海釣り その2
スタンリーらが家に来た2日後、島の陸側で敵を倒しているとレベルが73に上がった。するとクルミの身体が光り出し、しばらくすると消えた。
『クルミもレベルアップしたのかな?』
『はい。レベルが上がって能力が強化されました。相手の攻撃を反射する魔法壁の有効時間が25分になりました。またリキャストが1分になりました。反射する割合に変化はありません』
なるほど。効果時間の延長とリキャスト時間の短縮か。でもありがたい。クルミの魔法壁は1戦闘中の有効時間なので、戦闘が終わればリセットされる。リンクした場合は一度の戦闘とカウントされるのは検証済みだ。通常の戦闘では25分かかる事はないが、ボス戦やNM戦では効果がある。そしてリキャストが1分、これは通常の戦闘の際に大いに助かる。
「クルミ、また強くなったな」
撫でてやると尻尾を振って大喜びしてるよ。もちろんタロウとリンネもまた強くなっている。
「皆主のために頑張っているのです」
「うん、助かってるぞ」
レベルは73になったがまだこのレベルではダンジョンの奥に進んで行くのは厳しいだろう。もっとも競争でもないので先陣を切りたいとも思ってないんだよね。島のヌシも言っていたけどダンジョンは逃げない。
それよりも釣りだよ。せっかく外海にいるであろう大物狙いの竿とルアーを買ったんだから試さないと。島側の森は魔獣の最高レベルが70だ。73なら何の問題もない。
次の日の午後、船で島に渡るとそのまま海辺の小屋に飛んで、そこから島を横切って島の東側にやってきた。森の中にいるカニやトカゲはもう敵でもない。タロウとリンネに任せておけば何も問題ないね。島の東側に出ると海岸線を北上して前回釣りをした岩場に着いた。
「主、お魚を沢山釣るのです」
「うん、今日は大きな魚を狙うんだ。なかなか釣れないかも知れないが頑張るよ」
「ガウ」
岩場で釣りをする場所を決めるとその近くにタロウが腰を下ろし、その背中にリンネとクルミがちょこんと座った。皆準備OKだな。ギルドで買った長くて太い竿を海に向かって投げると先のルアーが遠くに飛んでいった。この前よりもずっと遠くまでルアーが飛んでいる。あとは竿を上下に動かして当たりを探っていく。リールを巻き上げ、また海に投げる。そんな動作を4、5回繰り返した時に当たりが来た。いきなり竿に力が入って竿がしなる。それを見て座っていたタロウが起き上がった。その背中に乗っているリンネとクルミも背中の上で起き上がる。
「魚がかかったのです」
「おう、釣り上げるぞ」
そのままリールを巻き上げると70センチちょっとあるサイズの魚が釣れた。魚が岩場に上がると皆大喜びだよ。
「大きなお魚さんが釣れたのです」
「ガウガウ」
クルミも岩場で何度もジャンプして回転している。ジャンプしても良いが滑るなよ。収納から水槽を取り出してその中に魚を入れると、クルミがその中にいる魚を食い入る様に見ている。
「大きなお魚だとクルミが言っているのです」
「大きな魚を見て喜んでいるみたいだな」
俺がそういうと尻尾をブンブンと振り回すクルミ。この仕草を見たらもっと釣ろうという気になるよ。
俺は再び海に向かって竿を投げた。今までの釣りと違って入れ食いにはならない。投げたルアーを回収してまた海に投げる。この動作の繰り返しだ。従魔達は文句も言わずに大人しく座っている…と思っていてチラッと横を見ると3体とも水槽の中にいる魚を覗きこんでいた。
最初は4,5回リールを投げるとヒットしたが、2回目のヒットがなかなか来ない。自分では大きな魚がそう簡単に釣れるとは思わないんだけど、従魔達はそれが不満みたいだ。
「お魚さんがいなくなったのです?」
「ガウ」
リンネが海を見て言い、タロウとクルミまでが耳を垂らせて寂しそうな顔をする。クルミなんて耳はそう大きくないのにしっかり垂れるんだよな。妙なところまで作り込んであるゲームだ。
「釣ってやるから、もうちょっと待て」
そう言ってルアーを海に投げた俺。釣ってやるって言ったものの自信はない。ただ寂しそうな彼らの顔を見たらそう言わざるを得ないよ。
今までは海に放り投げてリールを巻いているだけだったが、少し動作を変えてみる。ルアーが海に届くとその場で竿を上下左右に動かしながらゆっくりとリールを巻いていく。
その動作を3回ほど繰り返した時、竿に当たりが来た。ググッとした反動があり竿がしなる。
「主、お魚さんなのです!」
しなった竿を見たリンネが言った。タロウとクルミもリンネと一緒に竿を見ている。
「よし」
さっきよりも強い抵抗があるがゆっくりとリールを巻いて釣り上げたのは80センチほどの魚だった。俺はもちろん、従魔達も大喜びだ。
「また大きなお魚さんが釣れたのです」
水槽に入った魚を見て尻尾をブンブンと振る3体の従魔達。その後は竿を動かす事で魚が釣れる様になった。でも80センチ以上のサイズではなく50センチから60センチの魚だ。結局6匹ほど釣れて水槽がいっぱいになる。
「大漁なのです」
「うん、大きな魚が沢山釣れたな」
「主は釣りも一番なのです」
「ありがとうな」
ずっと応援してくれた3体を撫でて労ってやる。
「お家に帰るのです?」
「せっかくここまで来ているのだからダンジョンに入ってみよう」
ダンジョンに行くと聞いて3体のテンションが上がったよ。戦闘が大好きだものな。釣った魚を入れている水槽を収納にしまうと岩場を上がり、海岸線を北に進む。途中で魔獣と遭遇するが、レベル70の敵は敵じゃない。敵を見つけたタロウが1体でカニに突っ込んで倒しているよ。敵を倒すと戻ってきて身体を寄せてくる。もちろんしっかりと撫でてあげるよ。
島の北、ダンジョンの入り口から中に入ると島のヌシがいつもの格好で通路にいた。
「ダンジョンに行ってきます」
「気を付けるんだぞ」
「はいなのです。気を付けて敵を倒すのです」
挨拶をしてダンジョンに入る。入り口から3つ股の分岐、その先の2股の分岐までは道も覚えているし、そこにいるカニの魔獣のレベルも覚えている。奥で坑道が2つに別れている手前まではレベル76だ。その先は確か77だった。
今の俺たちのレベルが73。前に来た時よりもレベルが上がっているし優秀な従魔達もいる。油断さえしなければ問題ないだろう。
今回は最初の3つの分岐で右の分岐を進んでみる。やっぱりその先も同じだった。見ている限り他のルートとの変化が見つからない。敵がいる場所、そしてそのレベルも同じだ。ただ、こちらのレベルが上がったことで戦闘自体は楽になっている。あと2つ程あげたら奥に進めるんじゃないかな。
奥の2つに分かれている分岐の先にいるレベル77のカニとトカゲを倒してから来た道を戻ってダンジョンから出た。短い時間だったけどそれなりの数、それもレベルが結構上の敵を倒せたので俺も従魔達も満足してるよ。
ダンジョンを出ると島のヌシに挨拶をする。
「無事に戻ってきました。また挑戦します」
そういうと黙って頷いたヌシがクルミを見た。
「随分と懐いている様だの」
クルミは自分の事を言われたと分かったのだろう。その場でジャンプして一回転しているよ。
「クルミは主が大好きなのです」
「その様だな。仲良くするんだぞ」
そう言われてもう一度ジャンプからの一回転の挨拶をしたクルミ。一回転するとそのまま俺の身体を駆け上がって左肩の上にちょこんと座った。
俺たちはまた来ますとお礼を言ってからダンジョンを後にした。
 




