海釣り
この日は農作業が終わると3体の従魔と港の街に移動し、そこから船に乗って島に渡ると桟橋の小屋から海辺の小屋に飛んだ。小屋には俺達以外誰もいない。
「主、貸切りなのです」
「ガウガウ」
「本当だな。しばらくここで休もうか」
誰もいないのでタロウとリンネ、そしてクルミが小屋の中を走り回って遊んでいる。クルミはリンネの事をお姉さんと思っているみたいで、遊ぶ時はいつもリンネの後ろをついていくんだけどそれを見ているだけで癒されるんだよな。
彼らが満足して俺のところに集まってくると、座っている俺の周りに皆後ろ足座りをして見つめてくるんだよ。自宅でもそうだけどこれがめちゃくちゃ可愛いんだよな。クルミもお兄さんやお姉さんを見て覚えたのだろう。タロウ、リンネの隣にちょこんと後ろ足座りをしている。
「いっぱい遊んだか?」
そう言うとクルミは尻尾を振り、タロウも尻尾を振りながら吠える。
「沢山遊んで気分がすっきりなのです。主、参るのです」
うんうん、彼らが満足したのなら問題ないよ。
「じゃあ行こう」
俺が立ち上がると従魔達も起き上がった。小屋を出て森の中を進んで北の端にあるダンジョンに着くと入り口にいるヌシに挨拶をしてからダンジョンの中に入る。奥に伸びている一本道の通路の真ん中にいるレベル75のカニを3体倒すとその先で坑道が3つに分かれている。前回は左の坑道に入ったので今回は真ん中の坑道に入ることにした。
真ん中の坑道も見た目は左の坑道と全く同じだ。歩いているとレベル76のヤシガニが1体通路の真ん中にいる。すぐにリンネが強化魔法をかけ、クルミが俺の前に魔法壁を作ってくれた。チームワークもばっちりだ。
倒して奥に進むと2体いる。これも左の坑道と同じだ。2体の内1体を手裏剣で釣って個別に撃破。2体目を倒したところでレベルが72に上がった。
「これでまた強くなったのです」
「ガウ」
「その通りだな」
今回はクルミは光らなかったな。レベルが上がる基準が違うのか、それとも何か他の理由があるのか。これはもう少し様子をみないと分からないよ。
先に行くとレベル76のカニが2体ぴったりと並んでいる。これも左側の通路にいたのと同じだ。間違いなくリンクするが、こちらもレベルも上がったし、やってみるか。装備をAGI系に変更してから言った。
「前に2体いるのを倒すぞ。右からだ」
「ガウ」
「やってやるのです」
近づいて行くと2体が同時に襲いかかってきた。何も言わなくてもタロウもリンネも最初から全力で攻撃する。もちろん俺もだよ。レベル差が4つ上の敵なのでいくらAGI装備をしているとは言っても蝉は剥がされる。今対峙している1体を早く倒さないと蝉のリキャストが間に合わない。タロウとリンネが頑張ってくれているけどリキャスト間に合うのかな。
そう思っていると突然目の前のヤシガニが倒れた。すぐに2体目のヤシガニに攻撃をする。攻撃しながら気がついた。クルミのダメージバックで倒れたのだと。それが証拠に2体目は攻撃を初めてからそう時間が経たずに倒れた。俺に攻撃している間にダメージバックを受け続けていたみたいで、体力が削られていた様だ。
2体のリンクを倒すと寄ってきたタロウ、リンネ、クルミを撫でてやる。
「皆凄いぞ」
「主のために頑張っているのです」
「ガウ」
その通りだ。これなら行けるかもしれないと先に進むとまた同じ様にレベル76のヤシガニが2体寄り添っている。
「さっきと同じだ。やるぞ」
「やってやるのです。ぶっ倒すのです」
「ガウ」
クルミは何も言わないが仕草で気合い十分なのがわかるよ。この2体のリンクも無事に倒した俺たちが奥に進むとそこで坑道が2つに分かれていた。おそらくこの先でまたレベルが上がるのだろう。ひょっとしたら魔獣も変わるかもしれない。それにしてもここまでは左の通路と真ん中の通路が全く一緒だよ。どこの通路にいるのかが分からない程だ。
「よし、ここまでだ。入り口に引き返しながらREPOPしているカニを倒すぞ」
「引き返すぞ、なのです。出直しなのです」
「その通りだ」
通路を逆に戻って途中でREPOPしていた76のカニ1体と75のカニを3体倒して俺たちはダンジョンの入り口に戻ってきた。ヌシであるランドトータスがダンジョンから出てきた俺たちに顔を向けている。
「苦労している様だの」
ヌシには俺たちの攻略状況が分かるのだろうか。或いは、ダンジョンに入ってから出てくるまでの時間を覚えていてそう言ったのかもしれないな。
「その通りです。まだ入り口付近でウロウロしています。もっとレベルを上げないと奥に行けません」
「ダンジョンは逃げない。時間をかけて攻略するのが良いだろう」
「そうですね。のんびりとやりますよ」
「のんびりやります。なのです」
俺とリンネはそう言って洞窟の入り口から外に出た。外に出ると岩場に打ちつける波の音が聞こえてくる。このあたりもリアルなんだよ。タロウやリンネはこれからどうするの?と言った表情だ。クルミは俺の左の肩に乗っている。
「こっちだよ」
セーフゾーンのある島の東側の海岸線に沿って歩いていると途中で岩場に降りる事ができそうな場所を見つけた。ここなら森からも見えないので魔獣が襲ってくることもないだろう。万が一魔獣が近づいてもタロウとリンネが気が付いてくれると思う。俺たちは慎重に岩場を進んで海の近くまで降りた。
「ここで釣りをするぞ」
釣りと聞いてタロウとリンネが尻尾をブンブンと振り回してくる。クルミにとっては初めての釣りだな。と言ってもクルミが釣りをする訳じゃないけどさ。魚を見るのは初めてだろう。
足場の良い場所を見つけると端末から竿を取り出した。タロウが近くに腰を下ろすとその背中にリンネとクルミが乗る。
大海原に向かって竿を投げるのは気持ちいいね。リアルでは釣りなんてほとんどやってないけどゲームならテクニックもそういらない。
ルアーが海に浮かんでしばらくするとヒットした。巻き上げると40センチ程の魚が釣れていた。それを見たタロウとリンネはもちろん、クルミも大喜びしてるよ。
「釣れたのです。主は釣りも一番なのです」
「クルミ、これがお魚だ」
岩の上でピチピチと跳ねている魚を興味津々と言った目で見ているクルミ。端末から取り出したバケツに入れると中で泳いでいる魚をじっと見ているよ。
その後も竿を投げ入れると魚が次々と釣れる。サイズ的には40センチが多いが中には50センチ程のも釣れる。
3体とも釣れるたびに喜んでくれるのでこちらも釣り甲斐があるよ。20匹ほど釣ると大きなバケツも魚でいっぱいになった。俺たちは釣りをやめると、そこから転移して港の街の釣りギルドに顔をだした。
「いいサイズの魚を沢山釣ったね。桟橋じゃないね。あそこだとここまでのサイズは釣れない」
バケツを覗き込んでいたここのギルマスのセリーさんが言った。流石にギルドマスターだ。よく知っている。
「ええ。今日は島の北の岩場で釣りました」
そう言うと島の北かい。とびっくりした顔になってそれから納得した表情になった。
「外海だと魚のサイズが上がる。これはレストランで高く売れるよ」
持ち込んだ魚は結構いい値段でギルドが買い取ってくれたよ。精算し終えるとセリーさんが棚から大きな竿を持ってきた。
「このギルドで一番強くて大きい竿だよ。これで外海で大物を狙ってみな」
確かに今使っている竿よりもずっと長くて強そうだ。セリーさんによると1メートルを超えるクラスの魚にも耐えられる竿だという。そんな大物がいると聞いてびっくりだよ。
「そう簡単には釣れない。でもやってみたらどうだい?」
「挑戦しますよ」
その意気だよと言ったセリーさん。ギルドで竿とルアーを買った。ギルドの勧めもありルアーはオレンジ色だ。
「これで大きなお魚さんを沢山釣るのです」
「簡単じゃないらしいけどな。頑張ってみるよ」
 




