戦利品分配
自宅に戻るとランとリーファが寄ってきた。この2体はお留守番が多い。自宅にいるときはしっかりと面倒をみてやるよ。俺は両肩に妖精を乗せたままタロウに顔を向けた。
「タロウはさっきのミノタウロスのNM戦では王者の威圧を使わなかったが、相手が強くなかったと感じてたのかい?」
「ガウガウ」
尻尾を振りながらタロウが吠えると縁側に座っている俺の足元に体を寄せてきた。しっかりと撫でてやる。相変わらず甘えん坊なんだよな。
「タロウは主ががっちりと牛の人に向かっていたから使う必要がなかったと言っているのです。主に任せておけば安心なのです」
なるほど。そう言うことか。撫でながらありがとうな。そう言うと尻尾をブンブン振り回してくる。機嫌の良い証拠だ。リンネもタロウの背中の上から俺の膝の上に移動してきた。こっちもしっかりと撫でてやるよ。
しばらくするとNM戦に参加したメンバーが家にやってきた。早速タロウとリンネがお出迎えだ。マリアはタロウを撫でたそうだけどその前にやることがある。軽く撫でると縁側にやってくる。ランとリーファも庭の上を飛びながらメンバーを出迎えてくれる。全員揃うと洋室に入った。テーブルがあるからね。
「ワールドアナウンスがあったが、あのミノタウロスがキャンペーンのNM戦の最強の敵だったみたいだ。俺たちはそいつに勝ったんだぞ」
「「おおっ!」」
スタンリーの言葉に続いて全員が勝鬨を上げる。自宅だからいくら声を出しても大丈夫だよ。もちろん俺も勝鬨をあげたよ。
「じゃあテーブルの上にNM戦の戦利品を出すよ」
俺はそう言って端末に収納していた戦利品をテーブルに並べていく。ミノタウロスを倒して得られた戦利品は神魂石と角ともう一つあった。
赤の神魂石:4個
緑の神魂石:3個
茶の神魂石:3個
青の神魂石:3個
白の神魂石:4個
紫の神魂石:3個
全部で20個の神魂石が出た。テーブルの上に置くたびにおおっと声が出る。
「これだけじゃない。まだあるんだよ」
そう言って俺は端末からミノタウロスの角を2つ取り出してテーブルの上に置いた。AIのミントに聞いたら、これは高レベルで使う錬金の材料みたいだ。
「これがNM戦から出た戦利品?」
テーブルの上に置かれた神魂石と角を見ながらクラリアが言った。
「いや実はまだあと1つ出たんだけど譲渡不可、転売不可になっていて端末から取り出せないんだよ」
俺は端末をテーブルの上に置いた。そのモニター上には『特別引換券』というアイテムが表示されている。
「AIに聞いたら第5層のNM戦のドロップらしくて、これは第5層の鍵を持っていたプレイヤーが戦闘に勝利した報酬だそうなんだよ」
「特別引換券。何か凄そう」
「確かに。でも一体何がもらえるんだろう」
「今私のAIに聞いたらタクが言っていた通りだったわ。このアイテムはNM戦のトリガーを提供したプレイヤーのみが手にいれることができるアイテムだって。もちろん譲渡不可、転売不可だそうよ」
クラリアが言って皆がそんなアイテムがあったんだと言う。彼らは驚いているけど俺も同じだよ。AIから聞いた時にびっくりしたもの。
『特別引換券』周りの仲間たちも何だろうと言っているが自分でも全然想像がつかない。
「第5層の鍵を手に入れたのはタクだ。だからタクの端末にある。何の問題ないな。それでテーブルの上にある戦利品だけど、事前の取り決め通りにタクが欲しいのを好きなだけ取ってくれ、もちろん全部でも構わない」
「いやいや、全部は要らない。俺一人じゃ勝てないNMだったしね。それに何かわからないけど引換券も貰ってる。俺が欲しいのはこれかな」
赤の神魂石を4つ手に取った。これだけで十分だよ。周りから他は要らないのか?と聞かれたけどタロウもリンネも強化は終わってる。ランとリーファは農業のプロだから必要ない。欲しかったのは力が上がる赤の石だけだったんだよな。
「角は?売ったら高く売れるわよ」
クラリアが言ったが石を4つ貰っているからこれ以上は要らないと言うと残りをメンバーで分けていく。強化が済んでいるメンバーもいるが多くはまだ強化途中のメンバーなので彼ら優先で石を分配しているのを見ている俺。いつも思うけどこの両クランはアイテムの分配で揉めないんだよな。すごいよ。ミノタウロスの角は情報クランと攻略クランで1つずつ持つことになった。
「特別引換券が何だか分かったら教えてくれよな」
戦利品の分配が終わるとトミーがそう言った。
「もちろん。でも何なんだろうね。AIに聞いても教えてくれないんだよ。想像もつかないよ」
俺がそう言うと周りからまずどこで交換するんだろうと言う話になる。確かにそうだ。AIも教えてくれないし。どこに持ち込めばいいんだろう。片っ端から声かけるのか?いや、そんな仕様にはしていないはずだ。
「新しい従魔との交換だったりして?」
攻略クランのメンバーの女性が言った。なるほど。となるとテイマーギルドかな。
「あとでテイマーギルドに行ってみるよ」
俺がそう言うと皆そうしなよと言う。
「それ以外だと何が考えられる?」
俺はみんなに聞いた。
「NMに挑戦する権利と交換とか」
「それもあり得るな」
皆思い思いに口にしている。色んな考えあるんだなと聞いているだけで楽しいよ。
「前回は9割引きの券だっけ?」
「そう。だからこの家を買うことができたんだよ。今回はあまりに漠然としてるよな」
そう言いながらもそれを探すの事もゲームの楽しみだ。特別引換券だから良いものと交換してくれるだろう。そう思いたい。
特別引換券の話が終わったところでスタンリーが俺に顔を向けた。
「さっきのNM戦、タロウは王者の威圧を使わなかったよな」
「そう、タロウは使っていないんだ」
そう言ってから俺はさっきタロウから聞いた話を皆にする。
「確かにタクが途中から盾役を完璧にやってくれたよ。それにしても空蝉の術が有能すぎるな。ミノタウロスの斧の攻撃が全く効かなかったじゃないか」
「蝉はもちろんだけどタク、結構避けてたよな」
スタンリーの後でトミーが言うと俺の隣で盾をしていたジャックスやリック、そしてオズマとボルガの4人がその通りと言う。
「いくらモーションが大きいと言っても簡単に避けられるものじゃない。素早さを上げていたのと元々の忍の特性で避けまくってた。それに蝉がある。おかげでこっちはかなり楽をさせて貰ったよ」
そうジャックスが言った。
「ただ紙装甲だからね。直接攻撃を一度でも喰らったら死に戻り確定だよ。パラディンがガッチリやってくれるからサブ盾としては優秀だとは思うけどメイン盾になると厳しいんじゃないかな」
一度でも攻撃を喰らったら終わりというのではメインの盾は出来ない。俺はそう思っている。その点から見るとパラディンはやっぱり盾の専門ジョブなんだよな。何と言っても硬いもの。
キャンペーンは今日の夜12時までだ。明日からどうするんだという話になった。攻略クランのトップメンバーは平原の探索を再開するという。
「上級レベルが42になったから今までよりも遠方の探索が可能になる。次のセーフゾーンを探す旅にでるよ」
スタンリーが笑いながらそう言った。情報クランは平原の小屋のレイアウトの売り込みが結構来ているのでしばらくはクランとしてその作業をするそうだ。来週いっぱい申し込みを受け付けてその翌日から外部サイトにそれを載せて投票してもらうスケジュールを組んでいるのだと教えてくれた。
「タクはどうするんだ?」
トミーが聞いてきた。
「とりあえずこの1週間はレベル上げメイン、外での活動が多かった。明日からは今までのパターンに戻すよ。来週のバザール用に焼き物を作ったり畑の世話をしたり、もちろん少しは街の外にも出るけどね」
俺がそう言うと隣にいたタロウがしっぽを振って身体を寄せてくる。タロウは賛成みたいだな。リンネも俺の頭の上でのんびりするのです。なんて言ってくれている。
「キャンペーンが終わったらまた戦闘か採掘からでないと石が出ないのよね」
「今回のキャンペーンで俺たちもだけどプレイヤー全体で結構石が行き渡っているだろう。来週からバザールで個人で使わない石の出品があるかもしれないな」
「でもまだ総需要をカバーしてないはずだ。キャンペーンの後の石のドロップ率に変化があるかどうか確認しないといけないな」
「こっちのレベルが上がったことで今まで以上にレベルの高い水牛を相手にするだろう。強い敵からの方がドロップ率が高いんじゃないか」
「それも検証が必要だろう」
両クランの連中が話あっているのが聞こえてくる。彼らは奥の探索を進めつつ神魂石のドロップがどうなるかの検証もするのか。大変だな。でもそれが好きな連中の集まりがこの2つのクランだ。実際皆楽しそうに話をしているよ。
そろそろお暇しようという声で22名のプレイヤーが立ち上がった。
「タク、世話になったな。ありがとう」
次々と声をかけられる。その度にリンネが答えていたよ。
「問題ないのです。主のお家は広いのでいつ遊びに来てもいいのです」
「ガウガウ」
「その通りだよ。いつでも来てくれていいから。お疲れ様でした」
全員が家から出ていくと従魔達4体が縁側に座った俺の周りに集まってきた。
「今日は皆ありがとうな。明日からはいつも通りの生活をするぞ」
「するぞ。なのです。今日はお疲れ様でしたなのです」
リンネが言うと他のタロウは尻尾を振り、ランとリーファは俺の前で舞ってくれた。疲れたけどしっかりと癒されたよ。




