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街の入り口はあるが

 渓谷の小屋から北に広く伸びている草原で上級レベル45の水牛を相手にしていると自分たちのレベルが1つ上がって41になった。その間に赤の神魂石を1つゲットして忍装束の強化に使って装備の2段階目の強化ができた。あと赤い石が1つあればとりあえずは俺と従魔達の強化は完了だ。


 41になると45の水牛を倒すのも少し楽になったよ。討伐時間が短くなった。こうしてレベルが上がったことを実感できるとレベル上げのモチベが保てるよね。装束を強化してもそれが攻撃の時に反映される。当たり前と言えば当たり前だけど刀一振りのダメージが大きくなった。


 こんな感じでレベルを上げて経験値を稼ぐ日々を過ごしながらバザールには毎週日曜日に出店している。相変わらず従魔達の置き物は大人気だよ。トミーが言っていた様に公式の配信を見て買いに来たという女性プレイヤーもいた。そして彼女達は置き物を買い、タロウやリンネと一緒にスクショを撮って帰る。


「主、毎日バザールがあればすぐに大金持ちになれるのです」


 午後6時前に売り物が全部売れ、テーブルの上に何も無くなり、店じまいを始めたところでリンネが言った。隣でタロウもブンブンと尻尾を振っている。


「毎日バザールだったら焼き物を作る時間がないじゃないか。それにお前達だって外で魔獣を倒す時間もなくなっちゃうんだぞ。それでもいいのか?」


 俺がそう言うと尻尾を振っていた2体の獣魔達が尻尾と耳を垂らせて寂しそうになる。

 

「それは困るのです。タロウもリンネも魔獣をぶっ倒すのが大好きなのです」


「だろう?だったらバザールばかりって訳にはいかないよな」


「分かったのです」


「だから俺たちは今まで通りの生活を続ける。これでいいかな?」


 そう言うと再び尻尾をブンブンと振り回すタロウとリンネ。その2体を撫で回しているとスタンリーとトミーがやってきた。久しぶりに彼らと会った気がする。最近はインしてソロ活動ばっかりだったからな。


「この時間でもう完売か」


 何も置かれていないテーブルを見たトミーが言った。

 

「そうなんだよ。売る物が無くなっちゃったんで店じまいだよ」


「後でタクの自宅に邪魔していいか?マリアとクラリアも一緒だ」


 いつもの4人だ。


「主のお家に来ると良いのです。タロウとリンネとランとリーファがお手伝いをして作った美味しいお茶があるのです」


「なるほど。じゃあ美味しいお茶をいただきに行くよ」


 何の話か分からないが自宅に来ると言うので俺は早々に店じまいを終えると開拓者の街の中を歩いて自宅に戻り、お茶と梨を準備する。


 準備ができてしばらくするといつもの4人がやってきた。マリアは出迎えたタロウを撫で回し、リンネはいらっしゃいませなのですと俺の頭の上で言っている。ランとリーファは精霊の木の枝に座ったままサムズアップしていた。


「いや、しばらく会ってなかったからな。元気にしてるかなと思ってさ」


「ソロでちまちまとやってるよ」


「ちょっと行き詰まっててな。タクと話をすることで打開策が見つかるかもしれないと思ってな」


 スタンリーが言っているがいやいやのんびりとやっている俺に頼られても困る。俺がそういうと4人が冗談だよと笑った。いや、びっくりしたよ。本当は久しぶりにタクの自宅でお茶を飲みながら雑談をしたかったそうだ。それを聞いて安心したよ。彼らが自宅に来るのは何も問題ない。皆とはすっかり顔見知りなので従魔達もリラックスしている。


 全員が揃ってお茶を出すと、スタンリーがありがとうとお礼を言ってから実はなと言い始めた。


「昨日の話だけど、3つ目のセーフゾーンから2つのクランでアライアンスを組んで山裾を北に向かったんだよ。朝に出発して夕刻前にタクから聞いていた石の門があったんだが閉じられていて中に入れないんだ」


 ん?街の入り口が閉ざされていて街の中に入れない?俺がそう問い返すと4人が頷いた。


「人がいないの?」


「誰の姿も見えない。閉じられた石の門だけ。呼びかけてみたが何の反応もないのよ」


 そう言ったのはクラリアだ。ひょっとして俺は間違った情報を教えちゃった?


「セーフゾーンからの距離を見てもあそこが次の街の山の街の入り口である事は間違いないと思う。門が閉じられているのはこちらのレベルが足りないか、あるいは門を開けるために何かしなければならないか」


「ひょっとしたらアライアンスじゃダメなのかなって思ってその場でアライアンスを解消したんだけど同じだった。何も起こらないの」


 マリアも困った表情をしている。彼らは石の門を見つけた時はこれで次の街に着いたと思ったがまさかの門が開かないので戸惑っているそうだ。


「こちらのレベルが足りていないと言うのが一番可能性があると思うのよ。私たちのレベル45、一方で門の周辺にいる魔獣のレベルは50から51。普通だとそう簡単に来られるレベルじゃないしね」


 それにしても街に入れないというのは今までにない展開だよ。というか他のゲームでも聞いたことがないな。


「それにしてもいやらしいな」


 俺が言うと皆全くだとか本当よねとか言っている。


「まだレベルだと決まった訳じゃない。ひょっとしたらタクがトリガーNM戦でゲットした特別引換券かなとも思ったんだんがそれはないだろうというのがこの4人の結論だ」


 俺もそう思うよ。トリガーNM戦の景品が次の街に入るトリガーにはなり得ないでしょう。勝てるかどうか分からないNM戦だし、その前に第5層の鍵が入手できるかどうかも不透明だ。


 でもそうなると門が開くトリガーはレベル以外に何があるんだろう。彼らは2パーティ10名で門をくまなく見たんだけどスイッチの類は見つけられなかった。扉を調べていると日が暮れてきたので転移の腕輪で戻ってきたらしい。


「困っているのなら今から主が出向いて門を開けると良いのです」


 俺の膝の上でリラックスしているリンネが言った。


「行きたいけどまだ俺たちはレベルが高くないよ。それにもう夜じゃないか」


「問題ないのですタロウとリンネがしっかりと主をお守りするのです」


 相変わらずのリンネだよ。俺の横でゴロンと横になっているタロウもその姿勢のまま尻尾を振っているし。俺に期待してくれているのは嬉しいけどね。


 彼らは引き続きレベルを上げながら門をチェックするそうだ。攻略の先端を走っている彼らはそう言う事をするのが楽しいんだよと言っている。


「もちろん先駆者利益を狙っているというのもある。ただそれだけじゃないんだ。新しい、誰も知らない場所を開拓しているっていう気分は最高だよ」


 スタンリーが言っているが何度か彼らと一緒に攻略している俺もその気持ちはよく分かる。このゲームはそうやって攻略をやるもよし、他の事をやるもよし。やる事が多くて迷うくらいだ。


「今日のバザールでも神魂石が売られていたけど見たら販売価格が下がってたの」


 バザールの『その他』のカテゴリーのエリアは前回よりも多い数の店舗があって皆神魂石を売っていたそうだ。ただ45以上の敵を倒すと神魂石のドロップが上がるという情報が出回っていることからか販売価格は80万とか90万とか、100万を切ったところで売りに出ているらしい。


「これから上級レベル45の敵を倒すプレイヤーが多くなる。そうなるとますます石の値段が下がるだろう。売っているのはほとんどが採掘から石をゲットしたプレイヤーだよ」


 バナナの叩き売りじゃないけど石を今までよりも容易に手に入れられる様になるとバザールから購入する必要がなくなる。全く購入者がいなくなるとは思わないが価格が下がるのは当然だよね。ただ第2陣が渓谷の街にやってきたらまた増えるかもしれない。。強化すれば強くなるのは分かってるから手っ取り早く強化したいと考えるプレイヤーもいるだろう。


「タクの言う可能性もあるよな。いずれにしても需要と供給のバランスだよ」


 その第2陣は多くが水の街に到達してそこでレベル上げをしているが中にはすでに森小屋までやってきたプレイヤーもいるそうだ。情報クランによればまもなく土の街に着くだろうと言う事だ。


「寄り道せずにまっすぐにくればそれくらいかな。聞いたら印章NM戦とか木のダンジョンの攻略をせずにまずは土の街を目指している見たい。そこでレベルを上げてからNM戦やダンジョンを考えているみたいよ。ただレベルは上がっているけど25装備を買う資金はないみたいね」


 情報クランとして第2陣の情報も集めているそうだ。もちろん第2陣の中でクエストをこなしたりダンジョンやNM戦に挑戦しているプレイヤーもいる。


「金策やクエストもゲームの楽しみ方だよ」


「どんな形であってもゲームを楽しむのが一番よね」


 トミーやクラリアの言う通りだよ。


「明日からまた平原でレベル上げかい?」


「そのつもりだ。門が目の前にあるのに開かない。レベルを上げてどう変わるかというのを確かめるには経験値を稼ぐしかないからな」


 明日の午前中はフリーにしていて午後から外に出る予定だそうだ。タクはどうするんだ?とスタンリーが聞いてきた。


「明日はとりあえずリンネの村に行くつもりなんだ。それが終わってから俺も経験値稼ぎかな」


 俺が言うと膝の上で横になっているリンネがその場でミーアキャットスタイルになった。


「皆で一緒にリンネのお家に行ってもいいのです」


「そういえば長い間行ってないな」


 トミーが言うとクラリアもそうねと言いスタンリーとマリアもご無沙汰してると言う。リンネが良いと言うのなら何も問題ないね。


「そう言う事で明日は一緒にリンネの故郷にお邪魔するよ」


「ちょうど両クランとも明日の午前中はフリーだしね」


「そうそう。それに隠れ里に行くのも久しぶりだから楽しみね」


「歓迎するのです」


 明日の9時に隠れ里近くの東屋で集合するという事になった。



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