上忍レベル25
「タクは戦闘中や宝箱からドロップしたアイテムや武器を店売りしたことはある?」
「ないね」
というか俺は戦闘中に敵からドロップした事って無いんじゃないか?初期の頃にポーション(品質低)ってのが出たかもしれない。もう覚えてないよ。宝箱なんてNM戦以外では知らないしな。
クラリアが聞いてきたが売ったことがない俺は首を左右に振りながらそう答えた。
「実はね」
そう言ってクラリアが説明してくれた。ドロップ品を店売りすると店で売っている値段の8割の価格で買い取ってくれるらしい。これは武器、防具、アイテム全て同じだという。どこの店で売っても同じらしい。彼女の話を聞いている他の3人もその通りと頷いている。
「そこで私からの提案。タクが要らないと言うのならこの3アイテムを定価の9割で情報クラン、攻略クランで欲しいと思っている人に売らない?」
「ん?9割?8割じゃないの?」
「8割りだと苦労してアイテムをゲットしたタクにメリットがないじゃない」
「確かにクラリアの言う通りだな。8割なら俺たちだけにメリットがあってタクにはない。9割となるとお互いにメリットが出る」
スタンリーがクラリアの提案に賛成した。トミーとマリアもいいアイデアだと言う。9割5分でも売れるぞと言ってきたけどそこまでする気はないよ。
「もし希望者がいなかったら俺が店売りするか持ってりゃいいのか」
そう言うと希望者がいないってことはないだろうという4人。突撃の片手剣はパラディンなら欲しい剣だし森の杖は魔法使いが欲しがるということらしい。実際マリアはその杖は私も欲しいわねと言っている。25装備の値段が高いこともありまだ装備を揃えていないプレイヤーが多いそうだ。
クラリアが端末からリストを取り出してテーブルの上に置いた。そこには森小屋で売られている武器、防具の価格が書かれている。
「これは情報クランとして既に公開しているリストなの。価格に嘘はないわよ」
情報クランの連中が嘘を書くとは思ってないよ。そのリストを手に持つと俺の膝の上でリラックスしていたリンネが膝の上に座り直して同じ様にリストを見る。いや、お前字が読めないだろう?リストを見ていた俺は顔をあげて4人を見る。
「こんなに高いの?」
「25装備は大抵このレベルだ。だから一気に買い替えられないんだよ」
トミーが言ったがその通りだ。
突撃の片手剣(パラディン、ウォリアー) 250万ベニー
森の杖(魔法使い、神官) 300万ベニー
情報クランが作成したリストに載っている値段だ。他にも例えばマスターモンクのダイゴが買った防具は280万ベニーになっている。個人レベルでこれをポンと買うことがでっきるプレイヤーは多くいないだろう。
森の精霊のバンダナは初めて見るアイテムらしくてリストに載っていない。これは自分が使うつもりだから価格はいくらでも関係ないんだけど。
「遠隔命中の腕輪はHQでしょ?推定になるけど500万はくだらないわね」
「タクが素早さの腕輪のHQを手に入れた時に渡した忍術の価格から推定しても500万は最低線だろうな。600万位はするだろう」
クラリアの説明の後でトミーが付け加える。ヤヨイさんがあの忍術を高い値段で売っているのは知っている。
「情報クランにいる合成職人、マイスターに聞いてみてもHQが出る確率はすごく低い。HQが出来るのは完全ランダムらしく数%以下の確率だと言っているの。HQを狙って何度も何度も合成をするので大量の素材を使う。中には高価な素材もある。結果的にNQよりも桁違いに高くなるのよ」
「なるほど」
その価格に見合った性能があるのが25装備らしい。これからエリアボスを倒すにはそれくらいの装備がない難しいと言うことなのかな。
「印章200枚のNM戦も25装備があると難易度が下がると見ている。これはいずれ実証する予定だけどな」
俺はソロだから自分の装備しか気にかけていないけどパーティプレイをしている他のプレイヤーは自分のジョブ以外の装備関係に付いても詳しいんだな。
25装備がどれもこれほどまでに値段が高いっていうことは次のエリアでは武器、防具が簡単に手に入らない可能性がある?
俺がそう言うとその可能性は十分にあると言うスタンリー。
「次のエリアに行けばそれが分かるだろう。それよりもタク、クラリアの提案はどうする?」
「ああ。俺が持っていても仕方がないというか宝の持ち腐れだ。情報クラン、攻略クランで欲しい人があれば9割で売るよ」
突撃の片手剣、森の杖はショップの9割の価格で両クランの希望者に販売することになった。残ったのは遠隔命中の腕輪(HQ)だ。これについてはまず店売りの価格を知ろうということになってここ土の街にあるアイテムショップに行くことにする。買い物をする訳でもないのに大勢でゾロゾロと行ったら店も困るだろうと行くのは俺とトミー。それからタロウとリンネだ。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
「いらっしゃい」
店の中にいたのはドワーフの女性だ。普段からアイテムショップなんてほとんど行かないから場所を知らない俺をトミーが案内してくれた。店に入るときちんと挨拶をする従魔達。いい子だ。
挨拶を終えた俺はカウンターに近づいて端末から遠隔命中の腕輪を取り出してそこに置いた。
「これをここで買い取っていただくとしたらいくらになりますか?」
そう言ってカウンターの上にハンター専用の命中の腕輪置くと失礼しますねと言ってからそれを手に取るエルフの店員。
「これはハンター専用のHQの腕輪ですね。店の買取価格は440万ベニーになりますね」
440万ベニーってことは元は550万ベニー?いい値段するんだ。
「やっぱり500万以上だったな」
やりとりを聞いていたトミーが言った。店員がどうしますかと聞いてきたので一度考えます。そう言って店を出て土の街の別宅に戻って来た。タロウとリンネは挨拶以外黙っているがこうやって街の中を散歩するのは楽しいらしくて終始尻尾を振っている。ちなみにバンダナの買取価格を聞いたら2,000万だと言われたよ。定価が2,500万するのか。別宅の家の値段よりも高いじゃない。流石にトミーもびっくりしているだろうと思って言ったら、
「全ステータスが上がるんだ。むしろ安いくらいだ」
とサラッと言われてしまったよ。
別宅に戻った俺が店の買取価格が440万ベニーだったと言う話をするとそれくらいだろうと待っていた3人も驚いた表情にならない。バンダナに関してもそんなもんだろうなと普通に言っている3人。いやいや2,500万だよ?驚かないの?
片手剣が250万、杖が300万、そして腕輪が550万。これを1割引で知り合いに売れたとしたら225万、270万、495万、合わせて990万ベニーになる。
「大金持ちになるわね」
俺が頭の中で計算しているとマリアが言った。
「売れればね」
「プレイヤーに売れなくても店に持ち込めば8割で買い取ってくれるのよ。お金持ちには変わらないわ」
言われてみればそうか。上忍の装備がいくらかは分からないが売ってるとしたらそれを手に入れるためにこのお金は使えそうだ。
皆で話し合った結果、ここにいる4人がそれぞれのクランメンバーに話を持ちかけることにしてもらった。元々仲が良いクランだし悪い人もいない。問題が起こることはないと思うんだよね。俺は自分から売りに回るのはいやだし彼らに丸投げしたよ。売れなかったら店売りすりゃいいと思うと気分も楽だ。
彼らからは皆に話をするので4、5日頂戴と言われたがこっちは全く問題がない。
次の日俺は森の街のシーナさんの忍具店に顔をだした。
「久しぶりだね、タク。おや上忍25になったんだね。従魔達も一緒だね」
挨拶をし終えるとすぐにシーナさんが俺とタロウ、リンネを見て言った。
「おかげさまで何とか25になりました」
「主は強くなったのです。タロウとリンネも一緒に強くなったのです」
「ガウガウ」
リンネがそう言うとうんうんと頷くシーナさん。それから顔をあげると俺を見る。
「みんなよく頑張ったね。それで森小屋で新しい装備は買ったのかい?」
やっぱり上忍の装備があそこで売っているんだ。
「それってシーナさんが作った防具?ここでは売ってないんですか?」
「防具は私が作ったのもあるし私の師匠でもあるモトナリ刀匠の奥様がが作ったのもあるよ。刀はモトナリ刀匠が作ったのが売ってあるよ。この森の街の決まりでね、25装備は森小屋で売ることになってるんだよ。森小屋を活性化しようというこの街の方針でね。だから申し訳ないけどあっちで買ってくれるかい」
なるほどと相槌を打ちながら防具以外にモトナリ刀匠が作った刀も売ってるのかと考えているとシーナさんが俺が頭に装備しているバンダナに気がついて見せてくれるかいと言ってきた。渡すとそれを手にとってじっと見る。
「いい装備だね。全てのステータスがアップする装備か。どこから出たんだい?」
「森の中にある木のダンジョン、そこのボスを倒したら宝箱から出たんですよ」
ああ、あのダンジョンかと言ったシーナさん。
「森小屋には上忍の装備が何種類か置いてある。タクがこのバンダナを持っているのならどれを選んでも今よりずっと強くなるのは間違いないね」
「刀も同じですかね」
そう聞くとそうだよと頷くシーナさん。彼女の話を聞く限りでは森小屋には特徴が異なった装備と刀がそれぞれ何種類か売っていると言うことになる。俺はお礼を言って店を出ると次に試練の街のモトナリ刀匠の店に顔を出した。声をかけるとモトナリ刀匠とその奥様が奥から出てきた。
「上忍25になったか」
25になった報告をしてから森小屋の武器や防具の販売の話をする。
「森の街のお偉いさんから森小屋の活性化に協力してくれって頼まれてな。25装備はここ試練の街では装備できる者がまずいない。このエリアの発展になるのなら協力しましょうと新しく作ったんだよ。俺の嫁が作った防具もあるぞ」
「ええ、シーナさんから聞いています」
シーナさんと同じくモトナリ刀匠も俺のバンダナに気がついて言った。
「そのバンダナがあるのならタクの好きな刀を選んでも構わない。それを選んでも今よりもまた数段強い上忍になるぞ」
シーナさんと同じことを言う刀匠。刀匠の奥様も俺が欲しいと思う防具や刀を買えばいいわよと言ってくれた。
その後の刀匠との雑談の中俺以外でも85レベルの装備を購入する忍者が出始めているんだよという話を聞いた。第2陣の皆も頑張ってるんだな。