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バザールの準備

 渓谷の街のギルドで買った新しい窯は大きいだけあって火力も強いのか今までよりも短時間で焼き上がる。焼きムラも少ない気がするよ。窯がアップグレードできてよかった。


 週末のバザールに向けてとりあえずお皿とコップを焼いている俺。例によって4体の従魔達は俺のそばでおとなしく作業を見つめている。隣で俺の作業を見るのは飽きないらしい。


 焼き上がった食器を窯から取り出して木のテーブルの上に置くと従魔達が集まってきた。今までの皿と大きさは同じだがなんとなく出来が良い気がする。何というか製品の光沢が違う気がするんだよ。気のせいかもしれないけど。


「綺麗なのです」


「ガウガウ」


 俺の頭の上に乗って上から見ているリンネが言った。タロウも吠えているしランとリーファも俺の両肩に乗ったままサムズアップしてくれている。


「うん、綺麗にできたよ」


 窯から取り出した皿やコップを並べていくとその度に従魔達が喜んでくれる。自分でもなかなかの出来になったと思う。


 ある程度食器を作った俺は今度は従魔達の置物を焼くことにした。バザールは途中で商品の補充が出来るという説明があったのでとりあえず多めに作ってみよう。売れなくても全然構わない。


 工房に置いてあるスケッチブックには従魔達の様々な姿を描いたデッサンがある。その中から4体のポーズを選ぶと土で形を作り始める。自分たちの置物を作ると分かったのだろう。皆俺の周りで応援してくれるよ。


 時々当人を見て修正をしながら土で固めた4体の従魔達を作っていく。これもスキルが上がったせいか短時間で形になる様になっていた。


「このポーズでいいか?」


 土でポーズを作った俺は側にいる従魔達に聞いた。タロウは尻尾を振りながらガウと吠え、ランとリーファはサムズアップ。そしてリンネも


「格好いいのです」


 と言ってくれた。よし、これで行こう。窯に入れて素焼きをする。大きくしたので焼成時間も短くなった。中から取り出すと幸いに割れやヒビもなく綺麗に焼き上がっている。今度はそれに釉薬で色をつけていく。時々側にいる従魔を見ながら色に濃淡をつけて塗り上げると再び窯に入れて温度を上げた。


 出来上がったのを窯から取り出した。


「皆格好いいのです」


 リンネが言い、他の3体も喜んでいる。ランとリーファは歓喜の舞をしてくれた。


「よし、このポーズで続けて焼くぞ」


「焼くぞ!なのです」


「ガウ!」


 それからバザールの前日まで俺はほとんどの時間を自宅の工房に篭って焼き物メインの日々を送った。ちょっと気合いを入れすぎたかもしれない。でもおかげで窯業スキルが50を超えたよ。合成の中では木工を抜いて自分の中で一番高いスキルになった。


 バザール前日、最後の焼き物を仕上げて端末に収納をし終えた夕刻、いつもの4人が開拓者の街の自宅にやってきた。この日の活動が終わったそうだ。


 縁側に座った彼らにお茶と果物を置いたタイミングでタロウを撫でていたマリアも縁側に座る。俺が縁側に座るとタロウが縁側に上がって俺の隣で横になり、リンネは膝の上に乗ってきた。


「ずっと自宅に篭っていたみたいね」


「明日のバザールの準備をしていたんだよ。そっちは?」


 情報クランは渓谷の街のNPCから情報を取りながら郊外の羊を倒しているが今のところ新しい情報は無いらしい。


 攻略クランは木のダンジョンの13層をクリアして次は14層だそうだ。


「15層がボス層だよ。もうすぐじゃない。それで12層で宝箱あったの?」


「それだが12層ではなくて13層に宝箱があった。タクと同じ力の腕輪のHQが出たよ」


「おおっ、よかった」


「宝箱の出現は元々ランダム。タクらが12層で見つけた宝箱、攻略クランは12層じゃなく13層で見つけた。出たアイテムはタクと同じ」


 クラリアが言った。彼らはダンジョンの宝箱のデータを集めている。フロアがズレたのはおそらく12、13層を1つのエリアとして捉えているからじゃないかというのが情報クランの見立てだ。彼らによると他の宝箱についてもフロアが上下しているケースがあるらしい。


「タク、14層も熱帯雨林でフロアが広い。途中で小屋があるからまずはそれを目指したらいい。こういう理解で合ってるかい?」


「それで合っている」


 スタンリーの問いかけに自分たちが攻略した時のことを思い出しながら答える。


「14層から15層に上がるとボス戦よね。撒菱をしっかり準備しておかないと」


 マリアが言った。


「ボスは4本腕のゴリラだ。体力はあるけどそれだけだよ。いけるいける」


 実質3人の俺達でも倒せたんだから攻略クランのトップなら行けるだろう。むしろボスのフロアまでの方が視界が悪いしやっかいだよ。こっちはタロウがいたから事前に敵を発見できたけど。


「私たちも近々ダンジョン攻略を再開する予定なの。今のところ強化石の情報は無いし。ダンジョンを攻略しながらの情報収集になりそう」


 バンダナを含めて良いものを落としてくれるボス。今の新エリアでも十分に使える武器だ。上手く攻略できるといいな。この2つのクランのトップパーティなら今の装備なら問題ないだろう。


「皆頑張るのです」


 膝の上に乗っているリンネがエールを送っている。それに応えて頑張るよと言っているメンバー。タロウもガウと言いながら尻尾をブンブン振っている。



「ところで明日のバザールの準備は終わったの?」


 とクラリアが聞いてきた。


「終わった。新しい窯で食器と従魔の置物を作ったよ。明日は大勢のプレイヤーが出品するだろうから売れるかどうかはわからないけどね」


 バザールが盛り上がっているのは俺も知っている。合成職人を中心に皆この日に合わせてしっかりと自分の得意な品物を作っているだろう。そして出品をしないプレイヤーにとってもバザールは楽しみだという事だ。


 マリアは私は従魔達の置物は買うわよと宣言している。これはブレないんだよな。


「どんなものが出品されるのか皆楽しみにしているみたいよ」


 情報クランの事前の調査でもプレイヤーの中でのバザールに対する注目度は高いそうだ。噂じゃ私服やカバンや装飾品などが売りに出されるだろうと言われているし、それ以外に当日あっというものが売り出されるかもしれない。売り手にとっても買い手にとっても楽しみなイベントになりそうだというのが皆の認識だ。戦闘に関係のないアイテムだからこそ純粋に楽しめると考えているプレイヤーもいるという。


 攻略クランも情報クランも明日は活動を休みにしてフリーにしているそうだ。情報クランにはマイスターもいる、身内が出品したら顔を出すのは当然だよと言っている。攻略クランもマイスターじゃなくても合成好きなプレイヤーはいる。皆で楽しもうということだよな。


「タクのブースにも顔を出すよ」


 スタンリーが言った。


「おお、待ってるよ。明日は出来るだけバザールの会場にいようと思ってるんだ」


 俺自身は作れるものが限られているし、がっつりと売って儲けようぜ、というよりはバザールの雰囲気を楽しんでみたいという気持ちの方が強い。なので用意したものが全部売れなくても全く問題ない。


「初めてのバザール。多くの人がやってきそうね」


「運営のことだ。サーバーを分けて重くならない様にしてるだろう」


 森の街から水の街への移動の船の様な対応をしてくるんじゃないかと言っているが俺もそう思う。出来るだけサーバーに負荷がかからない様にしているだろう。


 それからしばらく雑談をしていた彼らはまた明日と言って帰っていった。


「明日はタロウとリンネも一緒にバザール会場に行こうな。ランとリーファはお留守番頼むよ」


 そう言うとランとリーファはサムズアップして応え、タロウは任せろと吠えながら身体を寄せてきた。


「主、明日はバザールでがっぽりと儲けるのです。タロウとリンネがばっちりとお手伝いをするのです」


「そうか。頼むぞ」


 俺は縁側にいる4体の従魔達をしっかりと撫で回してからログアウトした。



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