キャンペーン初日
メンテナンスが明けてキャンペーンウィークが始まった。自宅でログインした俺はまずは畑の世話からのスタートだ。自宅にいる時は何があってもこれ。野菜と果物を収穫した俺はタロウとリンネを連れて農業ギルドに顔を出した。ギルマスのネリーさんが査定してくれるのもいつもの事だ。
「今日からキャンペーンが始まったのは知っていますか?」
「新しいプレイヤーがやってきたお祭りだろう?もちろん知ってるよ。この期間は農作物の買取価格も期間中は特別価格になるんだよ」
「えっ!そうなんですか」
ネリーさんの言葉を聞いてびっくりする俺。タロウもその背中に乗っているリンネも耳をピンと立てているよ。ひょっとしてこれが公式が言っていた特典か?
「なんと言ってもお祭りだ。プレイヤーさんに喜んでもらうために一時的に買取価格を5%引き上げて、販売価格は逆に5%値下げすることになったんだよ」
ネリーさんによるとキャンペーンの期間中、物品の売買があるギルドは全て5%還元セールをやっているらしい。買取りは5%増、販売は5%値引きだそうだ。当然農業ギルドもそうなる。
「うちのギルドはもちろん、他のギルドで売ったり買ったりするのがあったら今のこの期間が狙い目だね」
なるほど。俺たちは早速野菜の種を普段より5%引きの価格で買った。この情報は情報クランに流した方がいいだろう。確認が必要だけどアイテムの買取価格が5%上がるかもしれない。あと25装備なんかも5%安く買えるかも。
「それはいい情報ね。早速確かめてみるわ」
「よろしく」
クラリアに通話をするとすぐに動くという。通話を終えるとそばにいたリンネが話かけてきた。
「主はお野菜の種や苗以外に、何かお買い物や売りものはあるのです?」
リンネに言われて考えてみる。売り物は焼き物があると言えばあるけどこれはバザール用だからな。それ以外だとこっちから売り込む様な品物はなさそうだ。じゃあ買うのはどうだ?端末を見てみるとサーバントポーションもたっぷりとあるしそれ以外のアイテムも大抵は揃っている。うん、今特に必要なものはない。端末を閉じた俺はリンネを見る。
「今は特になさそうだ。なのでこれから渓谷にある平原の小屋に行って外で敵を倒すぞ」
「ガウ」
「倒すぞ、なのです。タロウとリンネの出番なのです」
外で戦闘をすると聞いて大喜びのタロウとリンネ。従魔頼りの俺としてはタロウとリンネに頑張って貰わないと困るんだよ。
渓谷の街の別宅に飛んで市内に出ると多くのプレイヤーが街の中にいるのを見てびっくりしたよ。想像以上に人が多い。
「人がいっぱいいるのです」
「皆このエリアでレベル上げをするんだろうな」
通りを歩くタロウとリンネは注目の的だ。これだったら自宅から冒険者ギルドに飛んだ方が良かったと思ったけどもう遅いんだよな。まさかここまで人が多いなんて思ってもみなかったよ。なんとかギルドまでたどり着くと、そこの転送盤から平原の小屋に飛んだ。
平原の小屋に飛ぶとそこには情報クランのパーティがいた。全員と顔見知りなので挨拶を交わす。相変わらず小屋の中はがらんとしていて殺風景だ。彼らの他にはプレイヤーはいない。登録だけしてあとは最初のセーフゾーンあたりで経験値を稼いでいるんだろう。
挨拶をするとトミーが話かけてきた。
「タクは今からかい?」
「そう。そっちは?」
「休憩中よ。それよりもタクがくれた情報、5%の話はどこの店でも適用だったわ。アイテムショップも同じ、買取は本来の売値の8割5分で買い取ってくれる。販売価格は5%引きだった」
これにはクラリアが答えてくれた。情報クランは森小屋の25装備についても適用されていることを確認したらしい。5%とは言え元々の価格が高い装備だからこの期間に買おうと考えるプレイヤーは多いだろうな。
「宝箱は出てる?」
「出てる。ただ中に入っていたのはベニーだ。狙っているものはまだ出ていないな」
「主も宝箱を探すのです」
「ガウ」
タロウとリンネが待ちきれないって感じで言ってきた。またと挨拶をすると小屋を出る。すると2体の従魔が尻尾をブンブン振ってやる気モード全開になった。
「たくさんぶっ倒してやるのです」
「ガウガウ」
「おう、頼むぞ。お前たちが頼りなんだから」
平原の小屋から出ると目につく水牛の魔獣を倒しまくる。と言ってもダメージソースはタロウとリンネなんだけどね。5体ほど倒した時に水牛が消えると目の前に宝箱が現れた。
「宝箱なのです。出たのです」
「ガウガウ」
現れた宝箱を見てタロウもリンネも尻尾を振って喜んでいる。端末を近づけると脳内でミントの声がした。
『10,000ベニーを手に入れました』
「中身は何だったのです?」
待ちきれないと言った感じで聞いてくるリンネ。
「うん、中に10,000ベニーが入っていたよ」
俺がそう言うとやったのですと大喜びするリンネ。タロウも吠えながら俺の周りを駆け回っている。2体とも宝箱が大好きだよな。
「主、この調子で敵を沢山やっつけて、ガンガン宝箱を出すのです」
「よっしゃー、やったろうじゃないか」
「やったろうじゃないか、なのです」
「ガウ!」
ライバルがいない事もあり敵には困らない。しかもタロウとリンネは戦闘大好きで連戦もOKと来ている。草原で水牛を倒していると情報クランのパーティが山沿いに先に進んでいくのが目にはいってきた。彼らはレベル39だったはず。当然奥に行くよね。
3時間ほど水牛を倒して俺たちは35に上がった。俺はもちろんだけどタロウとリンネもこれでまた強くなったと大喜びだよ。宝箱は3つ出たけど全てベニーだった。最初が10,000、次が8,000、最後は15,000。金額もランダムの様だ。
セーフゾーンの中にある小屋には入らずにその前の柵の内側の庭に座って休憩をする。タロウに背中を預けて足を伸ばすとリンネが足の間に入ってくる。いつものポジションだね。
「主、今日はこれで終わりなのです?」
「いや、少し休んだらもうちょっと倒そう」
「やるのです。ガンガンやるのです」
背中を預けているタロウも尻尾をブンブンと振り回している。せっかく経験値が増えるキャンペーンなんだ。稼げる時には稼ぐよ。
休憩を終えて再び草原に出て2時間程敵を倒しまくった俺たち。宝箱はまた出たが今のところ中身はベニーだけだ。でも出ないよりはずっといい。宝箱が出現するたびに大喜びするタロウとリンネを見ているだけで満足だよ。
情報クランの連中はまだ小屋には戻ってきていないが俺たちは小屋から渓谷のギルド経由で自宅に戻ってきた。まだ夕刻前だ。
自宅に戻って縁側に座るとお留守番のランとリーファが飛んできて両肩に腰を下ろす。癒されるよ。タロウは俺の足元でゴロンと横になり、リンネは膝の上に乗ってきた。
「ランとリーファ、お留守番ありがとうな。タロウとリンネはお疲れ様だ」
ランとリーファは羽根をパタパタとさせ、タロウは横になりながら尻尾を振っている。そしてリンネは膝の上に座ったままで言った。
「皆主が大好きなのです。こうしていると皆リラックスなのです」
「そうか。皆がリラックスしてくれるのならそれが一番だよ」
しばらくそのままでのんびりとしていた俺。30分ほどそうやってただろうか。
「今から工房で焼き物を作るぞ」
俺がそう言うと皆起き上がりタロウの背中に乗って俺の後を付いて工房に入ってきた。いつもの場所に腰を下ろすのを見た俺はエプロンを身につけてから焼き物を作り始める。今日は経験値稼ぎと焼き物だな。明日はまた違うことをしよう。
一輪挿しをいくつか焼き、定番の食器や皿も作って釜に入れる。焼き上がると模様を書き入れてもう一度釜に入れる。もうすっかり手慣れた作業だよ。
釜から取り出すといい感じに仕上がっていた。俺がどうだ!と見せると大喜びしてくれる従魔達。
「ランとリーファも素晴らしい出来だと言っているのです。リンネも素晴らしいと言うのです。主は何をやっても一番なのです」
「ガウガウ」
「ありがとう。これは自分でも会心の出来になったよ。今自宅で使っている食器をこれに交換しよう」
「しようなのです。それがいいのです」
その後も自宅の食器用に焼き物を作った俺。結局キャンペーン初日は経験値稼ぎと焼き物で1日が終わった。初日にレベルが1つ上がったのは嬉しい。
明日は何をしようかなと考えてながらその日の活動を終えた。