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丘の上に行こう

 NM戦が終わって数日後の昼過ぎ、俺が午前中の畑仕事と工房での焼き物作りを終えて一休みしていたタイミングで、トミーが自宅にやってきた。今日はクランとしての活動がオフの日だそうだ。彼から80枚のNM戦の情報を公開した後の様子を聞いた。


 80枚の印章NM戦に勝利すると全種類の神魂石が出て個数は7個か8個、それ以外にジョブ帽子が出るという情報はプレイヤーの間で飛ぶように売れて、あっという間に広まっていったそうだ。


「レベルが59とか60になったら挑戦するパーティが増えるだろうな」


「ジョブ帽子なんて誰も想像していなかったからな」


「その通りだよ。それにその効果もわかっている範囲で公開している」


 神官の帽子はルミから話を聞いたところ、敵対心は間違いなく減っており、一度の魔法で回復できる体力も増えているそうだ。パラディンのフォローがずっとしやすくなったと言っている。


「彼女によると特に敵対心マイナスの効果が神官にとってはありがたいと言っているわ」


 魔法を撃ってもタゲを取りにくい、敵対心マイナスの効果は後衛ジョブの神官や魔法使いは是が非でも欲しいだろう。

 

 盗賊の帽子については不意打ちのリキャストが3分から2分に短縮されていた。これは盗賊をジョブにしているプレイヤーは間違いなく欲しくなるね。1分の短縮はでかいよ。


「バンダナよりもこっちの帽子の方が盗賊にとってはいいでしょうね」


 そうクラリアが言っているらしい。これは盗賊必須の帽子になるんじゃないかとまで言っているよ。それくらい不意打ちの時間短縮によるメリットは大きいそうだ。彼女がそこまで言うのも分かるよ。


「それでウォリアーの帽子は?」


「攻撃力と素早さについては体感できる効果があるというのが手に入れたメンバーの評価だ。俺も帽子を借りて、バンダナとの比較をしてみた。性能的にはバンダナの方が上だけど、頭に何も装備していない状態とジョブ帽子をかぶった時とは全然違うというのが実感できたよ」


 なるほど。他のジョブでも装備してない状態とジョブ帽子を身につけた時との差が実感できるんだろう。ステータスが上がるケースと特殊効果があるケースがあるみたいだけどどっちにしてもそのジョブのプレイヤーにとってはメリットがある性能になっているんだな。


「俺は大剣持ちだから攻撃を外すとまずい。なのでウォリアーの帽子じゃなくて引き続きバンダナを装備するつもりだよ。それに帽子は普通の神魂石で強化できないんだ」


 山の街の強化屋で確認すると、帽子はバンダナと同じ扱いになっているらしく防具ではなくアイテムという範疇になっているそうだ。帽子を強化できるのは黒の神魂石だけだと言われたらしい。


 確かにステータスだけじゃなくて特殊効果もあるとなったら強化石で強化する対象にしたらおかしくなるよな。


 でもバンダナを持っていないウォリアーから見たらこの帽子が優秀な装備になるのは間違いない。木のダンジョンクリアよりも80枚のNM戦の方が攻略は楽だからこっちに流れてくるのが多くなるだろうと言っている。ウォリアー以外のジョブ帽子も出るしね。メンバーのモチベーションは保ちやすい。帽子狙いのプレイヤーが多くなるんじゃないかな。ダンジョンはクリアすると攻略がリセットされるが印章NM戦はいつでも挑戦できるし。


「次のエリアで帽子が売ってるのかいないのか。そこを見極めるのも必要だよな。ひょっとしたらNM戦でドロップする帽子と同じか、それ以上の性能の帽子があるかもしれない」


 なるほど。流石に情報クランの幹部だ、色々と考えているんだな。


 トミーが家から出ていくと、ランとリーファにお留守番を頼んだ俺たちは山の街経由で西の山裾の小屋に飛んだ。経験値を稼いでレベルをあげないと北に進めないからね。


 小屋の周辺の水牛はすっかり慣れた相手だ。体力は多いがこっちも強くなっている。2日かけてレベルが56になった。


「これで先に進めるのです」


「ガウ」


「そうだな。少し休んだら奥に行ってみようか」


「みようなのです。タロウとリンネに任せるのです」


 草原から西の山裾の小屋、セーフゾーンに戻ると数組のパーティがにいた。彼らもここをベースにして経験値稼ぎと石を狙っているそうだ。


「80枚の印章NM戦、タク達も参加したって聞いているんだけどそうなのかい?」


 小屋の外で休んでいると、同じ様にその場所で休んでいるパーティの狼族の男性が聞いてきた。


「そうだよ。情報クランと攻略クランと合同で3戦してね、無事に3勝したよ」


 彼らはレベル55だそうだ。


「とりあえずここで56か57にまで上げたら、80枚の前に60枚に挑戦しようと思っているんだよ。5人でいけるしな」


「やっぱり80枚を狙ってるんだな」


 俺が言うとその通りだと即答してきた。


「全種類の石とジョブ帽子が出るって話だ。戦力の底上げになるからな。知り合いのパーティと組んで10名で挑戦するつもりなんだ」


 リーダー格の男性がそう言うと周りから80枚は強いのか?と聞いてきた。


「はっきり言って強い。というか60分という時間が結構厳しいんだよ。80枚のNM戦については情報クランが公開しているから知っていると思うけど2体のNMは大きくて体力も多い。安全と火力のバランスを考えないと厳しいよ」


 安全ばかり気にすると時間切れになるし、かと言って火力重視になるとダメージを受けやすい。そこのバランスをしっかり考えた方が良いとアドバイスしたよ。彼らから討伐時間を聞かれたので1戦目と2戦目は50分以上、3戦目でなんとか50分を切ったという話をする。


「トップクランの連中でも50分以上か。タクや従魔達も含めて全員が6段階強化済みなんだろう?」


「そう。強化を終わらせておくのが大前提になると思う。楽な相手じゃないからね」


 俺が言うとレベルも上げつつしっかり強化しようぜと仲間内で言い合っている。お先にと立ち上がると俺の頭の上に乗ってきたリンネと俺の横に立ったタロウ。


「皆さん頑張るのです」


「ガウガウ」


 リンネとタロウが尻尾を降りながら彼等にエールを送った。ありがとうという声を聞きながら俺たちは小屋を出ると再び平原で水牛を倒す。57にはならなかったがそれなりに経験値を稼いで夕方に自宅に戻ってきた。


 今からはログアウトまで工房に籠るぞ。


 バザールではようやく従魔達の置物の販売が落ち着いてきた。相変わらず売れているんだけど早々に売り切れというのがなくなった。先週は閉店時に置物が2個売れ残っていた。これでようやく需要に供給が追いついたんじゃないかな。


 引き続き従魔の置物は作るけど、それ以外の焼き物も作る時間ができたのでここ数日は4体の従魔の絵を描いた大きなお皿やマグカップなんかを作っている。


 従魔がまるでキャラクター商品になってるよ。これはバザール会場で複数のプレイヤーから置物以外にも従魔達が描かれている食器はありませんか?と聞かれたのがきっかけなんだけど、実際作ってみると売れ行きがいいんだ。


 うちの従魔達は自分が想像している以上に人気があるってことを再認識したよ。


 窯業スキルは60のままだ。山の町の窯業ギルドのグプタさんに聞いたら今自分が作っている焼き物でまだスキルは2つ3つは上がるだろうと言われた。スキルが70になるとマイスターへの転換資格ができるけど、今のところそこには興味はない。自分の合成は時間がある時に好きなものを作るということだからね。一時は従魔の置物作成に追われていたけどそれも落ち着いてきたし、作りたいものを作って楽しむ。合成は趣味感覚でやろうと思っている。


 

 翌日、俺たちは西の山裾の小屋に飛ぶとそこから水牛を倒しながらまずは東に向かった。3つ目のセーフゾーンがあると言っている情報クランや攻略クランだが、彼らがまだ見つけていないと言う事は丘の上まではないんだろう。10名が探しても見つからないのをこっちが見つけられるとは思わないよ。


 俺たちは一旦東に進んでから東の山裾沿いに北に進む作戦だ。門を出て西から真横、東に進む間は水牛のレベルが変わらないのでこの移動はタロウの背中だよ。


「ガウガウ」


「主、気持ちが良いのです」


 俺の前に座っているリンネが髪を靡かせながら言っている。タロウも同じで髪を靡かせて走っている。


「本当だよな。タロウ、大丈夫か?」


「ガウ!」


 走りながら大丈夫だと吠えている。長く一緒にいるので鳴き声とちょっとした仕草で機嫌がいいのか悪いのかがわかる。もっともタロウがいつもと違う吠え方をするのはボス戦や強いNM戦の戦闘前の時だけで普段は人懐っこく吠えるんだけどね。


 タロウの返事を聞いて、俺が手の平でタロウの身体をパンパンと叩くと喜んでくれたみたいで草原を駆けるスピードが上がった。


 タロウの背中に乗って西の山裾から東の山裾まで駆け抜ける。小屋がある西の山裾と反対側の山裾に着くと目に見える範囲で魔獣がいない場所でタロウから降りて少し休み、それから北を目指す。進み始めると相手をする水牛のレベルが上がってきた。ただこちらもレベル56だ、タロウやリンネもいる。俺はバンダナと蝉がある。リンネは尾が8本になって魔法の威力が上がっているし、タロウも新しいスキルを覚えている。

  

 出会う敵を倒しながら山沿いを北に進んでいくと水牛が常時2体固まっているのが目にはいってきた。目的地の丘の上はもう直ぐだ。


「タロウ、リンネ。もう直ぐ丘の上だ。頑張るぞ」


「ガウ」


「はいなのです。やってやるのです」


 それから30分後、俺たちは丘の上に着いた。そこから北を見ると、彼らが言っていた通りにそこから先は草原が眼下に広がっている。その先に森、さらにその奥には左右の山々が繋がっているのが見える。こうして見ると、スタンリーが言っていた通り、もう1箇所セーフゾーンがないと厳しいだろう。


「主、あの山まで行くのです?」


 頭の上から声がする。


「そう。あの山まで行くんだよ。でも今日じゃないよ。丘の上から先の景色も見たし、今日はそろそろ帰ろうか」


「はいなのです。出直しなのです」


「ガウ」


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