表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/277

一輪挿し


 最近は自宅と渓谷の街を行ったり来たりしている。農業をしてから渓谷の街に飛んで外で経験値を稼ぎ、夕刻前に自宅に戻ってくると合成をする。おかげでレベルが上級33に上がったよ。33になると最初のセーフゾーン周辺の羊の魔獣の討伐が楽になった。戦闘時間が短くなり数を多く倒せる様になる。このセーフゾーンに来ているプレイヤーはまだ多くいないので魔獣の取り合いになることもない。


 戦闘の合間にセーフゾーンに戻ってくると俺たちと同じ様にここを起点にしてレベル上げをしている5人と一緒になった。男性3名、女性2名のパーティだ。男性がリーダーのケンジ。彼はウォリアーだ。もう1人のウォリアーがスカイ、パラディンがピューマ、そして女性は神官のアユと魔法使いのキャンディ。PWLをはじめた頃にレベル上げで知り合ってそれ以来ずっと固定メンバーで活動をしているそうだ。


「皆このPWLというゲームが好きだということとはもちろんだけど、週4日、時間を決めてレベル上げをしているんだけどそれ以外はフリーなんだよ」


 固定メンバーで長く続いているのは活動の縛りが緩いからだろうと言う彼ら。女性2人も今の緩めの感じがちょうどいいのだと言っている。


「タクはレベルいくつになったんだい?」


 ケンジが聞いてきた。


「33だよ。そっちは?」


「俺たちも33だ。でももうそろそろ上がっても良い頃だろうって話をしている」


「タクはずっとソロだろう。それで33って凄いよな」


 スカイが言うと他の4人も本当、ソロで凄いよねとか言っている。


「俺の場合は従魔達が優秀なんでね」


 そう言うと俺の膝の上に乗っていたリンネが顔を上げる。


「主は強いのです。タロウとリンネは主をしっかりとお守りしているのです」


「ガウ」


 リンネが言うと羨ましいなという声がする。従魔に関しては確かに自分は恵まれている。2体とも極めて優秀だ。それに戦闘大好きだしな。


 神魂石の話をしたが彼らもまだドロップしたことがないらしい。


「出れば嬉しいけど情報クランの話だと羊よりも上のランク、強い魔獣の水牛から出たって話だし、当面はレベルを上げて2つ目のセーフゾーン、小屋を目指すつもり。あそこまで行ければ転送盤もあるしね。そこで水牛を倒しながら狙う予定だよ」


 その後彼らと雑談をしている時、俺が掲示板やネットを見ないんだよと言うと驚いた顔になった。最近も自宅と渓谷の街ばかりなんだよと言うと彼らが知っている範囲での、近のPWL事情を教えてくれた。


 第三陣のプレイヤーがPWLに降り立って今始まりの街は多くのプレイヤーで賑やかになっているそうだ。


「1万人ちょっとのプレイヤーが今始まりの街にいるわけでしょう?すごい人混みだって」


 それは容易に想像できる。ただ先人達のプレイ内容は公式の配信や掲示板から情報が取れるので慌ててレベルをあげるのではなく、クエストで名声を上げつつレベルを上げるという流れになっているそうだ。


「公式掲示板でも第一陣、第二陣のプレイヤーがそういうアドバイスをしているのよ。クエストをしっかりとこなしておいた方が後が楽になるって」


「なるほど」


 先輩諸氏のアドバイスもよく分かる。でもゲームなんだし好きな事をしてPWLの世界を楽しんだらいいんだよ。お金を払っているのは自分自身なんだから。アドバイスはあくまで参考にして決めるのは当人だよ。俺はそう思っているけどもちろんそれを口にすることはない。


「タクは第一陣や二陣のプレイヤーの中じゃあ有名だけど、そのうち第三陣の中でも有名になるんじゃない?」


「それはないだろう。接点がないもの」


 俺はそう言うとリンネがミーアキャットポーズになった。


「主は有名なのです。知らない人は誰もいないのです」


「ガウガウ」


 タロウまでそうだそうだと尻尾を振りながら吠えている。勘弁して欲しいんだけどな。それよりも第三陣の中にも忍者を選んだプレイヤーがいるんだろうな。何人くらいいるのか情報クランに聞いてみよう。



 もう少し外で羊を倒してくると言った彼ら。別れる前に女性2人がタロウとリンネと一緒にスクショを撮りたいと言った。もちろん俺の従魔達はサービス精神満点だ。従魔達とスクショを撮れて女性2人が大喜びしているよ。


「ありがとう」


「お安いご用なのです」


「じゃあまた、お互いにがんばろう」


 その後俺たちも少し羊を倒すと開拓者の街の自宅に戻ってきた。ランとリーファと遊んでから工房に足を向ける。焼き物作りの時間だ。


 従魔達も工房にやってきた。邪魔にならないところにタロウが身体を下すとその背中にリンネが乗る。ランとリーファは工房の棚に腰掛けて羽根をゆっくりと振りながら俺の仕事を見ている。皆いつもの定位置だな。


 エプロンがあるからといって合成スキルが上がる訳じゃないけどエプロンを着て合成すると職人になったっという気がする。こうして形から入るのも大事だよね。


 準備ができると従魔の置物やサラダボウルを焼いては並べていく。窯業スキルが50を越えてからは作業時間がまた短縮されて効率が上がった。ちなみに自分の今の窯業スキルは55だ。バザールに出品する商品以外に陶器の一輪挿しを作ってみる。バザールの鍛治ギルドで鉄製の一輪挿しを見て自分でもやってみようと思ったんだ。


 焼き上がったのを手に取ってみるとなかなかの出来栄えだ。この一輪挿しには従魔の絵は書いていない。花を挿すためのものだから器があまり目立っちゃだめだろうと思って色も地味な茶系の色を何種類か使って素材の色に近い色を塗って仕上げた。


「主、それは何なのです?」


 初めての一輪挿しの焼き物を見たリンネが聞いてきた。他の従魔達もそれは何だ?という目で見ている。


「鍛治ギルドで鉄製の一輪挿しがあったんでね、焼き物で作ってみたんだよ。ここに花をさして部屋に飾るんだ」


「お花さんがないのです」


 確かに実際に花をささないと分からないか。じゃあ花を買いに行こうとタロウとリンネを連れて農業ギルドに顔を出した。


「この一輪挿しにさせる花ってありますか?」


 ちょうどギルマスのネリーさんがいたので聞いてみるとあるよと言って奥から茎と葉が付いている紫陽花の花を持ってきてくれた。その場で買って一輪挿しに挿してみる。紫の花が映えていい感じだ。


「綺麗なのです」


「ガウガウ」


「タクの家に飾るのかい?」


「そうですね。これは自宅に飾るつもりです」


「落ち着いた感じでいいんじゃないの」


 ネリーさんに褒められたよ。ギルドを出ると自宅に戻って紫陽花の一輪挿しを洋室のテーブルの上に置いた。ランとリーファもやってきておかれた花を見ている。


「綺麗なのです」


「ガウガウ」


 うん、殺風景だった洋室だったけど紫陽花の一輪挿しを置いただけで雰囲気が変わった。タロウもリンネも喜んでくれているしランとリーファは俺の前でサムズアップをしてくれた。

 

 自分でもいい感じにできたと再び工房に戻るといくつか一輪挿しを焼いた。形は同じだけど色使いを変えて何種類か作ってみた。メインは花になるので焼き物は目立っちゃいけない。地味な色を選んで焼いた。なかなかの出来栄えになったよ。これもバザールに出品してみよう。売れなくても気にしない。それよりも焼いて作るのが楽しいんだよ。その後も焼き物を続けてある程度作り溜めができた。


 窯業は楽しいんだけどそればっかりしてもつまらない。それにそろそろレベルを上げて2つ目のセーフゾーンの小屋にも行ってみたい。


 翌日とその次の日は渓谷の街の外側で羊を倒して経験値稼ぎをした俺たち2日目の夕刻にようやくレベルが34に上がった。長かったよ。上がった時はタロウもリンネも大喜びだった。


「これでまた強くなったのです」


「ガウ」


「その通りだよ。次はここから2つ目のセーフゾーンを目指すぞ」


「目指すぞ、なのです」


 2つ目のセーフゾーンは水牛エリアで敵のレベルが40や41だと聞いている。34の自分たちだと簡単ではないかもしれないけどタロウとリンネがいるし転移の腕輪もある。2体の従魔も突撃しようと気合いが十分だ。明日はフィールドの攻略日と決めてこの日は最初のセーフゾーンでログアウトした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ