エリアボスを見つけた
今回探索に参加している4パーティのうち3パーティが転移の腕輪を持っているので先に土の街に移動し、1パーティの帰還を待つことになるが残りの1パーティはセーフゾーンで1泊、森小屋から土の街に移動するのも次の日の夜になるだろうということで今から3日後に土の街で打ち合わせをすることに決まった。
俺と従魔達は自宅に戻ると留守番をしていたランとリーファを労ってあげてから畑の見周りと農業ギルドへの納品をする。俺がいなくても妖精達がしっかりと面倒を見てくれるので助かるよ。
翌日とその次の日はランとリーファを始めとした従魔たちとしっかり遊び、工房で合成をして過ごした。最近は合成といったら窯業ばかりしている。おかげでまた新しい食器類がいくつかできた。工房で作業をしていた2日目の夕刻にクラリアから連絡が来た。転移の腕輪の無いパーティも無事に土の街に戻ってきたらしい。打ち合わせは土の街の攻略クランのオフィスでやる事になった。
俺と従魔たちが攻略クランのオフィスというかコテージに入るとすでにメンバーが揃っていた。
「タクから聞いてから俺たちも採掘場に行ったんだよ。そうしたら採掘場の責任者のドワーフのカルバさんが出てきて坑道に案内してくれた」
スタンリーが言った。クラリアら情報クランのメンバーも同じ様に確認したということだ。情報クランメンバーでマイスターの上級レベル23のプレイヤーに採掘場に出向いてもらったが、彼の前には採掘場のカルベさんが現れなかったらしい。つまり上級レベルが25になって始まるクエストで間違いがないってことになる。ただまだ誰も鍵穴には鍵を差し込んでいないらしい。万が一扉が開いて鍵がなくなったらまたNM戦をやらなければならない。それは流石に面倒だよね。
坑道の奥にいるのはおそらくエリアボスだろうと皆が言っているし俺もそう思う。この流れだとどう考えてもそうなるよな。
「レベル70の時のエリアボス戦も人数は25名で時間無制限だった。それからみて今回もここにいる21名と従魔2体よりも少ない人数制限にはならないと思う。万が一人数制限があって、それがここにいる人数以下の場合はその場で相談しよう」
スタンリーはその時に相談しようと言っているが、普通に考えて俺と従魔達が降りるのが一番波風が立たないだろう。各自が薬品や食料などの確認を終えるとクランのオフィスを出て採掘場に向かう。パーティは両クランから2組ずつの4組と俺たちだ。
クランのオフィスを出て採掘場に入るとそのまま穴の壁沿いにあるスロープを降りて鉄の扉がある坑道に入っていった。そのまま150メートルほど進むと鉄の扉が見えてきた。この坑道にNPCの姿はない。
「俺が最初に行こう」
そう言ったのは攻略クランのジャックスだ。見ていると扉の前に立っていたジャックスが消えた。そして扉は開かない。
「ゲーム的に鍵を差し込んで開ける行為は当人だけにしているのね。でないと開いた時に鍵を持っていない人たちが入れるから」
なるほど。クラリアの言う通りだろう。ジャックスに続いてメンバーが次々と扉の向こうに消えていく。俺の番が来て扉の前に立って端末を鍵穴に差し出すとガチャッと言う音がした。扉を押すと扉が奥に開いていく。タロウとリンネも同じ様に扉の奥に入っていく。
奥に入ったところにメンバーが揃っていた。背後を振り返ると扉は閉まったままだ。前を見ると採掘していないはずの地下に坑道らしき道が奥に伸びている。
「全員揃ったな。タク、先頭を頼んでいいか」
「分かった。タロウとリンネ、頼むぞ」
そう。タクと言われているが頼りにされているのは従魔達なんだよな。もう慣れてるよ。
「ガウガウ」
「任せるのです」
坑道は壁が光っていてそれほど暗くはない。ただ坑道は微妙に上がったり下がったり、時に曲がったりしている。前方の視界が悪い場所では一旦止まって従魔の様子を見るが今のところタロウもリンネも普段通りだ。
300メートル、いやひょっとしたらもうちょっと歩いたかなというところでタロウが前足を落として耳を立てて小さな唸り声を出した。それまでタロウの背中に乗っていたリンネもいつの間にか背中から降りてタロウの隣で同じポーズをしている。坑道は俺たちの前方で右に曲がっていてその先が見えない。
俺の後ろにいたスタンリー達はタロウとリンネの仕草を見ると戦闘体勢になる。神官達がすぐにその場で強化魔法をかける。俺にはリンネがかけてくれた。
「曲がった先に強い敵がいるのです」
「私が見てくるわ」
素早さが高い盗賊のクラリアが音もなく前に出ると曲がり角から顔を出してそのまま向こう側に消えた。しばらくして戻ってきた彼女。シーフの特性で移動しても音がほとんど聞こえない。隠密行動のプロだ。
「この先にいるのがエリアボスよ。ジャイアントケーブリザード。レベルは上級50。高さ2メートル、体長は3メートル、いや尻尾の先まで入れると4メートルはありそうな大型の地竜。戦闘条件は最大25名、時間制限はなし。見た限り固そうなボスよ。
25名と聞いてホッとしたよ。誰かが試練の洞窟にいた地竜の大型版か?と聞くとその通り、でもそれよりもずっと大きいと答えているクラリア。俺たちはその場でしゃがみ込んで作戦会議をする。と言っても俺はほとんど聞き役なんだけど。それにしても上級レベル50か。俺たちよりも25レベルも上だ。相当高レベルだな。
「レベル50だけど地竜で皮膚が硬いってことはレベル以上の強さの可能性があるぞ」
「火を吐く可能性があるかもしれないな」
「狂騒状態になったら火を吐いてくるかもね」
「尻尾の振り回しもあるかも」
メンバーが思っていることを好きに言い合う。これは大事なことで、こうやって言いあうことで自分の役割を確認したり、敵の動きを事前に推測する。自分1人じゃ気が付かないこともこうやって言い合うと気がついてくることは多いんだよ。
ある程度言い合った後でスタンリーが言った。
「いつも通り最初は2枚盾にして神官はパラディンをフォロー」
「ハンターは足を狙っていこう」
「タク、爆弾投げを頼む。投げるタイミングは任せる」
クラリアから預かっている爆弾を俺に渡してきた。爆弾を投げた直後はがっつりとヘイトを稼ぐだろう。それを蝉で凌いでくれということだな。分かったと爆弾を受け取る俺。
「マリア、弱点の属性を探してくれ」
「タロウの王者の威圧のタイミングは任せるぞ」
「分かった」
「後衛はヘイトを稼がない様に。もし負けてもまた鍵を取れば再挑戦できる。肩に力を入れすぎずに楽しもう」
スタンリーが手際よく説明していく。
その通りだ。負けたらまたNMから鍵を取って再挑戦すればいい。初見の相手に詳細な作戦は組めない。各自が自分の仕事をするだけだよね。ここにいるメンバーは全員が戦闘に手慣れた人ばかりだ。PSも高い。何か不測の事態になっても皆臨機応変に対応できるでしょう。
「タロウ、リンネ。無理はするなよ」
隣で腰を下ろしているタロウとその背中に乗っているリンネを撫でてやる。
「ガウ」
「分かったのです。主も無理をしないのです」
「そうだな」
この2体の敵対心が低いのは知っている。少々攻撃してもヘイトを取ることはないだろう。2枚盾が崩れた時はタロウの王者の威圧もあるし俺の蝉もある。それにしてもこの2体はいつも自然体だな。エリアボス戦を前にしても普段と変わらない。見習わないとな。
全員がポーション、マジックポーションを確認して準備が整った。今度はパラディンのジャックスとニックを先頭に俺たちは坑道を進んで右に曲がった。
曲がった先は20メートルほど先で4、5段の降りる階段がありその先の広場に大きな地竜が四つ足で立っている。尻尾は後ろにまっすぐに伸びていた。全身は固そうな皮膚にギロッとした目。いかにも悪者と言った面構えだよ。
(ミント、目の前の敵はエリアボスだよね?)
(はい。このエリアのエリアボスです。ジャイアントケーブリザード。レベルは上級50です)
(ボスとの戦闘の条件は?)
(ここのエリアボスとの戦闘条件はプレイヤーは最大25名、戦闘時間の制限はありません)
ミントの情報を聞いた俺。当たり前だけどクラリアの情報と同じだったよ。
「準備はいいかな?」
スタンリーが声を出した。全員が問題ないと答える。
「ジャックス、ニック。頼むぞ」
「「任せろ」」
パラディン2人が階段を降りるとエリアボスがそのおおきな体をこちらに向けた。
エリアボス戦が始まった。