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ファングタイガー


「採掘場にある坑道の奥に鉄の扉があって鍵が掛かってる?」


 話をするとその内容を確認する様にスタンリーが言った。テーブルにはいつもの4人と俺、そして2体の従魔がいる。座っているテーブルの周りは情報クランと攻略クランのメンバー達ばかり。時間帯なのか森小屋の打ち合わせ場所は空いていた。俺たちの話が外に漏れることはなさそうだ。当然周囲に座っているクランメンバーも皆話を聞いている。


「そうなんだよ。彼らが坑道を掘ってたら鉄の扉にぶつかったらしい。見たけど頑丈な鉄の扉でさ、ドワーフが押しても引いてもびくとも動かないらしいんだ」


 俺は撮っていたスクショを4人に転送する。他のメンバーは転送された4人の端末のスクショを覗き込んでいた。


 俺が最初に声をかけてきたNPCの話だと上級25というのが条件の1つになっている様だと言うと皆納得した表情になる。24以下だと鉄の扉の話を持ちかけない仕様になっているんだろう。


「その坑道にある扉の鍵を開けて奥にいけたらそこにはNMかエリアボスがいそうな感じじゃない」


「鍵か、どっかに落ちてるのかな?」


「落ちてるんじゃなくてヒントから探すんじゃない?」


「この森の奥とその坑道とは関係あるんだろうか」


 思い思いに発言をするメンバー。正解なんて誰も知らないがこうやって思っていることを言い合うことで何か方向性が見えてくるかもしれない。俺は黙って皆のやりとりを聞いているだけだけど。


「とりあえずセーフゾーンから奥を探索しないか。鍵がどこにあるのかは不明だが森の奥を探索することで見えてくるかもしれないだろう?」


 スタンリーが言って他のメンバーもそうしようと言うことになった。


「タクも一緒にどうだい?今日はここでログアウトすればいいんじゃないの?」


 せっかく相談に乗って貰っているし、ここから先は任せた、あとはよろしくとは言えないな。そうしようと俺が言う前に膝の上に座っているリンネが俺に顔を向けた。


「主、明日は皆と一緒に探検するのです。タロウとリンネがばっちりと主をお守りするのです。畑はランとリーファに任せておけば安心なのです」


 その言葉に苦笑するが従魔達の言う通りでもある。ランとリーファには寂しい思いをさせるが少しの間我慢してもらおう。タロウもそうしようと尻尾を振って身体を寄せてきた。


「分かった。じゃあ明日は一緒にお願いします」



 翌日待ち合わせの時間にインすると半分以上のメンバーが揃っていた。情報クラン、攻略クランともに2パーティ、合計20名でそこに俺と従魔2体が合流した。


 セーフゾーンの場所は分かっているので全員が揃ってから森小屋を出ると一直線にセーフゾーンを目指すのだがその集団の先頭を歩いているのは俺たちだ。タロウとリンネのレーダーがあると事前に敵を察知できるので移動スピードが落ちない。


 タロウ(たまにリンネ)が耳を立てて前足を少し落とす。その仕草を見た俺が後ろに報告する。精鋭部隊が前に出てきて敵を倒す。うん、どう見ても自分は寄生だな。


 タロウらが活躍してくれたおかげで予定していた時間よりも早めに森の中にあるセーフゾーンに着いた。


「ここは元気になる場所なのです」


「そうだ。しっかりと休むんだぞ。頑張ったんだからな」


「主もしっかりとお休みするのです」


 リンネがそう言うがここまで俺はほとんど何もしていない。それを口にするのも恥ずかしいのでタロウとリンネを撫でてやる。


 セーフゾーンの中でクラリアが立ち上がって皆に説明を始めた。手には端末を持っているがおそらく地図が書かれているのだろう。


「ここは森小屋から見て北東の方向。休んだらこのまま北東に進んでみましょう。日が暮れてきたらここに戻ってログアウトするつもりだけどそれでいい?」


 彼女の話に皆OKだという。2日自宅を開けることになるが当然俺もOKだよ。ここまで来て帰るという選択肢はないよね。


 しっかりと休んだ俺たちはセーフゾーンから北東方面を探索する。相変わらず接敵するが20名強のメンバーの敵ではない。北東から東方面をぐるっと探索し、この日はセーフゾーンに戻ってきてそこでログアウトとなった。敵には会ったがそれだけで他には何も見つからなかった。


 翌日、再び北東方面の探索を開始する。相変わらず俺たちが先頭でその背後に情報クランと攻略クランのパーティが続く。一列ではなくて三角形の様な隊形で北東から西方面の森の中を進んで行って4時間程が過ぎた頃。タロウが耳を立てて低い唸り声を上げた。今までの敵を見つけた時とは全く違う仕草。強い敵を見つけた時のポーズだ。


「タロウが前方に何か見つけた」


 その声で後ろからメンバーが集まってきた。


「リンネにも分かるのです。今までよりも強い敵が前にいるのです」


 リンネの声を聞いて全員が戦闘態勢になる。その場で神官が強化魔法をメンバーに上書きする。リンネは俺にしてくれた。


 準備が終わると今度はスタンリーとクラリアが先頭になってゆっくりとタロウが顔を向けていた方向に進みだすと木々の間から徘徊している大きな虎が目に入ってきた。


「ファングタイガー、NMです。討伐条件は最大25名、討伐時間の制限はありません」


 AIのミントの声がした。ここにいる全員がAIから情報を取った様だ。俺たちはその場から少し離れたところに集まった。25名制限ならここにいるメンバーで対処できる。


「NMだけどファングタイガーって言ってるわね。フォレストファングタイガーが200枚の虎のNMの名前。それよりも弱いのかしら」


 クラリアが言うが他のメンバーからは時間制限がないので強いのかも分からないぞという声が出る。そんなやりとりをしているとスタンリーが俺の方を向いた。


「タロウに聞いてみてくれないか?」


 なるほど。


「タロウ、あいつは印章200枚のNMと比べてどうだ?強いか?」


 俺は隣にいるタロウに聞いた。


「ガウガウ」


 尻尾を振りながら小さな声で吠えるタロウ。


「あの虎は闘技場にいた虎ほど強くないと言っているのです。リンネも強くないと思うのです。なので問題ないのです」


 リンネが言うとその通りだと尻尾を振るタロウ。聞いていた他のメンバーの表情が緩んだ。


「つまりこのメンバーだと討伐は難しくないということ?」


「その通りなのです。主なら1人でも勝てるのです」


 クラリアの言葉に答えているリンネだが、その答えを聞いていた他のメンバーからじゃあタク、ソロで頼むと言う声が出た。勘弁して欲しいんだけど。


「おい、そりゃ無理だぞ。みんなでやっつけるんだよ」


「楽勝なのです。心配無用なのです」


「タロウやリンネがここまで楽勝だと言っているので200枚の虎NMよりもずっと弱いのは間違いなさそうだ」


 俺はみんなを見て言った。とりあえずやってみようということになった。


 ジャックスとリックが先頭に立って森の中を進んでいくとちょっとした広場になっているその中央に真っ黒な大きな虎が1体おり、こっちを認識すると唸り声を上げた。


「やるぞ!」


 スタンリーの声で戦闘が始まった。虎の突進を盾でがっちり食い止めるジャックス。


「余裕だぞ」


 その声で広場に散会したメンバーが攻撃を開始する。ジャックスとリックがしっかりと虎のタゲを取っていて、他のメンバーはヘイトに注意しながら攻撃をする。タロウとリンネはこっちが何も言わなくても自分たちの仕事をしてくれる。俺は分身を4体出したがそれが消されることもなく刀で攻撃を続けていた。刀の通りも良い。魔法や弓もしっかりと命中している。どうやら従魔達が言う通りでそれほど強いNMじゃなさそうだ。


 もちろんこっちが良い装備をしている20名強のメンバーだということもある。1パーティなら簡単じゃないだろう。


 戦闘が始まって15分程で虎NMはその場で光の粒になって消えた。狂騒状態になったのかどうかすら分からないほど、ほぼ一方的な勝利だった。勝利の声をあげている時、


「おい!鍵が端末に入ってる」


 情報クランのメンバーの1人が声を出してた。それを聞いた全員が端末を確認する。


「本当だ」


 俺も端末を見ると確かにドロップ品として”頑丈な鉄の門の鍵”というのが入っていた。譲渡不可、店売り不可になっている。討伐に参加した全員に鍵が入っていた。


「倒しても宝箱が湧かないなとは思っていたが。これでタクの話がつながったな」


「そうね。このNMを倒して鍵を入手。それから採掘場の坑道ね」


 トミーとクラリアが言った。


「となるとこのNMのリポップは早いってことなのかな」


 このNMは鍵を取るために倒すNMだ。リポップの間隔が長いと意味がないんじゃないかな。


 俺が思いついた事を言ったら皆なるほど、確かにそうだよなと言う


「プレイヤーのレベルが上級25、あるいは25装備を身につけている。ひょっとしたらその両方かも。前提条件はつくけどタクの言う通り25名で余裕で勝てて鍵を手に入れられる設定にしているんでしょう」


 最大25名にして時間制限も無くし、強さも5名なら厳しいが25名なら問題ないレベルにしている。こいつは人数と時間をかければ倒せるNMだ。


 このまま草原でリポップの時間を計ることにした。結局討伐してからリアル時間10分で草原に虎がリポップした。これで鍵を取るためだけのNMってことが確認できた。



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