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NPCが増えた


 翌日の夕方、俺たちは水の街の商業区の中を歩いていた。大きな通りから路地に入ったすぐのところにその店はあった。水色と白のオーニングが目印だからすぐに見つかるぞと釣りギルドのギルドマスターのサニーさんが言ってたけどその通りだった。オーニングってのは手で閉じたり伸ばしたりできる布製のテラスの庇のことだ。


 ちなみに昨日撮った魚拓は額にいれて自宅の和室に飾ったよ。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」


 俺が店の中に向かって挨拶をすると2体の従魔達も挨拶をする。きちんと挨拶ができていてえらいぞと2体を撫でていると奥からエプロン姿の人族のオーナーが出てきた。


「タクかい?」


「そうです。こっちがタロウ、こっちはリンネ。従魔です」


「釣りギルドのサニーから聞いていたからな。首に真っ青なスカーフを巻いているフェンリルと九尾狐を従魔にしている上忍のプレイヤーが行くからよろしくって。俺はこのレストランのオーナー兼シェフをやってるキャビンだ」


 どうやらこの人がレインボーフィッシュを買い上げた店のオーナーの様だ。座ってくれというのでテラス席に腰掛ける。夕食には少し早いのか店は空いていた。俺たちが座るとオーナーのキャビンさんも同じテーブルに座る。


「釣りギルドからレインボーフィッシュが釣れたと聞いてな。朝一番で見に言ってきたんだよ。タクが釣ったんだろ?」


「主が釣ったのです。主は釣りも一番なのです」


 俺が答える前に膝の上に乗っているリンネが言った。リンネは俺の自慢をしたくて仕方がないみたいでこう言う場面では大抵俺より先に言うんだよな。そのリンネの言葉を聞いていたキャビンさんはニコニコしながら頷いていた。


「レインボーフィッシュを釣り上げたのはすごいことだよ。滅多に釣れないと言われている魚を釣り上げたんだ。その九尾狐が言う様に一番かも知れないな」


 キャビンさんによるとレインボーフィッシュを欲しいというレストランのオーナー達の間で競りがあって彼が落札したんだと教えてくれた。


「俺が競り落としたという話は水の街にあっという間に広まってな。レインボーフィッシュを食わせろという客が昼前からたくさん来ているんだよ。もちろんタクの分は残してあるぞ」


「ありがとうございます」


 早速作ってくるからちょっと待ってろとキャビンさんは椅子から立ち上がるとレストランの厨房に消えて行った。


「美味しいという話だからな。楽しみなんだよ」


「主が釣った魚は美味しいのです。間違い無いのです」


「ガウガウ」


 俺の横で尻尾を振って体を寄せてくるタロウと膝の上で同じ様に尻尾を振っているリンネを撫でているとしばらくしてキャビンさんがお皿に料理を乗せて持ってきた。テーブルの上に置かれたお皿を見て思わず言ったよ。


「焼き魚なんだ」


 皿の上にはレインボーフィッシュの身の一部が焼き魚になって載っている。


「この魚の素材の味を活かすには焼いてから軽く塩を振る。それだけで十分なのさ」

 

 キャビンさんに言わせるとレインボーフィッシュは焼いて食べるのが一番美味しいという。他の客もみんな焼き魚を食べるらしい。


 食ってみろというので身を一口食べてみた。


「めちゃくちゃ美味しい。こんな美味い魚は初めてだよ」


 身が引き締まっていて味が濃くてとにかく美味しい。軽く振っている塩ともよく合う。


「そうだろう?タクが釣ってくれたレインボーフィッシュ。あの魚以上に美味しい魚はいないと言われている。よく釣り上げてくれたよ」


 聞くとキャビンさんももちろん食べたと言う。


「当たり前だろうが。滅多に食えない魚だぞ。1年ぶりに食ったが相変わらず最高だよ」


 話をしながらあっという間に焼き魚を平らげた俺。いや、本当にめちゃくちゃ美味いんだよ。俺が食い終わったのを見てオーナーのキャビンさんが給仕にジュースを2つ頼んだ。


「ジュースは店からの奢りだよ。それにしても美味そうに食べていたな。料理人冥利につきるよ」


「ありがとうございます。いや、本当に美味しかったです」


 レインボーフィッシュを釣った時の話を聞かせてくれというのでジュースを飲みながらその時の話をする。黙って聞いていたキャビンさんは俺の話が終わるとなるほどなと言った。


「あの中洲は釣りポイントだが、だからと言って簡単に釣れる魚じゃない。毎日あそこでレインボーフィッシュを狙っている人たちがいるが釣れていないのがその証拠だ。あの魚を釣り上げるには道具や腕はもちろんだが、それに加えて運を持っているかどうかだと俺は思っている。そう言う点でいうとタクは釣りの運があるみたいだな。しかも2回ヒットしている。そんな奴は聞いたことがない」


「そうですね。運がよかったんでしょう」


 話が終わると俺はレインボーフィッシュの料理代金を支払って立ち上がった。料理代は普段よりもずっと高かったがそれに見合う味だったから不満はないね。


「レインボーフィッシュの焼き魚が食べたくなったらまた釣り上げてくれよな」


「頑張ります」


「主がまた釣り上げたら持ってきてあげるのです」


 立ち上がった俺の頭の上に乗ったリンネが言う。隣でタロウも尻尾を振りながら


「ガウ」


 と吠えている。


「そうだな。期待して待ってるよ」


 店を出た俺たちは水の街の別宅から自宅に戻ってログアウトまでのんびりしていると端末が鳴った。クラリアからだ。


「今自宅よね?時間があるのなら土の街の別宅に来ない?」


「出撃なのです」


 通話を終えるとタロウとリンネがそばにやってきた。


「街の外じゃないぞ。土の街に飛ぶんだ」


「構わないのです。主、行くのです」


「おう」



 土の街の別宅に着くとすぐに隣からいつもの4人がやってきた。


「森小屋のNPCが増えたよ」


 テーブルに座るなりトミーが言った。今日の昼頃に突然森小屋の前に注意書きが出たのだという。『内装工事中で1時間だけ閉めます』と。1時間後に森小屋にはいるとカウンターにはNPCが3人となり、小屋の中のがらんとしていた場所にはテーブルと椅子が置かれていたのだという。


「ちょうどあちこちの街にある冒険者ギルドの受付と打ち合わせ場所の様な感じだ」


「森小屋の訪問者の延べ人数が一定数を超えるとNPCが増えて設備も増えていくみたい」


「それでNPCが増えてどうなったの?」


「アイテム、魚などの買い取りをしてくれる様になったわ。今のところは買い取るだけで売り物はないの」


 クラリアが答えてくれた。彼らはこの3人のNPCがいる状態が森小屋の最終形じゃないというのを俺から聞いているので引き続き森小屋を訪問する様にプレイヤーにお願いする予定らしい。ヘレンさんはいずれポーション等を売る計画があると言ってるし、ひょっとしたら武器や防具も売るかも知れない。そこまで確認するつもりだという情報クラン。


 タクは最近どうしてたんだ?と聞かれたので水の街で幻の魚と言われているレインボーフィッシュを釣り上げてそれをレストランで食べてきたという話をする。釣りギルドで3万ベニーで買い取ってくれたと言ったときは流石に4人ともびっくりした顔をしていたよ。


「幻の魚を釣り上げるあたりが流石にタクだな」


「主は何をやっても一番なのです」


「リンネちゃんとタロウちゃんの主はいつも一番だよね」


 マリアがそう煽るがそれに対して当然なのですと平然と言うリンネ。タロウももちろんだと言わんばかりに尻尾をブンブンと振っている。相変わらず従魔達の俺に対する過大評価が半端ない。


 彼らは全員上級レベル24になっていた。ただ24に上がっても新しい装備は店に出回っていないらしい。


「そろそろこのエリアの上限が近いんじゃないかって思っているのよ。街の郊外の敵のレベル。試練のエリアで見つかった街は今まで4つ。次のエリアが出てもおかしくない状況じゃないかってね」


 クラリア、トミーらの情報クランはそう言う見方をしていてそれについては攻略クランのスタンリー、マリアも同意見だ。


 スタンリーらは土の街の前を流れている川を船で下流に向かって行ったらしいが水の街と同じく途中で岩場と滝で前に進めなくなっていたんだという。


「船を使って新エリアに行く可能性は低い。となると街の中のどこかに次のエリアに通じるヒント、あるいは森の中にエリアボスがいると見ている」


 確かに試練の街があるエリアは広いがそれなりに街も見つけてきた。たとえば25という上級レベルが上限だとするとそれに合わせたタイミングで次のエリアを探せというサイン、エリアボスの情報が出たしてもおかしくない。いずれにせよ誰かが上級レベル25になった時点で分かるだろう。レベル上限が25なのか、それよりもまだ上なのか。


「俺はまたレベルが22だからね。とりあえず明日から攻略中の木のダンジョンの攻略を再開するつもりだよ」


「敵がいくらいてもタロウとリンネでとっちめてやるのです」


「ガウガウ」


 俺が外で戦闘をするつもりだと聞いたからだろう。タロウもリンネもやる気満々の態度になってるぞ。


 明日は従魔達に思い切り暴れてもらおう。


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― 新着の感想 ―
しっかり覚えてなかったのもあるけど、レインボーフィッシュって結構釣られてるんですね。引っ掛かっても釣り上げられずに逃げられる程度の「存在は知られているけど何年何十年と釣られた記録はない」くらいだと勝手…
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