焼き物を褒められた
レベルの上限だ、新エリアだという話はあるがこっちはまだ上級22だ。この日はルーティーンを終えると木のダンジョンに移動をしてそのまま13層に飛んだ。
強化魔法をかけてくれるリンネを撫でてから攻略を開始する。13層は熱帯雨林だが階段を上がったところから道らしきものが奥に伸びている。ただ俺たちはその道は歩かない。例によって道がない熱帯雨林のフロアを左方向に進み出した。
このゲームは痛みや暑さ、寒さは少しは感じられる様になっている。一応感度を自分で好きに調整できるのだが感度を上げすぎると本当に痛いらしいという話を聞いて弱めに設定している。痛いのはいやだからね。
そうやって弱めに設定していても熱帯雨林の攻略を開始すると全身がじめっとしてくる。タロウやリンネはどうなんだろうかと2体の従魔に聞いてみたけど2体とも全く平気だという。
「草が多くて歩き難いだけなのです」
いや、お前は戦闘中は地面の上にいるけどそれ以外はいつもタロウの背中だろうが。
「歩き難いのはタロウだろう?」
「ガウガウ」
「問題ない。視界が悪くても任せろとタロウが言っているのです。リンネはタロウをしっかりとサポートするのです」
「ガウ」
タロウがそれでいいと言ってるんだったらいいけどな。13層ということでフロアにいる魔獣は上級レベル24、25となっている。木の上や草むらに敵が潜んでいるがタロウが全て事前に見つけては教えてくれるので不意打ちを喰らうことなく熱帯雨林の中を進んでいく。タロウが木の上にいる敵を見つけると手裏剣を投げてみる。大きなダメージは与えられないがそれでもファーストタッチは取れるので積極的に投げる様にしていた。投擲スキルも上がるし一石二鳥だと思っている。実際に投擲スキルは上がっているし。
進み始めて分かったけど、このフロアは広い。11層、12層ならもう左の壁に到着しているはずなんだけどまだ壁が見えてこない。それとも13層の攻略開始場所が中央じゃなくて右寄りにあったのかな。検証しないと。
「このフロアは広いかもしれないぞ」
「ガウ」
「問題ないのです。広くてもタロウとリンネでしっかりと主をお守りするのです」
「そうか、頼むぞ」
戦闘が終わったところで2体を撫でてやると尻尾を振って応えてくれる。お前たちが頼りなんだよ。それから戦闘をしながら1時間ちょっと進んだところでようやく左の壁に到達した。
そこから今度は反対側の壁を目指して熱帯雨林の中を進んでいく。相変わらず魔獣が襲ってくるがタロウとリンネのおかげで不意打ちを喰らわず、先手必勝で倒しながら前に進んでいた。
出てくる魔獣は基本変わらないがレベルが上がっているので体力が多く、討伐には時間がかかるがこっちだってレベルが上がってる。それに猛獣系にはタロウがいる。
今も木の間から飛び出してきた2体の大きな虎の攻撃をタロウが避けながら攻撃し、その合間にリンネの魔法と俺の片手刀で倒したところだ。
「タロウもリンネも強くなっているぞ」
「もっと強くなるのです」
「ガウガウ」
うん、戦闘大好きの従魔達だからな。右の壁を目指して進んでいった俺たちの目の前にようやく壁が見えてきた。間違いない、このフロアは下のフロアよりも広い。
「やっぱりフロアが広い。だから時間をかけてゆっくりと探索しよう」
「しようなのです。宝箱があるかもしれないのです。慌てなくても良いのです」
リンネの言う通りだ。色々と探しながらのんびり探すことにしよう。競争でもないしね。
この日は夕方近くまで13層を行ったり来たりしながら攻略してから自宅に戻ってきた。宝箱は見つからなかったがそれがまぁ普通だというのは分かっている。滅多にないから宝箱なんだろうし。それにしても13層は左右は広いしおそらく奥行きも広いだろう。攻略に時間がかかりそうだ。
自宅に戻るとお留守番をしていたランとリーファが座っていた小さな船から俺の両肩に飛び乗ってきた。うん、癒されるよ。
「船は気に入っているかい?」
そう聞くとサムズアップで答える2体の妖精達。それから従魔達が家の前の庭で遊び始めたのを見ると俺は合成をする工房に足を向けた。
最初に手裏剣の補充の合成をすると今度は焼き物だ。手裏剣を作っている分には鍛治スキルは上がらないが窯業はまだスキルがあがる。土を捏ね回して皿やボウル、湯呑みを作るとそれらを窯の中に入れて焼く。
焼き上がると釉薬を塗って色をつけていく。最初の頃は下手くそな絵というかデザインだったがスキルが上がるとそれらがマシになってきた。釉薬を塗った素焼きの陶器をもう一度焼いて取り出してみると以前よりもずっと様になっている陶器が出来上がった。窯業スキルも32まで上がっていた。
これは一度窯業ギルドに持ち込んでギルドマスターのサラームさんに見てもらおう。5品程収納すると倉庫から自宅の庭に出る。遊んでいた従魔達が俺のところに集まってきた。
「遊んでいていいんだぞ」
「たっぷりと遊んだのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウは尻尾を振りながらそう言い、ランとリーファサムズアップしてから川に浮かんでいる船にちょこんと並んで座った。
妖精達に留守番を頼むとタロウ、リンネと一緒に土の街の別宅に飛んだ。隣からマリアがやってこない。活動中かな? 俺たちは別宅を出ると鉱山のあるエリアに足を向けた。
「ほう、見事なもんだな」
持ち込んだ陶器を見たサラームさんがそう言って出来栄えを誉めてくれた。プロから褒められると嬉しいよね。持ち込んだ陶器を1つずつしっかりと鑑定すると顔を上げたサラームさん。
「これなら店売りできるぞ。なかなか才能があるじゃないか。窯業ギルドの有望株だな」
「主は何をやっても一番なのです」
「ガウガウ」
ギルドマスターの言葉に当然だと言わんばかりのリンネとタロウ。俺は2体の従魔を撫でながらありがとうございますとお礼を言った。サラームさんからは自分で店に売り込むこともできるがギルドでその代行業務もやっているというので持ち込んだ陶器は全てギルド経由で販売してもらうことにした。それはいいとしてギルドで買い取ってくれた金額が想像以上に高いのでびっくりする。
「そんなに?」
「そう、これはそれくらいに出来が良い。タクの窯業スキルはどうなってる?」
「32です」
そう言うとうんうんと頷くギルドマスター。プレイヤーでスキル30越えはまだいないらしい。まだ土の街に来ていないプレイヤーもいるだろうし窯業をやっているプレイヤーも少ないからかな。俺だって木工、農業、鍛治あたりは比較的スキルは高いけどそれ以外の合成スキルは高くないし。人それぞれで目指す方向が違うんだろう。ちなみに農業スキルは50になっているがこれは精霊の木と妖精の効果だと思っている。鍛治は撒菱と手裏剣で上がっているだけだ。錬金はポーションしか作ってないし低いのもまぁ当然だな。
窯業は今のところ戦闘には関係ないが普通に焼き物を作るのが楽しいからやっている。これが大事だと思っている。好きこそものの上手なれ、って言うしね。
食器の焼き物は持ち込んだらいつでも買い取ってやろうと言った後でサラームさんが続けていった。
「次は置き物に挑戦してみたらどうだい?轆轤を使わずに土を固めていくんだ。形を作るのは難しいが陶器の置き物もお客さんに人気があるんだよ。それとだ、置き物を作るとまた窯業スキルも上がるだろう。置物は食器よりも難しいからな。スキルが30超えている今のタクにはちょうどよい課題かも知れんぞ」
なるほど。食器以外に置き物か。
「ありがとうございます。挑戦してみます」
その場で土や釉薬などをたっぷりと仕入れた俺は窯業ギルドを出ると自宅に戻り、そのまま合成をやる為に工房に向かった。
「主、今度は何を作るのです?」
俺が工房に入ると後から4体の従魔達がやってきた興味津々と言った感じだね。
「うん、食器以外に置き物を作ろうと思ってる」
そう言うと俺はそばにいる4体の従魔を見て言う。
「みんなの置き物を作ってみようと思うんだ。タロウ、リンネ、ラン、リーファの置き物だね」
そう言うと4体の従魔達が大喜びする。ランとリーファは歓喜の舞をし、タロウはその場で尻尾をブンブンと振り回す、リンネは俺の頭の上に飛び乗ってくると7本の尻尾を振り回しながら言った。
「皆自分たちの置き物が欲しいと言っているのです。リンネも自分の置き物が欲しいのです」
「分かった。皆が喜んでくれるのならやってみるよ」