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スキルを上げよう

 前日は丸1日渓谷の草原で経験値稼ぎをしたこともあり今日はスキル上げの日にする。


「今日はまずは坑道で採掘をするぞ。それから工房で合成だ」


 畑の見回りが終わって従魔達がしっかりと遊んで満足して自分の近くに集まったところで言った。ランとリーファはサムズアップをし、タロウは尻尾を振る。そしてリンネはと言うと、


「採掘の時はタロウとリンネが主を守るのです。主は安心して壁をトントンとやればいいのです」


 と言ってくれた。ただこれから行く坑道には魔獣がいないと思うんだよな。俺は自宅の倉庫から昼ごはんとして梨とりんごをいくつか端末に入れた。もちろん飲み物もだよ。


「それで主、どこに向かうのです?」


「渓谷の街だ」


 妖精に留守番を頼んだ俺たちは渓谷の街の別宅に飛んだ。いつもならここから街の中心部に向かうが今日は逆で山の方に足を向ける。山裾にはいくつか坑道がある。


 プレイヤーの多くは経験値稼ぎでフィールドに出ているだろうと思って坑道に来てみるとプレイヤーの姿はあるが比較的空いていた。うん、読み通りだよ。


「ここは魔獣は出ないからタロウもリンネもリラックスしてていいぞ」


「主のトントンを見るのです」


「ガウ」


 光っているところにツルハシを当てて鉄や亜鉛を採掘する。俺の狙いは鉱物じゃなくて採掘のスキル上げた。キャンペーンということで普段よりもスキルの上がりが早いよ。半日ほど壁にツルハシを下ろしてると採掘スキルが40になった。神魂石は採れなかったけど問題ないね。お昼過ぎまで坑道で採掘をした俺たちは坑道から出ると一度行っている別宅の奥の丘の上にある公園に足を向けた。公園に入って周りを見るとプレイヤーの姿がほとんど見えない。皆キャンペーンで忙しいのかな。いるのはNPCっぽい人達ばかりだ。家族連れのNPCも何組かいる。


 公園に入った時からタロウとその背中に乗っているリンネが俺の前を歩いていく。普段横にいるタロウが前を歩くのは何かあるんだろうとその後を付いていくと見晴らしの良い場所でタロウが立ち止まると尻尾を振りながら俺の方を振り返った。


「主、ここが良いのです」


「確かにここはいい場所だ。タロウ、リンネでかしたぞ」


 撫でてやると尻尾を振って喜んでくれる。もう立派な大人のフェンリルなんだけど仕草はまだまだ子供なんだよな。リンネももちろん撫でてやるよ。


 タロウが立ち止まったその場所からは渓谷の街の市内が一望でき、その先に流れている川から向こうまで見えてる。両側に聳えている高い山々の間に広がっている渓谷の街。青い空と頂上付近は万年雪をかぶっている山、そして山の中腹から裾に広がっている緑の絨毯。ゲームの世界だけど絶景だよ。いままで高い場所から街の全景を見下ろすことがなかったけどこれは綺麗だ。ずっと見ていられるな。


 俺が立って景色を見ていると後ろでタロウが横になった。


「主に座って背中を預けて座って欲しいとタロウが言っているのです」


「そうか。タロウ、ありがとうな」


「ガウ」


 と尻尾を振りながら喜んでいるタロウのお腹に背中を預けて草原に腰を下ろして足を広げるとその間にリンネが入ってきた。


「ここでお昼ご飯を食べよう」


 端末からリンゴと梨を取り出した。それを見ていたリンネが言った。


「ゆっくり食事すると良いのです。タロウもリンネもリラックスタイムなのです」


「そうさせてもらうよ」


 まるでピクニック気分だ。キャンペーンとは言いながらもこうやってのんびりと過ごすのも悪くないね。



「こんにちは」


 丘の上で背中をタロウに預けてのんびりしていると声をかけられた。そちらを振り返るとNPCの男の子が立っていた。俺は起き上がると子供の視線と同じになる様にしゃがみこむ。


「はいこんにちは」


「こんにちはなのです」


 俺がしゃがんだ時に頭の上に移動していたリンネも言った。


「おじさん、狼さん撫でてもいい?」


 どうやら今まで背中を預けていたタロウに興味がありそうだ。ただ俺はおじさんじゃないぞ。


「タロウ。いいかな?」


 俺が聞くと尻尾を振って答える。大丈夫だよと子供に教えるとタロウの横にしゃがみ込んで小さな手で背中を撫で回す。タロウはゆっくり尻尾を振りながら子供の好きにさせていた。


「大きいね」


「そうだよ。フェンリルは大きい狼さんだぞ。坊やはピクニックかい?」


「そう。お父さんとお母さんと3人で来ているんだ」


 しばらくタロウの背中を撫でていた子供がありがとうと言って立ち上がった。


「お昼ご飯は食べたか?」


 聞くと食べたと答える。俺は端末から梨を3つ取り出した。


「これは俺の畑で作った梨だ。3つあるから3人で食べてごらん。デザートだ。美味しいぞ」


「主の梨は美味しいのです」


「貰っていいの?」


 そう言うので持っていっていいぞというとありがとうと言って梨を3つ抱える様に持って両親がいる方に走っていった。本当にNPCがリアルな対応をしてくるんだよな。


 子供が去ってからしばらくして、そろそろ家に帰ろうかと立ちあがると向こう側からさっきの子供とその後ろに大人の男女のNPCが近づいてきた。子供の両親だろう。3人とも人族のNPCだ。


「さっきはこの子がお世話になりました」


「いえいえ。タロウ、このフェンリルは人懐っこいので大丈夫ですよ」


 俺が言うとその通りと尻尾をブンブンと振るタロウ。リンネも頭の上から問題ないのですと言った。


「おまけに梨までいただきました。美味しい梨でした。プレイヤーさんが畑で育てているんですって?」


 そう言ったのは父親のNPCだ。そうだと答えるとすごく美味しかったですと言ってくれた。生産者冥利に尽きる。


「子供が世話になって梨までいただいてありがとうございます。私はこの渓谷の街でレストランをやっているディロンと言います。お礼をしたいので是非うちのレストランに来てください」


 そう言ってレストランの名前と場所を教えてくれた。


「分かりました。近いうちにお邪魔しますね」


「待ってますよ」


 父親が言うと3人がもう一度お礼を言って公園から出ていった。


「主、レストランに行くのです」


 頭の上からリンネが言う。今すぐに行こうと言っているがこっちは腹一杯だよ。


「行くけど今じゃない。お昼ご飯食べたばかりじゃないか。明日行こう。今日はこれから自宅に戻って工房で仕事をするんだ」


 自宅に戻るために渓谷の街の別宅に入ると隣からマリアとスタンリーがやってきた。


「あれ?今日は外に出てないの?」


 早速タロウを撫で回しているマリアを横目に見ながら庭の椅子に座ったスタンリーに聞いた。


「今まで試練の塔でNM戦を4戦してきたんだよ」


「なるほど」


「『第3層の鍵』を使ったNM戦。相手はこのエリアにいる羊だった。レベルはここよりも高く設定されているが討伐は何も問題ない」


 スタンリーによるとNM戦に関してはプレイヤー側のレベル制限がないそうだ。ただ同じ様にNM戦をした情報クランと話をしたがひょっとしたらプレイヤー側の最高レベルにリンクした強さになっている可能性があると言う。これは情報クランが検証するそうだ。


「それよりもだ。NM戦に勝利すると神魂石が出た」


 おおっ、そこから出るんだ。


「どうやら1個は確定していて2個出る場合もある」


 攻略クランでは4戦して神魂石1個のドロップだったのが3戦で、1戦は2個ドロップしたらしい。つまりやれば必ず1個は神魂石を入手できるということだ。ただ何色が出るのかはランダムになっているらしい。それでも確実に1つ手に入るのなら挑戦するよ。しかもトリガーは比較的手に入りやすい。運営はNM戦で神魂石を手にいれるルートを作ったんだな。


 神魂石の入手難易度が余りに高いとプレイヤーから不満が出るだろう。キャンペーン中とは言え比較的簡単に入手できる選択肢を提示したというこだろうな。


「タクはトリガーをいくつ持ってるんだ?」


「えっと、2つかな」


「タクの場合はソロだから倒したらそのまま自分のものになるぞ」


「勝てばね」


 タロウを撫で回してすっかり満足したマリアが俺たちの座っているテーブルにやってきた。


「従魔達が優秀だから余裕じゃない?」


「だといいけどね」


「主、そのNM戦をやるのです。タロウとリンネが敵をぶっ倒してやるのです」


 頭の上から過激な発言をするリンネ。いつものことだから慣れてるよ。それにタロウもリンネも強い従魔であるのは間違いない。


 別宅で少し休んでから経験値稼ぎとトリガー狙いでフィールドに出る予定だという彼らと別れた俺たちは別宅から開拓者の街の自宅に戻ってきた。


「NM戦はまた今度だ。これから工房で合成をやるぞ」


「やるぞ、なのです」


 工房にこもって焼き物や木工などいろんな合成をした結果、窯業以外のスキルが5上がったよ。窯業だけは元々高かったこともあって2つしか上がらなかったけどおかげでスキルが60になった。


 マイスターになる気はないのでここまで上がったら十分だよ。これからはスキルを考えずに作りたい物を作ろう。


 

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