWL)をお楽しみ頂き、ありがとうございます。おかげさまでPWLはゲーム開始以来⚪︎年目を迎える事となりました。
これを記念しまして2週間後の土曜日の午前0時(土曜日夜12時)より2週間、キャンペーンを実施いたします。詳細は後日端末およびゲームのホームページでご案内いたしますが、様々な企画を用意しております。又、この期間でしか手に入らない特別なアイテムなども用意しておりますので皆様奮ってご参加ください。 ー
なるほど。そういえば俺自身も長くやっている。毎日インしている訳じゃないけどそれでも暇があるとインしているのは間違いない。
いろんな企画も楽しそうだし、この期間でしか手に入らない特別アイテムというのにも興味がある。このキャンペーンの期間はできるだけインする様にしよう。
「主、お手紙は読み終わったのです?」
端末から顔を上げるとリンネが言った。そばにはリンネはもちろん、それ以外の従魔達も集まって俺を見ていた。
「終わったよ。さあ、畑の見回りに行こう」
「畑に参るのです」
縁側から立ち上がるとランとリーファが待ってましたとばかりに俺の肩の上に乗ってきた。タロウの背中にはリンネとクルミが座る。畑で野菜を収穫し、種を蒔いて水をやる。それから果樹園で梨の実を収穫、最後はビニールハウスの中でイチゴの収穫と水やりだ。
収穫と種まきが終わると俺はビニールハウスの入り口に腰掛ける。従魔達の遊ぶ時間だ。イチゴは高設栽培なので地面には何もない。そこを5体の従魔達が走り回ったり飛び回ったりしているのを見るんだけど、これは毎日見ても飽きないんだよ。クルミもすっかりここで遊ぶのが気に入っているみたいだ。最初の頃はリンネの後をくっついて走り回っていたが、最近では自分からタロウの背中に飛び乗ったりしている。ランとリーファともすっかり仲良くなっているよ。
たっぷりと遊んで満足すると5体が俺のところにやってくる。お遊びが終わったよという合図だ。
「たっぷりと遊んだか?」
そう聞くとランとリーファは空中でサムズアップをし、タロウは尻尾を振りながらガウガウと吠える。クルミはその場で一回転すると俺の肩の上に乗ってくる。
「皆沢山遊んだのです。大満足なのです」
「そうか。じゃあランとリーファにお留守番を頼んで俺たちは外に行こう」
「行こうなのです。今日も敵を沢山ぶっ倒してやるのです」
リンネは気合い十分だがその前に行くところがあるんだよ。
「敵を倒す前に今日はまずリンネの里に行くぞ。クルミを連れていかないとな」
「父上と母上の元に参るのです? 主、すぐにレッツゴーなのです」
自分の両親に会えると聞いて大喜びしているリンネ。まだ前回から1ヶ月経っていないが、新しく従魔になったクルミをまだ九尾狐の両親に紹介してなかったんだよ。クルミも慣れたからそろそろ挨拶に行っても良いタイミングだろう。
自宅の倉庫からイチゴと従魔達の新しい置物、そしてポーションを取り出して収納に収める。村へのお土産を忘れてはいけない。準備が出来て開拓者の街から外に出るとタロウの背中に乗って一気に走る。坑道のワープを使って反対側に出るとまたタロウに乗って山裾に沿って走るとセーフゾーンの東屋が見えてきた。しっかりと休んでから隠れ里の入り口から中に入った。
洞窟を出たところにユズさんがいて俺たちを迎えてくれた。
「こんにちは」
「こんにちはなのです。今日は主の新しい従魔を連れてきたのです」
「神獣カーバンクルですね。さぁこちらにどうぞ」
「主、リンネは父上と母上のところに行ってくるのです」
「うん、行っておいで」
「はいなのです」
俺の頭の上から降りたリンネはそのまま村の奥の祠に向かって駆け出して行った。タロウとクルミと俺はユズさんの案内で村長の家にお邪魔をする。クルスさんにお土産を渡し、新しいクルミを紹介した。
「神獣カーバンクルですね。カーバンクルは幸運をもたらすと言われています。タクにもこれから幸運が舞い降りるかもしれませんね」
「そうだといいですね。でも今でも十分幸運だと思っていますよ」
俺がそういうとその考えでいいんだと言う村長さん。相変わらずNPCの対応がリアルと変わらないんだよな。村長さんと話をしている間、クルミは俺の膝の上で大人しく座っている。時々尻尾を振っているのを見ると機嫌は良いみたいだ。
村長さんの家を出ると俺達は村の奥にある祠に足を向けた。クルミはこの隠れ里は初めてだ。俺の左の肩の上に乗りながら頭を左右に動かしてあちこちを見ている。初めて見る景色だからな。
参道を歩いて最後の階段を登ると階段を登ったところでリンネが待っていた。
「挨拶はできたか?」
「バッチリなのです。父上と母上に挨拶をしたのです」
そう言うと指定席である俺の頭の上に乗ってくる。階段を上がって進むと祠の前に大主様とその奥様、リンネの両親の九尾狐の夫婦が俺たちを待っていた。最初にイチゴと従魔の置物を奉納してから手を合わせる。
「今日は新しい仲間を連れてきました」
クルミは肩の上でキョロキョロと左右を見ていたけど、俺がいうとその場でジャンプしてクルミなりの挨拶をする。
「神獣カーバンクル。良い従魔を手に入れたの」
「タクにすっかり懐いているわね」
褒められたのが嬉しいのだろう。肩の上でジャンプして一回転するクルミ、器用だよ。
「これからはリンネとタロウとクルミでお邪魔しますのでよろしくお願いします」
挨拶が終わると大主様から新しいエリアの探索中らしいのと言われた。
「苦労してますよ、でもそれが楽しいとも言えます。リンネもタロウもクルミも手伝ってくれるので大助かりです」
俺がいうと両親がリンネを見て主人の役に立っている様でなによりだと言った。
「主のために頑張っているのです」
「それでいいのよ。主のタクにしっかりとお仕えするのよ」
「母上、分かったのです」
大主様への挨拶も終わった。また来ますと祠を後にした俺たちは村の中にあるコンビニに顔を出した。奥から顔馴染みになっているキクさんが出てきた。
「タク、こんにちは。おや、従魔が増えてるね」
「そうなんですよ。カーバンクルのクルミです」
「主の新しい従魔なのです」
そういうと肩の上でジャンプして一回転する。
「すっかり懐いているじゃないの、神獣はプレイヤーを助けてくる。大事にするんだよ」
いつも通りポーションを補充するとこの里で取れる野菜をたっぷりと貰った。商品の受け渡しが終わると店内を見てみる。何か新しいものがあるかどうか、そして不足しているのはあるかどうかと毎回チェックしているんだよ。
以前女性プレイヤーが買ったポンチョ風の上っ張りも置いてあるが、俺はこれには興味はない。見ていると女性用だと思うがスカーフが売ってある。
キクさんに聞くと何の効果もないただのスカーフだよと言うがそれでも構わない。お金を払っておオレンジ色のスカーフを手に入れると、それをクルミの首に巻いた。首にスカーフを巻かれて大喜びしているクルミ。
「茶色の身体にオレンジのスカーフがよく似合っているのです」
喜んでいるクルミを見ていたリンネが言った。俺も似合っていると思う。
他の従魔達は青い従魔のスカーフを巻いているがクルミは今の所何もない。何も無いってのは可哀想だ。そのうちに従魔のスカーフを取ってあげるが、それまでの間はこのオレンジのスカーフで代用だ。
「クルミ、皆と同じスカーフを手に入れるまではそれで我慢してくれるかな?」
そういうと尻尾をブンブン振る。
「クルミはオレンジのスカーフが気に入ったのです。主に感謝だと言っているのです」
店の外で大人しく待っていたタロウもクルミの新しいスカーフを見て尻尾を振りながらガウガウと吠えてくれた。
「タロウも似合っていると言っているのです。主はセンスも一番なのです」
センス云々は従魔達の買いかぶりだけど彼らが喜んでいるのならいいか。




