久しぶりの釣り
ログインして畑仕事が終わるとランとリーファがタロウやリンネと一緒に庭やビニールハウスの中で遊びはじめた。この時間は従魔達の時間だ。俺は縁側に座ってのんびりと彼らが遊んでいるのを見ている。
しばらくすると満足した様で4体の従魔達が集まってきた。
「いっぱい遊んだか?」
そう聞くとランとリーファはサムズアップをして答え、タロウとリンネも尻尾を振って応えてくれる。
「ランとリーファにはお留守番をしてもらって俺たちは外に水牛を倒しに行くぞ」
「行くぞ、なのです」
「ガウ」
戦闘となると気合いが入る2体。渓谷の街のギルド経由で渓谷の小屋に飛ぶと、そこには多くのプレイヤー達が椅子に座って談笑していた。小屋の中にはケンが作った木彫りのフクロウや俺が作った従魔の置物がそのまま置かれている。特定のプレイヤーの作品を置いていることに対して文句を言ったプレイヤーは今のところはいないと言うことでいいのかな?
プレイヤー達の視線を浴びながら小屋から出るとタロウの背中に乗って一気に3つ目のセーフゾーンを目指す。セーフゾーンに着くとそこには2組程プレイヤーがいた。タロウから降りるとリンネは俺の頭の上に飛び乗ってきた。俺がタロウに乗って移動していることはすっかり有名になっているのでそれについては何も言ってこない。
「こんにちはなのです。お邪魔するのです」
「ガウガウ」
「こんにちは」
セーフゾーンに入るなりリンネとタロウが挨拶をする。うん、挨拶は大事だぞ。リンネの挨拶を聞いたその場にいる女性プレイヤーが可愛いわね、なんて言っている。
「こんにちは。タク達もレベルあげかい?」
「そうなんだよ。次の街は50にならないと入れないらしいからね」
彼らは2組ともレベル48で俺と同じだ。昨日、今日とここでログアウト、ログインをして経験値を稼いでいるらしい。神魂石もそれなりにドロップするのでモチベーションが上がるなんて話をしている。装備を強化し、レベルを上げることで山の街に入れるプレイヤーが多くなるんだろう。装備の強化は終わったのかと聞かれたので終わったよと答える。彼らはまだ全員の強化が終わっていないらしい。
「だからレベル上げと強化石集めの2つを同時にやってるんだよ。印章も手に入るしね」
「なるほど」
確かに印章もドロップしている。この先でまた印章を使うNM戦があるんだろう。
少し話をしてから俺たちは先にセーフゾーンの外に出る。あまりのんびりとしてもいられない。外に出てレベル50の水牛を相手に経験値を稼いで3時間ほどしたところでレベルが49に上がった。
「主、もう少しで50なのです。このまま50になるまで頑張るのです」
レベルが上がって嬉しいのかタロウもリンネも尻尾をブンブンと振り回している。
「いやいや、そう簡単じゃないぞ。もう少ししたら今日は自宅に戻るからな。明日またここに来て頑張ろう」
「ガウ」
「分かったのです。もう少し黒い牛さんを倒してからお家に帰るのです」
「そうだ」
物分かりの良いリンネとタロウをしっかりと撫で回してから草原で水牛を倒し続けた俺たち。この日は緑と青の神魂石をゲットできた。
自宅に戻ると窯業だ。従魔の置物や他の食器なども作って端末に収納していく。バザールでは一時ほどではないけど、それでも相変わらず売れているんだよ。嬉しいんだけど、だからこそ完売で欲しい人が買うことができないという状況を早く脱したい。
俺が工房で焼き物を作っているのを邪魔にならない場所から見ている4体の従魔達。相変わらず飽きないらしい。
「いつ見ても完璧なのです」
「うん、安定しているな。これなら問題なさそうだよ」
「ガウ」
「タロウがたくさん作って大金持ちになるんだと言っているのです。リンネもそう思うのです」
確かにバザールでの売り上げでかなりの金額が貯まっている。それ以外に農業でも安定した収入がある。貧乏よりはずっと嬉しいんだけど、使い道がないので貯まっていく一方だよ。買うとしても合成用の原料の土や釉薬、それと農業の種や苗木くらいだしな。
その内に新しい武器とか防具、別宅などでお金が掛かる事が多くなるだろうと思っている。
合成が終わるとログアウトまでにはまだ時間がある。俺はタロウとリンネと一緒に渓谷の街に飛んだ。街の中を歩いていると頭の上からリンネが聞いてきた。
「主はどちらに向かっているのです?」
「うん、釣りをしようと思ってね」
釣りと聞いて隣を歩いているタロウは大きな身体を寄せてくる。リンネも頭の上で尻尾をブンブンと振り回す。
「お魚さんを釣るのです」
「釣れるといいけどな」
久しぶりの釣りになる。感覚を覚えているといいけど。この街の釣り場は釣りギルドから聞いている。北門を出たところを流れている川の東側だ。門を出ると川沿いを右に進んでいく。羊の魔獣がいるかなと思っていたけど、経験値稼ぎのパーティが複数組いた。どうやら彼らが羊を狩っている様だ。これなら背後を気にしなくても安心だよ。
「ここでやろう」
門を出て東に少し歩いたところに、草が生えていない場所があった。
「やろう。なのです」
場所を決めるとタロウとリンネがその場に腰を下ろす。川は船を浮かべる程深くなく、川幅もそれほど広い訳ではないので河岸に立ってそこから竿を振った。
「釣れるかな」
「間違いなく釣れるのです」
「ガウ」
タロウもリンネも楽観的だからな。と思っているとすぐにヒットした。竿を引き上げると15センチほどの魚が釣れた。魚が釣れるとタロウもリンネも大喜びしてくれる。
「お魚さんが釣れたのです」
「ガウガウ!」
「この調子でガンガン釣るぞ」
「主、釣るぞ、なのです。頑張るのです」
その後も5分と開けずに魚が釣れる。周囲を見ても釣りをしているのは俺たちだけだ。1時間ほどで持参しているバケツがあっという間に魚でいっぱいになった。まるで入れ食い状態だったよ。
「大漁なのです」
「ガウ」
バケツの中の魚を見て大喜びしているタロウとリンネ。俺も久しぶりの釣りだったけどたくさん釣れたのでテンションが上がるよ。
渓谷の街に戻って、北門の近くにある釣りギルドに顔をだしてギルマスのマヌエラさんにバケツの中に入ってる魚を見せた。
「沢山釣ったね。いい腕してるじゃないの。市内のレストランで出せる魚ばかりだよ」
「主は釣りも一番なのです。水の街でレインボーフィッシュも吊り上げているのです」
リンネが言うとあのレインボーフィッシュを釣り上げたのはタクだったのかいと言われた。水の街にある釣りギルドから聞いていたそうだ。
「それなら納得だよ。それでこの魚は全てギルドで買い取ってあげようか?」
「お願いします」
バケツいっぱいの魚を買い取ってもらった俺たちは釣りギルドを出ると自宅に戻ってきた。ログアウトするまでの間、4体の従魔達と一緒に過ごす。今日は結構中身の濃い活動をした日だよ。最後にこうしてリラックスするのがちょうどよいクールダウンになるな。
「主、レベルが50になったら新しい街の中に入れるのです?」
縁側に座っている俺の膝の上に乗っているリンネが聞いてきた。タロウは俺の隣で横になっていてランとリーファはそのタロウの背中に座って羽根をゆっくりと動かしている。
「そうだ。もう少しで新しい街に行ける様になるぞ」
「新しい場所で敵をたくさんぶっ倒してやるのです」
「ガウガウ」
相変わらずこの2体は過激だ。山の街という名前からは街の様子の想像がつかない。ドワーフが多いって話だから洞窟があちこちに伸びている街なんだろうか。
「新しい街はどんな街なんだろうな」
「楽しみなのです」
リンネはそう言い、タロウは横になりながら尻尾を振っている。
いろんな事を想像するのが楽しいとも言える。そして大主様、リンネのお父さんが言っている新しいエリアの話だ。おそらく山の街を起点にして奥に進むとあるのだろう。次に挑戦するって言い方をしていたから山の街の次は新しい街というよりは新しいエリアの気がする。
他のプレイヤーも順次新しい街に到達しているという話だし、明日は農作業が終わったら外に出て頑張ってみるかな。早ければ明後日くらいにレベル50に到達できるかもしれないな。明日からは山の街の門の近くでレベル上げをしよう。
しっかりリラックスしてからこの日のゲームを終えた。
 




