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ヌシに報告しよう

 翌日、朝のルーティーンを終えた俺はタロウ、リンネ、そしてクルミを連れて港の街の別宅に飛び、そこから島に渡る定期船に乗った。クルミにとって初めての船だよ。タロウとリンネは船が大好きなので部屋に入るなり窓から外を見ているがそのタロウの頭の上にクルミが乗って同じ様に食い入る様に外を見ている。タロウも嫌がる素振りを見せずに頭の上にクルミを乗せている。本当にタロウはいい子だよ。


「クルミも船が好きそうだな」


 そう言うと尻尾を振りながらも顔は窓の外に向けたままのクルミ。


「気持ちのいい乗り物だと言っているのです。高いところから周りが見えるのでクルミは大喜びなのです」


「なるほど」


 島に渡ると桟橋から海辺の小屋に飛んだ。ここからは島の北まで敵を倒しながら進んでいく。森の中なので視界は悪いが俺たちはレベル70だ。格下のカニやトカゲは問題ない。カーバンクルのクルミも毎回きちんと反射壁を作っては戦闘に参加している。


 危ない場面もなく無事に島の北の洞窟に着いた俺たち。中に入ると島のヌシである神獣のランドトータスが中にいた。俺の頭の上にリンネが座り、クルミはタロウの頭の上に乗っている。


「こんにちは」


 俺が挨拶をすると首をゆっくりとこちらに向けてきた。


「一番最初にこの洞窟にやってきたプレイヤーだな」


「そうです。タクと言います。ここで頂いた卵からこのカーバンクルが生まれたので報告に来ました。クルミ、挨拶をしてごらん」


 俺が言うとクルミが俺の前に出て尻尾を振ってからその場でジャンプして一回転する。


「神獣カーバンクル。見る限りすっかり懐いている様だな」


 クルミの動きを見ていた島のヌシ。ヌシから懐いていると言われて安心したよ。クルミの能力の話を黙って聞いていたヌシ。


「そこにいるフェンリルと九尾狐もそうだが、カーバンクルも強くなると新しい能力を授かる。しっかりと育てるとよいだろう」


「わかりました」


 具体的な説明をしないのは今までの経験から分かる。それにどんな能力を授かってくれるのかを楽しみにしながら育てる方がずっと面白いよ。


「このままダンジョンに挑戦したいのですが」


「気をつけてな」


「ありがとうなのです」


 リンネはいつでも、どこでも、相手が誰であってもマイペースだよ。

 ヌシの横を通って奥に進み、端末をかざすと目の前の風景が一瞬揺れ、次の瞬間俺たちはダンジョンにいた。


 前に進むと75のヤシガニが通路にいる。配置は変わっていない。レベルも75で同じだ。前回よりもこっちのレベルが上がっているし、クルミの反射壁も効果があり、討伐時間が短くなった。


「この調子で進むぞ」


「やるぞ、なのです。ぶっ倒してやるのです」


「ガウガウ」


 タロウやリンネが過激なのは今に始まった事じゃないが、クルミも一緒になって尻尾を振り、その場でクルッと回っている。むむ、クルミも戦闘好きなのかも?


 奥に進むと再びレベル75のヤシガニが現れた。これも前回と同じだ。ここも倒して奥に進んでいく。スタンリーから聞いていた通りにもう1体のヤシガニを倒した先で通路が3つに分岐している。確か中にいるヤシガニのレベルは76だった。70の俺たちだけど単体ならなんとかなるんじゃないか。そう考えて左の分岐に入った。


 すぐに76のヤシガニがいた。戦闘を重ねていくとクルミの反射壁の有能さが分かるよ。敵が攻撃してくると必ず10%分を反射して相手にダメージを与えているので俺とタロウ、そしてリンネの攻撃にその分がプラスされることで討伐が早くなる。ただそれでもやっぱり討伐に時間がかかった。76の敵を倒して奥に進んでいくと76のヤシガニが近い距離で2体固まっている。突っ込めばリンクするのは間違いない。


 雷の遁術を撃つと上手く1体だけを引っ張ってくることができた。


「主、でかしたのです」


「おう。皆頼むぞ」


「ガウ」


「あとは任せろ、なのです」


 いや、俺も頑張るよ。

 1体なら76でも倒せる。個別に倒してさらに奥に進んでいく。洞窟の幅、高さは入り口と変わっていない。進んでいくと76のヤシガニが2体固まっている。これはどう考えてもリンクするな。


 俺は従魔達にその場で待っている様に言うと物見の術と遁甲の術を唱えた。これで見えないし聞こえないはずだ。


 奥に進んで2体に近づいていくが彼らは動かない。そのまま横を通り抜けて奥に進むとまた76のヤシガニが2体固まっているのが目に入ってきた。歩いてその横を通り抜けると先で2つに洞窟が分岐しているのが見えた。


 効果時間を考えるとここまでだろう。俺は来た道を引き返した。戻ってくる気配は従魔達には分かるので俺が戻って近づいてくるとその場で尻尾を振って歓迎してくれる。術を解いて姿を現すと皆俺に寄ってきた。


「大丈夫だったのです?」


「大丈夫だ。ただ、奥は強くなっているのが固まっている。今の俺たちのレベルじゃ厳しい。レベルを上げてから出直そう」


「分かったのです。帰るのです?」


「このまま通路を戻ろう、倒した敵がまたPOPしているなら倒していくぞ」


「ぶっ倒すのです」


 通路を逆に戻る途中ではしっかりとヤシガニがREPOPしていた。それらを倒した俺たちはダンジョンの入り口に戻ってきた。一瞬風景が揺れ、次の瞬間、目の前にランドトータス、島のヌシの姿が現れた。


「レベルの高い敵がいる、きつそうなダンジョンです」


「そうだろう。攻略は簡単ではないぞ」


「分岐があって複雑です」


「正解のルートは1つだけだ」


「そうでしょうね。またレベルを上げて挑戦します」


 俺たちはヌシの横を通って洞窟の外に出た。目の前に海があって岩に打ちつける波の音がする。本当にリアルに見えるかの様にしっかりと作り込んである。


「主、お家に帰るのです?」


 海を見ているといつの間にか俺の頭の上に乗っていたリンネが言った。クルミは俺の左の肩に乗って海を見ている。


「それでもいいけどまだ時間があるし、少し探検してみようか。来た道じゃない方向に歩いてみよう」


 俺たちは島の西側にある『海辺の小屋』から海岸線に沿って北上してきた。島の東側はまだ探検していない。東の海岸から見れば原がどう見えるのか、大海原になっているのか、ひょっとしたら他の島が見えたりするかもしれない。


 従魔達も賛成してくれたので洞窟を出て森の端に戻ると今度は右、島の東側の海岸線を歩いていく。進行方向の左手に海が見えている。島の東側の沖には少し離れたところに岩礁があるがそれ以外は一面海だよ。こちら側の海岸線も岩場になっている。これじゃあ船はつけられないな。


「本当に広いのです。でも気持ちがいいのです」


「ガウ」


「確かに気持ちがいいな。クルミも気持ちいいかい?」


 俺が聞くと肩の上で器用に一回りした。どうやら皆と同じらしい。しばらく海を見ていた俺たちは島の東海岸を南に進み出した。途中でレベル70のヤシガニやオオトカゲと出会うがこっちは71だ。問題なく倒して進んでいると、タロウが森の中に入っていった。


 俺は海岸線から海を見ながら進んでいて森の方はほとんど見てなかったよ。敵がいればタロウやリンネが見つけてくれるからすっかり油断していた。


 タロウが入っていった方向を見ると森の木々の先に柵が見えている。あれはセーフゾーンだぞ。近づくとそうだった。小屋はないが柵で囲まれているので間違いないだろう。リンネも元気になる場所なのです。と言ってるしな。


「それにしてもよく見つけたな」


「ガウガウ」


「タロウが周囲の探索は任せろと言っているのです」


 撫でてやると尻尾を振って喜んでいるタロウ。なるほど、ここにセーフゾーンがあったんだな。海辺の小屋から島の北のダンジョンまでは4、5時間かかる。ここからだと1時間もかからないだろう。ダンジョンを攻略するのであればここで回復してから挑戦できるし、ここでログアウト、ログインもできる。転移の腕輪を持っていないパーティに取ってはこの場所があればダンジョン攻略が楽になる。


 ここの場所は情報クランも知らないんじゃないかな。


 俺はセーフゾーンからクラリアに連絡をする。すぐに彼女が出た。ちょうど今日の活動が終わった所だったらしい。


「今日の午前中から昼過ぎまでダンジョンにいたのよ」


「なるほど。実はダンジョンの入り口の近くにセーフゾーンを見つけたんだよ。今そこから連絡してる」


 そう言ってこの場所を彼女に伝えた。


「なるほどね。海辺の小屋からだとダンジョンまで5時間かかる、帰りもそれくらいかかるとなるとダンジョンに挑戦しずらい。それを見越して運営はその場所にセーフゾーンを作っているのね」


「恐らくそうだろう。ここからダンジョンまで3、40分ほどだよ。海辺の小屋とは反対側になるけど島にいる敵のレベルが最大70だから、70以上のプレイヤーにとっては森の中を移動するのもそれほど苦労しないんじゃないかな」


「そうね。早速その情報も公開するわ。ありがとう」


「どういたしまして」


 これでダンジョンに挑戦するプレイヤーが増えるだろう。さて、用件は終わった。


「自宅に帰ろうか」


 俺が言うとすぐにクルミが肩に乗ってきた。タロウも身体を押し付けてきた。そしてタロウの上に乗っているリンネ。


「お家に帰るのです。ランとリーファが待っているのです」


「その通りだよ」


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