公園で休もう
週末のバザールでは従魔の置物、従魔の絵が描かれているサラダボウルは完売。一輪挿しも全て売れた。
「今日もたくさん売れたのです。主は大金持ちなのです」
店じまいをしているとリンネがそう言い、タロウも尻尾を振っている。確かにバザールに焼き物を出品することでかなり稼いでいるのは間違いない。でも金儲けだけを続ける気はないんだよな。
翌日、畑で収穫をして農業ギルドに納品、新しい種を植えた俺はランとリーファに留守番を頼んで渓谷の町の別宅に飛んだ。渓谷の先にある草原の中の小屋、そこをベースにして経験値稼ぎをする予定だ。
朝その話をするとタロウもリンネも尻尾をブンブン振って大喜びだったよ。小屋の周辺にいる水牛がレベル40とか41だよと言っても全く気にしていないんだよな。
「主とタロウとリンネで倒せない敵はいないのです。黒い牛さんを沢山とっちめてやるのです」
「ガウガウ」
「お前達がそこまで言うのなら任せるぞ」
「任せろなのです」
リンネはそう答え、タロウは俺に擦り寄ってきた。撫でてやると尻尾の振りが大きくなる。リンネもタロウもすっかり大人の体つきになっているが仕草やまだまだ子供だ。リンネの尻尾はずっと7本だ、いつ8本、そして9本になるんだろうか。まだまだ先の話なのかな。タロウはもうすっかりフェンリルの姿になっている。戦闘の時は鋭い眼光で敵を睨みつけるが普段は人懐っこい目と仕草で皆んなの人気者だ。リンネもランもリーファもタロウの背中に乗るのが好きだし、タロウも乗られるのが好きみたいで従魔が背中に乗ると尻尾を振っている。
行こうかと渓谷の街の別宅を出て冒険者ギルドの転送盤から平原の小屋に飛ぶ。誰もいない小屋は相変わらずがらんとしている。ここはこれから発展するのかしないのか。
「主、出撃なのです」
「ガウ!」
小屋の中を見ながら考えていたらリンネとタロウに急かされたよ。
「よし!行くぞ」
「はいなのです」
「ガウ」
小屋から外に出て柵の外に出るとそこはもうレベル40以上の魔獣がいるエリアだ。小屋を出たところで蝉を張ってから俺たちは草原に出た。数分歩いただけで視界に水牛が入ってきた。近づいていくとこちらを認識して突撃してくる。確かに気配感知の範囲が広いぞ。水牛の魔獣を見つけた時からタロウもリンネも戦闘態勢だ。近づいてくる水牛に向かってリンネが魔法を撃った。命中して水牛がぐらっとなったところに敵に走っていったタロウの蹴りが入る。何度も見慣れているとはいえ従魔達の見事なコンビネーションだ、俺の出番がない。今の2体の攻撃で結構な体力を削っていた様だ。その後はタロウとリンネの2度目の攻撃と俺の刀で危なげなくレベル40の敵を倒すことに成功する。
今の戦闘を見る限り、同時に2体くらいまでのリンクなら対応できそうだ。
奥に探索をするにはまだまだレベルが足りないのは自覚しているので小屋の周辺で魔獣を退治する俺たち。それなりの頻度で接敵するので敵には困らない。他のプレイヤーが多くなる前にもう少しレベルを上げたいところ。
昼過ぎまでここで活動をして結構な数の水牛を倒したがレベルは上がらなかった、ドロップもない。それでも倒した数だけ次のレベルに近づいているのは間違いないのでこれでOKだよ。
小屋に戻ってきた俺たちはそこから渓谷の街の冒険者ギルドに飛んだ。多くのプレイヤーが俺たちに目を向ける。タロウとリンネは平気みたいなんだけど俺はこれが結構恥ずかしいんだよ。皆が見ているのは自分じゃなくてタロウとリンネだとは分かっているんだけどいまだに慣れない。街中の通りで他のプレイヤーとすれ違うのは全然平気なんだけどな。
「主はどんと構えていればいいのです」
いつもそう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。
ギルドを出た俺たちは昼過ぎだったので市内のレストランに足を向けた。いくところはこの街で一番最初に顔を出したレストランだ。『羊の蹄』、オーナー兼コックのロークさんがやっているお店だ。
「タク、久しぶりだな」
ウッドデッキに座ってメニューを見ているとロークさんがわざわざ俺のところまできてくれた。昼食のピークタイムが終わって暇になっていたところだそうだ。俺が挨拶をするとその後からタロウとリンネもちゃんと挨拶をする。ロークさんからお勧めを聞いてそれを注文する。羊の肉と野菜を炒めた料理だがこれも美味い。
食べ終えた頃にロークさんがまたやってきた。
「どうだった?」
「美味しかったですよ」
「そりゃよかった」
「渓谷の街もプレイヤーが増えてきましたね」
「そうだな。賑やかになるのはいいことだぞ。俺のレストランも儲かるってことだ」
そう言って豪快に笑う。NPCがリアルな対応をしてくるのがこのゲームの特徴だ。だから人気があるんだろう。
「開拓は進んでるのかい?」
「苦労してますよ。まだレベルが上級34しかないし、この先にある小屋にようやく辿り着いたところです」
「そりゃ大変だな」
何か情報をくれるかと思ったけどそれ以上は何も言ってくれない。何かトリガーがあるのかそれともこちらのレベルに関係があるのか、はたまたこのNPCは本当に何も知らないのか。
「開拓に疲れたら休むのも大事だぞ」
「そうですね」
「息抜きするのなら大きな公園にでも行ったらどうだ?」
公園?そんなのあったっけ?まさか街の中にある小さな公園の事を言っているんじゃないだろうな。
「大きな公園ってありましたっけ?」
「最近できたんだよ。街の南側、家が並んでいるエリアがあるだろう。あの奥が公園になってる。小高い丘の上にあるんで見晴らしがいい。気分転換にちょうどいいぞ」
家のエリアの奥か。そっちは行かないよな。別宅を出るとそのまま街の中心部に歩いていくし。俺はお礼を言ってレストランを出ると早速その公園を目指すことにする。
「主は公園でのんびりするのです?」
「そうだよ。丘の上にあるらしくて見晴らしがいいそうだ。行ってみよう」
「参るのです。公園でリラックスするのです」
「ガウガウ」
戦闘で疲れてお昼を食べてお腹が膨れた。確かに公園でリラックスするのも良いかもしれない。別宅の南側、山裾の近くに新しい道ができている。それを歩いていくと確かに小高い丘になっていた。上にあがるとそこは一面芝生になっていて、石畳の道がありベンチや屋根がある建物がある。東屋みたいだが場所柄かそれが洋風な造りになっていた。
NPCらしき人に混じって数名のプレイヤーが公園でのんびり座っていた。この公園を知っているプレイヤーもいるんだな。そこにいた女性プレイヤー達がタロウとリンネに気がついて手を振ってくるとそれに応える様にブンブンと尻尾を振り回す2体。相変わらず愛想がいい。俺も片手を上げてそれに応えたけど、彼女達が手を振っている相手が俺じゃないってことは知ってるよ。
丘の上に立って渓谷の方面、北側を見ると緑が多い渓谷に綺麗な街並みが見えている。空は真っ青でそこに両側に聳え立っている山、上の方は万年雪で中腹は岩肌。そこから山裾に向かって緑の木々が生えている。街がある渓谷の周辺は草原でここから見ると緑の絨毯みたいだ。
「綺麗な景色なのです」
「ガウガウ」
「確かにこれはいい眺めだ」
タロウは尻尾を振っている、俺の頭の上に乗っているリンネも尻尾を振りながら街並みを見下ろしていた。最初洞窟を出た時は街が出来ていなかったので、こうして高い場所から完成した渓谷の街を見るのは初めてだけど今までの街とは違った雰囲気だというのがよくわかる。
アルプスの田舎の風景だって最初に誰か言ってたけどそのとおりだよ。風景の中に調和した街並みが見えていた。これは癒されるぞ。空も真っ青だ。この精緻なグラフィックがPWLが人気がある一因なんだよな。本当にそこにいる感が半端ない。もちろんスクショを撮った。タロウとリンネの背後に渓谷の街を入れたアングルで何枚か撮る。自分でもよい写真だと思う。スクショを見せてやるとタロウとリンネも大喜びだよ。
俺たちは公園の芝生の上に腰を下ろした。タロウが横になって俺に背中を預けてこいというので背中を預けて足を伸ばすとリンネが足の間に身体を入れて顔を太ももに置いた。
「風が気持ちいいな」
「主、ここは良い場所なのです。タロウもリンネも気に入ったのです」
「そうだな。想像していた以上に良い場所だよ。別宅からもそう遠くないしな」
最近は焼き物や攻略メインで時間を過ごしていたのでこういうのんびりするのは久しぶりだよ。
俺たちはしばらくこの公園でぼんやりしてリラックスすると立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか」
「はいなのです。また来るのです」
「うん、またこの公園に来よう。ここはいい場所だよ」
「ガウガウ」
タロウもリンネも気に入ってくれて良かったよ。