従魔の置物ができた
情報クランと攻略クランの両方から色々と頼まれた。これに応えるためにはまずはレベルアップだ。となると今攻略しているダンジョンを攻めるのが一石二鳥になる。ただ今日はもう午後だしダンジョンに行って攻略するには時間がない。ダンジョン攻略は明日にしようと決めた俺は工房に足を向けた。従魔達は庭にある精霊の木の根元や枝に腰を下ろしてリラックスしている。尻尾の振り方や羽根の動かし方を見ると4体ともリラックスしている様だ。
小屋に入るとスケッチブックを見ながら粘土を固めて従魔を作っていく。タロウは後ろ足で座っているポーズ、リンネは四つ足で踏ん張って魔法を撃っているポーズ、ランとリーファは手を取り合っている歓喜の舞のポーズにしよう。
彼らを忠実に再現するよりもユーモラスにしようと思ったがこれがなかなか難しい。粘土をこねながらああでもないこうでもないとやっているといつの間にか4体の従魔達が倉庫の中に入ってきていた。
「主は悩んでいるのです?」
俺がぶつぶつ言いながら粘土を捏ねているのを見ていたのか、リンネが言った。顔をそちらに向けると、タロウとラン、リーファもじっとこっちを見ている。
「そうなんだよね。なかなか上手く形にならないんだよ」
「頑張るのです。皆で応援するのです」
リンネが言うとタロウ、ラン、リーファもそうだと言わんばかりに尻尾や羽根を振った。ありがとうなとお礼を言ってから、そうだ折角彼らがここにいるんだからとまずはタロウに後ろ足で座ってくれないかと言うとガウガウと言いながらも言った通りに後ろ足で座ってくれた。それを見ながら粘土を捏ねて形にしていく。素焼きの時はできるだけ忠実に再現して色をつける時にデフォルメしてみよう。ダメだったら作り直せば良いだけだ。
それぞれ30センチ程のサイズで4体の従魔の形を作ってみた。そばで見ていた従魔達はそれが自分だと分かった様で尻尾を振って喜びを表現してくれる。リンネ自分のを見て
「尾っぽがピンと立っていて格好いいのです」
と言ってくれた。
とりあえずこれを素焼きにするために窯に入れた。上手くいくといいけど。
1時間後、窯から取り出すとしっかりと焼かれてどこも割れていない。まあゲームだからそこらは大丈夫なんだろうけどそれでも窯から取り出す時は毎回緊張するんだよ。
次は釉薬で色付けだ。これは慎重にやらないと。タロウはフェンリルだけど目を少し大きくして可愛げのある表情にする。全体的にエメラルドブルーの色でところどころ濃淡をつけ、首にスカーフを巻いている濃いブルーにした。
「ガウガウ!」
「タロウはすごく気に入ったと言っているのです」
「タロウ、ありがとうな」
俺はタロウを撫で回すと今度はリンネに取り掛かる白だが真っ白だけじゃなくこちらも多少濃淡をつけ首は真っ青なスカーフを描いた。
「リンネも気に入ったのです」
「うん。よかったよ」
最後にランとリーファだ。それぞれの薄い茶色と薄い緑をベースにところどころ色を濃くし、こちらも首に真っ青なスカーフを描く。仕上がったのを見て置物と同じ歓喜の舞をしてくれる2体。
「ランとリーファも大喜びしているのです」
「よし!、これで焼くぞ」
「ガウガウ」
「焼くぞ、なのです」
もう一度窯に入れて焼き入れする。
1時間後、自分でも納得する従魔達の焼き物が出来上がった。どこから見てもフェンリルに九尾狐に妖精だ。うん、思ったよりも良い出来だぞ。
(タクの窯業スキルは35になりました)
ミントに聞いたらそう答えてくれた。この4体の焼き物でスキルが3も上がった。
「さて、これをどこに置こうか」
仕上がった4体の置き物を見てから俺は従魔達に顔を向けた。タロウはガウと言いながら尻尾を降り、ランとリーファは羽根をパタパタとさせている。
「皆、主の家の縁側に置いて欲しいと言っているのです。お客様に見てもらうのです」
「じゃあ縁側に置こうか」
そう言うと皆それでいいとばかりに体全体で表現してくれた。ただ縁側に置くだけだとつまらないので今度は彼らの姿をしている焼き物を置く台を4つ焼いた。
全部ができあがると1つずつ自宅の縁側に運んで縁側の隅に並べていく。4体を綺麗に並べるとランとリーファはまた歓喜の舞をしタロウは鳴きながら尻尾をブンブンと振り回す。リンネも素晴らしいのですと言って喜んでくれた。
「スキルが上がったらまた作るからな。その時は違うポーズにしような」
「主ならできるのです。できないことはないのです。皆楽しみに待つのです」
「おう、待っててくれよな」
窯業が終わると夕方だったがまだログアウトには早い時間だったんでランとリーファに留守番を頼み、俺はタロウとリンネと一緒に森の街経由で森小屋に飛んだ。
森小屋の中は雰囲気がまるで変わっていた。NPCの数は増えているし新しくカウンターができている。前はガランとしたホールだった場所はテーブルと椅子が置かれて今も数名のプレイヤー達が座っていた。冒険者ギルドのロビーの雰囲気に近い。そのロビーのテーブルに攻略クランの連中がいたので近づいていく。
ジャックス、スタンリー、ダイゴ、ルミ、マリア という攻略クランのトップパーティの連中だ。
森小屋の転送盤に飛んだ時からタロウとリンネは注目を浴びていたので情報クランのスタンリーらも気がついていたらしくて近づいていく俺たちに手をあげて挨拶をしてくる。マリアは椅子から立ち上がってタロウに近づくと早速撫で回し始める。これもいつもの事だよ。
「ダイゴ、それって新しい装備?」
近づくとマスターモンクになったダイゴの装備がこの前と違っているのに気がついて聞いてみる。スタンリーは200枚の印章NM戦でゲットしたタイガーアーマーのままだ。
「そうなんだよ。次のタイガーアーマーを待つのも考えたんだけどさ、これは攻撃力がアップするって言うんで思い切って買ったんだ」
ダイゴはここでナックルも売っているが高くてすぐに買えないんだよと笑いながら言った。
「ダイゴは近接攻撃で活躍してくれているからな。STRが上がる装備は俺たちとしても歓迎なんだよ」
確かにそうだ。一撃のダメージが上がる装備なのだとしたら十分に効果がある。
スタンリーやマリアらは装備のトータルのバランスはタイガーアーマーがいいんだろうけどここで売っている装備は一部のステータスの上昇があってその上昇しているステータスはタイガーアーマーよりも上になっているとみているらしい。ちなみに情報クランも同じ見方をしているのだと教えてくれた。タイガーアーマーはオールマイティな装備なんだな。
性能を特化させている。尖った装備や武器って事らしいよ。
「でないとタイガーアーマーと同等だというNPCの発言にはならないでしょ?」
「確かに」
「それにしても森小屋も様変わりしたな」
俺がそう言うと頭の上から声がした。
「賑やかになったのです」
うん、その通り、賑やかだよ。
「タクは森小屋に来るのは久しぶりなの?」
神官のルミが聞いてきた。
「そうなんだよ。最初にこの小屋に来て以来なんだよね。最近は自宅で窯業したり釣りをしたり、あとは木のダンジョンに挑戦してたから来る機会がなかったんだよ」
「いかにも次のエリアを探す拠点。そんな気がしないか?」
スタンリーがそう言うが、言われてみればそんな気がしないでもない。攻略クラン、そして情報クランもしばらくはここを拠点にして奥地を探索するらしい。
「森の奥に結構強い魔獣がいてね、戦闘はきついけど印章は貯まる」
彼らはもう上級レベル25になっているからレベルが上がる事はないが、印章集めとエリアボスを探すという目的があるからモチベーションは保てるんだと言う。
俺が上忍レベル25になったら教えてくれと言われたよ。印章NM戦を考えているらしい。あれはタロウがいないと厳しいからな。
「とりあえずダンジョン攻略中で次が14層なんだよ。明日から挑戦してくるよ」
攻略しているとレベルが上がりそうな気がしている。このエリアの上限が25、ダンジョンの13層で出てくる敵のレベルが24、25。それから見てダンジョンは次の14層までが攻略層になっていて15層はボス層じゃないかと思っているんだよ。俺がそう言うとなるほどと納得した表情になる攻略クランのメンバー達。
「確かにタクの言う通りかもしれないな。もし20層まであると仮定すると、エリアの上限レベル25じゃとてもじゃないが攻略できない」
20層がボス層だとすると19層まで攻略する。19層なら敵のレベルは30から31だ。こっちが25が上限のこのエリアで流石にこの差はないだろう。ボスはその更に上のレベルに設定されているだろうしね。
「プレイヤーとのレベル差を考えると15層よりまだ上の層があったとしてもせいぜい16、17層くらいまでよね」
マリアが言う通りダンジョンフロアが5の倍数とは決まってないからな。15層までじゃなくて16層とか17層までというのもあり得る話だ。ただレベル差は3つ4つだとしても上に行くほどリンク必至になるので単純なレベル差だけでは判断できない。視界も悪いし。
「その辺も明日以降で確認してくるよ。宝箱を探しながらね」
「主に任せるのです。タロウとリンネが主をしっかりとお守りしながら探検するのです。そして宝箱でがっぽりと儲けるのです」
「ガウガウ」
リンネがそう言ってタロウが吠えると皆笑った。おいおい、リンネはいつから商売人になったんだよ。