バザール会場にて
リンネの言った通りというかそれ以上だった。バザールに出品すると従魔達の置物はもちろんだが従魔を描いたボウルもあっという間に全部売れてしまった。午後1時にオープして、午後4時前には売るものがなくなっちゃったよ。ここまでとは流石に思わなかった。サラダボウルまで全て売れるとは予想外だったよ。買った人によると従魔達の絵が可愛いということだ。
「全部売れたのです。がっぽり儲かってウハウハなのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウは全部売れたので喜んでいる、俺も全部売れて儲かったのは嬉しいんだけどさ、せっかく買いに来てくれた人に売るものがなくなったと言うのが申し訳ないんだよな。
欲しい人の注文を受けてその人たちに個別に渡していこうかな。でもそれをやるとログインしている間はずっと焼き物作りに追われそうな気もする。何のためにゲームをしているのか。楽しむためだろう。何かに追われてゲームをするのは本末転倒だ。
買うことができなかった人はまた次のバザールで買ってもらおう。バザールに出品した商品が完売してもう売り物がないので俺は店じまいをして他のテントを見て回ることにする。
店仕舞いをすると今度は売り手じゃなくて買い手の立場になってバザールを見て回ることにした。まずは同じ窯業エリアを見て回る。皆食器や花瓶などの焼き物を売っているがデザインに個性があって見ているだけで面白い。色使いなんかも参考になるよ。
横を歩いているタロウ、俺の頭の上に乗っているリンネも俺と一緒にいろんな焼き物を見ている。
「いろんな焼き物があって見ていると楽しいのです」
「うん、俺もそうだよ。参考になるよな」
窯業エリアをぐるっと回った俺は別のエリアに顔を出すことにした。裁縫や彫金のエリア人が多いって話を以前聞いていたのでそこを避けて鍛治エリアに行ってみることにする。鍛治ギルドと言えば戦闘に関係する装備品を合成しているイメージを持っているけど、バザールでは戦闘に直接使うアイテムは販売禁止になっているので逆にどんな物を作っているのか興味がある。
リンネは俺の頭の上、タロウは俺の横と言ういつもの場所にいる従魔達と一緒に鍛治ギルドのエリアをのぞいていく。売られているのは鉱石のインゴットが多い。中間素材として販売するのは問題ないからね。
見ているとインゴット以外に農作業で使う鍬やスコップなんかも売っている。あとはツルハシも売っていた。聞くとギルドで売っているツルハシよりも強度が高いそうだ。俺はツルハシやスコップを買って他に何が売っているんだろうとテントを見ながら歩いていると名前を呼ばれた。
「タク」
声をする方に顔を向けるとどこかで会った顔だと思った瞬間に思い出した。フレンド登録をしている鍛治職人のアンドレイ、始まりの街の鍛冶ギルドで話をしてフレンド交換して以来だ。
「久しぶり」
「久しぶり。フェンリルと九尾狐を従魔にしている上忍のタクは有名だからね。すぐに分かったよ」
「主は有名なのです」
「ガウガウ」
俺が有名だと言われて喜んでいるタロウとリンネ。
「彼らがその従魔たち。フェンリルのタロウと九尾狐のリンネだよ」
俺が言うと2体が挨拶をした。うん、よくできた従魔達だ。
「それでアンドレイはしっかり鍛治職人をやってるんだ」
「鍛治マイスターになってるよ。ジョブは魔法使い、一応上級職にはなってるけど基本は自宅の工房にこもっていることが多いんだ。こっちの方がずっと楽しいよ」
彼も開拓者の街で自宅を買ってそこに工房を作って毎日鍛治をしてゲームを楽しんでいるそうだ。好きな事をするのが一番だよ。
アンドレイは何を売っているのかと店頭に並べられている商品を見るとツルハシを売っていたのでここでも数本買った。神魂石がらみで採掘がちょっとしたブームになっているのでツルハシはよく売れるそうだ。
「鍛治はこのバザールに不向きだと言われているけどさ、結構生活に使う品も作れるんだよね」
確かに彼の言う通りだ。ツルハシ以外にも鉄の壺や一輪挿しなんかも売っている。買い物をした後で開拓者の街に家があるのならお互いの家を訪問しようという約束をした。
「主の家は広いのでいつでも来ると良いのです」
「そうさせてもらうよ」
鍛治ギルドのエリアを見たあと、次は錬金ギルドのエリアに顔を出した。ここでは薬品関係がメインになっていた。ポーション系はバザールで出品してもOKなんだそうだ。武器じゃないしね。ただテントの数は多くなくて窯業エリアよりも少ない。売れる品目が限られているからかな。
品質は別にしてポーションは一応自分でも自作できるのでわざわざ買う必要もないかなと思いながら店を見ているとサーバントポーションが売っている店を見つけた。これは俺のスキルでは合成できない。見ると品質は高+の表示がある。従魔用にいくつか買った。薬品系はケチったらダメだよな。
こうしてバザール会場を歩くのも楽しいな。タロウとリンネも尻尾を振りながらあちこちのテントに顔を向けている。従魔達も楽しんでいる様でなによりだよ。
錬金エリアを一回りすると今度は皮革ギルドのエリアに移動する。ここでは普段使いする皮のベストやジャンパーなどが売られている。あとは小物入れ、ポーチもある。歩いているとあちこちでプレイヤーが店で買い物をするところを見かけた。俺は私服を着ないのだがファッションに興味のあるプレイヤーは多そうだ。男性も女性も店をのぞいては話をしたり商品を手に取ったりしている。
歩いていると一軒の店で皮の作業用のエプロンが売られているのを見つけた。出品しているのは女性プレイヤーだ。
「これって作業用のエプロンだよね?」
「そうよ。手に持ってみて。軽いから」
言われて手に取ると確かに見た目よりもずっと軽い。
「本当に軽いね」
「でしょ?そこがノウハウなのよ」
「なるほど」
彼女はマルチナという神官で皮革のマイスターだそうだ。
「貴方は有名な上忍のタクでしょ」
「そうだけど。俺って名前が売れてるの?」
アンドレイにも言われたが有名なんだな。タロウとリンネが一緒にいれば有名にもなるか。予想通りマルチナもタロウとリンネの事は知っていた。公式の配信も見たし街の中でも何度か見かけているそうだ。彼女曰く、タロウとリンネを知らないプレイヤーはPWLの中じゃいないんじゃないかと言う話だ。その流れで上忍のタクの名前も売れているらしい。
ここでも有名だと言われてタロウとリンネが尻尾を振って喜んでいる。恥ずかしいので自分の話は横において手に持っているエプロンの話に戻した。
「この皮の作業用エプロン、合成の時に使えそうだな」
「というか合成の作業の時に着てもらう目的で作ったのよ。ポケットもあるし動きやすさにも注意したの」
着てもいいかなと聞くとどうぞと言われたのでその場で忍装束の上からエプロンを着て見る。頭の上に乗っていたリンネにはタロウの背中に移動してもらった。エプロンを身につけて身体を動かすが確かに動きやすい。薄いがしっかりとした作りになっている。
「主、似合っているのです」
「ガウガウ」
タロウも似合ってるぞと吠えている。今までは忍装束のまま合成をしていたけどエプロンを身につけるとまた気分が変わるかもしれない。
「サイズや色は他にもあるわよ」
マルチナがいくつか端末から取り出して並べてくれた。どのエプロンも格好いい。
「これにしよう」
迷った末に薄い茶色のエプロンと青いエプロンの2着買った。農作業の時にも着てもいいかもしれないと思って2着買ったんだよ。青が農作業用、茶が合成用にしようかな。
「ありがとう。タクが買ってくれたって自慢できるわ」
支払いを終えるとマルチナが言った。
「そんなことないだろう」
俺はそう言ったがリンネは自慢していいのです。とか言っちゃってる。その後も皮革ギルドのエリアの店をのぞいた俺たち。夕方になったのでバザール会場を出て自宅に戻ってきた。買ったエプロンを早速身につけるとランとリーファが俺の前で歓喜の舞を踊ってくれた。妖精達も気に入ってくれてよかったよ。




