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主は力を溜めているのです

 その後も午前は自宅、午後はフィールドというパターンでゲームをしていると俺達のレベルが48に上がった。そして情報クランと攻略クランはレベル50になって新しい街、山の街に無事に辿り着いたという連絡が来た。

 

 クラリアやトミーからは新しい街の情報は要る?と聞かれたがそれはお断りしている。やっぱり自分の目で見て、色々と探したいもの。街がどうなっているのか、強化屋はあるのか、それとも武器、防具屋は復活しているのか。テイマーギルドは? 自分で街を歩いて確認するのが楽しみなんだよ。


 今までは街に入るのにレベル制限がなかったので彼らと一緒に行動をしていたけど今度の街は50以下では入れない。となると今回は俺と従魔達だけでレベルを上げて街に入って、それから街の様子を見ようと思っている。今回は事前知識は不要だ。


 バザールで従魔の置き物を含む出品した商品を完売した翌日の夕方、久しぶりにいつもの4人が自宅にやってきた。最近は別行動が多かったので4人と会うのも久しぶりだよ。


 マリアはタロウと会う時間が無かったのか、家に来るなり庭でタロウを撫で回して遊びまわっている。他の3人と俺は縁側に座り、リンネは俺の頭の上に乗った。ランとリーファは今日は精霊の木の枝に並んで座って同じリズムで身体を左右にゆらせていた。歌でも歌っているのかな。


 リンネも久しぶりに4人と会うので尻尾を振って嬉しそうだ。


「お久しぶりなのです。もっとたくさん主のお家に来ていいのです」


「本当だね。しばらく来なかったからね、ごめんね」


 4人を代表してクラリアがリンネに言った。


「リンネじゃないけど久しぶりだね」


 縁側に座った4人にお茶と梨を出した俺が言うとその通り随分とご無沙汰だったなと言う4人。


 彼らは渓谷の街の小屋から北を毎日の様に探索していたからな。いちいち街に戻ることもしなかったのだろう。戻るのは転移の腕輪でいけるがまた奥に進むのに平原を歩いていかないといけない。タロウに乗って狩場までひとっ飛びの俺たちと違って効率が悪い。


 情報クランや攻略クランの連中も俺の申し入れを理解してくれているので街の中の様子については教えてこない。ただ、彼らが街に入った数日後には別のプレイヤー達も無事に街に入ってきたそうだ。48、49のレベルのプレイヤーはそこそこいるのでこれから山の街も賑やかになるだろうと言っている。


「タクはレベル48か、50が見えてきたな」


 スタンリーが言った。フレンドなら端末を見て相手のレベルが表示されている。Unknown の設定にすると居場所やレベルなどの情報を隠せるが俺は面倒くさいのもあってオープンにしたままだ。


「インしている時は午前中は合成、午後は外という活動だからね。まぁ急ぐつもりはないので50になるのはもう少し先になるだろうね」


 情報クランは新しい街について一通りの調査も終わり、その内容を販売しているそうだ。もちろん俺は買うつもりはない。クラリアらはその仕事が落ち着いたので森の精霊のバンダナ狙いで木のダンジョンの攻略を再開すると言っている。


「途中まで攻略してその後放置してたからね。神魂石で強化した上にさらにステータスをプラスできるバンダナは狙っているプレイヤーが多いの。私たちもそのバンダナ狙いよ」


 確かに超が付く優秀な装備なのは間違いないよ。攻略クランも2つ目を狙っているらしい。一度クリアすると攻略情報がリセットされるものの、フロアの様子についてはわかっているので面倒くさいだけで最初よりは短時間で攻略できるだろうと言う。


「面倒くさいが、それでもバンダナの為にやる価値がある。それくらい優れた装備だよ」


 スタンリーが言うとその通りだと言う他の3人。もちろん俺もそう思う。ジョブを選ばずに使える装備は他にないんじゃないかな。


「タクの焼き物はバザールで売れてるの?」


「おかげ様でよく売れてるんだよ」


 聞いてきたマリアに顔を向けて答えていると、それまで黙って俺の頭の上に乗っていたリンネ。


「主の焼き物は大人気なのです。いつも早めに店じまいなのです」


「従魔の置き物は相変わらず人気なのね」


 マリアのその言葉で思い出した。俺は立ち上がると洋室のテーブルの上から木彫りのタロウとリンネの置物を手に取ると縁側にいる4人の前に置いた。


「これは見事ね」


「よく出来ているな」


 4人が手に取っては感心しているよ。モデルになっているタロウとリンネも尻尾をブンブンと振っている。


「タクって木工スキルも高かったの?」


 最後に置物を手に持っていたクラリアが俺に2つの置物を返しつつ聞いてきた。


「違うんだよ。これは木工のマイスターのケンが作ってくれたんだよ」


「ケンの作か。通りで」


 俺の言葉で皆納得した表情になったよ。


 バザールでフクロウの彫り物を展示してから、ケンの名前はプレイヤーの中で広まっている。そのフクロウも平原の小屋にあるし、今では有名人の1人らしい。俺はバザールで知り合ってフレンド交換をしたケンが家に遊びに来た時に持ってきてくれたんだよと言った。


「タロウとリンネにそっくりなのです。主の焼き物の次に上手に作っているのです」


 頭から膝の上に降りていたリンネがその場でミーアキャットポーズになって4人に顔を向けて言った。相変わらず俺が一番らしい。


「リンネ、焼き物と木工とはジャンルが違うぞ」


「知っているのです。それでも主が一番なのです」


「ガウガウ」


 俺が言っても譲らないリンネ。タロウまでそうだそうだと言わんばかりに吠えている。


「リンネちゃんとタロウちゃんにとったらタクがいつも一番なのよね」


「当然なのです」


「ガウ」


 マリアの言葉にきっぱり言い切るリンネとタロウ。相変わらず俺に対する評価が高い。これはおそらく従魔と俺との親密度も関連していると思うんだよな。


 ひとしきりマイスターのケンの話が終わると第二陣、第三陣の話になった。第二陣の先頭集団は土の街に到着しているらしい。ただ25装備がないとボス戦はもちろん、その後の渓谷のエリアでの活動も非常に厳しいということが知れ渡っているのでとりあえず第二陣の先行組も土の街には来ているがまだボス戦に挑戦、クリアするまでには至っていない。大部分のプレイヤーは水の街や森小屋周辺で経験値と金策をしているのだと教えてくれた。


「慌てて渓谷の街に来てもそこで苦労するのは見えているからね」


「第二陣の人たちも神魂石は手に入れているの?」


「採掘からは出ているので手にしているプレイヤーもいるみたい。でも数は少ないわよ」


 俺たちはキャンペーンのNM戦で神魂石を手に入れることができたが第二陣、第三陣はNM戦はできていない。仮にできたとしてもレベルが足りなくて勝てないだろう。なので運営は第三の鍵のNM戦でのドロップを強化石とベニーだけにしたんじゃないかというのが目の前にいる4人の推測だ。フィールドに出る宝箱や経験値増は全てのプレイヤーに平等になっている。


「第5層の鍵のNM戦だけは別ね。あのトリガーの入手方法は特別だったでしょ?だから石とお金以外に角や引換券が出たのよ」


 なるほど。


「第二、第三陣もここで上級レベル45を倒せる様になったら神魂石が手に入りやすくなる。運営が彼らを蔑ろにしているとは思えない」


 俺もそう思う。ただ45の敵を倒すまで強化がなかなか進まないという事はしないだろう。新たにキャンペーンか何かがあって調整するかもしれないな。俺がそんなことを考えているとクラリアが言った。


「あとはバザールね。神魂石をバザールで売りに出す人もいると思うわよ」

 

 ああ、それがあったか。お金は掛かるが強化はできる。第一陣だけで1万人以上いるんだ。石を売る人もいるんだろうな。


 情報クランと攻略クランは明日からまた新しい山の街とその周辺の探索をするそうだ。


「タクも50になって街に来られる様になったら連絡してくれるかい?」


「もちろん、その時は連絡するよ」


 トミーにそう返事をすると膝の上のリンネが起き上がった。


「主は今は力を貯めているのです。もう直ぐ力が爆発して一番になるのです。皆楽しみに待つのです」


「そりゃ楽しみだ。タクの爆発を待ってるよ」


 スタンリーが言って皆が笑った。リンネだけは待つとよいのですなんて言っている。


 彼らが自宅から出て行ったあとで俺はタロウやリンネに言った。


「爆発については何とも言えないけど明日からまた午前中はこの家で仕事をして、午後から街の外に出るからよろしく頼むぞ。目標はレベル50だ」


「ガウ」


「任せるのです。タロウとリンネで黒い牛さんを沢山ぶっ倒してやるのです」


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