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ダンジョンボス戦


 レバーを下げるとギギギと音がして扉が左右に開いていった。目の前に見えてきた景色は周囲を壁に囲まれた直径が30メートル程の円形状の広場で、その中央に1体の魔獣が立っていたが扉を開けた俺たちを見ると4本の腕で自分の胸をドンドンと叩いて威嚇してくる。体長2メートル以上もある魔獣のゴリラだ。4本腕は初めて見るぞ。顔つきも魔獣だけあって迫力がある。


 すぐに空蝉の術を唱える。そのタイミングでリンネが強化魔法をかけてくれた。タロウは前足を落として戦闘態勢になっている。


「腕が4本あるゴリラだ。力があるから気をつけるんだぞ」


「ガウ!」


「平気なのです。とっちめるのです」


 俺たちが中に入るとすぐに戦闘が始まった。4本の腕を振り回して近づいてくるボス。ゴリラだけあって動きが素早い。ただこっちはそれ以上に素早く動けるタロウがいる。ゴリラは最初はプレイヤーである俺をターゲットして突っ込んできたが蝉で攻撃を避けながら片手刀でその腕に傷をつけるとその間にタロウがゴリラの腹に蹴りを入れた。それでタゲが俺からタロウに移る。今のゴリラの攻撃で分身が2体剥がされた。2回は避けたってことだな。これならいけるぞ!


「タロウ、気をつけろ!リンネ、やっちまえ」


「ガウ!」


「やっちまえなのです。任せるのです」


 そう言ったリンネが精霊魔法をゴリラの顔を狙って撃つ。レベルが上がってリンネの魔法の威力と精度が上がっている。タロウはゴリラの攻撃を避けながら蹴りや前足の爪で身体に傷をつけている。それにしても俺が何も言わなくてもタロウとリンネの連携が抜群にいいんだよ。リンネが顔に魔法をぶつけると一瞬視界が悪くなるのか顔を顰めるボスゴリラ。その瞬間にタロウが蹴りを入れる。ずっとこのメンバーで動いているからか阿吽の呼吸になってるよ。


 ただボスだけあって体力が多そうだ。少々傷がついたくらいじゃ全く攻撃力が落ちない。俺はボスの横に立って腕に刀を振っていた。時折その腕がこちらに振り回されてくるが避けたり蝉でかわしたりする。分身が消えるとすぐに一旦下がって再詠唱をして再び近づいていく。


 王者の威圧を使っていないタロウ。それでもタゲをキープしているのは凄いぞ。それよりもタロウが王者の威圧を使わないのは相手をそれほど強敵と見ていないのかもしれない。


 少しずつボスの体力を削っていく俺たち。俺はポケットから撒菱を取り出すとタロウと対峙しているゴリラの背後と左右に撒菱をばら撒いた。それを撒き終わったタイミングで俺が何も言わなくてもリンネの魔法の後でタロウがボスの腹に後ろ足で蹴りを入れた。ボスが背後に下がると巻かれた撒菱を踏んで大声を出しながら足元を気にする。動くとまた別の撒菱を踏んで片足ずつ上げては吠えている。滑稽なダンスを見ている様だがじっと見ている暇はない。


「一気に行くぞ」


 ボスゴリラがフラフラしている今がチャンスだと両手に持った刀で腕を集中的に攻撃していく。俺が撒菱を踏んだら洒落にならないのでタロウの横に立って並んで攻撃する。その後ろからリンネの精霊魔法が絶え間なくボスの顔や腕に命中していた。


 タロウが向きを変えて再び強い蹴りを入れるとその勢いでボスゴリラが背中から地面に倒れた。そこにも撒菱が撒いてある。倒れてのたうちまわるボスの腹にジャンプするタロウ。俺も横からジャンプしてその顔の中心に刀を突き立てた。


 最後に一番大きな叫び声をあげたボスはそのまま光の粒になって消えていった。狂騒状態になる前に足元を崩して倒れてくれたみたいだ。一気にケリをつけて正解だったよ。


「よっしゃー、勝ったぞー!」


「ガウガウ!!」


「勝ったのです。やったのです。主が勝ったのです。一番強いのです」


 俺たちはその場で勝鬨をあげた。やっぱりタロウがしっかりタゲを取ってくれると戦闘が楽になるわ。リンネの魔法も威力があった。それと撒菱、これが有効だったよ、うん。


 ボスが消えるとその場に宝箱が現れた。それを見て大喜びする2体の従魔達。


「主、早く開けるのです」


「ガウガウ」


「分かった」


 端末を近づけるとカパッと宝箱の蓋が開いて端末の中に戦利品が入ってきた。



 500,000ベニー

 突撃の片手剣(パラディン、ウォリアー)

 森の杖(魔法使い、神官)

 森の精霊のバンダナ(全ジョブ)

 

 

 お金以外に3アイテム入っていた。片手剣は知り合いが持っているのよりも少し長い気がするな。AIのミントにそれぞれについて聞いて見る。


(突撃の片手剣は力が上昇しますが、突き攻撃した場合には更にダメージにボーナスがつきます)


 なるほど。元々STRが上昇するが突き攻撃すると更にアップするってことか。パラディン向きかな。盾で受け止めながら剣を突き出すことが多いだろうし。


(森の杖は魔力量と精霊魔法の質がアップする効果があります)


 魔力量が増えるから魔法使い、神官のどちらにとっても良い装備に見えるが精霊魔法の質、INTの事だろう。それが上がるのなら魔法使い用かな。いずれにしてもこの片手剣と杖の2つのアイテムは上忍用じゃない。森小屋で売っている武器との比較をしないといけないけど俺が持ってるよりは知り合いにでもあげた方が良さそうだよ。


(それで森の精霊のバンダナって何?)


(はい。そのバンダナを装備すると全てのステータスが上昇します)


 全ステータスがアップか。こりゃまた凄いな。


「主、何が入っていたのです?」


 待ちきれないと言った様子のリンネが聞いてきた。隣でタロウもウルウルとした目で見つめている。


「ごめんごめん、えっとねお金が50万ベニー。それと片手剣と杖とそれからこれだよ」


 俺は端末から森の精霊のバンダナを取り出した。深緑色をしたバンダナでそれを頭に巻きながらタロウとリンネにその効果を話する。


「凄いのです。これで主がまた強くなるのです」


「ガウガウ」


 喜んでくれる2体を撫でながらそうなるといいなと答える。全てを取り出すと宝箱がその場から消えて代わりに転送盤が現れた。


「あれに乗ったら1階に戻れるんだろう」


 予想通り転送盤で飛んだ先は木のダンジョンの入り口横だった。と同時に脳内にミントの声がした。


(このダンジョンの攻略情報がリセットされました。次回挑戦はまた1階からの攻略になります)


 えっ?マジかよ。何度も安直にボスに挑戦させなくしてるのか?それにしてもいやらしすぎるな。また1階からこれを攻略するとなるとダルいよ。


 その場から今度は土の街に飛ぶ。フレンドリストで情報クランの連中が土の街にいるのを確認したからね。



 土の街のコテージに着くと待っていた様にクラリアとトミーがやってきた。隣からはマリアとスタンリーも庭伝いに中に入ってくる。聞くと俺がダンジョンをクリアしたと言う話をクラリアにした後で彼女からスタンリーとマリアに連絡をしたらしい。


「タクが初めて木のダンジョンをクリアしたプレイヤーになったな」


 庭に入ってくるなりスタンリーが言った。俺はダンジョンの情報、ボス戦について彼らに話をする。4人は黙って俺の話を聞いていた。攻略情報がリセットされたと言った時は全員がそりゃないだろうと声をだした。俺だってそう思うよ。


「スタンリーが言った通り、木のダンジョンをクリアしたのはタクが初めてよ。各フロアの状況、フロアにある宝箱の中身、途中の小屋、セーフゾーン、そしてボス戦、ボスからのドロップ品など全ての情報をクランとして買い取るわよ。もちろんクリアしたらリセットされるという話もね。ダンジョンの情報を欲しがっているプレイヤーは多い。売れるのは間違いないから」

 

「ボス戦で撒菱が有効なのは参考になるぞ。合成でも作れるし森の忍具店でも買うことができる」


 スタンリーが言った。


「それにしても腕が4本のゴリラか。盾1人で耐えられるかしら」


 タロウを撫で終わっていたマリアが続けて言う。


「俺は蝉を張っていたけどそれでも腕の振り回しの攻撃は2回に1回は素で避けることができた。パンチの威力は大きいけど腕を振るモーションもでかい。手の動きを見ていれば避けられると思うよ。メインの盾を神官がしっかりとフォローしてウォリアーやマスターモンクが近接攻撃で腕の振り回しに注意をしながら攻撃をすればいけるんじゃないかな」


 ジャックスとリックは良い装備を持っている。十分に攻撃に耐えられると思うんだけどな。他のメンバーもPWLでトップクラスの腕前の連中だしね。


 その後も4人から出る質問に答えていく俺。タロウは今は俺の横でゴロンとなっているしリンネは俺の膝の上でリラックスタイムだ。彼らは戦闘には興味はあるが報告には全くと言っていい程興味がないんだよな。報告は俺の仕事だからいいんだけどね。


 俺が実際ボス戦をして相手に手こずったという感じはしなかった。感覚的にボスのレベルは上級30位かなと言うとそれが俺の話を聞いていた4人はおそらくボスのレベルは上級の31か高くても32じゃないかと言う。


「狂騒状態を見ていないからその時の挙動はわからない。だからレベル33もあり得る。ただ5人限定という縛りがあるダンジョン。そこまでボスのレベルをあげていないと思うんだよな。むしろ話を聞いていると道中のフロアの方がいやらしそうだ」


 スタンリーの読みだ。


 ドロップ品についての話になって俺は端末から腕輪と片手剣、そして杖を取り出し、バンダナを頭から外してテーブルの上に置いた。腕輪は14層、片手剣と杖とバンダナはボスからのドロップ品だ。全員の目がテーブルの上に置かれたアイテムに注がれる。


「ベニー以外のドロップ品で俺が使えるのはこのバンダナだけなんだよ」


 テーブルの上に置いてあるバンダナを指差して言う。


「全てのステータスがアップするバンダナか。凄い性能だな」


 トミーがバンダナを手に持ちながら言っている。俺もそう思うよ。


「それでタクが使えないこれらの武器はどうするの?」


 クラリアが聞いてきたのでまずこれら3アイテムを上級25レベルの装備と比較する必要があるよなという話をすると彼らが首を左右に振った。どういうこと?


 比較する必要がないのかと思っているとスタンリーが俺を見て言った。


「AIが教えてくれたよ。今ここにある片手剣は森小屋で売っているものと同じものだそうだ」


「杖も同じだってAIが教えてくれたわ」


 マリアが続けて言った。


 森小屋でこれと同じ武器が売っているんだ。つまりこれらは上級25になって装備できる武器だということになるな。


「腕輪などのアイテムはまだ森小屋で売っていないの。これから売るかもしれないけどね。ただHQのこの腕輪はハンターにとっては喉から手が出るくらいに欲しいアイテムでしょうね」


 なるほど。で、どうすりゃいいんだ?


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>ボスが背後に下がると巻かれた撒菱を踏んで大声を出しながら足元を気にする。動くとまた別の撒菱を踏んで片足ずつ上げては吠えている。 想像しただけで足の裏がムズムズして足踏みしてた
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