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マイスターがやってきた


 畑仕事をし、農業ギルドに納品を終えた足でテイマーギルドに顔を出した。レベルが46になってもテイマーギルドの対応に変化はなかった。『特別引換券』はこの街じゃなくて次の街以降で使えるものだという可能性が高くなったよ。


 それにしても名前からだと何と交換できるのか全く想像がつかない。


「主が難しそうな顔をしているのです」


 畑仕事が終わり、縁側に座って考えていると庭で遊んでいた4体の従魔達が寄ってきた。ランとリーファは俺の両肩に止まり、タロウは縁側の前の地面の上に後ろ足すわりをしている。リンネは地面から縁側に上がるとそう言ってから俺の膝の間でゴロンと横になった。


「考え事をしていたんだよ。試練の塔の強いミノタウルスを倒した時に手に入れた特別引換券ってのは何と交換できるのかなって」


 膝の上にいるリンネを撫でながら答える。撫でられると7本の尻尾を振って嬉しそうだ。


「きっと良い物と交換できるのです。お楽しみなのです」


「ガウ」


 リンネが言うとタロウが吠え、ランとリーファは肩から飛び上がると俺の前でサムズアップをしてまた肩に乗った。


「そうだな。楽しみにしておこう」


 俺はリンネを膝の上から縁側に下ろしてから立ち上がるとエプロンを身につけた。それを見ていた従魔達。尻尾や羽根を振りながら後をついて工房に入ってくる。


 最近は合成と言っても焼き物ばかり作っている気がするがバザールで従魔達の置き物が好評で毎回買えない人が出ているので、まずは欲しい人には行き渡る様に数を作ろうと思っている。落ち着いたら焼き物以外の合成もやるつもりだよ。


 出来上がった焼き物を窯から取り出して棚に並べている時に端末が鳴った。


「主、お電話なのです」


「分かった」


 焼き物を置いて端末を手に取ると通話の相手はケンだった。丸太にフクロウの彫刻を彫った木工のマイスターの彼だ。


「フレンドリストを見たら開拓者の街にいるって分かったから電話したんだよ。今からタクの工房にお邪魔してもいいかな?」


「もちろん」


 通話を切るとそばにいる従魔達に顔を向ける。


「タロウとリンネはバザールや渓谷の小屋で太い木にフクロウを彫った作品を見ただろう?あの作品を作った彼が今からここにやってくる」


「ガウガウ」


「歓迎するとタロウが言っているのです。主の広い家をお友達に見せるのです」


 ランとリーファもサムズアップしている。全員が歓迎しているみたいだな。工房から自宅の縁側に戻ったタイミングでミントの声がした。


『自宅に入る許可を求めているプレイヤーが1人います』


「うん。許可を出していいよ」


 直ぐに庭に狩人の装備のケンがやってきた。タロウとリンネも彼とはバザールで会っている。タロウはケンを見て尻尾をブンブンと振っているし、頭の上に乗っているリンネ7本の尻尾を振っている。首の後ろがくすぐったいからわかるんだよね。


「これが噂のタクの自宅と畑か。いや聞いているよりもずっと広くて大きいな」


 自宅と畑を交互に見ながらケンが近づいてきた。


「主のお家は広いのです。ゆっくりすると良いのです」


「ガウ」


「タロウとリンネは知ってるよね。妖精達を紹介するよ。茶色い方が土の妖精のラン、緑の妖精が木の妖精のリーファ。農作業のプロなんだよ」


 俺が紹介すると2体の妖精が俺の肩の上に乗ってそのままサムズアップする。


「噂の妖精さん達だな。もう1人妖精をテイムしたプレイヤーがいるよね」


 第二陣のカレンの事だ。


「カレンというプレイヤーだね。彼女の妖精は木の妖精だよ」


「妖精って農作業のプロだよね。俺の従魔は最初の始まりの街で手に入れたスライムのままなんだよ。でもこっちの合成スキルが上がるとそれに合わせてスライムのレベルも上がるから助かっているんだ」


 従魔だからプレイヤーのスキルに合わせて上昇して合成の手助けになっているそうだ。


「うちの畑の倍以上の広さがあるな。そうそうこれ、お土産」


 自宅の前の畑とビニールハウスを見ながらケンが言い、端末から取り出したのはタロウとリンネの木彫りの置き物だった。色はついていないが見事な出来栄えだよ。誰が見てもタロウとリンネだよ。すごいよ。


「タロウとリンネなのです。すごいのです そっくりなのです」


「ガウ!」


 2体の従魔は木彫りの置物を見て大喜びしている。


「これ、もらっていいのかい?」


 もちろん。ケンは今度妖精たちの木彫りを作ってくるよと言ってランとリーファのサムズアップを受けている。これは家の洋室のテーブルの上に置こう。


「ケンは畑は材料置き場にしてるんだっけ?」


 俺がいうとその通り、ただもう少し広くしたいと考えているんだと言う。木材を置く場所がだんだん狭くなってきているらしい。工房を見たいというので自宅の隣にある工房に足を向ける。中に入ると工房の広さと大きな窯を見てすごいなと声をあげた。

 

「ここで従魔達の置き物を焼いているのか」


「主は焼き物を作る名人なのです」

 

 4体の従魔達も俺たちと一緒に工房に入ってきている。俺の頭の上に乗っているリンネが言った。タロウも隣でガウガウと吠えている。


「想像していた以上に本格的な窯になっているんだな」


「でもゲーム仕様になってるから焼きムラはないし割れる事もない。焼成時間も短い。なんちゃって窯業だよ」


「それでも従魔の置き物は精巧にできているじゃない。これは見事だよ。売れに売れているって聞いているけど納得だね」


 棚に置かれている従魔達の焼き物を手に取って見ているケン。窯業と木工、ジャンルは違うけどマイスターに褒められると気分がいい。


 俺は木彫りのお礼にとバザールで売っている4体の従魔達の焼き物をケンに渡した。


「これって大人気の焼き物だろう?いいのか?」


「平気だよ。木彫りのお礼」


「ありがとう。実は俺もこれが欲しかったんだよ」


 と言っている。気に入ってくれたみたいでよかった。


 一通り工房を見ると庭に出た。


「そうそう、これも見たかったんだよ。こうして見ると上手く出来てるね」


 彼が見ているのは妖精達用に作った小さな木の舟だ。ランとリーファがサービスとばかり船に並んで座った。穏やかな川の流れに合わせて小さな船がゆっくりと揺れている。


「公式の配信でこれを見てね、それで俺もゲームに関係のない何かを作ろうと思って物作りを始めたんだよ」


 揺れている小舟を見ながらそう言ったケン。彼によると自分と同じ様に公式で配信されたタクの小舟を見てアクセサリーや小物を作り始めた合成職人が結構いるらしい。そしてバザールが始まって自分たちのモチベが上がっているそうだ。


「このゲームは攻略だけじゃなくていろんな楽しみ方がある。自分は平日にインする時間が不定期でね。誰かとパーティを組んだり、クランに入って活動したりすることが難しいんだよ。でも合成ならやりたい時に1人でできる。元々物作りが好きだったからこのゲームを楽しんでいるよ」


 楽しむのが一番だよな。自分もソロでまったりやっているんだよと言うと、まったりと言っている割には要所要所で顔を出してるよな。と言われてしまったよ。


「主は合成も戦闘も一番なのです」


「ガウガウ」


 おいおい、よしてくれよ。


 俺たちは自宅に戻ると縁側に座る。畑で採れたお茶とイチゴを出すと一口食べたケンは美味い!と声を出してくれた。


「妖精達が頑張ってるからね」


「バザールでは売らないのかい?この味なら間違いなく売れると思うけど」


 そう言ったので農業ギルドとの話し合いで売らないことに決めたんだよと言うとなるほどと納得してくれる。


「NPCとの好感度だっけ?それもゲーム攻略の大事な要素らしいからね」


「それもあるけど普段から農産物を買い取ってくれているギルドにはお世話になっているし、そこのギルドマスターから言われたら売れないよ」


 お茶を飲みながら話をすると、ケンはあのバザールでの木彫りのフクロウの置き物を展示してから、プレイヤーから注文がひっきりなしに来ているそうだ。自分がテイムしている従魔だったりログハウス風の木彫りの置き物の作成依頼だったり。1人でやっているので2、3ヶ月待ってもらうという条件で仕事を受けているそうだ。


「こっちも朝から晩まで工房にこもっている訳じゃないしね」


「上級ジョブは取ってないんだろう?」


「今ちまちまと最初の試練をこなしているところだよ」


 2,200体の魔獣を倒せというお題を受けていて半分ちょっとクリアしたところだそうだ。


「合成好きなプレイヤーでクランを作っているんだよ。その連中の中には俺みたいにパーティを組まずにソロでプレイしている人がいてね、その中にはまだ上級ジョブに転換していないソロのプレイヤーもいるんで、その連中と少しずつ試練を進めているんだ」


 そういえば以前クラリアかマリアが合成好きな人が集まってクランを作っているって言っていたのを思い出したよ。自分はクランには入る気はないんだけど何名くらいのメンバーがいるのかと聞いてみたら1,000名以上いるらしい。常時活動しているのはその半分以下だそうだ。多いな。


「クランと言っても特に集まって何かをやる訳じゃない。合成クランの掲示板ってのがあってそこで合成に関する情報交換をしているんだ」


 攻略系の掲示板じゃないからスレッドの進行スピードもゆっくりしていて、それが自分にはちょうどいいんだと言っている。


 皆それぞれのスタイルでゲームを楽しんでいるんだな。

 その後も少し話をして、別れ際に彼が今度は自分の家にも来てくれと言って帰っていった。


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