新しい街で
ログインするとメッセージがありますと言う通知がウィンドウに現れた。見るとルリからだ。
ー 久しぶりに3人で会わない?時間がある時に連絡してくれる? ー
フレンドリストを見るとルリもリサもインしていないのでメッセージを入れて、俺はやり残している市内の路地巡りを続けているとルリから電話が入ってきた。時間がかかる路地巡りはほぼ終わりかけていて、あと数本の路地を歩けば終わるだろう。
「今オンしたの、久しぶりね。それと新エリアに来られたのね。フレンドリストを見たからタクの所在が新エリアになってたからさ、声を掛けさせてもらったのよ」
「久しぶり、なるほどね。そうなんだよ。人より遅くなったけどやっと来たよ」
フレンドリストではそのフレンドがいる場所が表記される。ルリも同じ街にいる様だ。リサはまだオンはしてない。
「もうちょっとしたらリサもインしてくると思うんだけど、3人で食事しない?」
「いいね」
こっちも彼女達から街やフィールドの情報が欲しいので二つ返事でOKする。
それから1時間後、リサがログインをしてきて2人が指定した市内のレストランに出向いた俺は女性2人が座っているテーブルに近づくと2人の装備が変わっているのに気が付いたが彼女達も俺の装備が初期装備ではなくなっているのに気が付いた。挨拶をして席につくなりルリが言った。
「やっと初期装備から卒業したのね」
「似合ってるじゃない」
「ありがとう。そっちもこの街で変えたのかい?」
「そうなの。防具の種類が多いから迷っちゃったわよ」
今2人のレベルは36だという。プレイヤー中では平均よりもやや下のレベルらしい。平均レベルは37くらいという話だ。
「新エリアに来てからはパーティでの経験値稼ぎを減らして2人で街の中をウロウロしたり、外でテイムできそうな魔獣を探しているの」
そう言ったルリ。俺のゲームの楽しみ方を聞いてから自分達も経験値稼ぎばかりをするのを控えているのだという。クランには入ってないのかと聞くといくつか誘われているけどまだ入っていないらしい。
「私達2人ともリアルじゃ大学生なの。今は夏休みで時間があるけど学校が始まると定期的な活動ってのが出来なくなるのよね。クランに加入した後で周りに迷惑を掛けるのなら最初から参加しないでおこうかなって話をしているの」
アルバイトもやっているという2人。なので今も毎日インしている訳じゃないという。
なるほど俺と同じ学生だったんだ。まぁ俺はバイトをする予定は今の所はないけど。
NPCの給仕の手で食事が運ばれてきた。このゲームではしっかりと味覚が存在しており、頼んだ料理は美味しい。
「やっぱりテイムするのならモフモフと思っているんだけどこれがフィールドにいないのよ」
「周りにはカブトムシとかの虫系の魔獣をテイムしている人がいるけどちょっとね」
「なるほど」
美味しいと言いながら食事をしている2人が言った。
まぁそれらはモフモフとは正反対にある魔獣だよな。それにしてもこのエリアは虫系の魔獣がいるんだ。
ちなみに魔獣の中で獣人と呼ばれている種族はテイムできない。ゴブリンやオーク等の人型の魔獣だ。それ以外であれば体力を削ったところでテイムをかけると100%ではなく低い確率でテイム出来る仕様になっている。
「タクは相変わらずフェンリルのタロウだけ?」
「いや、最近新しい従魔が増えたんだよ」
そう言うとテーブルの向かいに座っている2人が食事の手を止めて顔を上げた。
俺はこの新しいエリアに来る時にクリアしなければならないエリアボスをフェンリルのタロウと倒したら初見でソロでエリアボスを倒した初めてのプレイヤーということで報酬が出たと話をする。
「あのワールドアナウンスはタクの事だったのね」
「エリアボスをソロでクリアなんてよくやるわね、という話を2人でしていたのよ」
「最初のエリアの2つ目の街でレベル上げをしていたんだよ。村に着いたときはまだ結構な数のプレイヤーがいたんだけどさ、皆次々とパーティを組んでエリアボスに挑戦してクリアしていった。こっちはそん時はまだレベルが低かったからそれには参加できなかった。やっとレベルが33になったと思った時にはもうプレイヤーはいなかった。仕方ないからソロで挑戦したらたまたま勝っちゃったというのが真相」
別にソロでやりたかった訳ではなく、人がいなかったから結果的にソロでの挑戦になったんだよと言った後で、
「それでこの街に入って街の中をウロウロしていたらテイマーギルドから報酬が出ると知って、ギルドに顔を出して2体目の従魔を手に入れたって訳」
「2体目もリストから選べたの?」
「いや。2体目は最初から決まっていた。貰ったのは白いメスの九尾狐の子供だった」
「白い九尾狐の子供?」
「妖狐?また凄いのが来たじゃない」
彼女達が始まりの街のテイマーギルドで手に入れた従魔はフォックスで狐だが彼らは九尾狐ではない。
「最初の4種類のフォックスの中に白色のはいなかったね」
彼女達はシルバー、ゴールド、ブラック、グレイという色のフォックスから自分の欲しいのを手に入れている。
その彼女達の従魔だがLV20 になると従魔の効果が大きくなったらしい。
「タクから聞いていたけどその通りだった。レベルが10に到達したら従魔の情報が少し開示されて20になったら強くなったの」
自分と同じで良かったと胸をなでおろす。自分の従魔だけが特別とかになると面倒くさい。2人によると元々持っていた能力が底上げされたのだという。ルリの場合には近接攻撃力のアップ、リサは魔法の威力アップ。どちらも少人数で動く時には有効な従魔達だ。
この街に来てからはあまりパーティを組まずに2人で活動をしているらしい。従魔が優秀だからできるのよと言う2人。従魔が優秀なら実質4人とも言えるしな。イン時間が不定期になるからこの方が周りに気を使わなくでもいいでしょう?と言っていたがその通りだよ。
食事が終わると俺の新しい従魔を見たいというので3人で城門から外に出た。
門から少し離れた場所で3人がそれぞれの従魔を呼び出す。タロウとリンネは俺の足元にすり寄ってきたと思ったら直ぐに定位置に着いた。タロウはそのまま俺の足元、リンネは俺の頭の上だ。
「何これ、ものすごく可愛いじゃない」
頭の上に乗って首を上げて周囲を見ているリンネの姿を見た2人のテンションが高い。
彼女達の従魔も呼び出されると屈んだ2人の身体を駆けあがってマフラーの様に首に胴体を巻き付けて首からぶら下がる様な格好になった。これがリラックスしている姿勢らしい。これも可愛いぞ。
彼女達の従魔はギンちゃんとクロちゃんという名を付けているそうだ。ルリがギンちゃん。シルバーフォックスだから銀、リサはブラックフォックスだから黒。うん、わかりやすいよ。俺は九尾狐の名前がリンネと言ってどうやら魔法が使えそうな従魔だと話をする。従魔達はいつの間にか4体が固まって草原の上で戯れあっていた。
「タロウが前衛系でリンネが後衛系。ばっちりじゃない」
「だろ?ソロで動く時には2体とも頼りになりそうだよ」
「この九尾狐の事もそのうちに掲示板で噂になりそうね」
2人によるとエリアボスをソロで倒したというワールドアナウンスがあってから掲示板では誰が倒したんだという話題で盛り上がっているらしい。
「何人かはフェンリルを従えているプレイヤーじゃないかって書き込んでいるんだけど同時にフェンリルを従魔にしているプレイヤーのジョブが忍者だからそれは無いだろうという書き込みもあったりするの」
忍者だからそれはない。うん、もっともな意見だと俺も思う。
「別に隠す気もないし、実際に情報クランにはこの話はしているし調べたらすぐに俺だって分かるんじゃないかな」
俺だと分かったところで何も大勢に影響はない。俺は攻略組でもなければクランに入っている訳でもない。自由気ままにこのゲームを楽しもうと思っている1プレイヤーだ。
「俺のリンネの話題もあるかもしれないが、それよりもそろそろフィールドでテイムした従魔自慢になるんじゃないの?」
「それも十分あり得る話ね」
しばらく従魔たちと遊んだ俺たち。2人はこれから用事があるというので、今度3人でフィールドで一緒に経験値稼ぎをしようと約束して別れた。2人は街の中に戻って行ったが俺はフィールドに残る。彼女達はLV36で俺はLV33、寄生にならない様に少しでもレベルを上げておかないとね。
街の西の森で2時間程魔獣を倒していると忍者のLVが34になった。タロウも34、リンネはなんと12まで上がった。リンネのレベルが10を越えた時点で従魔の情報が一部開示されリンネのレベルが見える様になった。そしてリンネはLV10で強化魔法を覚えた様だ。まだそれほど強い強化魔法じゃないけどそれでも大助かりだよ。
タロウは話しかけるとガウガウと声を出すがリンネは声を出さない。前足で分かったと俺をトントンと叩いたり軽く前足をあげたりするだけだ。そういう従魔なんだろうと俺は気にしていない。意思の疎通は出来ているみたいだし問題ないな。