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主が有名なのは当然なのです


 クルミが加わって5体になった従魔の置き物、結構な数を作ってバザールに出品したんだけど飛ぶ様に売れて4時間程で全部売り切れてしまった。今回はこの置き物1点だけの出品だったけどテントの前に列ができるほどの盛況だったよ。


 女性が8割、男性が2割くらいの比率で圧倒的に女性に人気があるんだよ。タロウとリンネとクルミは俺と一緒にテントにいて、焼き物が売れるとお礼を言うんだよな。


「ありがとうございますなのです」


「ガウガウ」


 クルミは売れる度に尻尾を振ってその場でジャンプをして一回転する。その仕草が可愛いとスクショを撮るし、買った人と一緒のスクショも嫌がらずに応じてくれる。プレイヤーは焼き物を買うと、その後従魔達と一緒にスクショを撮ってから次のお客さんに代わるので時間がかかるんだけど、皆きちんと列を作って静かに待ってくれるんだ。待っている間も従魔達を撮りまくってたけどね。


「主は大人気なのです」


「いやいや、人気があるのはお前達だろう?」


「違うのです、主が一番なのです」


「ガウ!」


 従魔達の俺推しは変わらないが、最近はそこにクルミも加わって、リンネが言うとそうだそうだとタロウの上で何度もジャンプして回転する。


 今回も買うことができなかった人が出たのでその人達にはまた次の機会にお願いしますと頭を下げる俺。お金よりも欲しい人に渡せない事が申し訳ない。


「相変わらず完売か」


 声に振り返るとテントの前ににスタンリーとマリアが立っていた。マリアはそばに来たタロウをすぐに撫でまわす。


「さっき完売したよ。今回は従魔達の置き物だけを結構作ったんだけどね」


「皆主が作った焼き物を買ってくれるのです。今日もがっぽりと儲けたのです」


「しばらくはブームが続くわよ。従魔が増えて5体になったから、今まで4体の置き物を買っていたプレイヤーもまた買いに来るでしょうから」


「第2陣はもちろん、第3陣の中にもバザールに出展している人たちがいるの。参加者も購買者も両方とも増えてるわ」


 そうなると当面午前中の工房では従魔の置き物作りが続きそうだ。クルミが増えて作業が一段多く、複雑になったせいか、窯業スキルも65になっている。作成時間が少し短縮されているのが救いといえば救いだよ。


「ところでこの前クラリアとトミーが自宅にきたよ」


 閉店、店じまいをしながら言うと今から家に行ってもいいかと言う2人。もちろん問題ないので店をたたむと3人と従魔達とで開拓者の街の中を歩く、マリアはタロウの横に立って体を撫でながら歩いてご満悦だよ。クルミは俺の左の肩、リンネは俺の頭の上に乗っている。


「第3陣のプレイヤーも多いな」


 街の中を歩きながらスタンリーが言った。言われてみればこのエリアに即した防具を着ているプレイヤーがそこそこいる。俺たちが彼らを見る様に、彼らもこっちに顔を向けては肩や頭に乗っている従魔に視線を注いでいる。


「あれがリンネちゃんよ、タロウちゃんも大きいわね」


「クルミちゃんだっけ?本当に可愛い」

 

 女性のプレイヤーから従魔達は大人気だ。一方でスタンリーやマリアは顔と名前が売れているのだろう、男性プレイヤーは俺じゃなくてそっちを見ている。


「攻略クランのマスターとサブマスだ。あとはフェンリル忍者。強者達だよな」


「装備もすごそうだ」


 と言う声が聞こえてきたけど、まさか第3陣の人たちからもフェンリル忍者って呼ばれているとは思っても見なかったよ。


「タクも有名だな」


「いや、従魔が有名で、それに付随して俺の名前が広がってるんだろう」


 俺がそう言うと頭の上から声がした。


「主は有名なのです。皆が主を知っていて当然なのです」


「ガウ」


「タロウちゃんの言うとおりよね」


 マリア、頼むからそうやって煽るのはやめてくれよ。俺がやめてくれと言ってもマリアは涼しい顔だよ。


「私は事実を言ってるだけよ。公式の掲示板にちょくちょく名前が出てるもの」


「まじかよ、勘弁して欲しい」


「諦めるんだな。優秀な従魔達を引き連れている上忍のタクの名前はしっかりと売れている」


 スタンリーが止めを刺す様に言ってきた。



 自宅にくるとお留守番をしていたランとリーファがやってきた。交代とばかりにクルミは肩から降りると精霊の木の枝に駆けあがってそこで横になった。よく気が付く子になったよ。


 縁側に座った彼らにお茶を出したあとは雑談タイムだ。


「この前クラリアとトミーがここにきたよ。ダンジョン攻略中だと言ってた」


「彼らとは毎日の様に情報交換している。ダンジョンは敵のレベルが高いので攻略に行き詰まった感があるんだ。だからここ数日は草原の西方面を攻略しながら経験値を稼いでいるんだよ」


「タクはどうしてるの?ダンジョンの攻略?」


 マリアが聞いてきたが俺は首を左右に振る。


「俺は今は港の街から海岸線に沿って北上している。そっちと同じでダンジョンは2つ目の分岐の先のレベル76、77辺りの敵が強くて効率が悪いからね」

 

 情報クランも言っていたけど、他のプレイヤーもダンジョンの入り口付近は攻略しているがなかなか奥には進めていないらしい。


「分岐はあるにせよ、奥に進むべき坑道が伸びている。そこを進んで行けばいいんだけど敵が強くて思う様に進めない。もどかしいよな」


 確かに。奥に進んで行くにはレベルを上げるしかないんだよな。なので草原でレベルを上げてからダンジョン攻略という流れになる。島の中にいる魔獣は最高レベルで70だ。ダンジョンを攻略するには自分たちが75以上にならないと難しいだろう。俺が70以下のレベルでダンジョンに挑戦したのが異常なんだよな。タロウとリンネがいるから出来たんだけど、普通ならダンジョンに入ってすぐの75を倒すのも苦労するだろう、いや、やられる可能性の方が高い。


 今までもそうだったけど運営は簡単にはエリアを攻略できない様にしている。このエリアも港の街以外に2つほど他の街があるだろうと攻略クランも情報クランも予想しているそうだ。


「強化石がドロップしている。そして港の街には強化屋がない。これから見てもこのエリアにある他の街で強化できる様になっているんだろう」


「その強化についても渓谷のエリアの時と同じかどうかは分からないわよね」


「確かに」


 渓谷のエリアでは防具と武器を6段階強化できた。今度の65装備についても前のエリアと同じ強化とは限らない。ひょっとしたら段階が増えるかもしれないし、今までとは違った強化方法になるかもしれない。


「そんなことを想像しながらフィールドを攻略するのが楽しいんだよ」


 お茶を飲みながらスタンリーがそう言った。その表情を見るに本当に楽しそうだよ。

 俺たちが話をしていると木の枝に座っているのが飽きたのか、クルミが縁側に来ると俺の膝の上に乗ってきた。今は頭の上にリンネ、両肩にはランとリーファ、そしてタロウは縁側の俺の隣で横になっている。


 膝の上に乗ってきたクルミを撫でているのを見ていたマリア。


「クルミちゃんがレベルが上がってどう言うスキルを発揮するのか楽しみね」


「一度レベルが上がった時にクルミの全身が光ったんだよ」


 俺たちが70になった時は何もなかった。71になった時に光ったけど、72の時は光らなかったという話をする。こっちのレベルが奇数の時に上がるのか、それともどこかのタイミングで俺たちと揃うのか。今のところ判断はできない。


「次の73に上がった時にどうなるかだな」


「そうだね」


「今のところクルミちゃんが光った後は魔法壁の効果時間が伸びただけ?」


 今のクルミの魔法壁の効果時間は10分から20分になっている。それは確認できている。ちょっと待ってとマリアに言って俺はAIのミントに聞いてみた。


『クルミの今の能力はわかるかな?』


『はい。反射する魔法壁の効果時間は20分です。反射するのは受けるダメージの10%です』


「AIに聞いたら効果時間は20分だけどダメージの反射は10%で変わってないね」


「それもこれからレベルが上がると反射ダメージが増えそうだよな」


「だといいけどね」


 そう言ってから頑張れよと膝の上に乗ってやるクルミの背中を撫でてやると、尻尾をブンブンと振って喜んでくれる。俺は従魔頼りなので皆に頑張ってもらわないとね。


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