レベル65装備
2日目は1日かけて歩きまわって地図が出来上がったが、マップ作成クエストは門から入った市内を歩いただけではクリアにならない。AIのミントに確認したら予想通り船で渡った島も港の街の一部なのでそちらのマップも作成して初めてクリアになるそうだ。
夕刻、港の街の別宅で休んでいると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
それまで庭でタロウと遊んでいたリンネが端末の呼び出し音を聞くと遊ぶのを止めて俺に顔を向けて言った。相変わらず電話があったことを報告するのは飽きないらしい。
「うん、ありがと」
相手はクラリアだ。
「タクはマップ作成したの?」
「陸の方だけだね、島はまだ手付かずだよ」
「私たちは少し前に島から定期船で戻ってきたのよ、そっちにお邪魔してもいいかしら?」
「もちろん」
通話を終えると戯れあっていたタロウとリンネがそばにやってきた。
「主のお友達が来るのです?」
「そうだよ。自宅じゃなくてこの家に今からやってくる」
「タロウとリンネでお出迎えするのです」
「ガウ」
しばらくしてクラリアとトミーの2人が庭にやってきた。俺の頭の上に乗っているリンネとタロウがしっかり挨拶をしたよ。
「港の街の陸側のマップ作成は終わったんだって?」
庭にあるテーブルに座るなるトミーが言った。頷くと武器屋と防具屋があっただろう?と続けて聞いてきた。
「防具屋はまだ顔を出していない。武器屋ではレベル65以上の制限武器を売ってたよね」
「その通り、防具屋も同じだ。俺たちは今日の午後、島に渡ってあちら側も見てきた。陸側よりは小さいがそれでも結構広い街になってる。ただ島全体が街になっているんじゃなくて島の街から出ると魔獣が生息していた。門を出たところで倒したオオトカゲの魔獣のレベルは63だったよ」
島の南側に街があり、その場所以外は深い森になっていると教えてくれた。
なるほど。島全てが街にはなってないんだ。街を出てすぐでレベル63か。それなりに強いレベルの魔獣を配置しているんだな。そして新しい魔獣か。エリアが変わったから魔獣も変わる、当然だよ。
情報クランは今日の午前中にエリアボス戦の情報を公開したそうだ。この新しい街の情報も明日か明後日には公開する予定らしい。すでに情報の購入予約が多数来ているらしく彼らの表情も明るいよ。
「予約が入っているってことは、攻略クランと情報クラン以外のプレイヤー達ももうすぐ新しいエリアにやって来れそうってことなのかな?」
「渓谷のエリアの最後のセーフゾーンまで到着しているパーティが数組いる。全員レベル60で武器、装備とも6段階まで強化済みだそうだ。もう数日したらやってくるんじゃないかな」
情報クランがボス戦の詳細を公表というか売り出しているし、トミーの言う通りこれからプレイヤーが新しい街にやってくるだろう。ちなみに情報クランと攻略クランの他のメンバー達は明日エリアボス戦に挑戦するそうだ。
今日陸側を歩いた時には刀や装束と言った上忍の装備を取り扱っている店がなかったのでおそらく忍具店は島側だろうと言うとその通りだと言う2人。上忍以外のジョブでも店を見つけることができたそうだ。
「この街には強化屋はないのよ。ただだからと言ってもう強化屋がなくなったと決めつけるのは早いと考えているの。この先また出てくる可能性もあるしね」
彼女の言う通り。入手が簡単じゃない神魂石だ。使う場所が渓谷のエリアだけとは考えにくいよ。
明日には2つのクランのメンバーが揃うので手分けをして街の外側の様子を探る予定らしい。俺たちも誘われたけどこっちはレベルがまだ58だし、それに島にも行ってみたい。丁重にお断りさせてもらった。
翌日畑の見回りと農業ギルドへの納品を終えると俺たちは港の街の別宅に飛んで、そのまま港に向かった。
「大きなお船に乗るのです」
「ガウガウ」
「そうだよ。ただ前に乗った船ほど大きくはないぞ。それと乗っている時間も短い」
「分かったのです」
桟橋に着くと船が停泊していた。森の街から水の街に移動した時の様に船に乗ると勝手に端末から乗船代が引かれる。20分ということで大きな船室が1つかと思っていたら意外にも個室だった。サーバーに負荷をかけない様にしているのかもしれない。ただベッドはない。部屋には椅子とテーブルがおいてあるだけだ。
タロウとリンネは個室だったので大喜びだよ。部屋から外に出るバルコニーはないが大きな窓から外が見えていた。
出航のアナウンスがあって船が動き出すとタロウと、その背中に乗ったリンネが窓の外を食い入る様に見ている。好奇心旺盛なのはいい事だぞ。
俺も窓から外を見ていると出航前から見えていた島がどんどん近づいてくるのが見えた。
「もうすぐ到着なのです。あっと言う間なのです」
「ガウ」
リンネの言う通り乗ってからそう時間が経たずに船は島に着いた。部屋の扉を開けるとそこは船から桟橋に伸びているタラップだった。
島に上がると早速街の中をウロウロする。結構広い街だが陸に比べると半分位の広さかな。島の南側に街があり、北門から外に出られる様だ。情報クランの連中も昨日はこの北門から外に出て魔獣を相手にしたんだろう。
街を歩いていると大きな通りから路地に入ってすぐのところにある看板を見つけた。『島の街忍具店』と木に彫った看板がドアにかけてある。港の街じゃなくて島の街忍具店にしているんだ。
ドアを開けると涼しい鈴の音がした。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
挨拶をすると店の奥からいらっしゃいという女性の声がしてすぐに中年の女性が出てきた。店内には刀と装束が置かれているが数は多くない。それ以外に手裏剣、撒菱、そして今まで見たことがない忍具が棚に置かれている。
AIのミントに聞くとこれは煙玉と呼ばれるもので、殺傷力はないが煙で目眩しをしたり、逃げる時に使える忍具そうだ。
「上忍のプレイヤーのタクかい。いらっしゃい」
いきなり名前を呼ばれてびっくりしたよ。
「はじめまして。そうです、俺が上忍のタク、この2体は従魔でフェンリルのタロウと九尾狐のリンネです」
「リンネなのです。よろしくなのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウが挨拶をする。
「私はサツキ。この忍具店のオーナーだよ。タクの事は試練の街のモトナリや他の連中から聞いてるよ。一番最初に上忍になったプレイヤーとして忍具を扱っている人の中じゃあんたは有名だよ」
自分のことよりも彼女の口からモトナリ刀匠の名前が出てきてびっくりしたよ。
「試練の街のモトナリ刀匠はご存知なんですか?」
「もちろん。忍具店をやってる連中は皆知り合いだよ」
知り合いって言い方をしているからモトナリ刀匠とは師弟関係じゃないのかも。
「主は有名だから当然なのです」
「ガウガウ」
サツキさんの言葉に当然だとドヤ顔をしているタロウとリンネ。いや間違いなく今の2体の表情はドヤ顔だ。
「なるほど。ところで見せてもらってもいいですか?」
「もちろん。ただタクのレベル58だとまだ無理だよ。この街ではレベル65以上の物しか置いていないよ」
「ええ、今は装備できないのは知ってます」
そう言ってから店に並んでいる陳列物を見る。まずは刀だ。森小屋で買った刀は1本150万、装束は上下セットで300万ベニーだった。それがこの店では刀が1本500万、装束はセットで650万になっている。ちなみに煙玉は1個5万。一度きりの使い捨てで5万はいい値段がする。
今装備している刀と装束は6段階の強化済みだ。強化費用は1段階50万だから6段階で300万。刀と強化費用を足した合計の450万よりも高い価格設定にしているのか。装束も同じだ。
「今のこの刀、6段階の強化済みなんですけど、売っている刀はそれよりも効果があるってことですよね?」
そうだろうとは思うけど確認はしておかないとな。俺が聞くとサツキさんが大きく頷いた。
「もちろん。こっちの刀は素早さが上がる、こっちは力が上がる。どっちも今タクが持っている刀よりも上だよ。装束も同じだね」
上級レベル65になったら刀2本と装束を買ったとして1,650万ベニーか。いい値段するな。武器屋で見た他の武器も高かったけど、そう言うことなんだろうな。
「タクは6段階効果済みのバンダナを持ってるね。それと力と素早さが上がる腕輪はどちらもHQじゃない。いい物持ってる。レベルが65になってこの装備を身につけると攻略がずっと楽になるのは間違いないよ」
「ありがとうございます。でもその前にレベルを上げないとね」
また来ますと忍具店を出るとそれまで黙っていたリンネが俺の頭の上から言った。
「主、レベルを上げるのです。敵をぶっ倒してレベルを上げて強い装備を買うのです」
「ガウ」
タロウもそうしろと吠えながら大きな身体をすり寄せてくる。
「そうだな。マップ作成が終わったら外でレベルを上げようか」
「やるのです。タロウとリンネが主をお守りするのです」
「そうか。頼むぞ」
ソロの俺はこの2体の従魔達頼りなのは間違いないので、タロウとリンネをしっかり撫でてあげたよ。




