皆で隠れ里に行こう
翌日俺たちが東屋に着くとクラリアとトミーが既に来ていた。すぐにスタンリーとマリアもやってきた。
「遅れたかな?」
「いや、まだ9時になってない。問題ないな」
「皆揃ったから行こうか」
俺が言うと頭の上からレッツゴーなのですという声がした。
隠し扉を抜けて坑道を歩いていくと出口のところにユズさんが立っていた。それを見てリンネが俺の頭の上から地面に飛び降りる。
「こんにちは」
俺たちが挨拶をし、タロウがガウと吠え、リンネがこんにちはなのです。と挨拶をするとユズさんがしゃがんでリンネの頭を撫で回す。
「こんにちは。リンネちゃん、お父さんとお母さんがお待ちですよ」
「主、リンネは先に参るのです」
「うん、行ってこい」
「はいなのです」
と村の奥にある神社に向かって駆け出していった。残った俺たちはそのままユズさんと一緒に村長の自宅にお邪魔する。いつもの通りにお茶とイチゴのお土産を渡してから村長さんと話をした。俺は月に1度お邪魔しているが他の4人は久しぶりだ。
村長のクルスさんと娘さんのユズさん、こっちは5人とタロウだ。タロウは庭で横になってるけど。
「プレイヤーの方はあちこちを開拓していく。大変ですね」
「楽しみながらやっていますから」
村長とそんなやりとりをした後で俺たちは祠にお参りすることにする。村長は当然だけど新しいエリアや街に関する情報は持っていなかった。だからと言って最初から祠だけに行くというわけにはいかないよね。この村の長なんだから挨拶はしないと。
村長への挨拶が終わった俺たちは村の奥にある大主様、リンネの両親がいる祠に足を向けた。参道を歩いていると向こうからリンネが走ってきてジャンプ一番俺の頭の上に飛び乗ってきた。
「両親には挨拶をしたかい?」
「したのです。父上も母上も主とお友達が来るのを待っているのです」
俺たち5人と2体の獣魔は参道を歩いて祠に続く階段を登っていくと登った先にある鳥居の奥にある祠の前で2体の九尾狐が俺たちを待っていた。リンネの両親だ。俺は1ヶ月に1度はこの村にきているので1ヶ月ぶりだけど他の4人は随分と久しぶりになる。
俺は最初にこの祠にもお茶と梨とイチゴをお供えした。これはいつもの儀式だよ。
リンネの両親がありがとうとお礼を言ってくれた。俺の頭の上に乗っているリンネは7本の尻尾をブンブンと振り回している。自分達で作った果物だものな。
「おひさしぶりです」
お供えが終わるとクラリアが代表して言った。
「タク以外の皆とは久しぶりになるの。見る限り元気そうでなにより」
ゲームの仕様なんだろう。1度会ったことは九尾狐の父親も母親も覚えているみたいだ。
「開拓は進んでいるの?」
母親が聞いてきたのでクラリアが自分たちの開拓状況を詳しく話をする。それを黙って聞いている両親。
「神魂石は以前タクに見せたことがある。それが新しいエリアで手に入る様になったのであればよかったではないか」
話を聞き終えると大主様が言った。
「その通りですね。採掘と強い敵を倒したら手にいれることができそうです」
「ところで大主様は渓谷のエリアについてはご存知なんですか?」
スタンリーが聞くと頷くリンネの両親。
「詳しくは知らぬ。聞いておるのは渓谷のエリアには強い敵が多く、生半可な気持ちだと次の街にたどり着かないだろうということだけだ」
やっぱり情報は教えてくれないか。一緒に来ている4人もここで情報が得られると期待していた訳じゃないだろう。大主様の話を頷きながら聞いている。
「この世界は広い。渓谷の街の先にもまだまだ世界が広がっておる」
「新しいエリアの事ですね」
クラリアが言うとそうだと頷く大主様。俺たちの話が終わるとリンネの両親がリンネに顔を向けた。
「リンネ、主をしっかりとお守りするんだぞ」
「そうよ。それが貴女の使命よ」
「はいなのです、父上、母上。主をしっかりお守りするのです」
リンネが言うとうんうんと頷く両親。そのやりとりを聞いている限りしばらくはリンネと一緒に旅を続けられそうだ。
俺たちはお礼を言って祠を後にした。
「久しぶりに隠れ里に来たけど落ち着く場所よね」
参道を歩いている時にマリアが言うとトミーやクラリアもその通りよねと言う。
「日本の原風景が再現されている。ひょっとしたらこれから先にあるエリアのどこかに日本に似た場所があるかもしれないな」
そう言ったスタンリー。今まではどちらかといえば日本にない風景の街ばかりだ。ファンタジーといえばそうなんだけど日本の江戸時代の様な街並みがあってもおかしくないよ。
参道を抜けた俺たちはキクさんがやっているコンビニに顔を出した。俺はいつもここでポーションとイチゴを渡して代わりに村の野菜をもらっている。
「いつもありがとうね」
キクさんはそう言い、これを持っていきなよと今日も沢山の農産物をくれた。いつもありがとうございます。
「ありがとうなのです」
俺がお礼を言うと頭の上からリンネもお礼を言った。
俺たちがキクさんとやりとりをしている間、4人は店の中の商品を見て回っている様で声が聞こえてくる。
「このポンチョ風の和風の上っ張り、前ここに来た時に買おうかどうしようか迷って結局買わなかったんだけど。今日は買うわよ」
気合いの入っているマリアの声だ。
「これいいわよね。私も買おうっと」
クラリアも買うと言っている。自宅というかオフィスというか、ゲームの中でのオフの時に着るそうだ。
スタンリーとトミーは棚に置かれている商品を見ている。
「このポーションはタクが作ったのかい?」
「全部じゃないと思うけど一部は多分そう」
「品質が高+になってるな」
そうなんだよね。錬金スキルも少しだけだけど上がっているんだよ。
「タクが持ってきてくれるポーションは品質が良いから村の人たちからの評判も良いんだよ」
スタンリーとトミーのやり取りが聞こえていたのかキクさんが言っている。村の人たちの役に立っているのならなによりだよ。
一通りキクさんの店を見た俺たちはお礼を言って店を出るとそのまま坑道を歩いて村の外に出た。そのまま近くにある東屋に腰を下ろす。隣にはタロウ、膝の上にはリンネが座っている。
「良い気分転換になったよ」
腰を下ろしたスタンリーが言った。他の3人も今日はありがとうとお礼を言う。お礼を言っている相手はリンネだ。
「お安いご用なのです。いつでもリンネのお里に来ていいのです」
「まだまだ広い世界があるってリンネちゃんのお父様が言ってたね。新エリアの事かな?」
「その可能性はあるぞ。山の街から奥に行くと新エリアになっている可能性があるな」
彼らによるとこの渓谷の街に来た時のレベルが上級25だ。山の街の奥の適性レベルが分からないがそこから上級50以上、レベルで25レベル以上も上がるとなると次のエリアになってもおかしくないと言うことらしい。
「渓谷の街は試練の街と違って街の数は少ないけど1つのエリアで街が2つというのは今までのエリアでもあったし不自然ではないわね」
「街は少ないが強化するという作業が入る。そしてレベルを上げるために必要な経験値も増えている。結果的に時間をかけさせている」
「それで山の街だ。やっぱりレベルを上げないと門が開かないんだろうな」
トミーが言うとそれしか考えられないと言う3人。4人のやりとりを聞いている俺もそれしか考えられない。じゃあレベル幾つなんだと聞かれたら困るけど。
情報クランはひょっとしたら時間で門が開いたり閉じたりするんじゃないかとも考えたらしいがプレイヤー全てがいつも長時間インしてる訳じゃない。リアルの事情でイン時間が限られている人もいるだろう。そんな中で開く時間と閉じる時間があれば行きたい時に行けない人が出てくる。運営だってその辺は理解しているはずだから時間管理はないという結論になったそうだ。
「こちらのレベルに合わせて門が開くとなると上級50は必要かもね」
「その可能性は高いが、レベルが上がるごとにチェックした方がいいだろう」
結局情報クランと攻略クランのメンバーがレベルが上がる度に門の前でチェックするしかないよなという結論になった。
これから転移の腕輪で渓谷の街に戻るという彼ら。俺たちは開拓者の街にある自宅に戻ることにする。
彼らと別れて転移の腕輪で自宅に戻った俺はランとリーファを肩に乗せて労ってやってからエプロンを身につけた。
「主はこれから焼き物作りなのです」
「その通りだよ」
工房に入ると後ろから従魔達4体が付いて入ってきた。
「何を作るのです?」
「まぁ見ててくれよ」
そう言って土を固めて作り始めたのはリンネの両親だ。途中から俺が何を作っているのかリンネとタロウは分かったのだろう。リンネが激しく尻尾を振っているのが目に入ってきた。
「これでどうだ?」
「父上と母上なのです」
俺が土を固めたのを見せるとリンネが大喜びだよ。タロウも尻尾をブンブンと振っている。
「そうだ、リンネの両親の焼き物を作るぞ」
2体の九尾狐の素焼きを終えると釉薬を塗って色をつける。時々端末を取り出してスクショを見ながら色目を調整し、塗り終えると窯の中に入れた。
取り出すと自分でもなかなかの出来栄えになった。リンネの両親がお互いに寄り添っているポーズだ。両親は尻尾が9本だ。それもしっかりと再現されている。
「いい感じだな」
「主はこれをどこに置くのです?」
出来上がった焼き物を見ているとリンネが聞いてきた。
「自宅の和室に置こうと思ってる」
「リンネのお里にも持って行くのです。父上と母上が喜んでくれるのです」
隠れ里にも持っていけと言うリンネ。分かったと俺は同じ物を3セット作った。次に隠れ里に顔を出す時に持っていこう。




