島のヌシ
定期船で島に着いて、そのまま桟橋のはずれにある小屋の中に入ると床の上に転送盤が現れていた。その上に乗ると『海辺の小屋』に行きますか?というウインドウが出る。もちろん『はい』を選択するとそのまま島の中にあるセーフゾーンまで飛んだ。
そこから海岸線に沿う様にしてカニとオオトカゲを倒しながら北上していく。敵のレベルは69だ。ただこっちは67で強化済みだ。それにタロウとリンネがいる。今も硬いカニに強烈な蹴りを入れたタロウに続いてリンネが精霊魔法を撃って倒していた。うん、今の戦闘は俺は最初に術を唱えただけだな。
「主、敵をぶっ倒すのはタロウとリンネに任せるのです」
「ガウガウ」
カニを倒して寄ってきたタロウとリンネを撫でていると2体の従魔達がそう言うんだよな。これを言うのは今に始まったことじゃないけど。
「いやいや、俺も頑張るよ」
「主はほどほどで良いのです」
ほどほどかよ。
森の中で視界が悪いが、この2体には関係がない。次々と敵を倒して北上していると敵の中にレベル70が現れだした。そろそろ島の北端が近いぞ。
海辺の小屋を出て5時間ほど戦闘をしながら北上していた俺たち。進んでいると森の間から海が見えた。海を見つけたタロウとリンネのテンションも爆上がりだよ。
「海なのです。主!海なのです」
「ガウ!」
島の北の端に来るとそこから大海原が見える。従魔達が大興奮しているけど、これは俺もテンションがあがるよ。めちゃくちゃリアルで波打ち際の飛沫なんかもリアルと一緒だよ。
レストランのレスリーさんが言っていた通りで、島の周囲は全て岩場になっていて、しかも海面から森というか俺たちが今立っている場所まで結構な高さがある。ここに船をつけるのは難しいだろうし、着けられたとしても濡れた岩場を登るのは簡単じゃないだろう。
しばらく海を見ていた俺たちは左手に海を見ながら島の北端の森を進んでいく。レベル70の敵を倒しながら進んでいると岩場の間に下に降りて行ける細い道を見つけた。
「ここを降りたらヌシがいる場所に行けるかもしれないな」
「主、参るのです」
そう言ったリンネが俺の頭の上に飛び乗ってきた。
「ガウ」
「タロウが先に行くと言っているのです」
リンネがそう言っている間にタロウはもう俺の前に移動してるぞ。
「分かった。タロウ、任せたぞ」
軽く背中を叩くとガウと吠え、岩場の隙間を降りていき、その後を俺が続いていく。岩場は滑りやすくなっているのでこっちは片足ずつ慎重に動かしているんだけど、タロウは平気で先に行っては立ち止まって俺が来るのを待ってくれる。
「主、気を付けるのです」
「おう。それにしてもリンネは自分では歩かないのかよ」
「リンネは主の頭の上で周囲を警戒しているのです」
物は言いようだよ。
岩場を少し降りてその細い道というか岩の間を歩いていくと海水が入らない高さのところに洞窟の入り口が見えた。入り口まで近づいてから海を見るとちょうど洞窟の入り口の前に岩があった。仮に大きな波が来たとしてもこの岩があるので波が直接洞窟に入らない様になっている様だよ。
洞窟は入り口は幅3メートル、高さは2メートルくらいで岩の岸壁にぽっかりと穴を開けていた。入り口が小さいと判断したんだろう。リンネが頭の上から飛び降りるとタロウの背中に乗る。自分で歩く気はないみたいだ。レスリーさんは祠か洞窟と言ってたけど入り口には祠らしきものはないな。
入り口を通って洞窟の中に入ると中は広くなっていた。とは言っても入り口の倍くらいの幅と高さだけど。中に入って奥を見ると20メートル程先で洞窟が右に曲がっている。タロウもリンネもリラックスしているので敵はいないみたいだ。
「行こうか」
「はいなのです」
「ガウ」
足場の悪い洞窟の中を進んで右に曲がるとその先に大きな亀がいた。あれがヌシかな?亀を見てもタロウもリンネも全く緊張していないよ。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウ」
挨拶をしながら亀に近づいていく。近づくとその大きさが良く分かった。甲羅だけで2メートルの長さはあるだろう。4本の足で身体を支えながら首を伸ばしてこちらを見ている。甲羅は濃い青色をしている。足や首は青というよりも濃い緑色だ。
(ミント、目の前の亀が島のヌシなのかな?)
(その通りです)
(名前とレベルはあるの?)
(はい。神獣のランドトータスです。レベルは不明です)
(不明ってことはすごく強いってこと?)
(その情報は持ち合わせていません)
なんと、神獣なのか。しかもすごく強そうだ。戦う気はないけど。
「ここにプレイヤーが来るのは初めてだな」
ミントとやりとりをしていると、こちらを見ている亀が言葉を発した。びっくりしたよ。
「主、お話ができる亀さんなのです。リンネと同じなのです」
「そうだな。リンネと同じだな」
頭に乗っているリンネにそう答えてから俺は亀に顔を向けた。
「島の人たちが島の北にはヌシがいるという話をされていて、確かめてきてくれと言われたんですよ。あなたが島のヌシということでいいんでしょうか」
俺がそういうと目の前の亀は大きく伸ばしている首を俺たちに向けて頷いた。
「ヌシと呼ばれているのは知っておる。昔、命知らずの漁師がそこの岩場に船をつけて上陸してここにきたことがある。おそらくその漁師が島の人間に話をしたのが延々と伝わっているのだろう」
ゲームの設定とはいえ、この亀は長きを生きているということだな。鶴は千年亀は万年というくらいだから、その設定もありなんだろう。
「それでヌシの貴方はずっとここに座っているのですか?」
「もう年で動くのも億劫でな。ここは年中寒くもなく暑くもない。過ごしやすいんだよ。それとここに座っているのはもう1つ理由がある」
「もう1つ理由?」
「その通り。わしの背後を見てみろ」
そう言われて少し体を動かして洞窟の奥に目をやった。隣のタロウも奥に顔を向けている。見えないけどリンネもそうしてるだろう。その先は奥に洞窟が伸びているのが見えた。
「この奥はダンジョンになっておる。万が一ダンジョンの魔獣がこちらにやって来るかも知れず、ここで見張っておるんだよ」
「ダンジョン」
こんなところにダンジョンがあったのか。そこにいる魔獣が外に出てこない様に入り口で見張ってるってことか。目の前のヌシならダンジョンボスでも問題なく倒せるんだろうな。
「そのダンジョンって俺たちも入れるんですか?」
「もちろん、誰でも入れるぞ。ただ、今のお前のレベルだと攻略は簡単じゃないぞ」
(ミント、ダンジョンの情報は分かる?)
(はい、このダンジョンは最大5名で攻略するダンジョンです。それ以外の情報は持ち合わせていません)
木のダンジョンと同じでパーティ単位での攻略なんだな。
「ダンジョンに挑戦するか?」
ヌシの亀が聞いてきた。それに反応したのはリンネだ。
「主、挑戦するのです。やるのです」
「ガウガウ」
タロウもやる気だな。やばくなったら転移の腕輪が使えるだろう。使えなかったら死に戻りでいいじゃないか。
「挑戦します。入り口付近の様子だけでも見てみたい」
「ならワシの横を通って行くとよい。その前に初めてここにやってきたプレイヤーにワシからこれをやろう」
そういうと俺たちの前に宝箱が現れた。それを見て大喜びするタロウとリンネ。端末を近づけるとアイテムが収納され、ミントの声がした。
(島のヌシに初めて会ったプレイヤーとして『???の卵』を手に入れました)
???の卵?端末を見ると確かにその名前の卵が入っている。タロウとリンネに何かの卵が入ってたよというと2人とも尻尾をブンブン振り回して喜んでくれる。
「きっと新しいお仲間の卵なのです」
「ガウガウ」
リンネの言う通りだといいけどな。




