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海辺の小屋


 レベルが65になって装備を更新したことで島の北側の森の攻略の範囲が広がった。今は森の奥でレベル68から69のトカゲとカニを相手にしている。この森には今のところこの2種類の魔獣しかいない。陸側の街の郊外ではこの2種類以外に獣人のオークや大きな熊が現れたそうだ。トミーやクラリアは魔獣が変わったのでセーフゾーンがこの近くにあると予想して探索を続けている。


 一方で島の北側の森は周囲が海だということもあってオオトカゲとヤシガニ、この2種類の魔獣しかいなくて、北に行くにつれてそのレベルが上がっていくんじゃないかなと俺は見ている。あと、島の広さから見てこの島での魔獣の最高レベルは70かも知れない。あくまで予想、見立てだけど。今の戦闘場所は街から出た森の中央より北寄りで、もうすぐ島の北端に到達する。後1つか2つ敵のレベルが上がったところが最北端、この島で最もレベルが高い魔獣がいるエリアなんじゃないかな。


「主、ガンガンやるのです」


「ガウ」


 タロウとリンネは森の中でずっとこんな調子だ。この日レベルは上がらなかったがそれなりの数を倒して俺達は森から歩いて北門に戻ってきた。


 多くのプレイヤーは視界が開けている陸側の草原で経験値を稼いでいるが、島側の森も混雑回避の狩場として機能しているみたいで、北門を出たすぐのところにプレイヤーの姿を見かける様になった。彼らを横目に見ながら北門から街の中に入った。


「すっきりしたか?」

 

 街に入ってからタロウとリンネに顔を向けた。リンネはタロウの背中に乗っている。


「ガウ!」


「爽快なのです。明日もやってやるのです」


 2体がご機嫌ならそれでよし。俺のソロ活動はタロウとリンネ頼りなんだから。隣にいるタロウとリンネをしっかりと撫でてやる。尻尾をブンブン振ってご機嫌だよ。


 街の中を歩くとリンネが俺の頭の上に飛び乗ってきた。


「主はこれからどちらに向かうのです?」


「ブルーオーシャンレストランだよ」


「沢山戦闘してお腹が空いたのです」


「その通りだ。そしてあそこの料理は美味しいんだよ」


「沢山食べて元気になるのです」


 半分行きつけになっている『ブルーオーシャン』のウッドデッキを上がるといつもの給仕のNPCの女性がやってきた。


「こんにちはなのです。主はお腹が空いているのです」


「ガウ」


「そうなんですか、じゃあいっぱい食べてくださいね」


 お店のお勧めの海産物料理を注文すると頭の上にいたリンネが膝の上に移動してきた。背中を撫でてやると8本の尻尾をゆっくりと動かしている。これはリラックスモードだな。


 この日のレストランのお勧め料理は魚介のパエリアだった。魚介の具がたっぷりと入っていて凄く美味しい。あっと言う間に平らげたよ。一緒に頼んだシーフードサラダも絶品だった。


「美味しそうに食べていたのです」


「本当に美味しいんだよ。海の幸は美味しいよな」


 そんな話をしていると厨房からレスリーさんがウッドデッキ、テラスにやってきた。


「こんにちは」


「どうだい?今日の料理は?」


 そう言って俺が座っている向かいの椅子に腰掛けてきた。


「具が多くて美味しかったです」


 俺が言うとプレイヤーは沢山食べないと魔獣を倒せないぞと言った後で、この前来た時と装備が違っているなと言った。よく見ているな。


「そうなんですよ、レベルが上がって島にある忍具店で新しい装備に買い替えました」


「忍具店と言えばサツキの店だな。上忍の装備はこの港の街ではあそこでしか売ってないからな」


 島にある店の事をよく知ってるよ、島の中の店の人たちは皆知り合い同士なんだろうな。俺がそう言うとその通りだと言うレスリーさん。


「タクは島の北の森で魔獣を倒しているんだろう?順調に進んでるのかい?」


「今で森の半分より北側くらいまで進んだところでしょうか。もう少しこっちが強くなったら島の北の端まで行けると思うんですよ。ところで島の北側ってずっと魔獣がいる森しかないんですか?」


「島の北側、海の近くまで森があって魔獣がいる。俺達はそう聞いているぞ」


 やっぱりそうなんだ。ただレスリーさんを始め島民達は森の中を歩いて北の端まで行った訳じゃない。漁師達が船で沖合から島を見て、森が海の近くまであるのを見たという事だそうだ。


「島の北とか、この街以外の場所には船は着けられないんですか?」


 俺の言葉に頷くレスリーさん。


「漁師達によるとこの島は街があるこのエリア以外の場所、島の周囲は岩場で浅瀬になっていておまけに潮の流れが早い。船が島に近づきすぎると、船の底や横が岩に擦れて船が壊れちまうそうだ。船が安全に着けられるのはこの街の桟橋だけだよ」


 なるほど。


「ところでタクは昔からこの島に伝わってる話は知ってるかい?」


 そう聞いてきた。


「ん?伝わってる話?」


 俺がそう言うとそれまでリラックスしていたタロウは起き上がり、リンネも俺の膝の上で起き上がるとピンと耳を立てた。


「聞いていないか。実はな、この島の最北端に洞窟だか祠だかがあって、その奥には島のヌシが住んでいて島を守っているという言い伝えがあるんだよ」


「洞窟?祠?島のヌシ?」


「そう。昔からこの島に伝わる話だよ」


「なるほど」


「島の言い伝えだよ。本当かどうかも分からない話だ」


 レスリーさんによるとその言い伝えを確かめようと島の北端に船を近づけたが、さっきも言った様に岩場と潮の流れが早いので挑戦した船がことごとく破壊されて、漁師達が海に放り出された事が数度あったそうだ。それ以来、あまりにも危険すぎると誰も挑戦しなくなったらしい。


「ここは主の出番なのです」


 話を聞いていたリンネが言う。タロウもやる気満々のポーズだ。


「従魔たちもこう言ってます。島の北の端まで行けた時に確かめてみますよ。でも俺達が行ってもいいんですか?」


 神聖な場所だったりしたら、俺達部外者が中に入ったらマズイんじゃないの?そう思って聞いてみた。


「戦闘をする訳じゃないだろう」


 確かに島のヌシがいたとして戦闘すると決まった訳じゃない。


「島の北がどうなっているのか。それを調べてくれたら俺も含めて島の住民は喜ぶよ」


「分かりました」


 森のヌシの話はAIのミントに聞いても分からなかった。その情報は持ち合わせていませんと冷たい返事をしてきたが、今までの対応を見るとそうなるだろうなと思っていたけどその通りだったよ。一応聞いてみたんだよ。


 島を守っているという言い伝えがあるから敵対する魔獣ではないんだろう。でもゲーム的に何かがありそうな気がする。もう少しレベルが上がったら行ってみよう。


 そう、何をするにもレベルを上げないと話にならない。65に上がったばかりの俺達じゃとてもじゃないが島の北の端までは行けないだろう。あと2つ、できれば3つは上げないとな。


 午前中は自宅で畑と工房、午後から島に渡って森の中で経験値稼ぎ。これを2日続けてレベルが1つ上がった。それで探索範囲がまた広がり、森の北の敵を倒しているとセーフゾーンを見つけた。場所は森の中の中央からやや北に上がった西の海岸沿いにあり、木の柵で囲まれた小さな草原になっている場所だった。そのセーフゾーンからは海が見える。柵の中には小屋があり、その中に転送盤があった。調べると『海辺の小屋』という場所だ。


「主、ここは元気になる場所なのです。おまけに景色の良い場所なのです」


「ガウ」


 タロウも尻尾をブンブンと振っている。


「そうだな。海が見えて景色も良いな」


 安全地帯でしかも目の前が海で、遠くに陸地が見えている。これは癒されるよ。


 しばらく休んだ俺達はこの小屋にある転送盤を使ってみた。港の街の陸側にあるギルドに飛ばされるのかなと思っていたが、予想に反して飛んだ先は島側の港の桟橋の外れにある小屋の中だった。その小屋にある転送盤に乗ると目的地は海辺の小屋としか出てこない。森の街の池の近くの小屋から森小屋に飛べるのと同じだな。


「これでまた攻略が楽になるぞ」


「なるぞ。なのです。主、でかしたのです」


「ガウガウ」


 翌日は島に渡ると転送盤を使って海辺の小屋に飛び、その周辺の魔獣を倒して経験値を稼いでいると2日後の夕方、島の北の森の中で俺達は67にレベルアップする。ここ数日間はずっとソロで活動をしてきた。その結果とりあえずの目標、島の北の端に行けるであろうレベルになった。67で島の北の端まで行けるかどうかはやってみないとわからない。挑戦して、きつそうならあと1つレベルを上げて再挑戦すればいい。


「主、これで島の北にいるヌシの下に行けるのです」


「ガウ」


 タロウとリンネもレベルが上がったので俺にけしかけてくる。


「よし!明日はまず森の中のセーフゾーンまで移動してそこから島の北側を探検するぞ」


「するぞ、なのです」


「ガウ」


 その場から転移の腕輪で自宅に戻ってくると、留守番を頼んでいたランとリーファを労ってやる。彼らがタロウやリンネと遊び始めたのをしばらく見ていた俺は工房に足を向けた。バザール用の焼き物の製作だ。販売は落ち着いてはきたけどそれでも毎回結構な数が売れるんだよ。欲しい人がいるのなら作るよ。とは言っても最近は毎週じゃなくて隔週の出店になってるけど。


 俺が上忍の装束の上からエプロンを身につけると、それを見ていた4体の従魔達が俺のあとをついて工房の中に入ってきた。


 この日は従魔の新しい置物に挑戦だ。今までは4体をそれぞれ別に作ってセット売りしていたが、今回はタロウの背中にリンネとランとリーファが座っている1つの焼き物にしてみる。


 座ってこちらを向いているタロウを作るとその背中にリンネ、ラン、リーファが横座りで、皆でこちらを向いている様な格好で土を固めていく。新しいデザインの置物だと分かったみたいで4体の従魔が焼き物と同じポーズになってくれた。座っているタロウの背中に3体の従魔達がちょこんと座っている。めちゃくちゃ可愛い。


「お前達、しばらくそのままでお願い」


「問題ないのです」


 従魔達を代表してリンネが言った。皆じっとしている。


 型を作ると素焼きをし、焼き上がったところを見るとなかなかのができた。これに釉薬と色をつけていく。近くにいる4体を見ながら色をつけてもう一度窯に入れた。


 自分の今の窯業スキルは63で、窯業ギルドに聞いたらここから上にスキルを上げるにはもっと凝った、複雑な形状の焼き物を作る必要があるそうだ。こっちは窯業のマイスターになる気はないので今の63で十分だよ。というか63って結構高いスキルだと思うんだけど。


「どうだ?」


 出来上がった焼き物を従魔達に向ける。想像以上に良い出来になったよ。そう思って従魔達を見るとランとリーファは歓喜の舞をし、タロウは尻尾をブンブンと降りながらガウガウと吠えている。


「皆そっくりなのです。これは売れるのです。主がまたウハウハになるのです」


 リンネも気に入ってくれたみたいだ。俺はログアウトまで同じポーズの焼き物をいくつか作った。



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