ステータス
翌日、情報クランのクラリアから通話が来た。
「渓谷の街の坑道からも神魂石が採掘されたの。青の神魂石が出たの」
端末の向こうでクラリアが教えてくれた。情報クランの別のパーテイが渓谷の街の南側、エリアボスを倒して出てきた山にある坑道を何度か往復して採掘しているとそこから青の神魂石が採れたのだと言う。盆地の坑道を掘っていたフェルナンデスのパーティの連中も言っていたが同じ採掘場所から毎回同じ石が採れるとは限らない。それが実証されたということになるな。
「情報を公開するんだろう?」
「もちろん。草原にいる水牛から出たという情報を公開する前に坑道からの情報が来てよかったわ。2つをセットにして公開する予定よ」
情報クランが初めて神魂石の情報を開示するとプレイヤーの間で大きな反響があった。採掘、そして魔獣。少なくとも2つのやり方で石が手に入ると分かってプレイヤーが湧き立っているそうだ。
そりゃそうだろう。入手手段が2つも明らかになったんだから。俺にしても採掘やレベル上げの時のモチベが上がるもの。
モチベは上がるがまだまだ上級レベルも採掘スキルも上げないといけない。そして合成もしなければならない。
やることは沢山あるけれど、どれもいつまでにという期限がない。自分のペースでやろう。
ログインする。畑の面倒を見る。そのまま自宅の工房で合成、これで午前中が終わる。午後は渓谷の街の北側で経験値稼ぎか坑道で採掘。夕方に自宅にもどってきてほっこりしてからログアウトする。
今週はこんな感じで日々を過ごしてバザールを迎えた。今回もそれなりの数の従魔の置物を作って販売したんだがこの日も夕方前には完売した。また何人かが買えなかったよ。申し訳ない。というか置物人気が想像以上なんだけど。
情報クランの2人が俺の自宅にやってきた時にクラリアにその話をすると当たり前よとあっさり言われちゃったよ。
「いい?先ず前提条件としてPWLにインして遊んでいる人たちの中では、タクの従魔達を知らないプレイヤーはいない。タクが思っている以上に有名よ。特に女性の中ではタロウとリンネは大人気なの。今PWLは登録人数で2.5万人。常時インしてるのは1万人前後。男女比は日によって多少ブレるけど平均で6:4くらいなの。となると約4,000人の女性が常時PWLで遊んでいることになる。その中で半分の女性が従魔の置物に興味があるとして2,000人。これくらいはの数の潜在需要があるってこと。そこから実際に買おうと言う人が半分いるしたら1,000人よ。常時インしていない人でも欲しい人がいるだろうから実際はもっと多くなるかも。」
俺は思わずマジかよと言ってしまったよ。俺の従魔達ってそんなに人気があるのか?クラリアが話をしている時には黙っていたトミーが言った。
「彼女の言う通りだぞ。実際に従魔の置物を買ったプレイヤーが他のプレイヤーにそれを見せたり話をしたりするとまた広まる。公式の掲示板もあるしな。タクは口コミの恐ろしさを知らないみたいだな」
よくSNSでバズるなんて言ってるけど発信型SNSをやっていない俺にはその辺の感覚がわからない。ただ2人の話を聞いていると口コミ、評判ってのはバカにできないってことらしい。それに公式の掲示板があるんだった。あそこは見ている人が多いって話だ。
「よく分かったよ。焼き物作りだけするという訳にはいかないけど、時間がある時に作ってできるだけバザールで売る様にするよ」
そうしろと、それがいいと言う2人。
彼らが今日自宅にやってきたのは神魂石についてだった。自分達が手に入れた石を強化屋に持ち込んで強化したらしい。
パラディンのリックが茶の神魂石を使って防具を強化し、青の神魂石はハンターの弓の強化に使ったのだという。ハンターと聞いたのでヘンリーかなと思ったら違ってた。別のハンターのプレイヤー、ケイトだった。彼女が情報クランのハンターの中で最も高いレベルだそうだ。確かにヘンリーは合成メインの職人だと本人が言っていたな。
茶色がVIT、青色がDEXだったか。体力と器用さが上がると考えるとパラディンとハンターが使うのがいいんだろう。
神魂石での強化については2つ手に入れたこともあり、防具と武器に分けて使ってその効果を検証したらしい。
「あくまで当人達の体感だが強化することでステータスが1より少し上、1と2の間くらいは上がっていると2人が言っている」
「なるほど。結構効果があるね」
1.5倍くらいアップするのかな。大きいよ
「ただ、石を強化する時に強化屋のNPCが教えてくれたのだが強化する装備は同じ色の石しか使えない。最初に使った石の色に固定される。そして強化は最大3回までだそうだ」
最初に茶の神魂石を使って強化した防具に次は赤の神魂石は使えない。2回目、3回目も茶色の石になるそうだ。色は固定されるものの3回強化したらステータスが4以上上がる。これは大きい。
「それにしても石1個でステータスの上昇が実感できるのってすごいね」
「その通り。十分に強化する価値はあるわよね」
「神魂石は1つではタクやスタンリーのバンダナ程のステータスアップは無いけど3回強化できる。3回すると完全に今の装備の上位互換装備になるな」
俺やスタンリーが装備しているバンダナはスタンリーによるとステータスが2段階は上がっているんじゃないかって言っていた。その辺りの感覚は常に攻略の最前線で高レベルの敵と対峙している彼の方が優れているのは間違いない。俺は前よりずっと動きやすいとは感じているがそれを数値化するのは無理だよ。
新しい武器や防具が売っていない中、強化でそれらを強くすることが結果的に高レベルの装備になって攻略がしやすくなる。運営は少なくとも今のところはそういうスタンスだという2人。つまりエリアを攻略するのなら強化前提だぞ。ということか。
情報クランはもうかなり前に装備品のステータスの検証を止めている。ただ時間が経っていることもありクラン側もプレイヤー側も体感ベースで装備品の評価をしていた。例えば腕輪を装備するとそのステータスが1近く増え、それがHQなら2から2.5くらい増える。これはプレイヤーの体感から広まっている話だが今では一般的な知識として広まっている。
アイテムで強化をする以外に武器や防具を強化することでトータルのステータスが上がって敵を討伐しやすくなる。情報クランのメンバーが神魂石を使って強化したことによるステータスアップ分に関してもあくまで推測だがという前提条件をつけて公開するそうだ。
「入手方法についてはとりあえず魔獣と採掘からという2つの方法がわかった。これ以外にもあるかもしれないけどな。そして石の入手確率だ。これは採掘の場合は採掘スキル、魔獣の場合はプレイヤーのレベルが関係してくると思われるけど、PWLの事だそんな単純じゃない気もしているんだ」
確かにPWLの運営は結構いやらしい。今トミーが言った以外にも確率をアップさせる要因が何かあるんだろう。
「セーフゾーンになっている小屋が関係してたりして」
「それも十分にあり得るのよ。具体的にどう絡んでいるのかは分からないけど小屋があの場所にあるっていうのがね。私たちも攻略クランの連中も何かあるはずだとみてるの」
クラリアも何かあると見ている様だ。
彼らは今上級レベルが36で、あと1つ上がって37になったら活動の拠点をその小屋にするそうだ。周辺が40から41だという話だから37くらいから美味しい狩場になるのかな。
「ただ結構リンクするのよ。最後はセーフゾーンに逃げ込んだらいいとは思ってるけど」
「その時に水牛の魔獣を倒してまた神魂石が出るのか?出るとしたら何体ほど倒したら出るのか。その時のこっちのレベルはいくつだ。色々調べながら攻略をする予定だよ」
そう言っているトミー。隣のクラリアも頷いている。攻略をしながら色々と探っていくのが楽しくて仕方がないって言う雰囲気がこっちにも伝わってくるよ。
「タクはいつも通り?」
「そうだね。しばらくは今まで通りの活動になると思う。レベルは上げたいとは思っているので渓谷の街の外に出る時間は多くするつもり」
トミーからは早くレベルを上げて俺たちと一緒に開拓しようぜと言われたけど流石にレベル差がありすぎる。
「攻略は両クランにお任せしますよ」
「タクは今までのパターンで好きに動いてくれた方がいろんな情報を取ってくれる気がしているの」
「それは買いかぶりすぎだよ」
俺はそう言ったがタロウとリンネは違ったみたいだ。タロウはガウガウと言いながら尻尾を振り回した。
「タロウは主がやってくれるから安心しろと言っているのです。リンネも安心しろと言うのです。主にお任せすれば何も問題が無いのです。ランとリーファもそう言っているのです」
今まで大人しかった2体の従魔達だがこれが言いたかったみたいだな。2体の妖精も羽根をパタパタとさせている。
あまりプレッシャーをかけて欲しくはないんだけどな。