皆で予想しよう
俺の話というか報告が終わると端末にメモっていたクラリアがありがとうと言って顔を上げた。
「早速明日からでも私たちも攻略クランも島の北の森を攻略してて島のヌシの亀と話をしてみる。情報の公開はその後ね。この情報は売れるわよ。ダンジョンが見つかったら皆挑戦しようって気になるから。木のダンジョンと同じ1パーティ限定、最初に戦闘をする敵のレベルが75。ここはしっかりと説明しておかないと」
「そうだな。それとセーフゾーンの『海辺の小屋』の場所と名前もセットで公開しよう」
クラリアが隣に座っているトミーと話をしている。ダンジョンの中の様子については彼らがどこまで攻略できるかにもよるが、入り口付近にいる敵のレベルを公開するだけで十分だろうと2人とも考えている様だ。トミーが俺に顔を向けた。
「タクが島のヌシからもらった卵の件も公開した方がいいだろう。初めてヌシに会ったプレイヤーだということでもらった謎の卵。ただしタクの名前は出さない」
今後、別の場所で同じ様に最初に訪れたプレイヤーへの特典があるかもしれず、公開した方がいいだろうという考えだ。卵の件は俺も隠す気もないので問題ないよ。
次にあの場所を訪れたプレイヤーがヌシから何か貰えるのか?それとも何も貰えないのかという事も確認する必要がある。初めてこの場所に来たプレイヤーにと言う事で???の卵を貰っているけど、2番目、3番目に訪れたプレイヤーに島のヌシの亀がどう言う反応をするのかを確認するのも情報クランの仕事だ。
あとはブルーオーシャンのレスリーさん以外のNPCからも同じ様に島のヌシの話が聞けるかどうかもクラン総出で街の中を歩き回って確認するそうだ。
情報の公開のタイミングや公開する内容については俺よりも情報クランの方が専門だ。彼らに一任だ。スタンリーからはこれでまた金持ちになるな。なんて言われたよ。
こっちの報告が終わると今度は彼らが陸側の状況について教えてくれた。彼らはセーフゾーンを1つ見つけていた。そこは小屋がなくて柵で覆われた場所になっている。港の街を出て、山裾に沿って西に進んだところにあるそうだ。
「セーフゾーンまではレベル68から69前後の敵が多いがセーフゾーンを越えると敵のレベルが上がってそのレベルは70以上になる。カニとトカゲ、クマ以外にトロルの獣人がいるんだが、この獣人の中に魔法や弓と言った遠隔攻撃持ちが混じっている。今のところは単体で徘徊しているので倒せてはいるが簡単ではない」
トロルはオークの上位の魔獣の位置付けで、体格も大きくプレイヤーと同じく前衛ジョブと後衛ジョブがいるそうだ。つまり剣を持っていたり弓を持っていたり、杖を持っていたりする。武器を持っていてレベルが高いので討伐は簡単じゃないらしい。プレイヤーの中でレベルが70を越えているのはまだ少ないらしく、ライバルがいないのはいいんだが敵が強いので苦労しているとスタンリーが言っている。
彼らはセーフゾーン周辺の敵を倒してレベルを上げ、レベルが73まで上げてから平原の奥を探索するつもりだったけど、俺が島の北でダンジョンを見つけたので明日からは島の攻略に軸足を移すそうだ。
「ダンジョンに入ってすぐの場所にレベル75の敵がいるとなると、こっちもしっかりと準備をしないといけないぞ」
彼らは島の森からヌシ、そしてダンジョンまで進むというが、自分は逆に陸側の西の山裾に沿って進んで、セーフゾーンを探してみようと思っている。
ダンジョンを攻略するにはレベルがまだ低いし、西に進みながら経験値を稼いでセーフゾーンを目指そう。
「それにしても島のヌシからもらった謎の卵。一体何の卵なんだろうか」
一通り話が落ち着いたところでスタンリーの言葉をきっかけに皆が勝手に予想し始めたよ。神獣のランドトータスが与えた卵だから同じ亀の卵なんじゃないか。とか、いやいや他の神獣の可能性もあるぞ。とか言っている。
「ゲームだからな、卵から予想外のが出てくる可能性があるよな」
「タクは何を予想してるの?」
4人であーでもない、こーでもないと話をしていたのを聞いていると、クラリアが俺に顔を向けて聞いてきた。
「始まりの街のテイマーギルドで報酬にあったのがフェンリルとガルーダだった。俺はフェンリルを選んだんだけど、ガルーダもどこかにいるってことだよね。ガルーダだったら嬉しいかも。ほとんど願望だけどね」
「あり得る話だよな」
トミーが頷きながら言った。
「もしガルーダだったら神狼、九尾狐、そして神鳥だぞ。こんなのを従魔にしてるプレイヤーは他にいないな」
「タロウちゃんとリンネちゃんだけでも凄いのに、それにまた神獣を従魔にしちゃったらもう圧倒的になっちゃうよね」
スタンリーとマリアもそう言ってるけど、あくまで自分の希望、願望だからね。神鳥のガルーダだと決まった訳じゃない。でもこうやって予想というか想像している時って結構楽しいんだよ。ランドロータスという亀からもらった卵だから、生まれてくるのは亀だという可能性が一番高いのかもしれないけど、そこはゲーム。予想外の何かが生まれてくるかもしれない。
元々新しいエリアの陸側の草原は混雑しているからって島に渡って北側の森で経験値稼ぎを始めたのが、まさか島のヌシだダンジョンだという展開になるとは思ってもみなかったよ。
「ところでタク、俺たちは島の北の探索、ダンジョンの入り口あたりを探索するが、それが終わったら80枚の印章NM戦をやらないか」
「ジョブ帽子か」
俺が言うと頷きながらその通りだという。彼ら4人は新しいエリアの探索、攻略が落ち着いたタイミングで印章NM戦を考えていたそうだ。
新しいエリア、ダンジョン攻略も含めてだけど、装備の充実は必要だろう。65装備は揃えるがそれとは別にジョブ帽子があればさらに戦力アップになる。そのためにジョブ帽子を狙うのは当然だよな。
もちろん俺も賛成だよ。忍者の帽子があるのかどうか気になるし。6段階強化済みのバンダナとは違った何か特性があるかもしれない。
「こっちはソロだからいつでもOKだ。そっちのタイミングに合わせるよ」
80枚の印章NM戦は前のエリア、レベル60制限のエリアなのでレベルを上げる必要はないけれども、彼らが島を攻略している間はレベル上げと工房で窯業、それに畑仕事になりそうだ。
つまりいつもの自分の活動をするってことだよ。
窯業と言う事で思い出した。
「話が変わるけどさ、これ見てくれないかな。新しく作った従魔達の置物なんだよ。今度のバザールで出品してみようと思ってるんだ」
そう言って、収納に入っているタロウの背中にリンネとランとリーファが乗っている焼き物を取り出して縁側に置いた。皆の意見というか感想を聞きたいんだよね。
縁側に置くなり4人がそれに顔を近づけてきた。
「これもよく出来ているな」
トミーが言った。
「これは売れるわよ」
「間違いないわね。私は買うわよ」
クラリアとマリアが即答してるよ。トミーとスタンリーもこれも売れるだろうなと言ってくれている。自分でも中々の出来栄えだと思ってたからフレンドのコメントを聞いて一安心したよ。
「主の焼き物は素晴らしいのです。主が作った焼き物がいっぱい売れるとウハウハなのです」
頭の上からリンネの声がする。タロウも尻尾を振りながら吠えてるぞ。
「いくらで売るつもりなんだい?」
スタンリーが聞いてきた。
「今までの従魔の焼き物セットと同じ価格。5万ベニーにしようと思ってるんだよ」
「妥当な価格設定じゃないかな。この新しい従魔の置物は飛ぶように売れると思うぞ。今まで従魔達の焼き物を買ったプレイヤーも2つ目としてこれを買うだろう」
トミーが言うとその通りだという3人。現にマリアは見た瞬間に買うと言っていた。
「沢山作ってた方がいいわよ。トミーも言ってるけど多くのプレイヤーが2つ目としてこれを買うんじゃない?」
「間違いないわね。それと今まで作っていた置物もまだ売れているんでしょ?両方とも数を作った方がいいわ」
そこまで売れるとは考えていなかったけど、4人が売れると言っているからそうなんだろう。最初の置物の時も彼らは絶対に売れるって言ってたし。マーケティングは俺よりも目の前の4人の方が確かだよ。
「わかった。頑張って沢山作るよ」
「主、頑張るのです」
頭の上からリンネがエールを送ってくれた。
 




