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卵が孵化したよ

 週末のバザールでは自分が想像していた以上に従魔達の焼き物が売れた。新しい焼き物のはもちろんだけど、従来の焼き物も次から次へと売れて4時過ぎにはテーブルの上に何もなくなってしまった。


 従来の焼き物を買いに来てくれたプレイヤーの人が新しいのを見つけて2つ買って行ってくれたり、フレンドから聞いたと言って新しい従魔達の焼き物を買いに来たという人がいたりで大盛況だったよ。


「全部売れたのです。主がまたお金持ちになったのです」


「ガウガウ」


 リンネとタロウは持ち込んだ商品が全部売れて良かったと喜んでいるけど、買えなかった人がそれなりにいた。また次に来てくださいと言ってお引き取りしてもらった。


 ただ焼き物ばかり作るつもりはない。少しずつ作ってはバザールに売りにだすのでしばらく待ってもらうしかないな。


 早々に店じまいをして自宅に戻ってくると留守番をしていたランとリーファがやってきて両肩に腰を下ろした。これが癒されるんだよ。タロウは縁側の俺の隣、リンネは膝の上に乗ってきた。


「ランとリーファ、精霊の木の根元にある卵は変化があるかい?」


 そう言うと2体の妖精は肩から飛んで俺の顔の前で浮いたまま止まると2人揃って首を左右に振る。


「そうか。もうしばらくかかりそうだな」


 俺がそう言うと再び両肩に腰を下ろした。


「のんびりと待つのです」


「ガウガウ」


「そうだな。焦っても仕方がないか」



 週末のバザールが終わるとそれからはいつものパターンだ。午前中は畑と工房、午後から夕方までは経験値稼ぎ。


 港の街の島側はとりあえずダンジョン以外の攻略は終わったので俺たちは今陸側の草原にいる魔獣を倒しながら西方面に進んでいる。セーフゾーンまで行くのが当面の目標だけど、急いではいない。草原にいるヤシガニとオオトカゲを倒して経験値を稼ぎながら神魂石と印章狙いだ。


 このパターンで3日ほど過ごすと俺たちはレベルが上がって68になった。最近は夕方に開拓者の街の自宅に戻ってくると精霊の木の下にある卵を見るのが日課になっているんだけど、今のところ変化はない。


 俺が卵を見ようとすると従魔達も集まってくるんだよね。1人と4体で箱の周りを囲んで卵を覗き込むのはなかなかシュールだよ。


「主、新しいお友達をのんびりと待つのです」


 俺の頭の上から顔を突き出して卵を見ているリンネ。


「そうだな」


 しばらく卵が置かれている木箱を見ていたが、この日は卵が孵化することはなかった。



 自分としては次の街の探索よりも島の北の端にあるダンジョンを攻略したいという気持ちの方が強い。ただ、ダンジョンに入ってすぐのカニがレベル75だったのもあり、こちらのレベルを最低でも70に上げないと奥に進んでいけないだろう。70に上げて、どこまで進めるかという検証をしようと思っている。もちろん攻略となるともっと高いレベルが必要になるんだろうけど。その辺りの見極めというか、ダンジョンの雰囲気を掴むには入り口だけじゃ分からないからね。


 70にすべく港町の西側の草原で経験値稼ぎをしていた俺たちは2日後にレベルが69になった。レベルが上がると俺も嬉しいけど、タロウとリンネも大喜びするんだよな。


「主、また強くなったのです」


「ガウガウ」


「その通りだ。あと1つ上がったら島のヌシがいたダンジョンに挑戦してみようか」


「挑戦してみようなのです。タロウとリンネが主のお供をするので安心なのです」


「その時は頼むぞ」


 俺が言うとタロウは任せろとばかりに尻尾を振りながら体を寄せてくるし、リンネはばっちりなのですと言うと、俺の頭の上に飛び乗ってきた。



 時間が夕刻前だったこともあり、そのまま転移の腕輪で草原から自宅に戻ってくるとすぐにランとリーファがやってきた。いつもなら俺の肩に腰を下ろすのにそうせずに俺の前で浮いたままだ。


「主、もうすぐお友達が出てくるとランとリーファが言っているのです」


「おっ、卵が孵化しそうなのか」


 縁側に座りかけたけど、腰を浮かせると全員で精霊の木の下に置いてある卵に近づいていく。見た限り卵は昨日までと変わっていないが妖精にはもうすぐ孵化するのが分かるのだろう。その場に腰を下ろすとタロウは俺の隣に後ろ足座りをし、両肩にはランとリーファ、頭の上にリンネが座った。


 10分ほど経つと卵が小さく動き始めた。俺が顔を近づけると皆身を乗り出してくる。それから5分後、殻が割れて中から小動物の頭が出てきた。そのまま身体を動かし、殻を割って出てきたのは全身が薄い茶色で、体長50センチ近くあるリス、いや一見リスだがそうじゃない。よく見ると額の真ん中に赤い宝石がある。


「おおっ、カーバンクルだ」


 まさかのカーバンクルだ。殻から出てきたカーバンクルはつぶらな瞳で俺たちを見ている。


「お友達が卵の中から出てきたのです。主、名前をつけるのです」


「そうだな、ちょっと待って」


 俺はAIのミントにカーバンクルで間違いがないかを確認する。


(はい。神獣カーバンクルです)


(テイムはできるんだよね?)


(はい。すでにタクの従魔になっています。テイマーギルドで登録すれば完了です)


 能力については後で聞くか、実践で調べてみよう。まずは名前だ。俺が両手を伸ばすとカーバンクルが俺の掌の上に乗ってきた。


「お前の名前はクルミだ。いいかな?」


 そう言うと尻尾を振ってくる。外見がリスに似ているからクルミ。わかりやすくていい。


「名前が気に入ったみたいなのです。クルミも仲間になったのです」


「ガウガウ」


 タロウは尻尾をブンブンと振って喜んでいて、ランとリーファは俺の目の前で歓喜の舞を舞っている。もちろんリンネも大喜びだ。


 「クルミ。この子はリンネ、こっちがタロウ、緑の妖精がリーファ、茶色の妖精がランだよ。仲良くするんだぞ」


 俺の言葉にまた尻尾をブンブンと振ってくる。愛くるしい仕草だ。


 俺はクルミを抱えて自宅を出ると開拓者の街のテイマーギルドに顔を出した。扉を開けて中に入るとこの街の受付をしている猫族のアンナさんとキャシーさんがカウンターにいた。


「こんにちは、タクさん」


「こんにちは」


「ガウガウ」


「こんにちはなのです。今日は主の新しいお友達を連れてきたのです」


 リンネが俺の代わりに言ってくれた。2人がカウンターを回って近づいてきて俺が抱っこしているカーバンクルを見る。


「神獣のカーバンクルですね。名前は決まりましたか?」


「ええ。クルミでお願いします」


「わかりました。カーバンクルのクルミをタクさんの従魔として登録しました」


 これで一安心だ。クルミも安心したのか俺の腕の中で尻尾を振っている。


 その後2人の受付にクルミについて色々と聞いた。

 クルミは同じ神獣のランドトータスからもらった卵から孵化した神獣なので基本能力はすでに高いレベルにあるらしい。具体的には自分で検証してくれと言われたけど。タロウやリンネと同じ様にフィールドに連れて出ても問題ない。他の従魔と同じで親密度を上げると良いそうだ。あとは他の従魔達と同じで食事の必要はない。このあたりはゲームならではだよ。


「強くなるってこと?」


 俺がそう言うと頷く2人。


「従魔のスカーフを身につけたらもっと強くなるのかな?」


「カーバンクルは神獣のランドトータスの加護を受けています。その結果従魔のスカーフと同じかそれ以上の効果があるのでスカーフは不要ですね」


 なるほど。


「魔法は使えますか?」


 それにはただ頷くだけの受付嬢。具体的な魔法は自分で確認しろってことかな。いずれにしてもフィールドで戦力になるってことだ。すでに高いレベルにあるってことなのですぐに俺たちと一緒に戦っても大丈夫だろう。ダメなら低レベル帯でレベル上げをすればいい。


 俺がテイマーギルドの受付と話をしている間、クルミは腕の中でじっとしている。手続きが終わってギルドを出るとリンネが俺の頭の上に乗ってきた。それを見ていたクルミは俺の左の肩の上に乗ってくる。リンネとクルミを頭と肩に乗せ、隣にはタロウがいる。開拓者の街は人が少ないとはいえ、プレイヤー達が街の中を歩いている。彼らがこちらをチラチラと見ているのが目に入ってきた。初めてのリス、いやカーバンクルだからな。


 プレイヤーの間で話題になるんだろうけど、外で一緒に活動をするつもりなので遅かれ早かれ皆が知ることになるし、隠しても意味がないとそのまま街の中を歩いて自宅に戻ってきた。庭に入るとクルミは肩から降りてまっすぐに精霊の木に向かって走ると幹を登って木の枝の上に腰を下ろした。


「クルミはあの場所が気に入ったのです」


「そうみたいだな」


 近くにいるタロウ、リンネ、ラン、リーファを見て言う。


「クルミは新しい仲間だ。みんな、仲良くするんだぞ」


「ガウガウ」


「任せるのです。みんな仲良くするのです」


 ランとリーファも任せろとばかりに俺の前でサムズアップをする。従魔達はみないい子なので問題ないだろう。


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― 新着の感想 ―
目次でサブタイ見てなかった(´・ω・`)カーバンクルなのね(ㆁωㆁ*)それはそれで可愛い(ㆁωㆁ*)
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