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街がない


 俺たちの目の前には大きな渓谷が広がっていた。背後、そして左右が高い山に囲まれその左右の高い山は裾部分から緩やかになっている。高い山の上は白くなっているがあれは雪が積もっているのだろう。そこから下に伸びている山裾は途中は高い木が生えていて、緩やかな傾斜の山裾になると木が少なくなり草原になっている。渓谷の平地部分の右側には山から流れてきている川が見えていた。


「綺麗な景色ね」


 皆で目の前の景色、渓谷を見ているとクラリアが言った。渓谷の幅はここから見る限り意外と広い。4、5Kmはありそうだよ。ただ両側は高い山で登れそうにはないな。


「写真で見たアルプスの田舎の風景みたい」


 そう言われるとそうだ。まるで写真の様な景色が目の前に広がっている。その景色を見ていたトミーが言った。


「ここから見える範囲に街がないな」


 その言葉で全員がもう一度前を見る。確かに草原や川は見えるが街らしきものは見えない。


「あれは建物かしら」


 メンバーの1人が指差した方向、渓谷の間にある草原地帯にログハウスの様な建物が1つだけポツンと建っている。遠くにあるからはっきりとは見えないがあれは家か小屋だろう。


 それにしてもエリアチェンジをしてもそこから見えるところに街がない。このエリアは今までとは何か違うな。


 皆同じ疑問を持っている様だが、とりあえず行ってみましょうと全員が洞窟の出口から伸びているスロープを降りていく。


 降りてから背後を見ると左右と同じ高い山で、洞窟の出口は地面から20メートル程の高さの場所にあった。もう一度周囲を見るが前の渓谷に進む以外にルートはなさそう。新しいエリアは自分たちの左右と背後が高い山になっていて前にしか進むルートがない。


 山裾に降りて草原を10分程歩くと建物がはっきりと見えてきた。周囲を柵で囲んでいる中にログハウス風の建物がある。周囲に魔獣の姿は見えない。


 さらに5分ほど歩いた俺たちは柵から中に入った。


「主、ここは元気になる場所なのです」


「ガウ」


「なるほど、ここはセーフゾーンになっているんだな」


 リンネの言葉を聞いていたスタンリーが言った。そのままログハウスの扉を開けると中は広くてまるで森小屋の様だ。というか森小屋と同じだ。カウンターがありだだっ広いホールがある。人族のNPCが2人カウンターの向こう側に立っている。

 

 全員が小屋の中に入ったところでクラリアとスタンリーが前に出てカウンターに近づいた。


「ここは新しいエリアですよね?。街はもっと先にあるんですか?」


 クラリアがそう聞くとNPCの1人が答える。


「いいえ。ここはプレイヤーさん達が作る新しい街の予定地です」


「プレイヤーが街を作る?」


「街の予定地?」


 スタンリーとクラリアが同時に言った。


「その通りです。今はこの小屋だけですが訪れる人が増えると建物が増えてそこで働く人も増えていきます」


 なるほど。森小屋の街バージョンなのか。クラリアがその場で何人になったら街になるんですか?と聞いているが首を左右に振るだけでNPCは答えてくれない。


 俺たちはまず小屋の奥の部屋にある転送盤を登録する。全員が登録すると何も置かれていないホールに集まって床の上に腰を下ろした。


「森小屋と一緒ね。プレイヤーが増えると街ができるってことね」


「何人くらい来たらここが街になるんだろう」


「1万人?」


「そんなにか?せいぜい5,000人くらいじゃないの?知らんけど」


「森小屋の時は1,000人。間違いなくそれよりも多いわね」


 思いついたことを言い合うメンバー。誰も正解を知らない中で考えられることを口にしている。俺はというと隣で横になっているタロウを撫で、お腹の上に乗っているリンネを撫でながら彼らの話を聞いている。タロウとリンネもこの話は関係がないとばかりにリラックスして尻尾を振っている。お前たちは本当に気楽だよな。


 誰かが言っているが間違いなく森小屋の時よりも多くの人が来ないと発展しない、街にはならないだろうという気はする。何と言っても今度は街だよ。小屋じゃなくて街の開発だよ。


 多くのプレイヤーが集まる必要があることに関して、情報クランは鍵を落とす森小屋の奥にいたNMから採掘場のボス戦、そしてこの街への移動することで街ができるという全体の流れをできるだけ早く公開すると言う。


「皆新しいエリアには興味がある。その街の発展に自分たちが関与できるとなれば早い時期に大勢くるんじゃないか」


「前のエリアでしっかりと25装備を充実させるのは不可欠だよね。そこもきちんと言っておかないと」


 他のメンバーはトミーとクラリアの話を聞いていた。2人の話が終わったところでスタンリーが言った。


「いずれにしても俺たちは新しいエリアに来た。そして今はこの小屋が拠点だ。幸いにセーフゾーンでもあり、ログアウト、ログインができる。まずは渓谷の奥に行ってみないか?魔獣がいるかどうか。いたらその種類やレベルを見てみたい」


 彼の言葉にそうしようということになった。ここに座っていても何も分からない。同じ分からないのなら奥を探検してみるのは当然の流れだよ。



 ちなみに転送盤を登録した後でこの場所を見ると『渓谷の街、予定地』という表示が出た。転移の腕輪を持っている連中にその話をすると彼らも確認する。


 『渓谷の街、予定地』ここにプレイヤーが増えて街になったら予定地という文字が消えて渓谷の街になるんだろうな。

 

 俺たちはセーフゾーンの森小屋を出て渓谷を進みはじめた。地理的には北に進むことになる。エリアボスを倒して出てきた洞窟がある山が南に位置していて、その左右、東西は高い山が聳えている。


 小屋を出てしばらくは魔獣の姿がない。進んでいくと渓谷の東側を流れていた川が蛇行して渓谷の西側に移動してそのまま先に伸びている地点に来た。

 

 川幅は10メートルほど。川には橋はかかっていないが浅い川なので渡ろうと思えば川を歩いて渡れそうだ。


「あれを見ろ」


 川の手前で立ち止まって川面を見ているとトミーの声がした。顔を上げると前方の草原に角を生やしている大きな羊が徘徊しているのが目に入ってきた。


(ミント、あれはわかる?)


(はい。ビッグホーンシープ。上級レベル30の魔獣です)


 俺がサポートAIに聞いたのと同じ様に周囲のメンバーもあの魔獣の情報を得た様だ。


「それなりのレベルね」


 スタンリーの隣に立って前を見ているマリア。彼女の言う通り上級レベル30は結構高い。しかも体が大きく体力がありそうな魔獣だ。


「この川が東から西に流れを変える地点。ここまでが街のエリアになって、この川を越えるたあたりじゃら街の外、つまり魔獣がいるエリアになるということじゃないかな」


 魔獣を見つけたトミーが自分の予想を言っている。


「上級レベル25装備の値段が高い理由だけど、エリアチェンジしても街がない。そしてそこにいる魔獣のレベルは高い。当分の間更新する事できないから森小屋で優秀な武器や防具を高い値段で売っているのかもね」


「確かに。エリアボスも硬かったが上級25装備をしっかり準備すれば倒せないボスであると同時に新エリアに来てもそのまま武器と防具が使える様にしているのだろう」


 クラリアとスタンリーのやり取りしている事が正解な気がするよ。逆に言うとなんとかボスを倒せたとしてもこっちに来たら苦労するということになる。


 そんなことを考えているとタロウが俺に体をグイグイと押し付けてきた。


「ガウガウ」


「主、タロウが出番だと言っているのです。リンネも出番だと言うのです」


 戦闘大好きタロウとリンネは魔獣を見つけてやる気満々だよ。


「タクの従魔達も言っている。とにかくやってみよう」


 俺たちは川底の浅い川を渡って向こう側に出て歩くと羊の魔獣が自分たちに気がつくと突進してきた。すぐにジャックスとリックが前に出て盾を構える。


 がっちりと突進を受け止めると20名以上のメンバーでタコ殴りする。タロウとリンネも待ってましたとばかりに攻撃をして特に危ない場面もなく倒すことができた。


「攻撃は普通に通るけど体力が多いな」


「装備が不十分だと討伐に時間がかかるだろう」


「角をまともに食らったら厳しいぞ」


「その間にリンクしたら厳しそうだ」


 倒したその場で戦闘中に気がついたことを話し合っている両クラン。確かに俺の刀も切り付ける度に傷をつけることができた。ただ図体が大きく体力が多いのは間違いない。今は大人数で倒せたけど1パーティ5名ならどうだろう。結構苦労するかもしれないな。特にパラディンががっちりと攻撃を受け止めることができないと厳しいだろう。



 その後渓谷を進んで全部で10体を倒したところで小屋に引き返してきた。倒した魔獣は全て同じ羊の魔獣、ビッグホーンシープでレベルも上級レベル30だった。


 今日はここまでにしよう全員が森小屋に戻ってきた。


 情報クランは一連の流れを公開する準備があるので転送盤に乗って試練の街に戻る。俺と従魔達は開拓者の街の自宅に戻る。畑の見回りもあるし何よりランとリーファが寂しがるからね。一方で攻略クランはここでログアウトをして明日また北方面を探索をするという。


それぞれがそれぞれの目的を持ってこの日は解散となった。


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