従魔の置き物が評判になってるらしい
初めてのバザールは大盛況のうちに終わったらしい。らしいと言うのは後日情報クランのメンバーが教えてくれたからだよ。俺は結局自分の窯業のエリアと木工エリアの一部しか顔を出していない。
従魔の置物が想像以上に人気があったので時間がある時に作り貯めすることにする。間に合えば来週のバザールに出品するけど同じ出すのならある程度数を作っておいた方が良いだろう。もし数が足りなかったらバザールの出品は再来週になるな。この前買えなかった人には申し訳ないけどもう少し待ってもらうしかない。
バザールの前から街の外に出ていなかったのでこの日は久しぶりに渓谷の街の外に出ることにした。タロウとリンネも久しぶりの戦闘だということで尻尾をブンブン振って気合い十分だよ。街の外に出たところは混雑しているので幅4Kmほどの渓谷を北に進んでいく。
今の俺たちのレベルは29。ビッグホーンシープのレベルが32とか33ならちょうどよい相手になる。その辺までくるとライバルが減ってようやく経験値稼ぎができる環境になってきた。敵を見つけると俺がまず手裏剣を投げる、それで羊がこちらに向かってきたら待ってましたとばかりにタロウとリンネが戦闘を開始する。俺も刀で攻撃する。相手の体力は多いがこっちだってそれなりに強くなっている。危なげなく倒すと次の羊を探してはまた手裏剣を投げる。これで投擲スキルがあがるぞ。
こんな調子で街の外で戦闘をして夕刻に渓谷の街に戻ってきた。レベルは29のままで上がらない。レベルは上がらなかったけどタロウとリンネは久しぶりに外で暴れたのですこぶるご機嫌だよ。神魂石は全くドロップしない。たまに印章がドロップするだけだ。
渓谷の別宅でくつろいでいるとマリアがやってきた。
「ダンジョン攻略中じゃないの?」
「クリアしたわよ」
「おお、おめでとう」
彼らはバザールの翌日から攻略を初めて3日後、つまり昨日無事にボスを倒し切ったそうだ。俺はバザールが終わったらしばらく自宅でのんびりと畑の世話をしたり従魔の置物を焼いたりして過ごしていたからこの街にも来ていなかったんだよな。
ドロップ品を聞くと俺と全く同じだった様だ。つまり、
500,000ベニー
突撃の片手剣(パラディン、ウォリアー)
森の杖(魔法使い、神官)
森の精霊のバンダナ(全ジョブ)
「あとタクは14層の小屋からハンターの腕輪のHQが出たでしょう?それも同じだったのよ」
ダンジョンでのドロップは固定なのかな?と聞くとそう断定するのはまだ早いんじゃないかなというマリア。この辺りは情報クランも断定はまだ早いと言ってるらしい。
「木のダンジョン、再び挑戦しようという話をしているのよ。バンダナ狙いね」
神魂石がまだ出ていない中、確実にステータスが上がるバンダナは狙い目なんだろうな。そんな話をしてるとスタンリーがやって来た。頭にはバンダナを巻いている。彼が手に入れた様だ。
「バンダナが出た時にどうするかという話になったんだけどまずはリーダーが持つべきだとメンバーが言ってくれてね」
スタンリーもこのバンダナの凄さを実感したと言っていた。前衛だからSTRやAGI他のVITやDEXなどが上がるのはでかい。
「想像以上に効果がある。強化石をいくつも使ったのと同じ効果があるからな。だから再挑戦することにしたんだよ」
そうは言ってもダンジョン攻略だけではなく引き続き街の北側の攻略と交互に進めるそうだ。
「情報クランがセーフゾーンを見つけたんだよ。だから攻略が進むと思うよ」
渓谷の街の北側はしばらくは幅4Kmほどで続いているが朝一番に出て夕刻まで進んでいくと渓谷の西側の山裾にセーフゾーンを見つけたそうだ。彼らは明日そこからさらに奥地を探索するのだと連絡があったらしい。2パーティで探索しているのよとマリアが教えてくれた。
「セーフゾーン付近の羊のレベルが36から37だそうだ。生半可な装備じゃ前に進めないだろう」
情報クランの連中のレベルは32。そのレベルの2パーティ10名で奥に進んで行っているそうだ。36、7のレベルか。ソロの俺は無理だな。まずは29から30に上げないと。
「主、明日も敵をやっつけて強くなるのです」
膝の上で横になっているリンネが言った。タロウもガウガウと吠えながら尻尾を振り回している。
「そうだな。まずは上級レベル30を目指さないと先には進めないな」
スタンリー達もダンジョンには再挑戦するが情報クランからセーフゾーンが見つかったという話を聞いたので明日はそこを目指して街の外で活動する予定だそうだ。開拓は両クランにお任せだな。こっちはマイペースでやるよ。
タロウとリンネは戦闘大好きな従魔達だ。次の日も渓谷の街で羊を倒しまくっていると上級レベルが30に上がった。このエリアに来てレベルの上昇が鈍っている。新エリアに来て色々と変わってきているなと実感するよ。
次の日も午前中は自宅で畑仕事と合成、午後から渓谷の街の北側で羊退治をし、自宅に戻って4体の従魔達が見ている中で再び焼き物を作っているといつもの4人が自宅にやってきた。焼き物を手に取って庭に入ってきた4人を出迎える。俺が手に持っている従魔達の置物を見て、
「作るたびに上手くなってるな」
「これはまた売れるわよ」
と言ってくれる。自分でも作るたびに良い物ができるから楽しいんだよね。
「バザールに出すの?」
マリアが聞いてきた。
「出すつもりなんだけどある程度の数を作ってから出品した方がいいだろう?となると今週のバザールに間に合うかどうか。間に合わなかったら来週のバザールになるかな」
「タクの従魔達の置物、評判になってるわよ」
「評判?」
俺はそう言ったクラリアに顔を向けた。
「そう。買った人たちが知り合いに見せたり言ったりしたみたいでね。元々タロウちゃんとリンネちゃんは人気がある。妖精達もそうよ。それをタクが上手く作っているからって次のバザールで買おうと考えている人が多いみたい」
となるとますます今週は無理じゃないか。たくさん作った方が良いだろう。
やりとりを聞いていたタロウは尻尾を振り回して喜びを表し、ランとリーファは小舟に座ったままサムズアップをしていた。
「主の置物は一番なのです。一番人気があるのです」
俺の頭の上に乗っていたリンネが尻尾を振りながら言う。俺はありがとうなと言って頭に乗っているリンネを抱き抱えた。7本の尻尾をブンブン振って喜んでくれるよ。
「バザールで評判になったのはいくつかあるの。木工ギルドのエリアにあったフクロウの彫刻もそう」
ケンが作った彫り物だな。あれは俺が見てもすごいと思ったもの。あの彫刻が今回バザールで最も注目を浴びた一品じゃないかなと4人が言っている。
それ以外だと彫金ギルドのエリアに秀作が多かったらしく女性を中心に賑わっていたそうだ。普段使いの髪飾りやバレッタなどを綺麗な細工をして作り上げて販売していたらしい。裁縫ギルドのエリアにも様々な私服が出品されこちらも女性が多かったらしい。
一方皮革ギルドは男性用、女性用のジャケットやポーチ、カバンなど様々な革製品が出品されて店によって個性が出ていたらしい。
「鍛治ギルドはインゴットの出品が多かったよ。出品者の多くは何を出そうかと悩んだみたいだ」
とりあえず無難にインゴットの出品で様子を見たのだろうというのが情報ギルドの見方だ。2度目からどうなるのか逆に楽しみだと言っている。
「タクの窯業ギルドは個性が出てたわね。出品されていた焼き物の絵柄が人それぞれ個性が出てた。出店は少なかったけど評判はよかったみたいよ」
確かにあちこちの店にそれなりに人が集まっていた。俺も次からは絵のデザインを考えてみよう。こういうのも楽しいんだよな。
バザールの話をひとしきりした後でそれで攻略だが、とトミーが言った。
「今日俺たちは攻略クランと合同で、セーフゾーンから奥に進んだ。セーフゾーンから北に4時間程進むと渓谷が大きく右、つまり東に曲がっている。そしてその曲がった先は両側の高い山が左右に大きく広がっていて、目の前に広大な草原が現れたんだよ」
具体的には東に曲がっている渓谷はその先で左右の山が離れていっているそうだ。右側、東の渓谷はそのまままっすぐに伸びていて。西の渓谷はまた北に伸びていて、その間が広い草原になっている。
幅4、5Kmでずっと続いていた渓谷は途中から東に曲がっていてその先は渓谷ではなくなって盆地の様に広大な草原が広がっているのか。
「そのまま進んで行ったがセーフゾーンは見つけられなかった。そして新しい敵が現れた。ワイルドバイソン。水牛の魔獣だ。レベルは40」
彼らは2パーティで進んでいる間にレベルが上がっていて、レベル32でバイソンを相手にしたらしいが突進という特殊技があり体力も多い、2パーティで倒すのがやっとのレベルだったという。エグいな。30の俺に勝ち目はなさそうだ。
「草原を探索したいが何より敵のレベルが高い。とりあえずセーフゾーンをベースにレベル上げになる」
「それで渓谷が広がっている場所から見て街はあった?」
俺が聞くと4人が首を横に振った。