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バザール その2


 従魔達の置物は30セット用意したんだけど、バザールが開催されて2時間も経たずに全て売り切れてしまった。想像以上に人気があったんだな。自分の認識が甘かったよ。


 ほとんどが女性のプレイヤーで次から次に買ってくれる。一時はテントの前にちょっとした列ができたほどだった。


 タロウとリンネは自分たちの置物が売れるたびにお礼を言って愛想を振り撒いていて、それがまた可愛いのだとスクショを撮られまくっていたよ。


 買えなかった人にはまたバザールで出品するから次回以降でお願いしますと話をして納得してもらった。本当にごめんなさい。


 午後4時前にクラリアとトミーがテントにやってきた。情報クランとして大皿、中皿、そしてコップをそれぞれ10個ずつ購入してくれた。来客用や自分たちの打ち合わせ用として使うそうだ。毎度ありがとうございます。


 従魔の置物が売り切れたこともありテントの前は一時の混雑はなくなっていた。


「当然よ。タクの従魔達は皆人気があるんだもの」


 俺が置物が2時間弱で全部売れたというと十分に予想できたという2人。


「次回は値上げしても売れるんじゃないか?」


 冗談っぽい口調でトミーが言っている。もちろん俺は値上げをする気はない。


 情報クランは手分けをしてバザール会場の全てのエリアの出品をチェックしたらしい。


「エリアごと、そして店ごとに個性が出ているわよ。見ているだけで楽しいのよ」


 木工のエリアでは木彫りの虎や狼に、竹とんぼの様なおもちゃや木製の食器が売られていたそうだが、その中で最も注目を浴びていたのは太い木を削ってフクロウを木の幹に掘り込んだ置物だという。


「高さ1メートルくらいの原木に見事にフクロウを掘り込んでいるのよ。売値は2,000万となってたから売るというよりも展示したかったって感じね」


 それ以外にも彫金のエリアでは女性が好きそうな金の髪飾りなど凝ったデザインのが並び、裁縫のエリアでは私服がメインだそうだ。女性の職人が多くいるので華やかなエリアになっているらしい。錬金や鍛治のエリアもそれなりに人が集まっていると教えてくれた。


「正直この窯業エリアが一番店舗数が少ないの。多いところだと1,000以上の店舗が並んでるわ」


 そりゃそうだよな。窯業ギルドが登場したのは土の街だ。それまでなかったんだから。合成好きなプレイヤーは始まりの街にある各種ギルドに登録して腕を磨いている。それに窯を買うにしても結構高いしね。


「その他ってのがあっただろう?」

 

 クラリアの話が終わってからトミーが言った。確かその他というカテゴリーがあった。


「今回はここには誰も出品していない。おかしいと思わないか?ギルドごとにエリアがあるのにその他がある」


「神魂石用?」


 俺が言うと頷く2人。


「今回は出品がなかったということはまだ誰も手にしていない可能性が高い。と同時に運営は今後は神魂石の売り買いの場としてバザールがその媒体の1つになることを考えているのかもしれないな」


 2人と話をしている間にも時々プレイヤーが従魔の置物はありますかとテントにやってくるのでその度に会話を中断して来てくれた人たちに売り切れました。また出品しますのでお願いしますと説明をしてお引き取りしてもらっていた。


 情報クランの2人が帰っていった後も何名かのプレイヤーがテントに来てくれたんだけど、置物はもう売れたんですよと言うと置物の代わりにコップや食器を買っていってくれた人もいる。ありがとうございます。


 置物でも食器でも俺が作った製品が売れると2体の従魔は買ってくれた人に謝意を示してくれる。


「ありがとうございますなのです。主が作ったお皿もコップも一番なのです」


「ガウガウ」


 タロウとリンネが毎回しっかりとフォローしてくれたよ。タロウやリンネと一緒にスクショを撮りたいと言われれば2体はテントから出て買いにきてくれたプレイヤー並んでスクショに応じる。サービス精神満載だ。


 持ち込んだ食器やコップも午後7時頃には全て売り切れた。リンネじゃないけどお金持ちになったよ。


(ミント、売り物がなくなったらどうしたらいいのかな?)


(ウインドウから閉店を選択するだけでOKです。閉店を選択すると当日はもう店を開くことはできません)


(わかった。ありがとう)


 売り物がなくなっちゃったから店にいる必要もない。店の後ろの絨毯の上で休んでいる2体に顔を向けた。


「タロウ、リンネ。全部売れたから今日は店じまいするよ」


 俺がそう言うとタロウは起き上がって体を寄せて来た。リンネは俺の頭の上に飛び乗ると頭の上から言った。


「全部売れたのです?」


「うん。全部売れたよ」


「ガウガウ」


「タロウが素晴らしいと言っているのです。リンネも素晴らしいと言うのです。主、よくやったのです」


「お前達がしっかりとお手伝いしてくれたからだよ」


 そう言うと2体がブンブンと尻尾を振り回してきた。俺はウインドウで操作をして出店を終了すると2体の従魔を連れてバザールの中を歩いてみることにする。


 どこに行こうかと悩んでとりあえず窯業の次に自分の合成スキルが高い木工エリアを見ることにしてそのエリアに飛んだ。バザールの会場はまだまだ人が多いがこれでも減った方なのだろう。木工エリアはテントが10列以上並んでいて数百店舗はありそうだ。


「これか」


 クラリアとトミーが言っていた丸太を削って作ったフクロウが展示されているテントを見つけた。確かにすごく緻密にできている。太い木の幹をくり抜いて巣穴の様になっており、その中に一羽のフクロウがいた。後からフクロウを巣穴の中に置いたのではない。一本の木を削り、フクロウを彫っている。



「本物みたいなのです」


 俺がテントの前に立ち止まって見ていると頭の上に乗っているリンネが言った。うん、俺もそう思うよ。


 そのテントに展示されているのはこの大きな木彫りのフクロウだけだ。他の木工製品は並べられていない。売れたのかそれとも最初からこれだけを展示しているのか。


 テントには私服姿、作業着を着ている人族の男性プレイヤーが座っている。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」


 挨拶をすると男性もこんにちはと挨拶を返してきた。


「俺は上忍のタク。こっちがタロウでこっちがリンネ」


「有名なタクと従魔達だね。俺はケン。木工のマイスター。ジョブは狩人」


 狩人っていうからまだ上級ジョブに転換してないのかもしれない。別に上級ジョブに転換しなければならないという事はないからね。それもプレイヤーの自由だよ。


「これ、制作日数どれくらいかかったの?」


「インしている間にちょっとずつやって半年近くかかったかな」


 ケンはバザールの発表のある前から趣味で少しずつ彫っていたのだと言う。郊外で伐採できる木を見つけて切り倒して自宅の工房で削って作成したんだよと教えてくれた。


「出来上がって少ししてからバザールがあるってアナウンスがあってね。皆に見て評価をもらおうと思ってこの1品だけ展示してみたんだ」


「なるほど。これは見る価値が十分にあるよね」


「見事なのです」


「ガウガウ」


 従魔達も俺と同意見だ。


「そう言って貰えると出品した甲斐があるよ」


 2,000万の価格設定も売る気はないが値段をつけないと出品というか展示できないのでこの価格に設定したらしい。


 口コミで広がったみたいで多くの人が見てくれて、中には小さなサイズの彫り物を作ってくれと個人的に頼んできたプレイヤーもいるらしい。この腕前なら自宅やオフィスに装飾品として十分に飾ることができるよ。


「バザールでは利益がゼロだけどそっちで少し儲けられそうだよ」


「なるほど。この場が良い宣伝の場になったんだ」


 俺が言うとそう言う事だというケン。その後話をすると開拓者の街では畑付きの自宅を買ったのだという。


「畑は農業をする為じゃなくてその分の土地が欲しかったんだよ。だから原料の木を置く場所と、製品を並べる倉庫をそこに建ててるんだ」


 一応畑として利用してくれと不動産屋に言われたので隅の方に2本りんごの木を植えて育てているんだよと笑いながら教えてくれた。運営から何も言われていないと言うのでそれで十分なのだろう。


 俺も畑のエリアに自宅があるので今度お互いの工房を見させてもらうことにしてフレンド登録をした。


「敵を倒して強くなるのがゲームの本流かもしれないけどさ、PWLは趣味に走ることもできる。俺はこのゲームを楽しんでるよ」


 そう言ったケン。うん、ゲームを楽しむのが一番大事だよね。


 彼のテントで結構な時間話し込んだのもあって端末を見るともう良い時間だった。


「家に帰ろうか」


 彼のテントから離れてバザールの通路を歩きながら隣の2体を見る。


「ガウ」


「お家に帰るのです。ランとリーファが待っているのです」


「そうだな」


 初めてのバザール。楽しかったな。


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― 新着の感想 ―
いっそ置物だけじゃなくて、皿の形とか食器の絵柄を従魔モチーフにしたら、倍の値段にしても即売れするだろうな いっそ従魔をコンセプトにして売るのもアリじゃないかと思う。木工スペースで木彫りの従魔を作ると…
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