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始まりの街


 次に目の前が明るくなるとそこは部屋の中だった。

 このPWOでは最初の街に限りプレイヤーは冒険者ギルドの奥にある(という設定になっている)宿に無償で泊まれる。部屋はビジネスホテルのシングルルーム程度の広さで中にはベッドと机があるだけだ。バストイレは当然無い。


 次の街からはお金を払って宿に泊まる事になり、いずれは家なんかも借りられる様だがそれはずっと先の話だ。


 部屋の中で自分の恰好を見てみると初心者の服とズボンだけだ。武器は身に付けていない。


 部屋の扉を開けると一瞬の間をおいて始まりの街のギルド横に出てきた。出てきてから振り返るとそこには道の両端に2本のポールが立っていてどうやらそのポールの間を通ると自動的に部屋に戻り、部屋の扉を開けるとポールの間から出てくる仕様になっている様だ。見ているだけでも次々とプレイヤーが突然ポールの間から出てきて、そしてポールの向こうで消えていっている。


 顔を前に戻すと大きな通りには大勢の人が歩いていた。ローブやアーマーを着ているのはプレイヤーだろう。よく見ると通りを歩いている人の頭の上に小さな青い点が浮いている人がいる。どうやら彼らはNPCの様だ。


 目の前に広がる街並みは他のゲームと同じく中世のヨーロッパの世界観に基づいている。見慣れた景色だが作りこみが他のゲームと全然違う。滅茶苦茶リアルだ。


 凄いぞPWL。



『ここは始まりの街です。まずは冒険者登録をしましょう』


 綺麗な街並みを見ていると突然目の前の空間、視界の上の方に半透明のウィンドウが現れ、メッセージが表示された。

 と同時に脳内に声が聞こえてきた。


(私はタクさんをサポートするAIです)


 それを聞いてチュートリアルに書いてあったことを思い出した。プレイヤーをサポートすべく1人に1つAIが付くと。


(名前を付けて頂けますか?)


 AIに名前を付けることで親密度が増すらしいが、増してどうなるのかは分からない。分からないがとりあえず名づけだ。女性っぽい声だし、


「ミント。はどうかな?」


(ありがとうございます。ではこれからはミントとお呼びください)


「わかった。じゃあミント。とりあえず冒険者登録をするよ」


(タク。声に出さなくても脳内会話ができます)


 言われて周りを見てみるとくすくす笑っている人たちがいた。声に出していたのを聞かれていたらしい。


(わかった。ありがとう)


 そう言うとその場から逃げる様にしてギルドに向かう。隣だが。

 ポールの間から出てきた通りの真横が冒険者ギルドだった。両開きの扉を入ると中は思ったよりも広く大勢の冒険者が集まっていて彼らの声が聞こえてきた。


 これだよ、これ。活気があるし何よりもリアル感が半端ない。入り口から入って左側がホールになっていてそこにはテーブルが置かれ大勢のプレイヤーが座っては話をしている。ホールの右は掲示板になっており、クエスト一覧表とパーティメンバー募集掲示板があり、どちらの掲示板にも大勢の人が集まっていた。


「オースティンさんいますか?こちらヒーラーでパーティ参加希望です!」


「ジムさんいますか?僕は精霊士でパーティ参加希望します!」


 パーティ募集掲示板を見ているプレイヤーが自分に合うのを見つけると声を出し、その声を聞いた主催者が当人に近づいては左側の打ち合わせスペースに案内していく。


 なるほど、そう言うシステムになっているのか。


 大勢の人を横目に見ながら真っすぐに進むと正面に大きなカウンターがあり、向こう側に4名の受付嬢が座っているのが目に入ってきた。受付嬢は全員がNPCだ。


「いらっしゃいませ、どういった御用でしょうか」


 近づいていくと1人のNPCが立ち上がって聞いてきた。


「冒険者登録をお願いできますか?」


「はい。ではこちらにどうぞ」


 受付嬢に案内されてカウンターの横から奥に入ると小さな部屋に案内される。


「両手でこの水晶に触れてください」


 言われるままに水晶を包む様に両手で触ると一瞬水晶が光ってすぐに消えた


「ありがとうございます。名前はタクさん、ジョブは忍者ですね」


「その通り」


「冒険者ギルドに登録しました。これがギルドカードになります」


 そう言って受付嬢がギルドカードを渡してきた。カードには端末の機能がついているらしい。そのカードの表面は名前が記載されておりジョブの所には忍者LV1と書いてあった。見ていると受付嬢が言った。


「レベルは上がると自動的にカード上のレベルも更新されます」


 おそらく多くのプレイヤーが同じ質問をしてAIであるNPCが学習したのだろう。

 ありがとうとお礼を言うと早速クエストを受けられますか?と聞いてきた。


 聞くと市内のマップ作成があり、メインストリートを歩くだけで地図が作成できるらしい。街の地理を覚える為にもこれは受けて置くべきだろう。


「じゃあマップ作成をやろう」


「分かりました。受付でクエストを受けてください」


 受付カウンターに戻ってクエストを受けると脳内でピンポーンと音がして


(市内マップ作成のクエストを受けました。期限は24時間。報酬は500ベニーです)


 AIのミントが教えてくれる。


(500ベニーってどれくらいの貨幣価値があるんだ?)


 ギルドを出て通りを歩きながらミントに聞く。


(この街の平均的なレストランで昼食が50ベニー、夕食は100ベニーとなります。アルコール代は含んでいません)


 う~ん、1ベニーがおおよそ10円という感覚かな。マップ作成で5,000円程度か。このゲームの相場も確認しないとな。


 マップ作成は街の大通りを歩くだけで良いので楽だった。歩きながら武器屋や防具屋があれば顔を出してみる。刀は街の中にある複数の武器屋の全てで扱っていたがどの店の刀も同じで種類は1つしかなく価格も2本で2,000ベニーとこれもどの店も同じだった。防具についてはこの街では忍者専用の装束は売っていないらしい。他のジョブの防具は売っているのだが忍者の装備だけは無いらしい。武器は1種類、装備は売っていない。そしてその武器が弱い(らしい)という事でキャラを作り直しているプレイヤーがいるという話もなんとなくわかる。


 他のジョブであれば武器や杖は1本で良いので最低1,000ベニー貯めると買うことができるし、武器屋では数種類の武器や杖が売ってある。1,500や2,000ベニーと予算に合わせて武器を選ぶことができた。これは防具も同じだった。


 なぜか忍者だけがこの始まりの街での待遇が悪い。


 市内のマップ作成は大通りを歩いているだけで終わった。AIのミントから


(クエストが終了しました)


 という脳内アナウンスが来たのだ。通りを回れ右してギルドに戻り受付に近づくと受付嬢の方から


「クエストを終わられた様ですね。タクさんのカード端末に報酬を振り込んでおきました」


(冒険者カードに触れながらステータスと念じるとデータが表示されます)


 ミントが言う様にすると目の前に透明なウィンドウが立ち上がる。名前、ジョブ、レベル、それ以外に所持金という項目があり、その隣に500数字が表示されている。これが手持ちの金らしい。


 便利だと思っていると受付嬢の声がした。ウィンドウを閉じてそちらに顔を向ける。


「まだ時間がおありなら他のクエストも受けられますか?」

 

 そう言って受付嬢が勧めてきたのは市内の公園の清掃か薬草取りの2つだ。

 市内にいくつかある公園の清掃をすることで公園ごとに300ベニーの報酬が出る。一方薬草取りは薬草の品質や量にもよるが袋いっぱいで2,000から3,000ベニーの報酬が出るらしい。


 以前の自分ならノータイムで薬草取りの方を選ぶ。他のプレイヤーでも安い方のクエストをやる奴がいるとは思えない。


 ただ今回、このゲームではまったりすることに決めている。すでに初回購入者に比べて2ヶ月遅れだ。過去のゲームで先行組にいた自分だからわかる。2ヶ月の差はそう簡単に縮まらない。つまり相当廃人プレイをしても追いつけるかどうかという差がすでにある。初期組の中に廃人プレイをする先行組、攻略組の連中がいるのは間違いない。であれば無理することもなく今回はゆっくりとゲームを楽しんでみよう。


「じゃあ公園清掃のクエストを受けよう」


 それから3日をかけて市内にある6つの公園を清掃して1,800ベニーを手に入れてようやく刀が買えるベニーが貯まった。始まりの街にある6箇所の公園の全ての清掃はきついといえばきつかったがこれも武器購入のためだと思って頑張れたのと急いでいなかったというのが良かった。


 戦闘以外のクエストをするのも悪くないな。


 クエストの報告にギルドを訪れると受付嬢が、


「全ての公園の清掃をしてくださったのですね。ボーナスで500ベニーが追加されます」


「そりゃいいな」


 ギルドカードをかざして2,300ベニーを入金する。最初にもらった500ベニーの中から食費が出ていたので今の全財産は2,900ベニーだ。


 刀を2本買いにいくかと思っていると、


「あの」

 

 そう言って受付のNPCが声をかけてきた。



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― 新着の感想 ―
2300ベニーが入金され、現在の所持金が2200ベニー。100ベニーどこに消えた?借金扱い?
[気になる点] >なぜか忍者だけがこの始まりの街での待遇が悪い。 プレイヤー側がこれが強い弱い有能無能って評価するのはわかるけど、運営側がここまでやってるのはクソゲーでしょ。
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