採掘スキル上げ
今すぐに神魂石が欲しいとは思わないが欲しいと思った時に自分で手にいれる手段がないのは困る。ということで、
「今日は坑道で採掘スキルを上げるぞ」
俺はログインした自宅でタロウとリンネを前にして言った。
「上げるぞ。なのです。タロウとリンネに任せて主は洞窟の壁をトントンと叩くのです」
「ガウガウ」
「その通りだ。周りの警戒は頼むぞ」
悲しいかな俺の採掘スキルは7しかない。まずは山裾の町のダンジョンがある坑道でスキル上げをするのがいいだろう。
山裾の町に飛ぶとまずはヤヨイさんの店に顔を出した。挨拶は必要だよ。彼女に神魂石の話をしてからそれを採掘するためにスキルを上げるという話をする。
「大変そうだけど頑張ってね」
「頑張ります」
「タクの今の装備ならレベル以上の実力があるわよ。その頭のバンダナ。普通なら手に入らないほどの優れものね」
そうなんだよな。幸いにして装備関係には恵まれている。バンダナもそうだしここでもらった素早さの腕輪とダンジョンで見つけた力の腕輪。どちらもHQだよ。ツイているという以外何もないね。
くノ一忍具店を出た俺たちは鉱山を目指して歩いていった。最初の頃は初めてのダンジョンだとかモグラをテイムできるとかで人気があった場所だが今は誰もいなくて廃れていた。つまり採掘し放題だ。
まずは入り口付近の坑道で光っている場所をツルハシで叩く。
(鉄鉱石を1つ入手しました)
うん、いい感じだ。このエリアは魔獣がいないのでタロウとリンネはすることがない。2体を見ると坑道の中で戯れあっていた。うん、仲が良いのはいい事だよ。
入り口付近の光っているところをひたすらにツルハシで叩きまくっていると鉄鉱石がいくつか手に入ると同時に採掘スキルが10になった。まだまだだとまた叩きまくる。ポイントを叩きながら奥に進んでいくと15に上がった。
(スキルが上がってくると今まで光っていなかったところも光っている様に見えるんだけど)
(その通りです。スキルの上昇に合わせてポイントが増えていきます)
ミントが答えてくれた。やっぱりか。なんか最初見た時よりも奥側までポイントが光っている気がしたんだよ。と言うことは闇雲にあちこちを叩かなくて光っているポイントをしっかり採掘し続けると自然とスキルが上がって新たな採掘ポイントが見えてくるということだ。ちょっとやる気が出てきた。
スキルが15になると洞窟に生息している魔獣の生息域に入ってくる。今まで暇そうにしていたタロウとリンネの出番だ。
「任せるのです」
「ガウ」
「頼むぞ」
レベル制限があるとは言っても俺の従魔達の敵ではない、2体が片っ端から倒しまくっている間に坑道の壁に向かってトントンやっていてると夕刻に目標のスキル20に到達した。
坑道にライバルが1人もいなくて助かったよ。今時この坑道でスキル上げをしているのは俺ぐらいだろう。
とにかく採掘スキルが20になったのでこれでこの坑道の奥まで採掘できる様になった。明日も頑張るぞ。
翌日も山裾の坑道に入って奥に進みながらスキル上げをする。取れるのはほとんどが鉄鉱石だがたまに銅や亜鉛が採れたりする。
坑道を奥に進んでいくといくつか分岐があるが俺は全部の坑道を制覇するつもりなので分岐があれば左から右と決めて分坑道に入っていく。当然魔獣はいるがそこはタロウとリンネが嬉々として倒してくれるのでひたすらにツルハシを壁に向かって振り下すだけだ。
鉱山に4日間こもって全ての坑道を制覇して俺の採掘スキルは30になった。これでこの鉱山から卒業だ。
「次からは隠れ里の近くにある坑道を攻略するぞ」
自宅に戻ってきた俺はタロウとリンネを前にして言った。
「するぞ。なのです。どこの坑道でもタロウとリンネが敵をぶったおしてやるのです。主は安心してトントンやればいいのです」
「ガウガウ」
実際この2体がいるおかげで周辺を気にせずに採掘スキルを上げられている。大助かりだよ。
結局週末の2回目のバザールには行くことができなかった。どんな店が出ているのか見たかったんだけど仕方がない。バザールは毎週開催されている。それに来週は出品するつもりだよ。
次に向かう坑道は採掘スキルが30からだ。前回は全く見えなかったが今回は坑道内で光っているのが見える様になっているはずだ。どこまでスキルが上がるのかまでは分からないがツルハシで壁を叩きながら坑道を行ったりきたりしたらそこそこ上がるだろう。
山裾の坑道で手に入れた鉱石類は自宅の工房でインゴットにしている。鍛治ギルドに持ち込んだら買い取ってくれるが、何かに使えるかもと倉庫に保管していた。幸い倉庫にはまだまだスペースに余裕がある。
俺たちはすぐに盆地につながる坑道には出向かずに他にやるべき事をしていた。このゲームは好きなことができるしやりたいことが実際沢山あるんだよ。焼き物は次のバザールに出品する従魔達の置物と食器類がようやく出来上がった。従魔達の置物は50セット以上作ったのでおそらく大丈夫だと思う。
それ以外だといつもの畑の見回りをして農業ギルドに出向いたりした。畑や果樹園、ビニールハウスの世話はランとリーファに任せっきりで申し訳ないと思うんだがリンネに言わせると俺が気にする必要はないそうだ。
「ランもリーファも主が多忙なのは知っているのです。だから畑は任せろと言っているのです」
リンネがそう言うと俺の目の前で飛んでいるランとリーファの2体がサムズアップしてくる。問題なさそうだ。
「いつも悪いな」
俺がそう言うと2体の妖精が俺の両肩に乗ってきた。うん、癒されるよ。
レベル上げも短時間だがやっている。渓谷の北側で上級レベル33の羊を相手に経験値稼ぎをする。ようやくレベルが31になったよ。ここにきて本当にレベルが上がるための必要経験値が増えている。
タロウとリンネはレベルが上がって大喜びだ。
「これで今までよりも強くなったのです。どんどん敵をぶっ倒していけるのです」
「ガウ」
相変わらず過激な2体だが強くなっているのは間違いないぞ。
夕刻に自宅に戻ってログアウトまでのんびりと過ごしているとトミーから連絡が入ってきた。今からここに来るという。俺が渓谷の街に出向こうかと言ったんだがいつもの4人は俺の家がいいらしい。お茶を飲みたいんで準備を頼むと言われたので自分の畑で摘んだお茶の葉を倉庫から取り出して準備をしていると4人が庭に入ってきた。
「2つ目のセーフゾーンが見つかったんだよ」
縁側に座ってお茶を一口飲んで美味いと言ったあとでトミーが言った。
「見つかったんだ」
顔を上げてトミーを見ると彼が大きく頷いた。
「偶然だったんだけどな。広大な平地の山裾にあった」
広大な草原を水牛の魔獣を倒しながらあてもなく歩いていたらしい。メンバーの1人が山裾には坑道があるかも知れないと言ったので、その時に自分たちがいた場所から近い南側の山裾に向かって歩いていくと、山裾に柵が張り巡らせていてその中に平家の小屋が建っていた。彼らが小屋を囲んでいる柵のに入るとそこがセーフゾーンだったのだと言う。
探索をしてウロウロしている途中で相当数の戦闘をしたこともあり全員が上級レベルが34になっていた。こっちは31だがNEXTの経験値が増えている中、この3レベルの差は大きい。まあ彼らは攻略が本職みたいなものだから当然といえば当然なんだけどね。こっちはソロ中心ののんびりプレイヤーだ。レベル差は気にしない様にしよう。
「小屋って森小屋みたいなの?」
「それが分からないんだ。小屋は広くて中はガランとしている。その小屋の隅に転送盤があったんだ」
「転送盤があったのか」
「ただし転送先は渓谷の街のギルドだけ。他の場所は選べないの。渓谷の街のギルドの転送盤に乗ると転送先に”平原の小屋”というのが新しく追加されているのよ」
クラリアが言った。
「森小屋の様にこれから発展するのか、それとも転送盤だけがあるだけの小屋のままなのかは分からないの」
それでも転送盤があるだけでも移動が楽になる。
「タクの言う通りで移動は楽になる。それはいいとして、転送盤を置くだけであの広さの小屋は必要ないんだよな。何かあるはずだ」
メンバーの1人が端末に椅子が入ってるからそれを出そうとしたらここでは出せませんってAIに言われたらしい。他のメンバーがやっても同じだったそうだ。つまり自分たちから椅子やテーブルを置くことはできない。
「あの小屋が森小屋の様に訪れるプレイヤーの数で発展していくパターンであったとしたら発展するのはまだまだ先になる。周辺の魔獣のレベルが40から41だ。こっちのレベルを上げて装備を充実させないとあそこまで辿り着けない」
トミーとスタンリーが言ったがその通りだよな。このエリアに来て新しい武器屋、防具屋がない代わりに強化屋という店が登場している。装備を強化して攻略しろと言うことだろう。逆に言うと装備を強化しないと攻略できないぞ。と言っているのと同じだ。装備を揃えても上級25レベル。それでレベル40の魔獣がいるエリアを進んでいくのはレベルを上げるだけでは厳しいんだろう。強化前提なんだろうな。
情報クラン、攻略クランは武器や防具の強化はしていないものの手にいれることができる装備や防具は最上級のものを皆装備している。メンバーの中にはスタンリーの様にステータスをアップさせる装備を身につけている人もいる。そういう連中が2パーティで進んでやっと辿り着けることができる2つ目のセーフゾーンの小屋。運営はここでもたっぷりと時間をかけさせるつもりだと4人が言っている。
「渓谷を抜けた先の草原は本当に広くて地平線が見えるほどなの。でも見える範囲には魔獣しかいない。その魔獣も感知範囲が以前よりも広くて遠くからこっちを認識して襲ってくるのよ」
「それはきついね。俺はまだまだ無理だ」