親密度マックス
テイマーギルドの受付は猫族の女性。これはこの山の街でも変わらない。中に入るとカウンターに2人の猫族のNPCが立っていた。名前はアップルさんとブーケさんだ。中に入ると2人の受付のNPCがカウンターからこっちにやってきて2体の従魔の様子を見る。頭の上に乗っていたリンネも地面に降りて四つ足で立ちながら尻尾をブンブンと振っている。
「2体ともタクさんに懐いていますね。親密度もマックスのままです」
「このままの関係を続けてくださいね」
「ありがとうございます」
お礼をいうと尻尾をブンブンと振りながらタロウがガウガウと吠えた。
「そうなんだ。タロウ君は主が大好きなのね」
NPCだからか、タロウの言いたい事がわかる様だ。そうだそうだと耳を後ろに垂らせて尻尾を振っているタロウ。
「リンネも主が大好きなのです。お留守番をしているランとリーファも主が大好きなのです。皆大好きなのです」
「うん、リンネちゃんのいう通りだね。いい人に仕えてよかったね」
「よかったのです」
従魔達との関係性が変わっていなくてよかったよ。
「タロウもリンネも上級レベル50になって能力がアップしたんですよ」
俺がいうと親密度が高いからレベルが50で彼らが成長したんだという。これは他のテイムした従魔でも同じらしいが、親密度が低いと従魔の成長が遅くなる。つまり今回の場合だとレベル50ではなくて、もう少しレベルが上がらないと成長、スキルアップしないんだそうだ。
2人の受付嬢がカウンターに戻ってから俺は特別引換券の事を話ししたが知らないという。どうやらテイマーギルド案件ではなさそうだよ。
お礼を言ってテイマーギルドを出た俺たちは引き続きマップを作成しながら街の中を歩いていく。その結果、この山の街は円形になっていて東西南北に門があることが分かった。渓谷の平原から入ってきたのが東門、その反対側にある西門、そこから外にでるとその先が魔獣が徘徊しているエリアになる。北門と南門はドワーフの採掘用の洞窟への出入り口になっており、プレイヤーはこの2つの門を通って外に出ることはできない。
街の中を一通り歩いておおよその状況は理解できた。まだ全ての通りや路地を歩いていないのでマップは完成していない。俺達は冒険者ギルドに戻るとそこから転送盤を使って自宅に戻ってきた。街の探索はまた明日以降だ。
自宅に戻ると早速ランとリーファがやってきた。彼らと自宅の庭でリラックスしていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
「ありがと」
相手はクラリアだった。
「山の街に無事に到達したみたいね。スタンリーから聞いたの。それで今からトミーとそっちにお邪魔していいかしら。タロウとリンネが成長したって話を聞きたいのよ」
「構わないよ」
通話を終えてしばらくするといつもの4人がやってきた。クラリアとトミーだけだと思っていたけどスタンリーとマリアもいる。
「ちょうど今日のクランとしての活動が終わったんでね。一緒にやってきたんだよ」
「お友達はいつでも歓迎なのです。主のお家でゆっくりするといいのです」
そう言ったリンネが俺の頭の上から膝の上に降りてきた。俺はその背中を撫でながら言った。
「リンネが言った通りでね。いつ来てくれてもOKだよ」
マリアはまたタロウを撫で回している。それを見るクラリアとトミー。
「確かにタロウが一回り程大きくなっているな」
「リンネ、8本の尻尾を見せてあげな」
「はいなのです」
そう言ったリンネは俺の膝の上で身体を起こすと4人に8本の尾を見せた。
「本当だ」
「確かに8本あるな」
尻尾を見せるとまた俺の膝の上で横になる。
「レベル50になって2体の従魔達が成長した。俺は冒険者ギルドを出た後、テイマーギルドに顔を出したんだよ。そこで言われたのは親密度がマックスなのでレベル50で従魔達がまた進化したそうだ。親密度がそこまで達していない、低いと50になっても従魔達が進化しないと言われたよ」
「なるほど。親密度が従魔の成長に影響してるってことね、これは以前からも言われていたけど街のテイマーギルドで定期的に確認した方がいいわね。親密度は変動するでしょうから」
クラリアが言ったが俺もそう思う。親密度がマックスだからと世話を放置するとそれが下がる可能性があるよな。俺の場合は逆に普段から戦闘や農業が従魔頼りだから放置することはないけど。
「それでAIに聞いたらタロウは進化したことで新しいスキル、ジャンプを覚えた。3メートル程はジャンプできそうだよ。リンネは尾が増えて魔法の威力増と敵対心がまた減少したそうだ」
そういうと本当か?と言って来る4人。
「AIに聞いた後で渓谷の平原で検証している。タロウは少なくとも3メートルはジャンプしてた。リンネの魔法の威力もアップしていた」
俺が言うと、どうだと言わんばかりに尻尾を振るタロウ。リンネも俺の膝の上でブンブン尻尾を振っている。
「最強の従魔達だな」
トミーがいうと当然なのです。と答えるリンネ。
「主をお守りするためにタロウとリンネは強い従魔になるのです」
「ガウガウ」
全く有難い話だよ。戦闘ではタロウとリンネ、畑仕事ではランとリーファがいなかったら大変なことになってただろう。ソロで動く俺にとってこれ以上の従魔はいないと思うよ。
試練の塔のNM戦で手に入れた特別引換券がテイマーギルドで使えなかったという話をするとじゃあどこだという話になった。
「そのうちに分かるでしょう。それより予想通りこの山の街にも武器屋、防具屋はないんだね。強化屋は通りにあるのを見た」
俺がいうとその通りだと4人が言う。
「タクも山の街に来たから言ってもいいだろう。この街でも強化できる。渓谷の街で強化した色を変えることはできないがこの街で更に武器と防具の3段階の強化が可能だ」
そうトミーが言った。
「3段階か、なるほど」
「ただし色は変えられないぞ。渓谷の街の強化屋で強化した色の神魂石しか使えない」
1段階の強化でステータスが1と2の間あがると言われている。仮に1.5程度アップするとしたらこの街で3段階の強化ってことはステータスがさらに4.5程上がることになる。頭の中で計算したことを言うとトミーがその通りだと言った。
「武器や防具のステータスが4つ以上上がるのはでかいぞ。レベルで言えば2レベル分くらいあるんじゃないかな」
ステータス2がレベル1に相当すると言うのは感覚的なものだが、情報クランと攻略クランの間ではその認識でいるそうだ。これは武器と防具のレベルの話で、実際はプレイヤーのレベルがそれに加味されてくるので検証することは非常に難しい。レベルアップによるプレイヤー自身のステータスアップがあるからな。
「いずれにしてもここでしっかりと強化をしないと、次のエリアを攻略するのは難しい設定にしているんだろう」
スタンリーが言っているのは強化無しだとエリアボスに勝てない可能性が高いってことだ。運営はここでも時間をかけさせているよ。
彼らはレベル52になっていた。このエリアのレベル上限はいくつなんだろう。
「まだ街の奥、西側の探索が進んでいないから何とも言えないが、レベル60じゃないかと予想しているんだ」
トミーが言ったがこれはここにいる4人というか両クランの共通の認識、予想だそうだ。山の街を基点にして60まで上げろということか。
「タクは明日も街の探索?」
マリアが聞いてきた。
「街の探索はするよ。まだマップ作成クエストが終わっていないからね。でも明日はとりあえず隠れ里に行く予定。リンネの尾が増えたのを両親に報告しないとね」
隠れ里に行くと俺がいうと膝の上で横になっていたリンネが起き上がった。獣魔達には明日の予定は言ってなかったからな。
「主、父上と母上に報告に参るのです?」
「そうだよ」
「やったー、なのです。リンネが成長したことを報告するのです」
俺がその通りだとリンネの背中を撫でてやる。久しぶりに尻尾が増えたからね。最近行ったばかりの隠れ里だけど、これはきちんと報告しておかないと。
翌日、ログインをした俺たちは隠れ里に顔を出した。リンネのレベルが50に上がり、尻尾が8本に増えたのを見た村長のクルスさんやユズさんが喜んでくれる。その後は祠にお参りをして大主様とリンネの母親にも報告をしたよ。祠の左右には俺が献上した4体の従魔の置物とリンネの両親の置物が置いてある。
「しっかりと成長しておる様でなにより」
「リンネ、これからもしっかりと貴方の主をお守りしながら経験を積むのですよ」
「父上、母上、分かったのです。リンネはこれからも頑張るのです」
8本になった尻尾をブンブンと振りながら答えているリンネ。両親への報告が済むとキクさんのコンビニに寄ってから自宅に戻ってきた。ランとリーファとしっかりと遊び終えると妖精達に留守番を頼んだ。例によってサムズアップしてくれる2体の妖精。
「タロウ、リンネ、山の街に行くぞ」
「ガウ」
「行くぞ、なのです」
まずはマップクエストをやっちまおう。俺たちは山の街のギルド内にある転送盤に飛ぶとギルドの中を抜けて市内に出た。まだプレイヤーの数は多くはないがそれでも街を歩くと彼らを見かける。すれ違い際にお互いに軽く手を合わせて挨拶するのがいいよね。
カルデラの街なので空からは陽の光が差し込んでいて明るい。その中をメインストリートから路地を歩き回ってようやくマップクエストが終わったのはその日の夕刻だった。クエストを達成したことでマッピングが完成した。これでOKだ。




