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土の街で


「タロウに乗って下層のフロアを駆け抜けたのか。いいアイデアじゃないか」


「そう言ってくれると少しは気が楽になるよ。ズルしてるかなと思ってたから」


「いや、ズルじゃないだろう。俺もトミーと一緒で良いアイデアだと思うぞ、従魔に乗って移動しているだけだからな。フィールドでタロウに乗っているのと同じだろ?」


 土の街の別宅に移動するとしばらくしていつもの4人がやってきた。マリアは例によってしゃがみ込んでタロウを撫で回している。庭にあるテーブルに座っているのはスタンリー、クラリア、トミー、そして俺だ。リンネは今は頭の上に乗っている。


 スタンリーが言う通りでフィールドをタロウに乗って駆け抜けている俺がダンジョンの中でそれをやったからってズルにはならないよな。そう思うと気が楽になった。


「次から11層を攻略するんだな?」


「そうなるね。情報クランはどうなってるの?」


「11層を攻略中。広くて視界が悪いって言ったでしょ?転送盤があるからかもしれないけど広さがまた一段と広くなっているんだって」


 なるほど。11層まで飛ばしてやるがそこからの攻略は簡単じゃないぞ、と言ったところか。先頭を走っている情報クランのメンバーが苦労しているんだ、こっちも気合いを入れないとな。攻略クランは一時ダンジョン攻略を中止していたこともあり今は10層を攻略中だと教えてくれた。


「ただライバルがいないってことで経験値稼ぎ、印章稼ぎにはダンジョンは良い場所よ」


 それは言えるな。俺はトミーを見て聞いた。


「森小屋は?」


「そっちは情報クラン、攻略クランであの小屋の周辺を歩き回って探索しているが今の所敵以外の情報はないんだよ。まだあの小屋まで来ているプレイヤーはそう多くはないが彼らに聞いても今の所情報は無い」


 小屋になっている理由がわかれば何か進展がありそうなんだけどという4人。俺もそう思う。意味もなくあの場所だけ小屋にしてNPCを置いている訳がないからな。


 情報クランや攻略クランは水の街、ダンジョン、森小屋、そしてここの土の街と4つにグループを分けて探索を続けているらしい。


 ひょっとしたら土の街から飛べる転送盤がどこかにあるかも知れない。それを探す必要もあるな、なんて4人で話あっているのを聞いている俺。


 活動の時間になったと彼らが俺の別宅からそれぞれの別宅に戻って行ったのを見てリンネが頭の上から膝の上に飛び降りてきて俺を見る。


「主はこれからどうするのです?」


「せっかく土の街にいるんだ。この郊外で敵をやっつけようか」


「ガウ」


「やるのです、タロウとリンネでとっちめてやるのです」


 土の街の郊外にいる魔獣のレベルは水の街のそれとだいたい同じレベルだ。森の入り口から中に進んでいって上級レベル23とか24の敵を倒して経験値を稼いだ俺たちは夕方に土の街に戻ってきた。自分たちのレベルは上がらなかったが、数多くの戦闘をしたのでタロウもリンネも満足気だよ。


 ログアウトまでまだ時間があるので俺たちは市内から採掘場に足を向けた。こっちはまだチラッと見て窯業ギルドに登録したきりだったんだよね。


「大きな穴なのです」


 地面を掘って出来ている大きな穴を見たリンネ。隣でタロウも首を伸ばして穴の底の方を見ようとしている。


「穴を掘ってそれから土の中に坑道を掘ってそこで採掘をしているんだ」


「リンネ達が通った山の中の坑道と同じなのです?」


 山裾の街から開拓者の街に行くときに通る坑道と同じかと聞いてきたので同じだけどこっちの坑道は向こう側には行けないぞと言うと分かったのですとリンネ。


 採掘場、坑道の中にプレイヤーは入ることは出来ない様だ。穴の上から見ていると多くのドワーフのNPC達が坑道に出たり入ったりし、また採掘したであろう石を積んだ荷車を押しているのが目に入ってくる。俺は近くにいたドワーフに近づくと聞いて見た。


「ここでは何を採掘しているんだい?」


「メインはレンガの原料になる粘土や砂、頁岩、ボーキサイト鉱、マグネシアだな、それ以外に鉄や銅も採れる。極稀にチタンが出ることもあるぞ。プレイヤーが持っている剣や盾、あんたが持っている刀も鉄を使ってるだろう?武器や盾の原料の一部はこの鉱山で採掘された金属を使ってるのさ。山裾の街の鉱山でも採れるがここでも採れるんだよ」


 なるほど。山裾の街やそこから開拓者の街に行く途中にも鉱山があったがそれと同じ様な感じか、規模はこっちの方が大きいかな?そしてレンガはこの鉱山が一手にやってるってことか。


 俺がドワーフのおっちゃんと話をしている間もタロウとリンネは穴の下の方を覗き込んでいた。今まで見た事がない景色だから新鮮だ。


 俺たちはその足で近くにある窯業ギルドに顔を出した。端末に収納していた焼き物をいくつか取り出してギルドマスターのサラームさんに見せる。


「最初ならこんなもんだろう。売り物にはならないがギルドで買い取るぞ」


 そう言っていくつかアドバイスをくれた。


 まだスキルが低いから売り物にはならないんだろうな。でもここに持ち込んだら自分の腕前を教えてくれる。スキルの数字だけじゃなくて焼き物のコツというか注意すべき点なんかを教えてくれるのでこのギルドに顔を出すメリットは十分にありそうだ。


 幾ばくかの買取金を貰った俺はお礼を言ってギルドを出るとそのまま市内をうろうろする。土の街のレストランではどう言う料理が出るのか興味があるんだよ。


 市内はポツポツとプレイヤーの姿が見える。徐々にこの街に到達しているみたいだ。見ると虎や狼を連れているプレイヤーが多い。戦闘以外の場所で自分達のテイムした従魔を連れているんだろう。市内のレストランは森の街や水の街と同様にウッドデッキがあって従魔達と一緒にいられる様になっている。


 俺は例によって大通りじゃなくて路地に入ったところでレストランを探して歩いていた。


「よし、ここにしよう」


「しよう、なのです」


「いらっしゃい」


 ウッドデッキにあるテーブルに座ると店の中からドワーフの女性がやってきた。タロウはいつもの通りウッドデッキで横になり、リンネは俺の膝の上にちょこんと乗っている。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」


 従魔達が挨拶すると彼らにもこんにちはと挨拶するドワーフのNPC。本当に動きや反応がリアルなんだよな。


「お勧めの料理はありますか?」


「今日は大鹿肉のシチューですね。この街の名物料理の1つなんですよ」


 名物と聞いたら食べない訳にはいかない。それをお願いしますと言ってからメニューだけはテーブルに置いてもらった。どんな料理があるのかと椅子に座ってメニューを広げていると膝の上に乗っているリンネが顔を上げて俺と同じ様にメニューを覗き込む。


「美味しいお料理はあるのです?」


 顔をメニューに向けたまま聞いてきた。


「どうだろうな。メニューだけじゃ分からない。でもいろんな料理があるぞ」


「色々と食べてみるのです」


「そうだな。とりあえず今日は鹿肉だ」


 メニューには魚料理もあった。街の南側を流れている川で獲れる魚かな?次回はこの店で魚料理にしよう。そう思っていると頼んだ鹿肉のシチューが運ばれてきた。


「美味しいな」


 一口食べた俺は思わず声を出した。味付けが濃い目だが外で戦闘をして疲れて帰ってきた体に合うんだよ。あっという間にぺろっと平らげてしまった。


「美味しかったです。また来ますね」


「ありがとうございました」


 ドワーフの女の子の声を聞いて俺たちはレストランを出た。夕刻の土の街は街灯の灯りに照らされた煉瓦作りの建物が幻想的ですごく綺麗。思わずスクショを撮ったよ。


 別宅に戻るとすぐに隣からマリアがやってきた。彼らは土の街の郊外で敵を倒していて今日上級レベル24に上がったらしい。マリアが来てしばらくするとスタンリーもやってきた。俺が24になったらしいねと言うとそうなんだよと言ってから、


「この街の周りの森の奥にいる敵のレベルは水の街の奥よりも1つか2つ高い。おかげで戦闘はきついけど良い経験値稼ぎになったよ。印章もそこそこ貯まった」


 今は他のプレイヤー達の数も少ないこの土の街だけど、後数日もするとこの街も賑やかになるだろうと言うスタンリー。


「狩場が空いている間にしっかりと経験値を稼ぐつもりなんだよ」


 攻略クランによると土の街の郊外については今のところは水の街と同じく深い森が広がっているだけで何も見つかっていないらしい。奥に何かあるのか、それとも無いのかも含めてクランとしてしっかり探索をするつもりだと言う。


 上級レベル24ならかなり森の奥まで行けるだろう。彼らが新しい何かを見つけるかもしれないな。



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