新しいデザイン
日曜日のバザールは大変だった。大変と言うのは大盛況すぎるという意味で大変だった。今まで出展していたどの日よりも沢山のプレイヤーが俺のテントにやってきた。これは想像してなかった。売り切れるまでずっと列ができていたよ。もちろんマリアも買いに来ていた。クルミはまだ置き物になっていないので4体の従魔達だけなんだけど、それでもここまで人気があるとは。
「タクの新しいタロウちゃんの焼き物、これは外せないわよ」
テントに来てくれたプレイヤーに聞くと、新しい焼き物を買いに来る人とカーバンクルのクルミを見るのが目的らしい。もちろんその両方が目的の人が一番多かったんだけど。
普段よりも男性のプレイヤーが多かったな。彼らはカーバンクルのクルミを見るのがメインで来たが、ただ見てるだけでは申し訳ないと思ったのか食器を買ってくれる。
「沢山買うのです。買うと主がウハウハになるのです」
「ガウガウ」
「リンネちゃんが言うのなら沢山買わないとね」
「そうそう、タロウちゃんも尻尾振ってくれているし」
タロウとリンネは相変わらず愛想よく接客してくれて、女性プレイヤーを中心に何度もスクショに応えていたよ。クルミは最初、あまりに大勢の人が集まってきたのでちょっとびっくりしていた様だがすぐに慣れて、タロウの上に乗ったり、リンネの横に座ったりして一緒になって愛想を振りまいてくれた。それがまた可愛いらしい。
「クルミちゃんも可愛いね」
「次はクルミちゃんの置き物も増えるのね。また買わないと」
そう言われると尻尾を振ったり、時にはその場でジャンプしてクルッと回ったりする。その度に女性プレイヤーの嬌声が聞こえてくる。男性プレイヤーはクルミを見て本当にカーバンクルだとか、フェンリルと九尾狐、カーバンクル、すごい従魔達だな等と話をしているのが聞こえてきていた。
出品した焼き物は午後3時には全部売り切れてしまった。
「主、全部売れたのです。ウハウハなのです」
「ガウガウ」
リンネが言い、タロウもクルミも尻尾を振って喜んでるけど買えなかった人が多数出ちゃったよ。また窯で焼かないとな。
売る物が無くなったので早々に店じまいをした俺たちはそのまま街の中を歩いて自宅に戻ってきた。戻る途中でも従魔達は大人気だったよ。
自宅に戻ってのんびりしているといつもの4人が庭に入ってきた。彼らは今日は活動がオフの日であちこちのバザール会場に顔を出していたらしい。知り合いが多いと挨拶も大変だろうな。
「バザールの窯業エリアに顔を出したらタクのテントが無かったんでね。自宅だろうと思ってさ」
「主の焼き物は全部売れたのです。がっぽり儲けてウハウハなのです」
「リンネの言う通りでね、3時頃には全部売れちゃったよ」
「早速掲示板でタクの焼き物と従魔達、クルミちゃんが話題になってるわよ」
バザールの人の集まり具合を見たらそうなるとは思っていた。というか、むしろそれを狙ってたとも言える。話題になればプレイヤーの間でクルミのことが周知される。話題になっている期間はそう長くは続かないだろうし、後々を考えるとこの方法が一番良いんだよ。タロウとリンネの時で経験しているからね。そのクルミは今は精霊の木の枝の上でランやリーファと一緒にリラックスしている。タロウは縁側に上がって俺の横でゴロンと寝ているし、リンネは膝の上だ。
「明日からはまたダンジョン攻略?」
「その予定だよ。それはそれとしてだ、来週の後半に印章80枚のNM戦に挑戦しないか?」
スタンリーが言った。隣でトミーもやろうぜと言ってくる。ジョブ帽子は確かに俺も欲しい。前からやろうと言っていて俺はいつでも良いと返事をしていたが、いよいよ日が確定したって事だな。
「いいね。やろう」
ジョブ帽子はこのエリアでも十分に使える。つまり帽子をゲットすることが結果的にプレイヤーの戦力アップとなり、ダンジョン攻略でも有利に働くことになる。
「クルミもメンバーってことでいいのかな?」
「もちろん。タクのチームは4人でカウントするよ」
「レベル制限があるからどれくらいの実力かわからないよ?」
そう言ったが周りは神獣カーバンクルのクルミだから問題ないという。それって説得力があるか?まあ周りがクルミでOKというのならそれでいいんだけど。
NM戦は来週の土曜日の午後になった。それまでできるだけ俺のチームの連携を深めておかないと。
そうは言ってもPWLにインしている時の活動は大体決まっている。午前中は自宅で農作業と工房。特に従魔達の置物は評判が良いのでたくさん作る必要がある。しかもだ、今回新たにカーバンクルのクルミが仲間になった。当然クルミを加えた新しい置物を作らないといけない。
バザールの翌日、工房に5体の従魔を呼ぶと、色々なポーズをお願いする。基本は横になっているタロウの背中に4体の従魔が乗っているポーズなんだけど、クルミをどこに置こうかと背中の上をあちこち移動させては遠目から見てみる。クルミも素直に従ってくれているので助かるよ。
結局一番最初にタロウの背中に座った順の焼き物を作ることにする。タロウの頭側からリンネ、クルミ、ラン、リーファの並びになった。
ポーズが決まると土を固めて形を作っていく。窯業スキルが63になっているので土を捏ねているとちゃんと形になってくれる。このあたりはゲームの中で、どんなカラクリになっているのかわからないけど作る側から見ると大助かりだよ。
形ができると従魔達に見せて感想を聞く。タロウはガウガウと吠え、ランとリーファはサムズアップをし、クルミはタロウの背中でクルッと一回転してくれた。そしてリンネ。
「素晴らしいのです。主が作るものに間違いはないのです。早速焼いてみるのです」
「そうだな。じゃあこれで焼くぞ」
窯の中に入れてしばらくして取り出すと綺麗に焼き上がっていた。それに釉薬で色をつけていく。これはもう慣れたものだよ。色をつけるとよりそれっぽくなってきた。俺の作業を食い入る様に見ている従魔達も尻尾や羽根を振っているので気に入ってくれているんだろう。
再び窯に入れて焼いて取り出した置物はイメージしていた通りの仕上がりだ。
「見事なのです。これでまた主が大金持ちになるのです」
「じゃあ沢山作らないとな」
「ウハウハになるために頑張るのです」
こんな調子で午前中いっぱいを焼き物に費やした俺。一旦ログアウトして午後にインすると今度は外で経験値稼ぎとチームワークの強化だ。外に出るのを知っているのかタロウとリンネのやる気が半端ない。そこにクルミも乗っかっている。どうやらクルミも戦闘大好き従魔だ。
どこで戦闘をやろうかと考えた。最初はダンジョンにしようかとも思ったけど移動に時間がかかる。なので結局港の街の西側のセーフゾーンの先にいる72とか73のレベルの敵を相手にすることにした。
タロウに乗って一気にセーフゾーンまで行くと、そこからは草原を西に進んでいく。そこには71から73、時に74の魔獣が徘徊している。オオトカゲやヤシガニは比較的討伐しやすいが、熊やトロルになるとレベルも73以上あり、しかもトロルの中には魔法使いやハンター(弓使い)がいる。遠隔攻撃を持っている魔獣を相手にすると時間をかけるとリンクすることがあるのでできるだけ早く倒さないといけない。ただこっちにはタロウとリンネがいるので大きなトラブルもなく敵を倒しているとレベルが71に上がった。
俺たちがレベルが上がった時、同時にクルミの身体が光った。
「ミント、今クルミの身体が光ったんだけど」
(はい。タクのレベルアップに合わせてカーバンクルのクルミのスキルもアップしました。具体的には魔法の効果時間が以前よりも伸びました)
なるほど。クルミのレベルは分からないが、従魔になったことで俺のレベルアップにリンクするんだな。強くなるのはありがたいよ。魔法壁の効果時間延長は強い敵が相手の時に助かる。
クルミが光ったのはタロウやリンネも見ていた。2体の従魔達も大喜びしてるよ。
「クルミが強くなったのです」
「ガウガウ」
もちろんクルミもその場でジャンプしたり一回転したりと喜びを表している。レベルが上がると今までよりも討伐の時間が短くなった。俺はAGI系の装備とSTR系の装備の両方を使いながらその違いを確認する。
フィールドにいる敵はレベルが3つから4つ上のが多い。その程度の差であればSTR装備の方が優秀な気がする。従魔は敵対心が低いのでどちらにしてもこっちにタゲが来るんだけど蝉もあるしバンダナもあるのでそれなりに避けてくれるんだよ。
AGI系はエリアボス戦とかNM戦で有効かもしれない。もう少し検証が必要だけど今日の感触では普段ソロでの経験値稼ぎではSTR系が良いという結論だ。
その後も草原で戦闘を繰り返してクルミとの連携、チームワークもかなり良くなったと実感できたところで俺たちは自宅に戻った。




