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草原の小屋

 ログインするとセーフゾーンだった。俺たち以外にプレイヤーはいない。俺は従魔の指輪でタロウとリンネを呼び出した。足元に2体の従魔が現れるとすぐに身体を押し付けてくる。


「今日は強い敵を相手にしながら小屋を目指すぞ」


 タロウとリンネを撫でながら言う。


「ガウ」


「タロウとリンネに任せるのです。片っ端から敵を蹴散らしながらお家を目指すのです」


「頼むぞ」


 セーフゾーンを出た俺たちは渓谷を北に進みだした。ここから先は初めてのエリアになる。羊はあちこちに徘徊しており、それらを倒しながら進むことになるんだけど、例によってタロウとリンネが敵を見つけると戦闘態勢になるんだよな。俺としては戦闘を避けられるのなら可能な限り避けつつ小屋を目指したいと考えていたんだけどやっぱり無理だったよ。


「主、次はあいつをやっつけるのです」


「ガウ」


 2体とも感知能力が高いんだよ。次々と敵を見つけてはやろうやろうとけしかけてくる。もっとも敵を倒せば経験値が入る。そして敵のレベルが上がってもこの2体ならなんとかなるんだよ。俺は蝉を張って両手に刀を持って羊と対峙するんだけど蝉もあり、ほぼ無傷で倒せる。リンネの魔法は相変わらず格上でもほぼフルヒットして大きなダメージを叩き出している。しかも敵対心が低いのでリンネにタゲが移ることがない。


 戦闘をしながら北に進んでいると羊のレベルが37、8になったあたりで渓谷が右、東の方角に大きく曲がっているのが目に入ってきた。そのまま道なりというか渓谷なりに進むと渓谷が広がって目の前に大草原が広がっていた。左右にあった渓谷の右側の渓谷はまっすぐ東に伸びていて、左側にあった渓谷はまた北に向きを変えて伸びている。その間に広い草原があった。


「すごく広い草原だ」


「はいなのです。向こう側が見えないのです」


 俺の頭の上に乗ってミーアキャットポーズになって草原を見渡している。


「もう少し頑張るぞ」


「ガウガウ」


「まだまだ大丈夫なのです。どんと来いなのです」


 従魔頼りの俺としてはこの2体が元気なのは助かる。一応サーバントポーションは持参しているけど今のところ使う必要はなさそうだ。


 東に向きを変えると草原の右側、右手に見えるの渓谷の山裾を進んでいく。小屋があるのが山裾の近くだと言うのを聞いているのでその方向に進むと辿り着くだろう。


「こっちの方向に進むぞ」


「わかったのです」


「ガウガウ」


 草原に出ると羊のレベルは39になり、それと同時に今まで見たことがないタイプの魔獣も現れた。あれが水牛だろう。羊よりもさらに一回り大きい。レベルは40だ。


「あいつは強いぞ」


「主、任せるのです。タロウとリンネでぶっ倒してやるのです」


「ガウ」


 レベル40の水牛は体力が多いとは聞いていたけど、実際戦闘をしてみると自分の想像以上だ、なかなか倒れない。俺たちの攻撃を受けても頭の上にある大きな角で突進してくる。リンネはタゲを取らないが俺とタロウにはタゲがくる。タロウはひょいひょいと交わしていくがこっちはそうはいかない。突進される度に蝉が1枚剥がされる。情報クランと攻略クランのパラディンはよくこれを受け止めていたよと思うほどに強烈だ。


 ただ体力は多いが攻撃は通るので羊退治よりは時間がかかったが無事に倒すことができた。当然だけど何も落とさない。ポロッと神魂石でも落としてくれたら嬉しかったんだけどそんな事はなかったよ。


 情報クランから聞いていた通りで水牛の魔獣は気配感知の範囲が羊の魔獣よりも広い。今までは大丈夫だと思っていた距離からでもこちらを認識して襲いかかってきた。それを倒しながら少しずつ進んでいく俺たち。水牛が現れてからは進行のスピードが遅くなっているがそれでも進んでいると視界に小屋が見えてきた。


「あの小屋だ。もう少しだ」


「主、任せるのです」


「ガウガウ」


 頼もしいぞ。実際その言葉通りにタロウとリンネの活躍で俺たちは夕刻に小屋があるセーフゾーンに辿り着いた。ホッとしたよ。


 小屋に入ると攻略クランと情報クランのいつものメンバー達がいた。手を上げて挨拶をしてまず小屋の隅にある転送盤を記録してから彼らに近づくとスタンリーが声をかけてきた。


「タクも辿り着いたか。おめでとう」


「楽勝なのです。タロウとリンネがいればどこでもへっちゃらなのです」


「ガウ」


 マリアは早速タロウを撫で回している。久しぶりね、元気だったかな?なんて言いながら撫で回しているが撫でられているタロウも尻尾をブンブン振っている。


「それにしても本当にがらんとしているんだな」


 転送盤を登録してから中を見渡してみる。小屋の中は広いが何もない。隅っこに転送盤があるだけだ。NPCもいなければカウンターらしきものも何もない。


「まだこの小屋に辿り着いたプレイヤーの数が少ないからなのか、それとも他に何か理由があるのか。まだ分からないのよ」


 だだっ広い小屋の中を見ているとクラリアが言った。彼らはレベル39らしい。もうすぐ40になると思うんだと言っている。


「上級レベルが40になったら何か変化があるかも知れない」


 タクはレベルいくつになったんだと聞かれて34だと答えるとびっくりされる。


「34でここまで普通にやってきたのか。タロウとリンネがいるとは言え40の敵がいる中よく来られたな」


 攻略クランのメンバーのマスターモンクのダイゴが驚いた表情で言ったがそれを聞いていたリンネ。


「主は強いのです。タロウとリンネが主をお守りするので問題ないのです」


「リンネのいう通りでね、従魔2体が優秀だから特に危ない場面もなく来られたよ」


「それに加えてタクには空蝉の術があるからでしょう?」


 クラリアが言ったが確かにそれはある。蝉がなかったら苦労したのは間違いないし、ここまで来られなかったかも知れない。彼女が言うと周りから蝉は優秀だからなという声がする。いや全くその通りなんだよな。


「それは間違いないね。随分と助かった。それよりもジャックスやリックはあの水牛の突進を止めてたんだろう?そっちの方がびっくりだよ」


「虎NMの盾と防具のおかげだな。神官のルミにはかなり無理をしてもらったけどな」


 ジャックスが言うとリックもうちも神官のユーリはかなり頑張ってたよと言う。装備関係を充実して神官のヒールシャワーで対応してきた様だ。神官の二人はいつも通りよねと笑いながら言い合っているがこの二人も普段は目立たないがPSが高い神官なのは知っている。攻略クラン、情報クランのトップとしてずっと活動をしてきている彼女たちは装備はもちろんだがそのPS、ヘイト管理など全く問題がないほどに上手い。


「とりあえず転送盤を記録できたからこれからは移動が楽になるよ。今どこの坑道もツルハシを持っているプレイヤーで溢れかえっているので採掘したくてもできないんだよね」


 そう言うとそれは仕方ないだろう。当分続くぞと言われたよ。神魂石が出るかも知れないんだからそうなるよね。


 両クランはこの小屋をベースに周辺を探索しながら水牛を倒しているが今のところ目新しいものは何も見つかっていないそうだ。山には坑道があるかもと探しているが見つかっておらず、草原には魔獣以外の姿はない。


「それでも探し続けるしかないんだよ。それが楽しいんだよ」


 とりあえず上級レベル40まではここであげるという彼ら。タクはどうするんだ?と聞かれた。


「ここをベースにレベル上げはするけど、それ以外にも農業をしたり焼き物をしたり、釣りもしばらくしてないからやりたいし。マイペースでやるつもり」


 そう話していて気がついた。


「ところでさ、第三陣がPWLに来たんでしょ?」


「始まりの街は大賑わいよ。ただ彼らは事前情報をしっかりと掴んでいるから慌てて次の街に進まずに、始まりの街でクエストなんかをしっかりとこなしているプレイヤーが多いみたいね」


「忍者ジョブもいるんでしょ?」


 これを聞きたかったんだよ。


「情報クランの集計では700名程が忍者だな。第二陣の忍者よりも多いぞ」


 トミーが教えてくれた。700名か。同士がいっぱい増えたな。


「忍者の人数が増えているのはタクのおかげじゃない?」


 タロウを撫でて満足した顔になっているマリアが言った。


「いやいや、俺は関係ないだろう」


「主は一番なのです。だから皆主を見習うのです」


 リンネが言ったタロウもその通りだとガウガウと吠えている。


「上忍の中じゃタクがダントツだろうよ」

 

 トミーが言ったがそりゃ当たり前の話だよ。


「第一陣で上忍が俺しかいないからだろう。しかも従魔達が超がつくほど優秀だ」


「確かに従魔達は優秀だよ。でも上忍としての動きや戦闘力を見てもタクはダントツだな」


 第二陣も上忍になって活動をしている。試練の街の近くにあるサハギンNMを例に出して話をするトミー。彼によるとサハギンが池に入ってから撃ってくる強烈な水鉄砲を素で避けられる上忍はいないそうだ。そういやこの前自宅に来た上忍のフレンドもそんな事を言っていたな。


「装備の違いもあるんじゃないの?俺はHQだし」


「それを差し引いてもタクの方が上だよ」


 トミーが言うとその通りなのですとリンネ。これ以上やってるとまたリンネが何を言い出すか分からない。リンネもタロウも俺を過大評価するんだよな。リンネを抱き抱えて撫でてやると尻尾を振って喜んでくれる。これで大人しくしてくれるだろう。


「俺としたら忍者のお仲間が増えるのは普通に嬉しいね」


 レベルが上がると強くなる。ソロでもある程度動ける。そんなところが増えている一つの要因なんだろうとスタンリーが言った。途中からは従魔がないとソロはきついんだけどそのあたりはしっかりと情報を取るんだろうな。


 彼らも一旦街に戻るというので一緒に転送盤を利用して渓谷の街の冒険者ギルドに戻ってきた俺たち。彼らはこの街の別宅でログアウトすると言い、俺たちは自宅に戻ってログアウトをした。


 レベルはまだまだ低いが、とりあえず目標だった2つ目のセーフポイントまで進む事ができたぞ。


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