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海鮮料理


 ここ数日根を詰めてレベル上げをして、目標の60に到達したのでここからはいつものペースに戻す。午前中は畑の見回り、それから工房で合成。


 バザールは毎週ではなく、隔週の出品になっているんだけど、相変わらず従魔達の置物はよく売れるんだよ。一時は売り上げが落ちたんだけど最近また増えてきた。


「第3陣が開拓者の街に来ているからだろう」


 そう言ったのはトミーだ。午前中の自宅での作業が終わってのんびり休んでいると彼が1人でやってきた。クランとしての活動まで時間があるのでお茶を飲みにきたよと言いながら庭から入ってきた。


「主のお茶は美味しいのです。たくさんおかわりをしてもいいのです」


 俺がトミーの前にお茶を置くと縁側にいたリンネが言った。


「第3陣が開拓者の街に来ているのか。それでもタロウとリンネ、妖精達は彼らは知らないんじゃないの?」


 言われてみれば開拓者の街に到達してもおかしくない。でも俺の従魔達を知っていることについては、第2陣までなら分かる。上忍のフレンドもいるし公式の配信があったのも知っている。でも第3陣とは接点がないよ。


「その公式の配信だよ。最近の配信で印章NM戦の一部が流れたんだよ」


 トミーによると80枚の印章NM戦の戦闘の一部が流れたらしい。その中でタロウとリンネがしっかり映っているそうだ。


「そこで映像を見た連中が第1陣や第2陣の知り合いに聞いたり、掲示板で問い合わせをしたりして名前が広まっていったみたいだ」


 そう言う背景があったのか。となると一気に焼き物を作るペースを落とすのは良くないかもしれない。トミーからも、もう少し人気が続くぞと言われたよ。


 焼き物の事は分かった。その後は新しいエリアについての雑談だ。彼らは今レベル62に上がったところだそうで、街の外の活動範囲を広げているらしい。


「街を出たところがレベル63、そこから64、65のエリアで敵を倒しているんだ。今までと違ってオオトカゲやカニを相手にしているが体力が多い。なかなか簡単に探索エリアを広げられないんだよ」


 海の近くの狩場だからトカゲやカニがいるけど、奥に行く、港から離れれば魔獣が変わるかも知れないと言っている。カニと言ってもリアルで言うところの陸に住んでいるヤシガニの様な姿をしていて、それが大きいサイズになっているそうだ。


 硬くてキツイんだよと言いながらもしっかり62まで上げているのは凄いよ。情報クラン、攻略クランともに、まずは65まで上げてから装備を更新しないと遠くの探索は厳しいという見方をしているそうだ。


「街の西側は草原と林しか見えない。北側も同じだが遠くに雪を被っている山々が見えている。このエリアも広そうだ」


「どこかにまた街があるんだろうな」


「おそらくな。ただ攻略は簡単じゃなさそうだ」


 そうは言っているがトミーは楽しそうだ。情報クランも攻略クランも先駆者としてあちこち動き回って探索するのが大好きな連中の集まりだ。簡単じゃない方がやる気が出るんじゃないかな。俺がそう言うとその通りだよと笑いながら言っている。


 トミーが帰ると俺たちは港の街の別宅に飛んだ。隣からマリアがやってこないところを見ると攻略クランは活動中だな。


 タロウとリンネは外に出られると知って尻尾を振って喜んでいる。その2体を連れて街の中を歩いているとポツポツとプレイヤーの姿を見る。ここ数日この街に来ていなかったけど、その間にやって来たんだろうな。


 北門から外に出るとリンネが強化魔法をかけてくれた。島の北門の外はすぐに木が生えている森になっていたけどこっちは草原だ。


「ありがとうな」


「敵をぶっ倒してやるのです」


「ガウ」


 2体ともやる気満々だよ。空蝉の術を唱えて歩き始めるとオオトカゲの姿が見えた。レベル63だ。手裏剣を投げて戦闘が始まった。58の時に島の北で相手にしたのと同じだ。こっちはあの頃よりもレベルが2つ上がっている。確かに素早い動きだがその動きは経験済みだよ。


 攻撃を交わしながら刀で胴体に傷をつける。リンネが魔法を顔にぶつけ、タロウが後ろ足で蹴りを入れるとオオトカゲがグラッとした。そのタイミングで俺の刀が首に突き刺さって光の粒になって消えた。


「これならいけるぞ」


「ガンガンやるのです」


「ガウ」


 レベルが2つ上がったのは大きい。以前よりもダメージは入るし、相手の攻撃を避けることもできる。強化されているバンダナ万歳だよ。その後も草原にいるトカゲを倒して経験値を稼いだ俺たちは夕刻になって港の街に戻ってきた。この日はヤシガニの魔獣には合わなかった。もうちょっと先にいるのかな。


 街に戻って市内を歩くとプレイヤーの数が増えている気がする。続々と新エリアに来ているんだな。俺は通りを歩きながらこの調子だとプレイヤーの数が増えてくると街の北門を出たところは混雑するだろうなと考えていた。


 一方で島の北門を出たところはすぐに森になっていて視界が悪い。普通なら視界の良い陸側の街の外で経験値を稼ぐだろう。しかも島にはギルドがない。俺だってタロウやリンネがいなければそうしている。


 そう考えると明日からは島の北門の森の中で経験値稼ぎをした方がライバルが少ないので数をこなせるんじゃないかな。俺は頭の上に乗っているリンネをタロウの背中に乗せると2体に顔を向けた。リンネは頭の上からタロウの背中に移動させられてどうした?と言った表情だよ。タロウとリンネがじっと俺を見てくる。


「いいか、俺たちは明日からは島の門を出た森の中で敵を倒すぞ。あっちの方がライバルが少ないと思っているんだ」


「お船に乗って移動するのです?」


「そうだよ。船に乗って島に渡ってから街の外に出る」


 俺がそう言うと2体とも尻尾をブンブン振り回してきた。


「お船に乗って敵を倒すのです」


「ガウガウ」


 タロウもリンネも船に乗るのが大好きだからな。船には乗れるし敵を攻撃できると聞いて喜んでいるよ。


「明日から頼むぞ」


「ガウ」


「任せるのです。やってやるのです」


 従魔の了解が取れた。俺が別宅に向かって歩き出すとすぐにタロウの背中から俺の頭の上に移動してくる。当人はここが指定席だと思っている様だ。


 歩いているとお腹が空いているのに気がついた。マップ作成で路地を歩いていた時に従魔と一緒に入れるウッドデッキがあるレストランをいくつか見つけていたんだよ。今のこの場所から近いところにその中の一軒がある。


「レストランに行くよ」


「主はお腹が空いたのです?」


「そうなんだよ」


 通りから路地に入って少し歩いたところにそのお店はあった。店の名前は『マール』ポルトガル語で海という意味らしい。


 ウッドデッキに上がると中から猫族の給仕さんが出て来た。


「いらっしゃい」


「こんにちは」

 

 俺が挨拶をするとタロウとリンネもしっかりと挨拶をする。2体は挨拶が終わるとタロウはウッドデッキで横になり、リンネは俺の膝の上に乗ってきた。


「お話ができる九尾狐さんなんですね。フェンリルさんも大きいですね」


「そうなんですよ。ところでここのおすすめ料理は何ですか?」


「もちろん海で獲れた魚料理です。この街では海産物のレストランが多いんですよ」


 これは嬉しい。今まで川魚のレストランはあったけど、海の魚を食べさせてくれるレストランはなかった。給仕のお姉さんにお勧めの料理を聞くと獲れたての魚を焼いたのがあるというのでそれを頼んだ。


 しばらくした魚料理が運ばれてきた。一口食べるとこれが無茶苦茶美味しい。あっという間に平らげちゃったよ。


 食事を食べ終えたタイミングで中からコックさんの姿をした人族のおっちゃんがウッドデッキに出て来た。もちろんNPCだ。


「プレイヤーさんに食べてもらうのは初めてでね。美味しかったかい?」


「そうなんですか。すごく美味しかったです」


「そりゃよかった。この港の街は海産物が獲れるから魚や貝の料理が有名なんだよ」


 おっちゃんはこの店のオーナー兼コックさんでマーフィーさんと言うそうだ。


「俺は上忍のタク、こっちがフェンリルのタロウ、そして九尾狐のリンネです」


「ガウ」


「主の従魔のリンネなのです。よろしくなのです」


「よく懐いてるね」


「そうですね。もう随分と長い間付き合っていますから」


 そう言ってから俺はここと島の街の関係を聞いてみた。マーフィーさんによると以前は街はこの陸地側だけだったそうだが漁師が島の方が漁場に近いのであの島に小屋や桟橋を作ったのが街の始まりだそうだ。その後本格的に開発をして今の島の街が出来上がったのだと教えてくれた。


「なのでこっち側はもちろんだけど島側にもレストランがあって美味しい魚介料理を提供しているぞ。タクが島のレストランに行くのなら知り合いがやっている店があるから顔をだしてくれよ」


 そう言って一軒の店の名前と店長の名前を教えてくれた。


「島に行った時はこのレストランに顔を出しますね」


「是非そうしてくれ。俺の名前を出したら安くなるかもな」


 笑いながらそう言ったマーフィーさん。なかなか豪快な人だよ。


「ありがとうございました」


「ガウ」


「ありがとうなのです」


 俺たちはお礼を言って椅子から立ち上がって店を出ると、別宅経由で自宅に戻ってからログアウトをした。


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