森小屋の秘密
「よし!これから攻略を開始するぞ。準備はいいか?」
「ばっちりなのです」
「ガウ!」
リンネとタロウが元気よく返事をしてきた。2体の従魔を撫でながら目の前の景色を見る。ここは木のダンジョンの11層だ。情報クランから聞いている話だとここにいる魔獣は上級レベル22から23だ。20の俺たちなら何とかなるでしょう。優秀な従魔もいるし。
目の前にある景色は深い森の中で木々が結構密集している。今までのフロアもそうだったがここはそにれ加えて地面に生えている草の丈が長い。警戒すべき場所が多くなっていた。しかもこのフロアには道がない。今までのフロアは森の中に土の道が伸びていたが11層からは道がなくなって木々と草だけだ。
「タロウ、頼むぞ」
「ガウガウ」
「リンネにも任せるのです」
「もちろんだ。頼むぞ、リンネ」
「はいなのです」
タロウよりは少しだけ落ちるがリンネのレーダーも十分に頼りになる。俺なんかよりずっと優秀であるのは間違いない。2体いれば何とかなるんじゃないかな。
「左側から行くぞ」
このフロアからは攻略をしつつ何か宝箱がないかと探すつもりだ。なので急いで攻略するつもりはない。万が一の時でも転移の腕輪でダンジョンから脱出できると思えば気も楽になる。なのでまずは左側から探索することにする。道がないのでどの方向に向かうのが正解なのかは分からないがこっちは時間だけはある。片っ端から探索するよ。
攻略を開始すると情報クランがこのフロアの攻略に苦労しているその理由がわかったよ。道がないだけではなく、木の枝や草むらの中から魔獣が飛び出してくる。それ以外に木々の間を魔獣が徘徊している。常に四方八方に注意を払いながら進まないといけない。
俺が何も言わなくてもタロウとリンネは自分たちの仕事をしてくれる。木の上を警戒するのはリンネで敵を見つけると魔法で撃ち落としてくれるし、タロウはまっすぐに歩きながらも前後左右の敵の気配を感知する。俺は近寄ってきた敵を刀で倒すだけだよ。
「タロウもリンネも流石に宝箱の気配まではわからないか」
「大丈夫なのです、片っ端から敵をぶっ倒していればそのうち見つかるのです」
「ガウガウ」
相変わらず過激だ。ただこのフロアに宝箱があると決まってる訳じゃないからな。俺は2体にそう言うがそれでも敵をぶっ倒すんだと息巻いているリンネ。タロウも尻尾をブンブン振りながらその通りだと言わんばかりだ。
左に進んでいくと壁にぶつかった。これがダンジョンの左端の壁なのだろう。そこから少し前に進むと今度は反対側の壁を目指して森の中を進んでいく。相変わらずそれなりの頻度で接敵するがタロウとリンネが嬉々として敵を倒すんだよね。上級レベル22の相手でもタロウの蹴り、リンネの魔法で全く問題なく倒していく。
俺の出番が凄く少ないがそれを深く考えることはやめよう。従魔達が機嫌よく戦闘をしてくれているのならそれが一番だよ。
道がない森の中を進んで行くので方向感覚を失いがちになるがそこはタロウがばっちりと指示してくれる。前を歩くタロウについて時々戦闘しながら森の奥を進んでいくと右側のダンジョンの壁に到達した。今の所魔獣以外に宝箱は見つかっていない。
端末を見るとまだ時間はありそうだ。そのまま右の壁沿いを少し進んで再び左の壁を目指して進み出した。
結構な回数の戦闘を繰り返したせいか、フロアの攻略途中で俺たちは上級レベルが上がって21になった。これは嬉しい。
「また強くなったのです」
「ガウ」
その通りだよ。これで攻略が少し楽になるな。レベルが上がったことによって11層の攻略スピードが少し上がった気がする。リンネの魔法の威力を見れば大体わかるんだよね。ただ宝箱は見つからない。
この日の探索を諦めた俺たちは転移の腕輪で戻ることにする。
「今日はここまでにしよう。また今度この続きから探索するぞ」
「するぞ、なのです。敵をとっちめながら進むのです」
「ガウガウ」
転移先をどうしようかと迷ったが森の街に飛ぶことにした。そこで夕飯を食べてから自宅に戻ってログアウトしよう。
森の街に戻った俺たちは一度この街で出向いたエルフがやっているレストランに顔を出した。エルフでも肉料理をするんですねと言ってオーナー兼コックのヘレンさんに笑われたお店だ。
今この森の街は土の街へ向かう出発点になっていることもありそれなりの数のプレイヤーが市内を歩いている。流石に第二陣はまだ来ていない様で忍者姿のプレイヤーを見ない。彼らは今まさに試練の消化中なんだろうな。
市内の通りから路地に入り、以前お邪魔した店を見つけるとそこのテラス席に座る。すぐにエルフの給仕さんが注文を取りに来た。前回は鹿肉だったので今日は野菜のスープとフルーツを注文する。
1日たっぷりと戦闘をしたのかタロウもリンネも満足している様だ。彼らの尻尾の振り方を見てリラックスしているかどうかわかる様になったよ。今は俺たちで言うところのほっこりしているって感じだろう。
出された料理は美味しかった。しっかり全て平らげるとしばらくしてオーナーのヘレンさんがテラス席に出てきた。
「お久しぶりです、ヘレンさん」
「久しぶりね、タク。元気にしてた?」
こうやって名前を覚えて貰えるのは嬉しいよね。
「ええ。相変わらず外で魔獣を倒しながら、あとは農業をやったり合成や釣りをしたりして過ごしていますよ」
「プレイヤーは外で魔獣を倒すのが仕事だものね」
「そうなんです。それにしてもこの街が水の街と土の街に行く拠点になっているからか、街に結構プレイヤーがいますね」
俺が言うと一時減ってたけどまた最近プレイヤーの数が増えてきているのだと教えてくれた。水の街に出向いているプレイヤーの一部が今度はこの街から土の街を目指すんだろうな。
「この森の街はエルフが多いじゃないですか、土の街にいくとドワーフが多いんですよね」
「あっちの街は土を掘ったり焼き物をしたりしているでしょ?ドワーフはそういうのが得意だから。エルフは森の民だからね」
確かにそうだよな。
「そう言えばここから土の街に行く道の途中の森の中に池があって小島があるんですよ。その小島には森小屋があるんですけどエルフの女性2人がそこで働いていましたよ」
俺は森小屋にいるNPCがエルフである事を話しただけなんだけど、ヘレンさんが予想外のことを言ってきた。
「森小屋にいるのが2人?ふ〜ん、まだ増えてないんだ」
「増えてない?どう言うことです?」
俺とのやりとりを聞いていたタロウとリンネも今は顔をヘレンさんに向けている。
「あの森小屋。と言っても私は見ていないんだけど。池に浮かんでいる小島の中にある小屋でしょ?あれってここ森の街の出先、出張所を作ろうって話で作られたのよ。あの辺りは魔獣のレベルが高いのでセーフゾーンを作る際に単に回復するだけの場所にせず、将来を見越してポーションを売ったり、釣った魚を買い取ったりする事ができる様に小屋にしようってね。でもいきなり大袈裟に作っても、もしあそこを訪れる人がいなかったら意味がないって事で最初は2人だけ詰めてるの。あの小屋を訪れる人が多くなれば増員することになってるはずよ」
なるほど。そう言う背景があったのか。多くのプレイヤーがあの小屋を訪れれば訪れる程あそこは規模が大きくなってNPCも増える。そして買取りや販売をあそこで行える様にする。そういうことか。いきなり大掛かりにせずに少しずつ充実させていく方針なんだな。だから小屋の中に広いガランとしたスペースがあったんだ。いずれNPCが増えていくとあそこには新しい店が入るかもしれないし。それにテーブルや椅子も置かれる様になるんだろう。
運営はいやらしい事を考えて作ってるな。
この情報は情報クランには伝えた方が良いだろう。端末を見るとクラリアもトミーも土の街の別宅にいる。店を出ると俺はメッセージを入れてからタロウ、リンネと一緒に土の街の別宅に飛んだ。そのタイミングで隣からマリアがやってきたのでついでにスタンリーも呼んでもらう。いつもの4人が俺の別宅の庭に揃ったところで森の街のレストランで聞いた話を4人にする。
「相変わらずNPCに好かれているというか、貢献度が高いと言うか。すごい情報をあっさりと取ってくるよな」
俺の話が終わったところでトミーが言った。皆なるほどと言った表情になっている。俺だってヘレンさんから聞いた時はそう言うことかって思ったもの。
「タクの話であそこのセーフゾーンが小屋になっている理由がわかった。小屋の中の広いスペースも将来を見越しているってことで納得できる」
「となると、今まさに多くのプレイヤーが森の街から土の街に移動中だ。歩いて移動すると必ずあの小屋に顔を出す。近い内にNPCが増えるなどの変化が起こるってことだな」
情報クランは明日から1パーティを小屋をベースに活動をさせることにその場で決めていた。相変わらず動きが早いよ。
「あの小屋が森の街の出張所という設定であれば転送盤の移動先が森の街とあの小屋しかないというのも頷けますね」
「確かにそうだ。後から考えるとなるほどという設定を運営はしている」
マリアの言葉にスタンリーが続けて言った。転送盤についてはいずれ土の街から転送できる様になるかも知れないねと言ってる4人。俺はその辺の感覚は分からないんだよな。
話が一通り落ち着いたところでやっぱりタクだねと4人が言った。それを待っていたのか俺の頭の上に乗っていたリンネが頭の上でミーアキャットポーズになる。
「主に任せるのです。安心なのです」
リンネ、最近それよく言うぞ、気に入ってるのか?