雑談の日
このエリアのレベル上限に達した。エリアボスの探索は2つのクランにお任せだ。ということで俺は農業、合成をメインに活動することにした。
夕方に短い時間だけど土の街や水の街の外で魔獣を倒している。ずっと自宅に篭っているとタロウやリンネがかわいそうだからね。タロウとリンネは敵を倒すことが大好きなので外に出ると嬉々として敵を倒しまくってるよ。こっちも外での戦闘を通じて新しい装備に慣れた。性能が上がることで身体が覚えこんでいる動きをもう一度見直す必要がある。以前はここまでと思っていたのがもう一歩動けたりするのでそれをまた身体に覚え込ませないといけない。ゲームだけどそのあたりもリアルに反応するんだよ。
この日も土の街の郊外で魔獣を相手に身体を動かした俺たちが夕刻に土の街の別宅に戻ってくるとしばらくしてトミーが別宅にやってきた。今日は1人だ。俺が挨拶をすると続いて2体の従魔達も挨拶をする。
「いらっしゃいませなのです」
「ガウガウ」
「フレンドリストを見たらタクがこの街にいたんでな」
テーブルに座ったトミーが言った。今日はクランとしての活動の無い日らしく、トミーはついさっきログインしてきたらしい。
「毎日朝から晩まで活動してる訳じゃない。リアルの用事がある奴もいるしこう言うオフの日は必要だよ」
確かにその通りだ。こっちも毎日朝から晩までインしていないし。
時間があるならお茶でも飲もうかとトミーを誘って土の街の別宅から開拓者の街の自宅に移動する。自宅にトミーがやってきてお茶と梨を出してそれを食べながらの雑談タイムだ。自宅に戻ってきたのもあってタロウは精霊の木の根元でゴロンと横になった。リンネは縁側に座った俺の膝の上でリラックス中。
トミーによるとプレイヤーで上級レベル25になったプレイヤーはそれなりにいるらしいがレベルに見合った装備がまだ揃えられていない人が多いのだと教えてくれた。
「25装備ってのはその値段が急に高くなってるだろう?ただこれを買うと森の奥での戦闘がずっと楽になるってのも皆知っている。今は皆あちこちで金策をしているみたいだ」
金策はクエストはもちろんだがそれ以外だと合成品を持ち込んで買い取ってもらったり魚釣り、そして魔獣を倒して稀にドロップするアイテムの店売り。これらが多いらしい。1回の金額は多くないとしても数をこなすことでそれなりに貯まっていく。もちろん農業をやっているプレイヤーもいる。この自宅の周辺もずいぶんと売れてあちこちに家と畑ができていた。
「タクの様に安定した金策を持っているプレイヤーはそう多くはいない」
「主はお金持ちなのです」
トミーの言葉に膝の上に乗っているリンネが言った。確かに安定的に農業の収入があるしそれ以外でも情報料が入ってきてお金に困った事はないな。所持金だけなら合成職人、マイスターの連中の方がずっと持っているんだろうけど普段のプレイでお金に困ったことはない。
「それで森の探索はどんな感じ?」
「攻略クランと連携をとりながら進めているが今のところ敵のレベルが上がっているだけで進展がないんだよ」
「森小屋の周辺じゃない可能性もあるってこと?」
俺がそう言うとその可能性も考えられるが、じゃあ他の場所はどこなんだという話になっているらしい。確かに森小屋の奥以外で魔獣のレベルが高い場所ってのが思い浮かばない。
お茶が美味いと言うのでおかわりを注いであげる。
「主が作るお茶は美味しいのです。いっぱい飲むと良いのです」
「ガウガウ」
「そうだな。本当に美味しいよ」
トミーに褒められてリンネとタロウはもちろん、精霊の木の枝に座っているランとリーファもサムズアップして応えている。従魔や妖精達のおかげですよ。
「ただ森の奥を完全に探索しきれていないのも事実なんだよ。とりあえずセーフゾーンがあるはずだとそれを今探しているところさ」
新しいお茶を一口飲んだトミーが言った。多くのプレイヤーは森の奥に行ったはいいが帰る手段がないので行動範囲に限界があるらしい。情報クランや攻略クランがセーフゾーンを見つけることで彼らがそこを起点にして奥を探索する。探す目が増えれば見つかる可能性も高い。
「俺たちも金策と探索は続けるがそれとは別に印章200枚のNM戦を考えている。転移の腕輪はもちろんだけど装備関連も上級レベル25相当の装備が出るからな」
「確かにあのNMのドロップ品はレベル25相当、つまりこのエリアだと最高の装備だよな」
その通り。なのでメンバーからはNM戦をやろうぜという声が出始めているんだよと言った。印章NMの装備が手に入れば25装備と同じだ。
25装備は武器と防具の2つを揃える必要があるがそのうちの1つがNM戦から手に入る可能性があるのなら当然挑戦するよね。
「印章はそれなりに貯まってきている。情報クランも攻略クランとで2戦はしたい。もう少ししたらタクにヘルプの依頼がいくぞ」
「こっちはいつでもOKだよ」
「主のヘルプはいつも完璧なのです。頼っていいのです」
リンネがそう言うと頼むぞとリンネ言ったトミーが顔をあげて俺を見た。
「そのNM戦だけどさ、タクが欲しいのは従魔のスカーフがあと1個だろう?それ以外に欲しいのはないのかい?欲しいアイテムがないのにヘルプを頼むのは気が引けるな」
これはトミーだけじゃなくてクラリア、そして攻略クランのスタンリーとマリアも言っているらしい。俺はそんなのは気にしないんだけどな。フレの頼みなら断わらないしね。それに上級25装備がどれくらいの物なのかを実践で見るには虎NMは良い相手だ。やばくなったらタロウの王者の威圧もある。
そうは言っても何もいらないと返事をすると彼らがまた俺に気を使っちゃうだろう。ちょっと考えてから言った。
「忍靴が出たら欲しいかな。他の街の忍具店に差し上げたいんだよ」
「じゃあ従魔のスカーフ、忍靴が出たらタクが優先ってことで話をしておいていいかな」
「うん。それでお願い」
NM戦の話が終わるとまた雑談に戻る。こうやってゲームの中で知り合いとのんびりと話をしながら過ごすってのもいいよね。
「以前さ、垢バンされたプレイヤーがいるって話をしてたじゃない、今でもバンされてるプレイヤーっているの?」
「いるが随分と減ってるぞ。PWLがハラスメントに対しては他のゲームよりも厳しく対応するってことが周知されているのと、荒っぽい事が好きな連中は最初からPWLをやらずに別のゲームに流れているって話だ」
トミーによると事前警告無しでアカウント停止をするという運営の方針がプレイヤーはもちろん、ゲームの外でも有名になっていて、せっかくPWLのプレイ権利を得たのにハラスメントをして垢バン喰らったらたまらないということでこのゲームはプレイヤーのモラルが他のゲームよりもずっと高いらしい。真面目な人たちが集まっているんだな。
PWLの開始からしばらくしてからサービスが始まったギャラクシーウォーオンライン(GWO)というゲームを知っているかと聞いてきた。もちろん知ってるよと返事をする。PWLも有名だけどGWOも有名なVRMMOだ。
GWOは銀河宇宙にある星同士が自分の領土を広げるために戦争をするというゲームでプレイヤー同士が戦うというのが売りになっているゲームだ。今はまだ1つの星の中での領土の取り合いだがいずれ宇宙船に乗って他の星に飛び出していけると運営が謳っており、対人プレイや戦闘機での戦闘が好きなゲーマーが集まっている。そんな記事をネットで見たことがある。
今注目されているゲームの1つだよねと俺が言うととその通りだとトミー。
彼によると対人プレイやアクションが好きなゲーマーはGWO系、のんびりゲームをするライト層はPWL系のゲームという棲み分けができつつあるとゲーム評論家がネットに書いてるらしい。
「俺の知り合いがGWOをプレイしているんだが、暗殺という名目でPKも許されているらしい」
「そっち系が好きな人には良いゲームなんだろうな。俺はごめんだけど」
俺がそう言うと俺もごめんだとトミーが言ってから、PWLのこの緩い感じがいいんだよと言った。俺も同感だ。
プレイヤーや装備関連についてのステータスの公開がなくプレイヤーの自由度が高い。これが良いか悪いかは意見が分かれるところだがPWLが人気があるところを見ると多くの人から受け入れられているのだろう。また戦闘以外にもやれることが沢山ある。NPCの対応もリアルだしグラフィックは綺麗だ。ゲームをしてストレスが溜まらないのが一番だよ。
「NM戦や新しい情報が入ったらまた連絡するよ。タクと従魔達は重要な戦力だからな」
トミーが帰り際にそう言うと膝の上でリラックスしていたリンネがトミーに顔を向けた。
「主に任せるのです。安心なのです」